介抱かいほう)” の例文
源太郎の介抱かいほうを馬子に任せておいて、竜之助は立って前後を見る。乗って来た馬は駄馬である、所詮しょせん敵を追うべき物の用には立たぬ。
何故なぜ先生は愛妻愛子愛女の心尽しの介抱かいほうの中に、其一片と雖も先生を吾有わがものと主張し要求し得ぬものはない切っても切れぬ周囲の中に
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
介抱かいほうしてください。それから、書生さんはいそいで電球を。警官おふたりも中にはいって、捜索してください。あとの人は厳重にここを
青銅の魔人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ところが五月に這入つてから頭の工合が相変らず善くないといふ位で毎日諸氏のかはるがはるの介抱かいほうに多少の苦しみはまぎらしとつたが
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
しかこの場を立ち上がって、あの倒れている女学生の所へ行って見るとか、それを介抱かいほうしてるとか云う事は、どうしても遣りたくない。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
けれども六部ろくぶは、あまりはたらいていきれて、気絶きぜつしただけでしたから、みんながこして介抱かいほうすると、たちまちいきかえしました。
しっぺい太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
気に入らぬか知らぬが片栗湯かたくりゆこしらえた、たべて見る気はないかと厚き介抱かいほう有難く、へこたれたる腹におふくろの愛情をのんで知り
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「毎日の御介抱かいほうが、御心配といっしょになってたいへんだったでしょう。今夜だけでもゆっくりとお休みなさい。私がお付きしていますから」
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
木隠龍太郎こがくれりゅうたろうのために、河原かわらへ投げつけられた燕作えんさくは、気をうしなってたおれていたが、ふとだれかに介抱かいほうされて正気しょうきづくと、鳥刺とりさ姿すがたの男が
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのうまりしずめるやら、こうの百しょう介抱かいほうするやら、たいへんでしたが、そののちこうの百しょうは、いつまでもそのうまのためによわらせられました。
駄馬と百姓 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そうしてそのまわりを小屏風こびょうぶで囲んで、五人の御坊主を附き添わせた上に、大広間詰の諸大名が、代る代る来て介抱かいほうした。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
黄いろい幽霊は、次に、ピート一等兵を、介抱かいほうしてやった。ピートは、気がつくと、きょろきょろあたりを見まわしたが
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
弟の介抱かいほうと保養の後に、チャイコフスキーは不思議に明るい「第四交響曲」を書き、「イタリー狂想曲」を書き、「第二ピアノ協奏曲」を書いた。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
それでおれが驚いて、あわててここへかつぎこんで、介抱かいほうしてやったんだ。どうした、どこかからだでも悪いのか。
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
ですがな……どうも、これだけは真面目まじめ介抱かいほうは出来かねます。娘がわずらうのだと、乳母うばが始末をする仕来しきたりになっておりますがね、男のは困りますな。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と今度はご介抱かいほうだ。照彦様は大の字なりに寝たまま、いくらおこしてもおきない。わざと声をたてて泣く。この騒ぎに、照常様がお部屋から出てきて
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
負傷ておいと見ゆるぞ、介抱かいほう致せ! ……武右衛門! 武右衛門! 傷は浅い! しっかり致せ! しっかり致せ!」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そしていっしょうけんめいに介抱かいほうして、ようようのことで再びお生きかえらせになりました。おかあさまは
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
六歳ばかりなるが、いと気の毒がり、女なればとてことに拘留所を設け、其処そこに入れてねんごろに介抱かいほうしくれたり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
悲叫ひきょうとともに、お妙は自害じがいして散ったのだった。壁辰は娘の介抱かいほうもしたいが、刻は移る。そうしてはいられない。待っていた音松も、なみだをかくしてき立てる。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
わたくしおもまくらいて、起居たちい不自由ふじゆうになったといたときに、第一だいいちせつけて、なにくれと介抱かいほうをつくしてくれましたのは矢張やは鎌倉かまくら両親りょうしんでございました。
春枝夫人はるえふじん嬋娟せんけんたる姿すがたたとへば電雷でんらい風雨ふううそら櫻花わうくわ一瓣いちべんのひら/\とふがごとく、一兵いつぺいとききづゝたをれたるを介抱かいほうせんとて、やさしくいだげたる彼女かのぢよゆきかひなには
自分の介抱かいほうを受けた妻や医者や看護婦や若い人達をありがたく思っている。世話をしてくれた朋友ほうゆうやら、見舞に来てくれた誰彼たれかれやらにはあつい感謝の念を抱いている。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
森整調以下、ほとんど失神の状態となり、矢野清舵手は、両手に海水をすくって戦友の背中に浴せ、比較ひかく的元気な松山五番もこれに手伝い、坂本四番の介抱かいほうに努めるなど
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
そして猿爺さんの病気は、猿の介抱かいほうと村人達との世話せわとで、間もなくなおってしまいました。
キンショキショキ (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
母は単純に病気だということに決めてしまって、私のかわった症状しょうじょうに興味を持って介抱かいほうした。
桃のある風景 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
お姉さんは家で皆なに介抱かいほうされて死んだのじゃけれど、勝は他所の土地で一人で死ぬのじゃ
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
羽織はをりたもとどろりてにくかりしを、あはせたる美登利みどりみかねてくれないきぬはんけちを取出とりいだし、これにておきなされと介抱かいほうをなしけるに、友達ともだちなかなる嫉妬やきもちつけて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
情容赦なさけようしゃもなく打ちつづけてから(我慢がまんが出来ますか)と、いって訊いた。男は、顔色もえず(出来ますとも)と、答えると、今度は前よりもほめ感じて、いろいろ介抱かいほうしてくれた。
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
介抱かいほうされてようやく息をふき返しはしたが、もはや、明らかな狂気の徴候ちょうこうを見せて、あらぬ譫言うわごとをしゃべり出した。その言葉も、波斯語ではなくて、みんな埃及語だったということである。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それでも、手前が介抱かいほうしております内にやっとお気がつきになりましたが、……もうまるで、魂がなくなったように、うつけた顔付をなされて、ぽかんと手前の顔を凝視みつめていらっしゃいました。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
「いや、それはきいてあげよう。去年の秋、僕が蕎麦団子そばだんごを食べて、チブスになって、ひどいわずらいをしたときに、あれほど親身の介抱かいほうを受けながら、その恩を何でわすれてしまうもんかね。」
蛙のゴム靴 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
やわらかく贅沢ぜいたくしとねにつつまれて、しんなりとした肉体を横たえ、母親こそとうに世を去ったが、愛娘まなむすめへの愛には目のない、三斎はじめ、老女、女中の、隙間もないいつくしみの介抱かいほうを受けながら、そのくせ
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
生蕃と光一は水を飲ませて介抱かいほうした。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
きかぬ気の爺さんで、死ぬるまでおまえに世話はかけぬと婆さんに云い云いしたが、果して何人の介抱かいほうも待たず立派に一人で往生した。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
稲妻いなずまの如く迅速に飛んで来て魚容の翼をくわえ、さっと引上げて、呉王廟の廊下に、瀕死ひんしの魚容を寝かせ、涙を流しながら甲斐甲斐かいがいしく介抱かいほうした。
竹青 (新字新仮名) / 太宰治(著)
大したきずではないが容体ようだいが思わしくないから、お浜が引続き郁太郎を介抱かいほうしている間に、竜之助は一室に閉籠とじこもったまませき一つしないでいるから
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
どんなに知らぬ人の介抱かいほうを受けてきたのかと思うと恥ずかしく、そしてしまいには今のように蘇生そせいをしてしまったのであると思われるのが残念で
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
さっそく医者いしゃをよんで、関係者かんけいしゃたちは介抱かいほうしましたが、診断しんだん結果けっかは、急性脳溢血きゅうせいのういっけつということがわかって、もはやくだしようがなかったのです。
天女とお化け (新字新仮名) / 小川未明(著)
間もなく、街道の方から、ガヤガヤと人声が聞えて、数名の百姓が駈けつけ、口々に勝手なことをわめきながら、彼を抱き上げて介抱かいほうし始めました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それが困るので甚だ我儘わがままな遣り方ではあるが、左千夫、碧梧桐、虚子、鼠骨そこつなどいう人を急がしい中から煩わして一日代りに介抱かいほうに来てもらう事にした。
病牀苦語 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
お前そんなことも思はねえで、べんべんと支那兵チャンチャン介抱かいほうをして、お礼をもらつて、恥かしくもなく、のんこのしやあで、唯今帰つて来はどういふ了見だ。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
気絶きぜつしたがために、さいわいとあの毒水どくみずまなかった竹童ちくどうは、多少のきずいたみはあったが、やがて真心まごころ介抱かいほうをうけて、かなりしっかりと気がついた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一彦は塩田大尉の手あつい介抱かいほうをうけ、さらに元気になり、そこで一体どうして一彦ひとりが怪塔から抜け出たか、そのあらましを語りだしたのでありました。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
尚、ご老師のご同勢の一人、神保市之丞と申される仁をこれまた偶然の事情によってその行方を知りましたれば、慇懃いんぎんにご介抱かいほう申し上げ連れ参りましてござります。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
國元くにもとからはゝさんをんで此處こゝいゑで二つき介抱かいほうをさせたのだけれど、ひにはなになにやら無我無中むがむちうになつて、おもしてもなさけない、はゞ狂死きようしをしたのだね、わたしれをゆゑ
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「娘のお君は十八、少し淋しいけれど、可愛い娘ですよ、でも、気の変になった母親の介抱かいほうをして、るほどの縁談にも首を縦に振らないのが、あっしに逢いたいというから面白いでしょう」
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
といいながら、そこにたおれているおひめさまをこして、しんせつに介抱かいほうしました。おひめさまがすっかり正気しょうきがついて、がろうとしますと、すそからころころとちいさなつちがころげちました。
一寸法師 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
僕は大急ぎで下におりて、介抱かいほうして見ましたが、最早や蘇生そせいの見込みはありません。考えて見れば可哀相な男です。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おばあさんのおとうさんも、しんせつに介抱かいほうしてやった一人ひとりであります。外国人がいこくじんは、やっと元気げんき回復かいふくしました。
青いランプ (新字新仮名) / 小川未明(著)