勿體もつたい)” の例文
新字:勿体
それをおもふと、つくゑむかつたなりで、白米はくまいいてたべられるのは勿體もつたいないとつてもいゝ。非常ひじやう場合ばあひだ。……かせがずにはられない。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
言懸いひかけられお菊は口惜くやしきこと限りなく屹度きつとひざを立直し是は思ひも依ぬ事をおほせらるゝものかな云掛いひかゝりされるも程がある勿體もつたいない母樣を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「それはもう、三年越しわづらつて居る私を、こんなにお世話して下さいます。なんの不自由も御座いません。勿體もつたいないほどで」
阿呆あほらしい、そんな勿體もつたいないこと考へてるよつて、天滿宮さんの罰が當るんや。道眞みちざね公の臣やいうて、道臣ちふ名をつけたかてあかんなア。」
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
まことに勿體もつたいない。ないがしろにされるのは無論いやだが、徒らに氣の毒なおもひをさせられるのも心苦しい。
樹木とその葉:07 野蒜の花 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
あのひと不幸ふしあはせな一生で死んでしまつたが、私はあのひとが志望をげてゐたらば、立派な働きをしてゐたであらうと思つて、勿體もつたいないことをしたと思つてゐる。
日本橋あたり (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
勿體もつたいをつけたり、幼稚な動機に大層な理由附を施してみたり、さういふ事を覺えたに過ぎないのではないか。
かめれおん日記 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
「まだ、ね」と、輕く受けて、「おれの一身を田舍婆々アのかたみ位でふん縛ることは勿體もつたいないよ。」
勿體もつたいないことであつたれどらぬことなればゆるしてくだされ、まあ何時いつから此樣こんことして、よくそのよはさわりもしませぬか、伯母おばさんが田舍いなか引取ひきとられておいでなされて
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
およびもつかんこと御座ござります、勿體もつたいないことで御座ござります。』と權藏ごんざう平伏へいふくしました
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「いゝえ、妖精フエアリさん、でも聲を聞いて觸るだけでも勿體もつたいないくらゐだ。」
勿體もつたいない/\。」と、道臣も菊石あばたのある赭顏あからがほを酒にほてらしつゝ、兩手に櫻と桃とをかざした喜びの色をみなぎらした。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
はへうじも、とは、まさかひはしなかつたけれども、場合ばあひ……きれいきたないなんぞ勿體もつたいないと、たちのき場所ばしよ周圍しうゐからせつて、使つかひかはつて、もう一度いちど
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
送らんも勿體もつたいなし明日よりはもち背負せおひてお屋敷や又は町中まちぢうを賣ながら父を尋ね度ぞんずるなり此上のおなさけに此儀を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
斯ういふ上酒は何年振とかだ、勿體もつたいない/\といひながら、いつの間にか醉つて來たと見え、固くしてゐた膝をも崩し、段々圍爐裡ゐろりの側へもにぢり出して來た。
山寺 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
「だつて、路地の花道はやけに長いぜ、これほどの大手柄おほてがらを默つて舞臺にかゝつちや勿體もつたいない」
相手の口調に多少の勿體もつたいがついてゐなかつたか知らんと考へて、如何に筆の上に權威があるにしても、洋服を拵らへて貰つたり旅費を出させたりする不體裁を返り見ないではゐられなかつた。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
わたくしをば母親はゝおやおもざしるにかんたねとてせつけもいたされず、朝夕あさゆふさびしうてくらしましたるを、うれしきことにていまわたくしわがまゝをもゆるたまひ、おもことなき今日此頃けふこのごろ、それは勿體もつたいないほどの有難ありがたさも
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
河の中へけへしておけよ、勿體もつたいねえぢや困るぜ、と
佃のわたし (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
とり勿體もつたい無い何事ぞや失禮しつれいなるもかへりみず御意見なせしおしかりもなきのみ成ずすみやかに御志ざしを御改め下さらんとは有難ありがたく夫にて安心仕つりぬとよろこび云ば千太郎はなほ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「いゝとも、十疊に一人ぢや勿體もつたいない。二人でも三人でも、案内して來るがいゝ」
勿體もつたいないが、ぞく上潮あげしほから引上ひきあげたやうな十錢紙幣じつせんしへい蟇口がまぐち濕々じめ/\して、かね威光ゐくわうより、かびにほひなはつたをりから、當番たうばん幹事かんじけつして剩錢つりせん持出もちださず、會員くわいゐん各自かくじ九九九くうくうくうつぶそろへて
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
久し振だ、勿體もつたいない樣だと言ひながら三人の人たちが盃をあげてゐるところへ
樹木とその葉:34 地震日記 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
家藏持參いへくらぢさん業平男なりひらをとこたまかほ我等われらづれに勿體もつたいなしお退きなされよたくもなしとつれなしやうしろむきにくらしきことかぎならべられても口惜くちをしきはそれならずけぬこゝろにあらはれぬむねうらめしく君樣きみさまこそは
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
……朝餉あさげますと、立處たちどころとこ取直とりなほして、勿體もつたいない小春こはるのお天氣てんきに、みづ二階にかいまでかゞやかす日當ひあたりのまぶしさに、硝子戸がらすど障子しやうじをしめて、長々なが/\掻卷かいまきした、これ安湯治客やすたうぢきやく得意とくいところ
鳥影 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「ザラの人間と一緒にするには、勿體もつたいない位、良い女でしたよ、親分」
濡れた地べたにくつ着いたまゝ、勿體もつたいない清らかな色に咲いてゐる。
生甲斐いきがひなや五尺ごしやく父母ふぼおんになれずましてや暖簾のれんいろむかしにめかへさんはさてきて朝四暮三てうしぼさんのやつ/\しさにつく/″\浮世うきよいやになりて我身わがみてたき折々をり/\もあれど病勞やみつかれし兩親ふたおや寢顏ねがほさしのぞくごとにわれなくばなんとしたまはん勿體もつたいなしとおもかへせどくは
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
女紅場ぢよこうばで、お師匠ししやうさんをなさります、のおこゝろうちぞんじながら、勿體もつたいない、引張ひつぱりの地獄宿ぢごくやどで、たこあしかじりながら、袖崎そでさき御新姐ごしんぞ直傳ぢきでんだ、と紀伊國きいのくに音無瀬川おとなせがはきつねいた人畜にんちく
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「まあ、勿體もつたいないわねえ、私達わたしたちなんのおまへさん……」といひかけて、つく/″\みまもりながら、おしなはづツとつて、與吉よきちむかひ、襷懸たすきがけの綺麗きれいかひなを、兩方りやうはう大袈裟おほげさつてせた。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
毎日まいにちこと勿體もつたいない、殿樣とのさままがふほどなのです。かはり——
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)