わか)” の例文
これが真新しいので、ざっと、年よりはわかく見える、そのかわりどことなく人体にんていに貫目のないのが、吃驚びっくりした息もつかず、声を継いで
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
東席順に「総無足料頭上原全八郎五十六」と云つてある。然らば文化十年生で榛軒よりわかきこと九歳であつた。「料頭」は料理人頭歟。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
〔譯〕あさにしてくらはずば、ひるにしてう。わかうして學ばずば、壯にしてまどふ。饑うるは猶しのぶ可し、まどふは奈何ともす可からず。
まめであった昔のわかい時分の気分に返ることが出来てきたので、これまでのような自堕落じだらくな日を送ろうとは思っていなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ゲーテのすみれという詩に、野の菫がわかき牧女に踏まれながら愛の満足を得たというようなことがある。これが凡ての人間の真情であると思う。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
左れば今滿堂の諸君は年尚ほわかし、一生の行路に幾多の禍福に逢ふは必然の數にして、或は大資産の身と爲り、衣食餘りて別に心身の快樂を求め
人生の楽事 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
また晋の周処わかい時乱暴で、義興水中の蛟と山中の虎と併せて三横と称せらるるを恥じ、まず虎を殺し次に蛟を撃った。
諸将のうちに於て年最もわかしといえども、善戦有功、もとより人の敬服するところとなれるもの、身のたけ八尺、年三十五、雄毅開豁ゆうきかいかつ、孝友敦厚とんこうの人たり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
母の話に、母がまだわかく、この道の上の禪宗のお寺の寺子屋に通つてゐた頃には、手習の水番と云ふものがあつて、この川まで水を汲みに下りたと云ふ。
すかんぽ (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
黄絹こうけんと申すは即ち色の糸、文字にしますれば『絶』の字にあたります。幼婦は即ちわかき女『妙』の字です。外孫は即ち女の子、これ『好』でありましょう。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
竹渓はとにかくに年わかくして江戸に来ったがまた折々帰省して父幽林の安否を問うた。幽林の集に「男伯経尾陽ニ還ル。別後三日雨。」〔男伯経尾陽ニ還ル。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さるを怪むべきは此女優の擧止たちゐのさま都雅みやびやかにして、いたく他の二人と異なる事なり。われは心の中に、若しわかき美しき娘に此行儀あらば奈何いかならんとおもひぬ。
いづれの時代にも、思想の競争あり。「過去」は現在と戦ひ、古代は近世と争ふ、老いたる者はいにしへを慕ひ、わかきものは今を喜ぶ。思想の世界は限りなき四本柱なり。
国民と思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
管仲夷吾くわんちういご(一)潁上えいじやうひとなりわかときつね鮑叔牙はうしゆくが(二)あそぶ。鮑叔はうしゆく其賢そのけんる。管仲くわんちう貧困ひんこんにして、つね鮑叔はうしゆくあざむく。鮑叔はうしゆくつひ(三)これぐうし、もつげんさず。
お定がまだわかかつた頃は、此村に理髮店といふものが無かつた。村の人達が其頃、頭の始末を奈何どうしてゐたものか、今になつて考へると、隨分不便な思をしたものであらう。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
実子の麟太郎りんたろうはまだわかく額には前髪さえ立てていたがその精悍さは眼付きに現われその利発さは口もとに見え、体こそ小さく痩せてはいたが触れれば刎ね返しそうな弾力があった。
開運の鼓 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
往反ノ者ノ路ニしたがラザルハナシ矣、ノ俗天下ニ女色ヲてらヒ売ル者、老少提結シ、邑里ゆうり相望ミ、舟ヲ門前につなギ、客ヲ河中ニチ、わかキ者ハ脂粉謌咲かしょうシテ以テ人心ヲまどハシ
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おもえば女性の身のみずかはからず、年わかくして民権自由の声にきょうし、行途こうと蹉跌さてつ再三再四、ようやのち半生はんせいを家庭にたくするを得たりしかど、一家のはかりごといまだ成らざるに、身は早くとなりぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
意外にも敵のおのれよりわかく、己より美く、己より可憐しをらしく、己よりたつときを見たるねたさ、憎さは、唯この者有りて可怜いとしさ故に、ひとなさけも誠も彼は打忘るるよとあはれ、一念の力をつるぎとも成して
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そのわかみこの殿の下に遊べることを知らしめさずて、大后に詔りたまはく
ここに獅子、猛き獅子、わかき獅子、大獅子、小獅子と五種の獅子を記しているが、原語においてはいずれも別々な語を用いてあって、老少種別等に応じて種々の名の付けられてあった事が分る。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
わかい時には誰しも自分の身の方向に迷ふものだが、アメリカのある少年が、自分にはどんな職業しごとが向いてるか知らと、色々思案の末がよくあるならひで人相見のとこに出かけて往つた事があつた。
わかかりしときいやしかりき、ゆえに鄙事ひじに多能なり。(子罕しかん、六)
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
わかくしてひときたる
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
そこへ……いまお道さんが下りました、草にきれぎれの石段を、じ攀じ、ずッとあがって来た、一個ひとり年紀としわか紳士だんながあります。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
体格が雄偉で、面貌めんぼうの柔和な少年で、多く語らずに、始終微笑を帯びて玄機の挙止を凝視していた。年は玄機よりわかいのである。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
小金を持っているお千代婆さんは、今一人のわかい方の子息むすこの教育を監督しながら女中一人をおいて、これという仕事もなしに、気楽に暮していた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
れば今満堂の諸君は年わかし、一生の行路に幾多の禍福に逢うは必然の数にして、あるいは大資産の身とり、衣食余りて別に心身の快楽を求め
人生の楽事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
賽児さいじ蒲台府ほだいふたみ林三りんさんの妻、わかきより仏を好み経をしょうせるのみ、別に異ありしにあらず。林三死してこれを郊外にほうむる。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
今一人狼窠より燻べ出された児は年はるかにわかかったが夜分ややもすれば藪に逃げ入りて骨を捜し這いあるく、犬の子のごとく悲吟するほか音声を発せず
ここにしばらく葛飾北斎が画家としての閲歴を見るに、彼は宝暦ほうれき年間に生れそのよわい歌麿よりわかき事わずかに七年なり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
わかき思想の実世界の蹂躙じうりんする所となる事多し、特に所謂詩家なる者の想像的脳膸の盛壮なる時に、実世界の攻撃にへざるが如き観あるは、止むを得ざるの事実なり。
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
今朝實は偶然遠來のわかい親類の人を案内して、所謂舊跡廻りをして、山の途中から幟の立つて居るのを望見して始めて此の街區に祭典のあると云ふ事を知つたのである。
海郷風物記 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
その日輪の車をめぐりて踊れる女のうちベアトリチエ・チエンチイ(羅馬に刑死せし女の名)のわかかりしときの像に似たるありしが、その面影は今のアヌンチヤタなりき。
「しかし、あとで話を承ると、それはとうの怪我人と何らの縁故なき旅人どもであったそうで、あとに残って付添うているのは、まだ年のわかい次郎とよぶしもべひとりでございます」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぶんいはく、『しゆわかうしてくにうたがひ、大臣だいじんいまかず、百せいしんぜず、ときあたつてこれぞくせんこれわれぞくせん』と。默然もくぜんたることややひさしうしていはく、『これぞくせん』
〔譯〕凡そ事に眞是非しんぜひ有り、假是非かぜひ有り。假是非とは、通俗つうぞくの可否する所を謂ふ。年わかく未だ學ばずして、先づ假是非をれうし、後におよんで眞是非を得んと欲するも、亦入りやすからず。
治めなかったので一家の会計はわかい麟太郎が所理とりおこなわなければならなかった。
開運の鼓 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「自惚でない。承った、その様子、しからん嬌媚きょうびていじゃ。さようなことをいたいて、わかい方の魂をとろかすわ、ふん、ふふん、」
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
遺骸のかたわらに、大逆たいぎゃくのために天罰を加うという捨札すてふだがあった。次郎は文化十一年うまれで、殺された時が四十九歳、抽斎よりわかきこと九年であった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
笹村のがわに、そんなことのないのが、お銀にとって心淋しかったが、それでもそのころ温泉場ゆばにいたある女から来た手紙や、大阪でわかい時分の笹村が
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
また巫覡ふけんに迷うべからず、衣服分限ぶんげんに従うべし、年わかきとき男子とれ猥れしくすべからず云々は最も可なり。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
燕王笑って曰く、が年まさに四旬ならんとす、鬚あにまた長ぜんやと。道衍こゝに於て金忠きんちゅうというものをすすむ。金忠も亦きんの人なり、わかくして書を読みえきに通ず。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
此等の人々は見るところ大抵僕よりは年がわかい。僕は嫌悪の情に加えて好奇の念を禁じ得なかった。
申訳 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
法皇の禁軍まもりのつはもの號衣しるしを着たる、わかく美しき士官は我手を握りぬ。人々さま/″\の事を問ふに、我は臆することなく答へつ。その詞に、人々或は譽めそやし、或は高く笑ひぬ。
龍子は当年六十五歳、元と豪族に生れしがわかうして各地に飄遊し、好むところに従ひて義太夫語りとなり、江都えどに数多き太夫のうちにも寄席に出でゝは常に二枚目を語りしとぞ。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
曰く夏姫道を得て鶏皮三たびわかし〉と見えしも、老いて後鶏皮のごとく、肌膚のこわくなるは常の習いなるに、夏姫は術を得て、三度まで若返りたるという事なり(『類聚名物考』一七一)。
わかき姉妹の順礼御詠歌ごえいかうたひながら下手より登場。姉なるは盲目めしひなり。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
わかい女の片肌が、ふっくりと円く抜けると、麻の目がさっと遮ったが、すぐ底澄そこずんだように白くなる……また片一方を脱いだんです。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
柏軒は後しば/″\人に語つて、「己はわかい時無頼漢であつた」と云つた。志気豪邁にして往々細節を顧みなかつたのださうである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)