たる)” の例文
はじめは、帆柱の上にある、ほんとうの見張所の下に、たるをしばりつけてもらって、その樽の中にはいって、見はり見習いをやった。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
毎年冬になるとくじらの味噌漬のたるがテンコツさんからの到来ものだった。大橋の下へ船がついたからとりにいってくれといってよこした。
酒場はまんなかが完全にがらんとしている大きな部屋で、壁ぎわのいくつかのたるのそばや樽の上には、何人かの農夫たちが坐っていた。
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
というのは、ラ・フーイエットおとっつあん(たるのお父つあん)はその綽名あだなにしごく相当していて、月に二、三回は酔っ払っていた。
そして、フーゼリンを全く拔き取つたアルコールをナラのおほ樽に入れて置くと、たる木地きぢと和合して、純粹のヰスキが出來る。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
彼は肩に、酒がいっぱい入っているらしい頑丈なたるをかついでいて、こっちへきて荷物に手をかしてくれとリップに合図した。
とことん、とことん、とんことんとん、と拍子でもとっているように仕事場でたるを叩く音が太鼓たいこのように地続きの荒神様こうじんさまの森へひびきわたる。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
当の「殺され半蔵」は、とある飲屋の奥に、たる天神を極め込んで、拳骨に付けた塩をめながら、湯呑で熱いのをキューとやっていたのです。
それは円板の中央あたりからとびだしたものであるが、たるのような形をし、うしろに丸いひものようなものをひっぱっていた。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
烏谷にいきつくと、はたしてそこの一軒の百姓家では、おいしい酒をたるから一升枡についで来て、御馳走ごちそうしてくれました。
百姓の足、坊さんの足 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
昔より云傳いひつたへたりまた里人の茶話ちやばなしにもあしたに出る日ゆふべに入る日もかゞやき渡る山のは黄金千兩錢千ぐわんうるしたる朱砂しゆしやきんうづめありとは云へどたれありて其在處ありどころ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
やがて一方がねとばされて、すごすご席へ戻って来たのを見ると、太股がもうたるのように腫上はれあがって、坐るにも耐えないらしく、ひじをついて
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
亥「身に余ったともれえで仮寺かりでらを五軒ばかりしなければ追付おっつかねえ、酒が三たる開いて仕舞う、河岸かしや何かから魚を貰って法印が法螺の貝を吹く騒ぎ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
たるの中から富士を見せたり、大木の向こうに小さな富士を見せたりするシリーズは言わば富士をライトモチーヴとしたモンタージュの系列である。
映画芸術 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そこには木材を積んだりセメントのたるのような大樽を置いたりしてあるのが見える。彼は二三年前の事業熱の盛んであった名残なごりであろうと思った。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「大きなたるなんです。船便で上海から送って来たんですが、くさい臭いがするんで、支那の漬け物じゃないかしらって」
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
乗合舟のりあいぶね鳥追とりおい猿廻さるまわしなど在来の型の通りで、中には花見帰りの男がたるしりを叩いて躍っている図などもあったが、一般にまだごく幼稚でありました。
白鳥の徳利やたるかよちょうを添えて、下げて飛んでいる場面は後世風だが、由ってくるところは甚だ久しいようである。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
樹木を根こぎにし、あなぐらの中をさがし回り、たるをころがし舗石や漆喰しっくいや家具や板などを積み重ねて、防寨ぼうさいを作っていた。
こゝに、おみきじよふのに、三寶さんぱうそなへ、たるゑ、毛氈まうせん青竹あをだけらち高張提灯たかはりぢやうちん弓張ゆみはりをおしかさねて、積上つみあげたほど赤々あか/\と、あつくたつてかまはない。
祭のこと (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
明日あすは朝早く、小僧を注文取りに出して、自分は店頭みせさきでせっせとたるすすいでいると、まだ日影の薄ら寒い街を、せかせかとこっちへやって来る男がある。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
すこぶるよろしい! では、あすの朝にでも河岸かしへ行って、江戸一番の大鯛おおたいをととのえてな、それからなだの生一本を二、三十たるほどあつらえておきなよ。
こんどは月十二石だ、それからこんどは十四石十六石十八石、二十石とそこまで署長が夢のやうに計算したときは荷馬車の上はもうたるでぎっしりだった。
税務署長の冒険 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
わづかな乗客のなかに、まるまるとたるのやうにふとつた男がありました。二十頭ばかりの立派な羊をつれてゐました。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
つけ木屋の隣が、独身ひとりもののたる買いのお爺さんで、毎日、樽はござい、樽はございと、江戸じゅうをあるきまわって、あき樽問屋へ売ってくるのである。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
實物じつぶつぬから、勿論もちろん斷定だんてい出來できぬが、たる徳利とくりといふのは、加瀬かせ彌生式やよひしきのと同形どうけい同類どうるゐではなかつたらうか。
彼女の郷里からと言って五升の清酒と一たるの奈良漬が到着したのは、やはり、それから間もなくの事であった。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「駄目ですわ、行って見たら、ごみだらけで、坐れたものじゃありません——この座敷が、このお寺では一ばんさ。おい、重詰じゅうづめや、たるを、おだしよ——吉」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
いま、十二のたることごと流失りうしつしたものならば、海底戰鬪艇かいていせんとうてい神變しんぺん不思議ふしぎちからも、最早もはや活用くわつようするにみちいのです。
出されたものをみると船荷証券が七枚、米五千俵、呉服太物四千反、糸綿千二百貫、海産物千二百貫、酒五百たる、醤油味噌八百樽、油三百樽という巨額な荷だ。
木のたると鉄のすき、緑色なる如露の友よ。いざ、深密なる君が匂ひの舞踊まいおどる、甘き輪舞ロンドの列にわれを取巻け。
先頭に紙幟かみのぼりを押立て、一頭に二つずつ、大きなたるをくっつけて都合六駄ばかり——それを馬子と附添がついて米友の前へ通りかかりましたのを見かけて、米友が
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
尚々なおなお精次郎夫婦よりもよろしく可申上様もうしあぐべきよう申出候。先日石崎に申附候亀甲万きつこうまんたるもはや相届き候事と存じ候。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
戸板やたるを持出し、毛布ケットをひろげ、その上に飲食のみくいする物を売り、にわかごしらえの腰掛は張板で間に合わせるような、土地の小商人こあきんどはそこにも、ここにもあった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
酒の消費量いくたる、餓死した子供何名と、ただ帳づらに黙々と記入するだけの仕事——恐らくそれは
ジオゲンを御覧ごらんなさい、かれたるなかんでいました、けれども地上ちじょう諸王しょおうより幸福こうふくであったのです。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ちょうどその日はたるの代り目で、前の樽の口のとちがった品ではあるが、同じの、同じ土地で出来た、しかもものは少しい位のものであるという酒店さかや挨拶あいさつを聞いて
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それは醤油のたる——田舎は醤油が悪いそうで——とか、鰹節とか、乾海苔とかですが、品物は皆選びました。冬は好物だというので、鴨肉かもにくの瓶詰を家で作るのでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
時々酒問屋さかどんやの前などを御通りになると、目暗縞めくらじまの着物で唐桟とうざん前垂まえだれを三角に、小倉こくらの帯へはさんだ番頭さんが、菰被こもかぶりの飲口のみぐちをゆるめて、たるの中からわずかばかりの酒を
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たるずつ用意しておもらいなさい。そのほかにその樽を二つずつはこぶ車が百だい、その車を引っぱる革綱かわづなも二百本いります。それから水夫を二百人集めておもらいなさい。
黄金鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
漬物を何十たるしまってある室が、すぐ隣りだったので、「糞」のような臭いも交っていた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
彼が仕舞しまい時分に、ヘトヘトになった手で移した、セメントのたるから小さな木の箱が出た。
セメント樽の中の手紙 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
このたるを、セント・ジオジゲイネスの樽のように——とか、兵士の歌だよ、今日は白パン、明日は黒パン……そんな歌ばかりを口吟くちずさみながら、昆虫採集で野原をけまわったり
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
すると、こんどは大通おおどおりから横町の方へ風が吹きまわしたので、幸太郎の帽子も、風と一しょに、横町へ曲ってしまいました。そしてそこにあったビールたるのかげへかくれました。
(新字新仮名) / 竹久夢二(著)
その男の周囲を探して見たけれども、その男の外には、たる拾いのような小僧と、十七八の娘風の女とが、歩いて来るばかりで、染之助らしい年配の男は、眼に付かないのですよ。
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「いったいどうしたってんだ、やつらぐうたら寝てやがるのか、それとも誰かに絞め殺されでもしたのか? こーんちきしょう!」と彼はたるの中から出るような声でどなりだした。
たる。メリヤス。むちの音。それから金襴きんらん。痩せた老馬。まのびた喝采。カアバイト。
逆行 (新字新仮名) / 太宰治(著)
又、鉄製のたるの中へ入ってナイヤガラのたき飛込とびこんだ男の話を聞いたことがある。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
鐵瓶てつびんぢや徳利とつくりぽんづつしかへえんねえから面倒臭めんだうくさかんべとおもつてよ」とばあさんはいひながら、一たんたぎつた鐵瓶てつびんけた。たる空虚からになつて悉皆みんなもの銘酊よつぱらつてがや/\とたゞさわいだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ライオンではカウンター台の上に土で作ったライオンの首が飾ってあって、何ガロンかビールのたるが空くと、その度毎にライオンが「ウオ ウオ」と凄じいうなり声を発する仕掛であった。
ヒウザン会とパンの会 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)