うも)” の例文
越前ゑちぜん武生たけふの、わびしい旅宿やどの、ゆきうもれたのきはなれて、二ちやうばかりもすゝんだとき吹雪ふゞき行惱ゆきなやみながら、わたしは——おもひました。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
我邦の山岳信仰の、是は普通の型とも見られようが、それをシラ山と名づけたのには、或いはうもれたる古い意味があるのかもしれぬ。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
一山いっさんせみの声の中にうもれながら、自分は昔、春雨にぬれているこの墓を見て、感に堪えたということがなんだかうそのような心もちがした。
樗牛の事 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
むかしは樹がしげった渓谷だったでしょうが、地辷じすべりもあってすっかりうもれた。そこへ、ピルコマヨが流路を求めてきた。
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その才の故にかえって四方に敵を作りむなしくうもれ果てたのは自業自得ではあるけれどもまことに不幸と云わねばならぬ。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
今少してば、おれの中の人間の心は、獸としての習慣の中にすつかりうもれて消えて了ふだらう。恰度、古い宮殿の礎が次第に土砂に埋沒するやうに。
山月記 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
おまけに先刻さつき手早てばや藝當げいたうその效果きゝめあらはしてたので、自分じぶん自分じぶんはらまり、車窓しやさうから雲霧うんむうもれた山々やま/\なが
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
天下には、可惜あたら、そういうかどが取れないために、折角の偉材名石でありながら、野にうもれている石が限りなくある。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お妙は、客へこう言いながら、長火鉢のうもれ火を掻き起した。そうして、火箸を扱いながら、ちらとその男を見た。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
とうとうおれもうもになってしまった。これから地面の下で湿気を食いながら生きて行くよりほかにはない。——おれは負け惜しみをいうはきらいだ。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
雪にうもれんとする奥信濃の路とは違い、ここは明るい南国の伊豆、熱海街道の駕籠かごの中に納まって、女軽業おんなかるわざの親方のおかくが、駕籠わきについている、いつも
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私はまた想像した、雪にうもれ、氷に閉され、伸びては枯れ、枯れてはうる林相の無常を。またその光明を。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
したが、マンチュアへはあらためて書送かきおくり、ロミオがおやるまでは、ひめ庵室あんじつにかくまっておかう。不便ふびんや、きたむくろとなって、死人しにんはかなかうもれてゐやる!
今日は塾へ出ようとして、青葉にうもれた石垣の間を通つて、久し振で城門前の踏切へ出た。並行したレールは初夏の日を受けてぎすましたやうに光つて居た。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
仲之町夜桜のさかりとても彼は貧しげなる鱗葺こけらぶきの屋根をば高所こうしょより見下したるあいだに桜花のこずえを示すにとどまり、日本堤にほんづつみは雪にうもれし低き人家と行き悩む駕籠の往来おうらい
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
……のみならず、このおびただしい排泄はいせつ物の腐れた臭ひに半ばはうもれて一万二千の小舟が動き廻り、三万余りの男女がその中に「生きて」ゐるのを私たちは知つてゐる。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
かれは日記帳に、「あゝわれつひにへんや、あゝわれつひに田舎いなかの一教師にうもれんとするか。明日! 明日は万事定まるべし。村会の夜の集合! ああ! 一語以て後日ごじつに寄す」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
薄く流れる河の厚さは昨日きのうと同じようにほとんど二三寸しかないが、その真中に鉄の樋竹といだけが、砂にうもれながら首を出しているのに気がついたので、あれは何だいと下女に聞いて見た。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
てども/\つてぬので、ハンマーをつて往還わうくわんをコツ/\穿うがち、打石斧だせきふうもれたのなど掘出ほりだしてたが、それでもない。仕方しかたいので此方こつち二人ふたりは、きへてらなかはいつた。
馬爪ばづのさしぐしにあるひと本甲ほんかうほどにはうれしがりしものなれども、人毎ひとごとめそやして、これほどの容貌きりよううもとはあたら惜しいもの、ひとあらうならおそらく島原しまばらつての美人びじん
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
このままうもらせてしまうのは残念だ、もう少し書かせてみないか、発表の雑誌の世話をしてあげる、というような事を、もったいない叮嚀ていねいなお言葉で、まじめにおっしゃっているのでした。
千代女 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それが氷でもれ上っていた。沼の向う側には雪にうもれて二三の民屋が見えた。
雪のシベリア (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
眼の上の眉のひさしがやや眼にのしかかり気味でそれが眼に陰影を与える。眼と嘴と額との国境のようなへこんだ三角地帯に、こわい毛に半ばうもれるように鼻孔がこの辺のこなしを引締めている。
木彫ウソを作った時 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
右馬の頭はもういうこともなく、点頭うなずいて見せた。このままのなりわいを続けて行ったら、生絹すずしは泥くさい田舎いなか女になり果て和歌の才能すら難波の蓬生よもぎうのあいだにうもれてしまわねばならない。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
審美書院しんびしょいんの自慢の木版摺もくはんずりの色でみると、千年の間土にうもれていて、今また陽光を浴びた八戒は、あざやかなしゅと黄色との着物を着て、一、二年前に描かれたような色彩のまま保存されていたのである。
『西遊記』の夢 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
カトリックに通い、あんまを習い、すべての遍歴へんれきは年月の底にうもれて
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
こういう職業にうもれて行くにはあたら惜しいような男である。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
うもれたる過去」の一切の力がお光を引きしめた。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
雪にうもれ、雪の下に身をうずめながら生きていた。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
ふる草にうもるるがごと
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
うもれた墓を洗ひ出し
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
空知川そらちがわ雪にうもれて
田舎がえり (新字新仮名) / 林芙美子(著)
うつくしき人の胸は、もとのごとくかたわらにあおむきいて、わが鼻は、いたずらにおのがはだにぬくまりたる、柔き蒲団にうもれて、おかし。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
生涯うもで暮らすばっかりやいいなさって、自分は死んでもあんな男と結婚せエへん、どうぞ助ける思てあの男と手エ切れるようにしてくれへんか
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
今少してば、おれの中の人間の心は、獣としての習慣の中にすっかりうもれて消えてしまうだろう。ちょうど、古い宮殿のいしずえが次第に土砂に埋没するように。
山月記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
藤原有範が子飼こがいの家来、侍従介じじゅうのすけは、築地ついじの外の流れが、草にうもって、下水が吐けないので、めずらしく、熊手をもって、掃除をし、落葉焼おちばやきをやっていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幸いにしてこれは人情の古今に一貫した願望である故に、今でもまだ眼に立たぬ人々の言葉や行いの中から久しくうもれていたものを発見し得る望みはある。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「紀州のとしほどすいしがたきはあらず、あかにて歳もうもれはてしとおぼゆ、十にやはた十八にや」
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「いや、僕はそう思うねえ、僕はこれっきりうもれてしまうような気がしてならないよ」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
いたずらに羞かしい労働にうもれて行くことを悲しんだ。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
ちはてし熔岩ラヴアうもるるポンペイを、わがまぼろしを。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
砂にうもれし青きたま
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
空知川そらちがは雪にうもれて
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
雪難之碑せつなんのひ。——みねとがつたやうな、其處そこ大木たいぼくすぎこずゑを、睫毛まつげにのせてたふれました。わたしゆきうもれてく………身動みうごきも出來できません。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
れかゝつてあめ益〻ます/\つよくなつた。山々やま/\こと/″\くもうもれてわづかに其麓そのふもとあらはすばかり。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
そんならそなたは姉さんのために一生をうもにしてしまいなさるのか
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
というようなものは、決して町にも山沢にもうもれていなかった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さしもまたうもれてふる妄念まうねん
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
砂にうもれて顔を出す
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
が、その影がすと、半ばうもれた私の身体からだは、ぱっと紫陽花に包まれたように、青く、あいに、群青ぐんじょうになりました。
雪霊続記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)