今宵こよひ)” の例文
おもふ事なき身もと、すゞろに鼻かみわたされて、日記のうちには今宵こよひのおもふこと種々くさ/″\しるして、やがて哀れしる人にとおもふ。
すゞろごと (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
と云ふ詩なぞをかかげてゐるが、此れ等は何処となく、黙阿弥劇中に散見する台詞せりふ今宵こよひの事を知つたのは、お月様と乃公おればかり。」
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ヂュリ よるといふ假面めんけてゐればこそ、でなくばはづかしさにこのほゝ眞赤まっかにならう、今宵こよひうたことをついおまへかれたゆゑ。
話し御油斷ごゆだんあるべからずと云ふにより又七點頭うなづき今宵こよひもし菊が來たらばわれぢきに取ておさなはを掛くべし其時其方は早々さう/\加賀屋長兵衞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
何の御用と問はれて稍〻、躊躇ためらひしが、『今宵こよひの御宴のはてに春鶯囀を舞はれし女子をなごは、何れ中宮の御内みうちならんと見受けしが、名は何と言はるゝや』
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
 順徳院の御製に(承久のみだれに佐渡へ遷幸の時なり)「みやこをばさすらへいで今宵こよひしもうき身名立なだちの月を見るかな」▲直江津なほえのつ 今の高田の海浜かいひんをいふ。
給仕きふじはおりのこつな一人ひとり引受ひきうけてべんずるのであるが、それにしても、今宵こよひんだかさびぎて、百物語ひやくものがたりといふやうながしてならなかつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
四幕目にキニゼイと云ふ妙な名の若侍が彌五郎の娘である許嫁いひなづけの愛情にほだされて、今宵こよひに迫る仇打かたきうち首途かどでに随分思ひ切つて非武人的に未練な所を見せる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
今宵こよひ来て泊つてゐる赭顔の安中あんなか大佐も、小男の宇都宮中佐も、主人の流義が好いと云ふので、内でも人の処に泊つても、服装一切はそばを離さないのである。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
来月二十六夜ならば、このお光に疾翔大力しっしょうたいりきさまを拝み申すぢゃなれど、今宵こよひとて又拝み申さぬことでない、みなの衆、ようくまごゝろを以て仰ぎ奉るぢゃ。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
今宵こよひしも上野鶯渓うぐいすだになる鍛工かじこう組合事務所の楼上に組合員臨時会開かれんとするなり、寒風はだを裂いて、雪さへチラつく夕暮より集まりたるもの既に三百余名
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
今宵こよひなんぢの霊魂とらるべし、然らば、汝の備へたるものは、誰がものとなるべきぞ……。富岡は、祈つてゐるうちに、こんな言葉を思ひ出した。不吉な気がした。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
ほと/\と板戸をたゝき、「この執念深き奥方、何とて今宵こよひに泣きたまはざる」と打笑うちわらひけるほどこそあれ、生温なまぬるき風一陣吹出で、腰元のたづさへたる手燭てしよくを消したり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
今宵こよひもおなじやうに、しろ窓掛まどかけゆるぐほとりに倚子ゐすならべたとき櫻木大佐さくらぎたいさ眞面目まじめわたくしむかつて。
子供はさう云はれて大きい眼を丸田の方に向けた。しかし実は丸田も此の子供と同じであつた。今宵こよひは彼女といふ人の前に一個の好もしい下宿人であらねばならなかつたから。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
しかしその安らかさも、思ひのほか急に尽きる時が来た。やつと春の返つた或夜、男は姫君と二人になると、「そなたに会ふのも今宵こよひぎりぢや」と、云ひくさうに口を切つた。
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いねけばかが今宵こよひもか殿との稚子わくごりてなげかむ 〔巻十四・三四五九〕 東歌
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
少くとも今宵こよひだけは、私は、自然のお客になれるだらう、私は自然の子だから。お金無しで、報酬無しで、私の母は、私を泊めてくれるだらう。私は、未だ一片のパンを持つてゐた。
近侍きんじのもの。侍「ハアー。殿「今宵こよひは十五るの。侍「御意ぎよい御座ござります。殿 ...
昔の大名の心意気 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
源氏がまた躬恒みつねが「淡路にてあはとはるかに見し月の近き今宵こよひはところがらかも」
源氏物語:18 松風 (新字新仮名) / 紫式部(著)
更に驚くべきはその醜き堆積の中より育て上げられしし今宵こよひの清き華よ。
愛は、力は土より (新字旧仮名) / 中沢臨川(著)
死んでも誰にも祭られず……故郷では影膳かげぜんをすえて待ッている人もあろうに……「ふるさと今宵こよひばかりの命とも知らでや人のわれをまつらむ」……露の底の松虫もろともむなしくうらみにむせんでいる。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
今宵こよひの失策のしめと、独あたまかく/\猶も入り来る人々を眺め居たり。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
四辺あたりはしんとして、しつとりとして、折々何とも形容の出来ない涼しい好い風が、がさ/\と前の玉蜀黍たうもろこしの大きな葉を動かすばかり、いつも聞えるといふ虫の声さへ今宵こよひうしてか音を絶つた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
今宵こよひまくら神にゆづらぬやは手なりたがはせまさじ白百合の夢
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
尾根づたふほそき山火やまびの幾つづりつぎつぎ赤し今宵こよひゆべみ
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
今宵こよひ明日あすとのさかひめに、ひとつはさまるこの時よ……
カンタタ (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
今宵こよひさしぐむ月代つきしろのまみのうるみに
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
あのやうにゆつたりと今宵こよひ一夜ひとよ
曇つた秋 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
雲にただ今宵こよひの月をまかせてむ
生活と一枚の宗教 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
春や今宵こよひ歌つかまつる御姿
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
琴は今宵こよひの土と朽つ。
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
今宵こよひ忍ぶは
のきばすずめ (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
もう今宵こよひおそうござる、むすめりてはまゐるまいぢゃまで。貴下こなたがござったればこそ、さもなくば吾等われらとても、一ときさきに、臥床やすんだでござらう。
物語れば忠八はおどろたんじ此處に夫程御滯留ごたいりう有とも知らず所々方々尋ね廻りしこそ愚なれ併し今宵こよひ此家に泊らずば御目にもかゝらず江戸迄行んものを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
私はもう今宵こよひかぎりどうしても帰る事は致しませぬとて、断つても断てぬ子の可憐かわゆさに、奇麗に言へども詞はふるへぬ。
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
扨も世を無常と觀じては斯かる侘しき住居も、大梵高臺の樂みに換へらるゝものよと思へば、あるじの貴さも彌増いやまして、今宵こよひの我身やゝはづかしく覺ゆ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
 順徳院の御製に(承久のみだれに佐渡へ遷幸の時なり)「みやこをばさすらへいで今宵こよひしもうき身名立なだちの月を見るかな」▲直江津なほえのつ 今の高田の海浜かいひんをいふ。
篠田はつて聖書を読み、祈祷きたうを捧げ、今宵こよひの珍客なる少年少女にむかつて勧話の口を開けり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
かゝるやさしき振舞ふるまひさまたぐるは、こゝろなきわざおもつたから、わたくしわざ其處そこへはかず、すこはなれてたゞ一人ひとり安樂倚子アームチエヤーうへよこたへて、四方よも風景けしき見渡みわたすと、今宵こよひつきあきらかなれば
月天子ぐわってんし山のはをでんとして、光を放ちたまふとき、疾翔大力しっしょうたいりき爾迦夷るかゐ波羅夷はらゐの三尊が、東のそらに出現まします。今宵こよひは月は異なれど、まことの心には又あらはれ給はぬことでない。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
うらみをなさんと一念此身をはなれず今宵こよひかの家にゆかんと思へどあるじつねづね観音を信じ、門戸もんこ二月堂にぐわつだう牛王ごわうを押し置きけるゆゑ、死霊しりやうの近づくことかなはず(中略)牛王をとりのけたまはらば
案頭の書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
良夜れうやとは今宵こよひならむ。今宵は陰暦いんれき七月十五夜なり。月清つきゝよく、かぜすゞし。
良夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
今宵こよひことに月明らかに海原の底のことごとはつきりと見ゆ
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
まくら今宵こよひばかりの露けさを深山みやまこけにくらべざらなん
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
四歳よんさい茂太しげたをつれて大浦おおうらの洋食くひに今宵こよひは来たり
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
水漬みづや、——今宵こよひほし
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
青く沈み今宵こよひの心ぞ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
今宵こよひは昔たえはてし
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
わたしはもう今宵こよひかぎりうしてもかへこといたしませぬとて、つてもてぬ可憐かわゆさに、奇麗きれいへどもことばはふるへぬ。
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)