つと)” の例文
新刊の『活文壇』は再三上野三宜亭さんぎていに誌友懇談会を開き投書家を招待し木曜会の文士交〻こもごも文芸の講演を試むる等甚つとむる処ありしが
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
女を慕いそれをうたう時はこういう隙間やかげからうたうものらしいと、私の盗みはそこから眼をさましかけ、それにつとめたものである。
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
室外の廊下に出て見ると高木さんや中川さんの顔も見えた。みんな外の方を向いて自分の顔を見ないようにつとめているらしく思われた。
病中記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そして時雄もこの恋に関しての長い手紙を芳子の父に寄せた。この場合にも時雄は芳子の感謝の情を十分にち得るようにつとめた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
それが、何かの時、鏘然しょうぜんと光って出ると、人はすぐ天稟の才能だという。——つとめない人が自ら懶惰らんだをなぐさめてそういうのですよ
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
又根気のあらん限り著書飜訳ほんやくの事をつとめて、万が一にもこのたみを文明に導くの僥倖ぎょうこうもあらんかと、便り少なくも独り身構えした事である。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
たえずつとめて自分の平凡な才をみがくべき年ごろに、彼はずるずると坂を滑り落ちてかえりみなかった。そして他人に地位を奪われていった。
何処までも善良なるものと見做みなし、いやしくもこれにもとるものがあれば、ことごとくこれを誤れるものとして一排し去らんとつとむるが如くんば
婦人問題解決の急務 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
「花鳥諷詠」という宿命はのがれることは出来ない。もし諸君がその宿命に甘んずる決心がつけば俳句の天地にとどまってつとめられよ。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
一 されば文章に修飾をつとめず、趣向に新奇をもとめず、ひたすら少年の読みやすからんを願ふてわざと例の言文一致も廃しつ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
象徴の用は、これが助をりて詩人の観想に類似したる一の心状を読者に与ふるに在りて、必らずしも同一の概念を伝へむとつとむるに非ず。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
女はたまらず顧みて、小腰をかがめ、片手をあげてソト巡査を拝みぬ。いかにお香はこの振舞ふるまいを伯父に認められじとはつとめけん。
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これまで苦しいのをつとめて言うような感じがしてならなかったのであるが、きょうはなんだかその感じが薄らいだようである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その他この温泉宿で懇意に成った浴客のところへ遊びに行くことをつとめて、二人ぎり一緒に居ることはなるべく両方で避けよう避けようとした。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
徳川のそんする限りは一日にてもそのつかうるところに忠ならんことをつとめ、鞠躬きっきゅう尽瘁じんすいついに身を以てこれにじゅんじたるものなり。
余は初めより目科の背後うしろに立てる故、気を落着けて充分に倉子の顔色を眺むるを、少しの様子をも見落さじとつとめたるに
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
走るまいとつとめたけれど、いつか気付くと走っていた。なにも思わず、なにも見えなかった。ただ足に任せて道を急いだ。
春いくたび (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼らは常にその良人に見捨てられては、たちまち路頭に迷わんとの鬼胎おそれいだき、何でもかじり付きて離れまじとはつとむるなり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
孝孺のちに至りて此詩を録して人にしめすの時、書して曰く、前輩せんぱい後学こうがくつとめしむ、惓惓けんけんこころひとり文辞のみにらず、望むらくはあいともに之を勉めんと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
人は、遊ばんが為めに職業につとむるに非ず、職業に勉めしが為めに遊ぶなり。釣遊ちょうゆうに、前後軽重の分別有るを要す。
研堂釣規 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
昔は学問のことを勉強とっていた。何か一つの目的のために、強いてつとめて我慢がまんをして学問をしたのであった。多くは新たなる職業のためであった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
宮はこの散歩の間につとめて気をたひらげ、色ををさめて、ともかくも人目をのがれんと計れるなり。されどもこは酒をぬすみて酔はざらんと欲するにおなじかるべし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
われわれはつとめてこの害をめるようにせねばならぬと思うが、僕はけっして英米人をそのままならってふうせよとはかつても言ったこともない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
能登守がまたそれに相手にならず、つとめて避けている態度を、奥床おくゆかしいとも歯痒はがゆいとも見ている人もありました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
周道しうだう衰微すゐびして、桓公くわんこうすでけんなり、しかるにこれつとめてわういたらしめず、すなはしようせしめしと以爲おもへる
彼はその虚無的な気分に浸りたいが為めに、狂言をかいて憤怒の酒に酔ひしれようとつとめるらしくもあつた。
An Incident (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
此の歌などは、万葉としては後期に属するのだが、聖武しょうむ盛世せいせいにあって、歌人等もきそつとめたために、人麿調の復活ともなり、かかる歌も作らるるに至った。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
洞穴の周圍には灌木、草綿など少しく生ひ出でゝ、この寂しき景にいさゝかの生色あらせんとつとむるものゝ如し。われ等は番兵の前を過ぎて、ポムペイのまちの口に入りぬ。
皆は故意に会話をはずませて、過失に狼狽ろうばいしている主人の様子を、少しも見ないようにつとめていた。
ウォーソン夫人の黒猫 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
その見馴みなれぬ紳士は、私の痔病について、いろいろと質問を発した。私はそれについてよどみなく返事をすることにつとめた。しかしあの病院のことだけは言わなかった。
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこで一人の祖母は懇意な家で引うけることになり、お秀は幸い交換局の交換手をつのって居たから直ぐ局につとめるようになって、妹と弟は兎も角お秀と一所に暮していた。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
貴方は現在、御自分の過去に関する御記憶を回復しよう回復しようと、おつとめになりながら、何一つ思い出す事が出来ないので、お困りになっていられるで御座いましょう。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
是れを救済し、其生活を安全ならしむるは、誠に人生の一大善根にして、もとより容易の業にあらずと雖ども、吾人は其小を積み止まず遂に其大を致さむ事をつとめざるからず。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
しゆり、しゆれに宿やどときは我はつとめずして光をはなつなり、而してわれより出るしゆひかりわれしんぜずしてしゆしんずるにいたる、しんずる基督教的きりすとけうてき伝道でんだうなる者なり。
問答二三 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
記者たちはそれを嗅出かぎだす事につとめながら、仲間の鼻毛を抜こうとするようにまでなった。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そもそも、学問を独立せしむるの要術、甚だうし。然れども、今日の事たる、つとめて学者をして講学の便宜を得せしめ、勉めてその講学の障碍しょうがいのぞくより切なるはなし(謹聴、拍手)。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
おつたはすこあわてたやうしかるべく落附おちつかうとつとめつゝはなしそらした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ナチュラリズムは、材料の取扱い方が正直で、また現在の事実を発揮さすることにつとむるから、人の精神を現在に結合さする、例えば人間を始めから不完全な物と見て人の欠点を評したるものである。
教育と文芸 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小山のかくまでにつとめし甲斐かいありて中川の心も漸く大原に傾けり
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「よくつとめ、よく遊ぶ。休暇中は十分おくつろぎください」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
是れ高峰が情人の手術に就てつとめて冷淡を裝はふの状
泉鏡花作『外科室』 (旧字旧仮名) / 宮崎湖処子(著)
つとめの日にも 嬉戯たわむれ
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
きたり辛苦しんくさこそなるべけれど奉公大切ほうこうだいじつとたまへとおほせられしがみゝのこりてわすられぬなりれほどにおやさしからずばれほどまでにもなげかじとがたきづなつらしとてひとひまには部屋へやのうちにづみぬいづおとらぬ双美人そうびじんしたはるゝうれしかるべきを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しかし私の望むところは、そういう安直な見どころをむしろ故意になくするようにつとめるくらいにしてもらいたいと思うのである。
帝展を見ざるの記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
然れども日に月に日本従来の生活にれ、また機会あるごとにつとめて芝居と接近するに従ひ、漸次に鑑賞と批評との興を催すに至りぬ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかるを勝氏はあらかじめ必敗を期し、その未だ実際に敗れざるに先んじてみずから自家の大権たいけん投棄とうきし、ひたすら平和を買わんとてつとめたる者なれば
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
私は Koeber さんの哲学入門を開いて、初のペエジから字をって訳して聞せた。しかもつとめて仏経の語を用いて訳するようにした。
二人の友 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それ故淫行者は内密に働いても表面はさりげない風をよそおう。特に地位有り、身分ある王公貴人達はつとめて表向にはやらぬ。
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
これすなわち勝氏が特に外交の危機きき云々うんぬん絶叫ぜっきょうして、その声を大にし以て人の視聴しちょう聳動しょうどうせんとつとめたる所以ゆえんに非ざるか、ひそか測量そくりょうするところなれども
大いに同情を寄せられつつ、土倉氏出阪せばわれよりも頼みて御身おんみが東上の意思を貫徹せしめん、幸いに邦家ほうかのため、人道のためにつとめよとの御言葉おんことばなり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)