あらた)” の例文
その時、法科の教授をしていた同郷の土方寧君は、私を時の大学総長・浜尾あらた先生に紹介してくれ、私の窮状を伝え助力方を願った。
庭中ていちゆう池のほとりに智勇の良将宇佐美駿河守刃死じんし古墳こふんりしを、先年牧之老人施主せしゆとしてあらた墓碑ぼひたてたり。不朽ふきう善行ぜんぎやうといふべし。
大岡政談や板倉政談はむしろ裁判を主としたものであるから、あらたに探偵を主としたものを書いてみたら面白かろうと思ったのです。
半七捕物帳の思い出 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
劇詩の体裁を取れる「秋のわかれ」の如き当時わたくしはいずれも仏蘭西抒情詩の翻訳からあらたに得たる収穫となしたものであった。
「珊瑚集」解説 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
後年芭蕉ばしょうあらた俳諧はいかいを興せしもさびは「庵を並べん」などより悟入ごにゅうし季の結び方は「冬の山里」などより悟入したるに非ざるかと被思おもわれ候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
今や往年の拿翁ナポレオンなしといへども、武器の進歩日々にあらたにして、他の拿翁指呼のうちに作り得べし、以て全欧を猛炎にする事、易々いゝたり。
「平和」発行之辞 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
ここにおいて甲斐守はあらたに静岡の藩主となった徳川氏のもとに赴きみずから赦免を請うたのち白髪はくはつ孤身こしん飄然ひょうぜんとして東京にさまよいきたったと云う。
枇杷の花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
從來不健康で有つた人ならば、不健康は一切の不妙の事のもとで有るから、自らあらたにして健康體にならねばならぬと思ふのである。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ぬしありやまたあらた調ととのえたか、それは知らない、ただ黒髪の気をうけて、枕紙の真新しいのに、ずるずると女の油がにじんでいた。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こは彼等海に浮ぶをえざるによる、すなはち之に代へてひとりはあらたに船を造り、ひとりはあまたの旅をかさねし船のわきを塞ぎ 一〇—一二
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
滅びた世界に、あらたに生れて来た AdamアダムEvaエヴァ とのようにこずえを掴む片手に身を支えながら、二人は遠慮なく近寄った。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
丸でこれてゝ仕舞しまって英学に移ろうとすれば、あらたに元の通りの苦みをもう一度しなければならぬ、誠に情ない、つらい話である
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかも、それと同時に私の頭の痛みが、何となく神秘的な脈動をこめて、あらたきとうずき出したように思えてならなかった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
木村芥舟先生は旧幕府きゅうばくふ旗下きかの士にして摂津守せっつのかみと称し時の軍艦奉行ぐんかんぶぎょうたり。すなわち我開国かいこくの後、徳川政府にてあらた編製へんせいしたる海軍の長官ちょうかんなり。
その右を少しだらだらと降りたところがあらたに土を掘返したごとく白茶しらちゃけて見える。不思議な事にはところどころが黒ずんで色が変っている。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし調査が充分に行き届いている訳ではないから、精細に探究された暁には、あらたに発見する所が少なくないであろうと思う。
白馬岳 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
森羅万象日日ひびあらたにして、いつしか春過ぎ夏来ると雖も、流離の涙しかすがに乾く暇なく、飛ぶ鳥の心いや更にはるる空なし。
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
彼れには一日じゅうの最も楽しい時間であった……今日あらたに習い覚えた英語を口の中で繰返していたが、ふと弟の明日の出立が思いだされて
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
その下に集る団員は、博士の命令で、あの事件以来ピタリと鳴りをしずめ、その代り、あらたに恐ろしき第二期計画に着々として準備を急いでいた。
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ところが求める者には与えられるのか、私があらた駒場こまばに居を決める直ぐ前に、予々かねがね日光街道で眼に入っていた一軒の石屋根長屋門が売りに出た。
野州の石屋根 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
第四十五条 衆議院解散ヲ命セラレタルトキハ勅命ちょくめいもっあらたニ議員ヲ選挙セシメ解散ノ日ヨリ五箇月以内ニこれヲ召集スヘシ
大日本帝国憲法 (旧字旧仮名) / 日本国(著)
村落むらいきほ嫉妬しつと猜忌さいぎとそれからあらたおこつた事件じけんたいするやうな興味きようみとをもつ勘次かんじうへそゝがれねばならなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
せがれと嫁の絶えない争論いさかいめかあらたに幾本目かの皺がおもてにはっきり刻まれていたが、でも彼女はだまんざら捨てたものではないと独りで決めていた。
目撃者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いま無上むじやう愉快ゆくわいときだぞ、いま一層いつそうのぞみには、あらたきたへたこの速射砲そくしやほうで、彼奴等きやつらつくき海賊かいぞくども鏖殺みなごろしにしてれんに。
しばらくも安らかなることなし、一度ひとたび梟身けうしんを尽して、又あらたに梟身を得。つまびらかに諸の苦患をかうむりて、又尽くることなし。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
いっさいの「既成」をそのままにしておいて、その中に自力をもって我々が我々の天地をあらたに建設するということはまったく不可能だということである。
又々あらたあらた立直たてなほ奉行所ぶぎやうしよへ申上て昨夜さくや御成門へいたづら仕りしが南無阿彌陀佛なむあみだぶつと書しは淨土宗じやうどしうのともがらねたみしと相見あひみえ申候如何計申べしや何卒なにとぞ公儀こうぎ威光ゐくわう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
神殿も宝庫も震災後あらたに建てられたもので、そのころ縁日のあったあたりとは何となく様子がかわっていた。それから北三筋町の方へも歩いて行って見た。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
さながら筆洗ひっせんの中で白筆はくひつを洗ったように棚曳たなびき、冴え渡った月は陳士成に向って冷やかな波をそそぎかけ、初めはただあらたに磨いた一面の鉄鏡に過ぎなかったが
白光 (新字新仮名) / 魯迅(著)
弟はたつと云った。辰年の生れであった。私達は三人兄弟で、兄はあらた、私はきよしで、みな祖父がつけたものであった。弟が生れたのは、三月の節句の頃であった。
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
三吉はあらたに妹が一人えたことをめずらしく思った。読書の余暇には、彼も家のものの相手に成って、この妹を款待もてなそうとした。お雪は写真の箱を持出した。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あらた減債基金げんさいききん充當じうたうすることにしたから來年度らいねんどには減債基金げんさいききん總額そうがくは九千萬圓まんゑんのぼるのであるから三千五百萬圓まんゑんだけが六十億圓おくゑん國債こくさいからげんずることになる。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
考えだし、追想をあらたにする頭のハタラキもないような、たよりない様子であった。然し、ふと顔をあげて
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
他人は皆、ある妻子まで離別して、出かけてきている。それだのに、自分は今生死の境に立って、あらたに妻を
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
銀座のカフェー、ナショナルは彼女があらたに開いた店だということである。わたしは其処へいって、親しく、近しく、彼女の口から物語られる彼女を知ろうと思う。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
アンドレイ、エヒミチがあらた院長いんちょうとしてこのまちときは、この病院びょういん乱脈らんみゃく名状めいじょうすべからざるもので。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
小野田は色々の学校へあらたに入学した学生たちの間にくべき、広告札の意匠などに一日腐心していた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
年々としどしの若葉ともいふ可きあらたの月日、またない月日、待受けぬ月日、意外の月日、すきになる月日、おそろしい月日は歸つて來ても、過ぎた昔のしたしみのある、願はしい
落葉 (旧字旧仮名) / レミ・ドゥ・グルモン(著)
殊に彼等の団体へあらたにはひつて来た青年たちは彼の怠惰たいだを非難するのに少しも遠慮を加へなかつた。
或社会主義者 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ただそれしきのものがこよなく美しく目ざましい。私がせいせいとしてあらたにかえられた水にあそぶ魚のように呼吸をしてるところへ△△さんが洗面器に湯をもってくる。
胆石 (新字新仮名) / 中勘助(著)
雪之丞は、この人物に、ますますあらたな良さというものを感じて、はなれがたなさを覚えたのである。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
当時都下の諸新聞がこぞって大々的に報道した事件ですから、無論皆さんはよく御承知でしょうが、もう一度記憶をあらたにする為に、ここで初めからお話して見ましょう。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
先年東京に××博覧会が開かれた時、の一館に有名なるM真珠店が数十万円と銘打って、一基の真珠塔を出陳して世人を驚かした事は、尚諸君の記憶にあらたなる所であろう。
真珠塔の秘密 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
ターン・テーブルのレコードは裏返しにされて、あらたに針はおろされました、が、ちんぷんかんぷんは同じことで、三分余りの長広舌も、結局何を言ってるのか少しもわかりません。
しほれきつて暮した自分たちを、あらたに思ひ出させるあの怨み深い父! あの無気味な男が、あのいやなおやぢが、これから「父の王座」に坐つて、自分たちを叱つたりするのか?
父の帰宅 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
そしてもしこう云うこころみをして、誰かが中心思潮となっている論説を覆して、更にその聴衆に、あらたな出発点と結論とを与えたら、それはたしかに、キザたっぷりなことではあるが
と、喬介の顔色が急にあからみかけて来た。成る程、喬介の手元を見ると、あらたに掘り出されたまだ余り古くない白銀色の鉄粉の層の上に、褐色の錆を浮かした大きなしみが出て来た。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
まことにいそがしい足し算、ひき算ね。「基礎」は三度ぐらいよみましたでしょうね。しかし、いいものの味は、自分の長成ママとともにわかりかたも育つ故、年々歳々あらたでしょう。
「其れは貴嬢あなたの誤解です」と篠田は首を振りぬ、「れはあらたに驚くべきことでは無いのです、失礼ながら貴嬢の父上は、神の教会を攪乱するの力を有つて居なさらぬ、梅子さん、 ...
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
しこたま金が出来てみると、女房かないの顔と現在いま住家すみかとが何だか物足りなくて仕方がない。だが、女房かないの顔はうにも手の着けやうが無いので、住家すみかだけをあらたに拵へる事にめた。