失望しつぼう)” の例文
咲耶子さくやこにあわぬ失望しつぼうは、そのうれしさにおぎなわれて、朱柄あかえやりつばなしの戒刀かいとうは、なんのためらいもなくその渦巻うずまきのなかへおどった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれらが失望しつぼう落胆らくたんすべき必然ひつぜん時期じきはもはや目のまえにせまっていると思うと、はらわたがえかえってちぎれる心持ちがする。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「おお醤どの。ふしぎというほかない。しかしまだあの部屋には、かずかずの始末道具しまつどうぐがあるから、まだ失望しつぼうするのは早い」
江戸えど民衆みんしゅうは、去年きょねん吉原よしわら大火たいかよりも、さらおおきな失望しつぼうふちしずんだが、なかにも手中しゅちゅうたまうばわれたような、かなしみのどんぞこんだのは
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
秀吉ひできちは、かけるとき、むねえがいた、桃色ももいろ希望きぼうかげは、どこかへえて、うちへもどるときは、失望しつぼうそこあるくように、はこあしおもかったのでした。
しいたげられた天才 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そこでもまた同じ問いをくり返したが、やはりいい結果けっかられなかった。でもわたしたちは失望しつぼうしないで、一人ひとりたずねながらずんずん進んだ。
そしてそれが原因げんいん洞穴ほらあな研究けんきゆうをして、これを學界がつかい發表はつぴようしましたが、當時とうじたれしんずるものがなく、サウツオラは失望しつぼう落膽らくたんし、殘念ざんねんおもひながらんだのです。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
と、そう思返おもいかえしたものの、やはり失望しつぼうかれこころにいよいよつのって、かれおもわずりょう格子こうしとらえ、力儘ちからまかせに揺動ゆすぶったが、堅固けんご格子こうしはミチリとのおともせぬ。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
もる苦労くろうかさなる失望しつぼう、ひしひしと骨身ほねみにしみるさびしさ……わたくしからだはだんだん衰弱すいじゃくしてまいりました。
だが第二の失望しつぼうがきた。夜は明けたが濃霧のうむ煙幕えんまくのごとくとざして、一寸先も見えない、むろん陸地の影など、見分くべくもない。しかもいぜんとして風はやまぬ。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
容易ようい胸隔きようかくひらかぬ日本人にほんじん容易ようい胸隔きようかくつる日本人にほんじんそろ失望しつぼうさうならざるなしと、かつ内村うちむら先生申されそろしか小生せうせい日本人にほんじんそろこばまざるがゆゑ此言このげんそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
だからそのてんにおいて、そのおうたが、第一番だいゝちばんのものでなくとも、なに失望しつぼうする必要ひつようはありません。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
氏のめに苦戦し氏のめに戦死したるに、首領にして降参こうさんとあれば、たとい同意の者あるも、不同意の者はあたかも見捨てられたる姿にして、その落胆らくたん失望しつぼうはいうまでもなく
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
あゝ、天上てんじやうから地獄ぢごくそこ蹴落けおとされたとて、人間にんげんまで失望しつぼうするものではあるまい。
多分たぶん彼等かれらつてはたのしい一であるべきはずだつたのであらうがおしのやうにだまりこくつた我々われ/\にが表情へうぜう無愛相ぶあいそう態度たいどとが、如何いか彼等かれら失望しつぼうさせたかは、想像そうぞうあまりあるものであつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
けれども壺穴つぼあな標本ひょうほんを見せるつもりだったが思ったくらいはっきりはしていないな。多少失望しつぼうだ。岩は何という円くなめらかにけずられたもんだろう。水苔みずごけえている。すべるだろうか。滑らない。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ふたりは、ちょっと失望しつぼうしました。
いぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
で、かれももう思慮かんがえることの無益むえきなのをさとり、すっかり失望しつぼうと、恐怖きょうふとのふちしずんでしまったのである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
にんは、学者がくしゃ言葉ことばいて失望しつぼうしました。けれど、あるいは、このはこなかに、なにかはいっていはしないかという一筋ひとすじ希望きぼうちながら、かけてゆきました。
三つのかぎ (新字新仮名) / 小川未明(著)
するとかれはわたしのほっしていたありったけの同情どうじょうをわたしにそそいだ。かれはどうにかしてわたしをなぐさめようと努力どりょくした。そして失望しつぼうしてはいけないと言った。
と、おときは手のうちのたまをとられたように、あッけにとられて失望しつぼうしたが、その目のまえに、すぐと、また同じような少年がひとり、つきみや境内けいだいからいきおいよくかけだしてきて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
失望しつぼうなぐさむところがあるにちがいないだろうが、それがいまの自分にはほとんどのぞみがないばかりでなく、かえって夫婦間ふうふかんにおこるべきいやな、いうにいわれない苦痛くつうのために
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
まあ/\、失望しつぼうしないで、生命限いのちかぎことだ。
こう看護婦かんごふがいったとき、わか婦人ふじん顔色かおいろは、落胆らくたん失望しつぼうのために、わりました。彼女かのじょは、どうしていいかわからなかったからです。しばらくだまってかんがえていました。
世の中のこと (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたしが自分にはうちがないと思って、あれほど悲しがっていていたじぶん、こうしてうちができた今日かえってこれほどの失望しつぼうにおちいろうとはだれが思ったろう。
自分の落胆らくたん失望しつぼうが、どれほど忠節ちゅうせつな人々のむね反映はんえいするかをよく知っている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それをききたいばかりに、わざわざここまで旅行たびをしたおじょうさまの失望しつぼうおもったからです。
谷にうたう女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そういうわけでむすこに失望しつぼうした母親の心には、のない物思いがあった。
若者わかものは、そんなことにはにもとめずに、口笛くちぶえらして、このかぎりないうつくしい景色けしきとれていましたが、トムきちは、失望しつぼう悔恨かいこんとくやしさとで、かおいろは、すっかりあおざめていました。
トム吉と宝石 (新字新仮名) / 小川未明(著)
きみは、あの谷川たにがわのほとりのほおのきをっているだろう。二人ふたりがやまばとのりにいって、もうさきにだれかにられてしまって失望しつぼうしたことがあったね。ぼくは、あのあたりの景色けしききだ。
風雨の晩の小僧さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
いつも、あたまのはげあがった番頭ばんとうが、上目うわめ使つかって、じろりと平三へいぞうかおをにらむようにて、一ごうますにさけをはかっていれてわたしました。かれは、毎日まいにち毎日まいにち失望しつぼうして、いえかえってきたのであります。
赤いガラスの宮殿 (新字新仮名) / 小川未明(著)