すぐ)” の例文
いったいひとり荒岩に限らず、国見山でも逆鉾さかほこでもどこか錦絵にしきえの相撲に近い、男ぶりの人にすぐれた相撲はことごとく僕の贔屓ひいきだった。
追憶 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
きょうありて明日、炉に投げ入れらるる野の草をも、神はかく装い給えば、まして汝らをや。汝ら、これよりも遥かにすぐるる者ならずや。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
だから我らは善き能力を得るよう、励み求めねばならない。「汝らすぐれたる賜物を慕え」であります(コリント前書一二の三一)。
彼此かれこれ種々いろ/\すぐれた簡便かんべん方法はうはふかんがへてはたものゝ、たゞ厄介やくかいことにはうしてれを實行じつこうすべきかと名案めいあんたなかつたことです。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「冬の旅」二十四曲は「美しき水車小屋の乙女」以上に歌もすぐれているが、これを歌っているヒュッシュの出来栄できばえはさらにすばらしい。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
すぐれた手腕と人格の持主である博士の生活に、ある新しい刺戟を感じているらしいことは、時々の彼女の口吻くちぶりでも解るのであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
何故なにゆゑ御前様おんまへさまにはやうの善からぬわざよりに択りて、折角の人にすぐれし御身を塵芥ちりあくたの中に御捨おんす被遊候あそばされさふらふや、残念に残念に存上ぞんじあげまゐらせ候。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
と、敬称している三人のすぐれた子があり、ふもとのあちこちには、百戸、二百戸、また六、七百戸といった按配あんばいに、部族部族の村があった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのあいだにもモルガンはおのれよりもすぐれたる重量と力量とに圧倒されんとする、決死の力者りきしゃのごとき姿勢を保ちつつありき。
「葉子さんという人は兄がいうとおりにすぐれた天賦てんぷを持った人のようにも実際思える。しかしあの人はどこか片輪かたわじゃないかい」
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
私よりすぐれてゐるとあなたが主張なさることの出來る根據は、あなたが時や經驗をやくにお立てになつたところにあると思ひます。
現在げんざいわがくににある博物館はくぶつかんはそのすうすくないばかりでなく、殘念ざんねんながら世界せかいしてすぐれた博物館はくぶつかんとはまをすことが出來できません。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
昔の男一匹は動物的に猛勇をふるうを特性としたとはいいながら、なおかつ当時においても女子よりは思慮しりょと判断の力がすぐれていたであろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
他猴と異なり果よりも葉をこのみ、牛羊同然複胃あり。鼻梁びりょうやや人に近く、諸猴にすぐれて相好そうごう美し(ウットの『博物画譜』一)。
今の新体詩を作る者、其志唯人をして之を読ましめて以て其感を起さするに在らば、吾人は寧ろ散文に因て其詩想を発揮するのすぐれるを見る。
詩人論 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
ルイザはクラフト家の人たちのすぐれていることを文句もんくなしにいつもみとめていたから、おっとしゅうと間違まちがっているなどとはゆめにも思っていなかった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
まず高砂族では織物が圧倒的にすぐれている。若し三百年前にこれが日本に渡っていたら、疑いもなくこれは大名物裂おおめいぶつぎれになっているに違いない。
台湾の民芸について (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
大湾おおのたれににえすぐれて多く匂いの深いところ、則重の名作と誰も言ってみたいが、それよりはずんと高尚で且つ古いものじゃ
中国に僧肇そうじょうという若い仏教学者がありました。彼は有名な羅什らじゅう三蔵の門下で、三千の門下生のうちでも、特にすぐれたりっぱな学者でありました。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
いつも口癖のように今の文士にくらべると江戸時代の作者がどれだけすぐれているか知れないと言ったことなどを夢のように思返した事もあった。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼らに比してヨブの妻のすぐれること幾許いくばくぞ。さりながら彼女も遂にサタンのわなに陥り、ヨブは全く孤独の人となった。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
平八郎のあらはした大学刮目だいがくくわつもく訓点くんてんほどこした一にんで、大塩の門人中学力のすぐれた方である。此宇津木が一昨年九州に遊歴して、連れて来た孫弟子がある。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
そしてこの自由律の詩は、後代の定形された韻文に比し、一層より自然的で、かつ音律上の魅力に於てもすぐれている。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
餘命幾何いくばくもなかりしころ、ひてはれて我かの帽を受く、こは傳へらるゝごとにすぐれる惡に移る物 一二四—一二六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ボーイング機が如何に速くともカーチス機が如何にすぐれた性能を持っているにしても、最後の勝利はこっちのものだ
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
新吉原江戸町一丁目玉屋山三郎の方へ申こみ目見めみえを致させけるに容貌かほかたちも十人なみすぐれしかば大いに氣にいりだん/\懸合かけあひすゑねん一ぱい金五十兩と相談を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もっとなかには随分ずいぶん修行しゅぎょうんた、お立派りっぱ方々かたがたもないではありませぬが、しかし、どんなにすぐれていても人霊じんれい矢張やは人霊じんれいだけのことしかできはしませぬ。
奈何いかにといふにサンタもアヌンチヤタが品性の高尚なると才藝の人にすぐれたるとをば一々認むといひたればなり。
学校における成績も中等で、同級生のうち、彼よりもすぐれた少年はいくらもいた。また彼はかなりの腕白者わんぱくもので、僕らといっしょにずいぶんあばれたものである。
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
青木の嫂の康子やすこはひじょうにすぐれて美貌だった。彼女については青木がまだ東京にいた時分よく彼によって語られていたのでおおかたのことを清三はっていた。
須磨寺附近 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
実際この美しい看護婦が器量のすぐれている割合に義務を重んじなかった事は自分達の眼にもよく映った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
雖然お房は、周三が是迄これまで使つたモデルのうちですぐれて美しい………全て肉體美のとゝのつてゐる女である。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
絵の技がすぐれていても、写実であっても、心臓が昂進こうしんするという事は更らになかったようである。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
顔は隔たりてよくも見えねど、細面の色はすぐれて白く、すらりとしたる立姿はさらに見よげなり。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
私は一つのおおかみが他の幸福のために身を犠牲にするのをかつて見ない。われわれは自然に従うべきである。われわれは頂上にいる。すぐれたる哲学を持たなければならない。
容姿ようしすぐれて美しく才気あり万事にさとせいなりければ、誘工ゆうこうの事すべてお政ならでは目がかぬとまでにたたえられ、永年の誘工者、伝告者として衆囚よりうやまかしずかれけるが
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
花村様の受領地の中津の城からも選りに選ったご家来衆がせつけもしよう、これに反して義明公にはこれというすぐれたご家来もなく、たまたまあってもそれらの人は
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ところで、私の考えでは、この百観音の中に、すぐれたものが五、六体ある。それをり出そう。
我がの庭に咲き誇っている菊の中からすぐれた数株を選び取って、それに歌を添えて差上げた。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
兎角すぐれぬ勝の、口小言のみやかましいのへ、信吾は信吾で朝晩の惣菜まで、故障を言ふたちだから、人手の多い家庭うちではあるが、静子は矢張日一日何かしら用に追はれてゐる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
……いつになってもお顔の色は妙にすぐれず、お眼が血走って、いつもイライラなさっていられるのを見ますと、私共は、まだ本当にお加減はよくなっていられないのだなと
幽霊妻 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
と少しあまえて言う。男は年も三十一二、頭髪かみうるしのごとく真黒まっくろにて、いやらしく手を入れ油をつけなどしたるにはあらで、短めにりたるままなるが人にすぐれて見きなり。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一九二八年の真夏、狂詩人が此世このよを去つてしまつた頃から私の健康もとかくすぐれなかつた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
その場合に人を導きまた導かれるということはあり得ない。しかるに学徒は導かれる立場にある。常に己れより高い者すぐれた者に接しなくては、有効に導かれることはできない。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
確かにこれはきよすぐれた魂の声だ、と悟浄は思い、しかし、それにもかかわらず、自分の今えているものが、このような神の声でないことをも、また、感ぜずにはいられなかった。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
この歌もなかなか大きな歌だが、天然現象が、そういう荒々しい強い相として現出しているのを、その儘さながらに表現したのが、写生の極致ともいうべきすぐれた歌を成就じょうじゅしたのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
加うるに釈氏の教をもってす。しかりしかして虫獣木石の魔道、紛然としてその間に雑出す。今日にありてこれを見れば、そのはじめより教なきの簡なるをもってすぐれりとなすものは何ぞや。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
そして、何よりもその女のすぐれたところは、姿の好いことであった。本当の背はそう高くないのに、ちょっと見て高く思われるのは身体からだの形がいかにもすらりとして意気に出来ているからであった。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
近代日本きんだいにほんのこのすぐれた文人ぶんじんふではじめて麻雀マアジヤンのことがかれたといふのは不思議ふしぎ因縁いんねんともふべきで、カフエ・プランタンではじめて麻雀マアジヤンあそんだ人達ひとたち文人ぶんじん畫家ぐわかおほかつたといふのと相俟あひまつて
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
カノコユリは、きわめて華美かびな花が咲く。花色紅赤色こうせきしょくで、濃紅色のうこうしょくの点がある。日本のユリ中、最もすぐれた花色をていしている。このユリは四国、九州には野生があって、いつも断崖だんがいの所に生じている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)