鳥羽とば)” の例文
苦労の中にもたすくる神の結びたまいし縁なれや嬉しきなさけたねを宿して帯の祝い芽出度めでたくびし眉間みけんたちましわなみたちて騒がしき鳥羽とば伏見ふしみの戦争。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
俊寛は、ふと鳥羽とばで別れるとき、妻の松の前から形見かたみに贈られた素絹しろぎぬの小袖を、今もなおそのままに、持っているのに気がついた。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そこでどこまでもおひめさまのおともをして行くつもりで、まず難波なにわのおとうさんのうちへおれしようとおもって、鳥羽とばからふねりました。
一寸法師 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
されば鳥羽とば伏見ふしみの戦争、ついで官軍の東下のごとき、あたかも攘夷藩じょういはんと攘夷藩との衝突しょうとつにして、たとい徳川がたおれて薩長がこれに代わるも
この時根津ねづ茗荷屋みょうがやという旅店りょてんがあった。その主人稲垣清蔵いながきせいぞう鳥羽とば稲垣家の重臣で、きみいさめてむねさかい、のがれて商人となったのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
直ぐに物産陳列館へ入ったけれど、鳥羽とばの真珠で懲りている団さんは西陣織や友禅染の並べてあるところは成る可く早足で通り
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
多分、鳥羽とば三喜山みきやま海産部で好いと思うが、ま、そう云って問い合して見てくれ給え。そして、大急ぎでそいつを呼び出すんだ
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
土佐とさ御流罪ごるざいの時などは、七条から鳥羽とばまでお輿こしの通るお道筋には、老若男女ろうにゃくなんにょかきをつくって皆泣いてお見送りいたしたほどでございました。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
志州ししゅう鳥羽とばまでは汽車、鳥羽から紀伊きいのK港までは定期船、それから先は所の漁師にでも頼んで渡して貰う外には、便船とてもないのである。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
嘉隆は、伊勢の産だとあり、その一子は、鳥羽とばの城主原監物はらけんもつむこでもあるというので、信長も相当に礼遇れいぐうし、その言にもかなり耳をかたむけた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのとき、角屋金右衛門が彼をひきとって、面倒をみてくれることになった。金右衛門は志摩のくに鳥羽とば港で、回船と海産物の問屋を営んでいる。
扇野 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
おなじ観光都市の鳥羽とばでは、点景になる海女あまのモデル料は、五百円だと聞いている。サト子は、わが身の貫禄を考えあわせて、一時間、三百円ときめた。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
一隅はじには、座蒲団ざぶとんを何枚も折りかさねた側に香立てをえた座禅ざぜん場があります。壁間かべには、鳥羽とば僧正そうじょう漫画まんがを仕立てた長い和装わそうの額が五枚ほどかけ連ねてあります。
鳥羽とばへ遊びに行って、松風村雨まつかぜむらさめ気取りの海女あま姉妹を手に入れ、さんざんもてあそんだ挙句、江戸までいて来られ、一と騒ぎやったとか、——箱根の湯女ゆなに追っかけられて
西暦一一六七年、平清盛たいらのきよもりは、太政大臣を辞し、一僧侶となった。そうして権力を握るにいたった。その権力は十八年間つづいた。清盛は、法皇を鳥羽とば殿に押しこめた。
されば日に増し募る入道が無道の行爲ふるまひ、一朝の怒に其の身を忘れ、小松内府のいさめをも用ひず、恐れ多くも後白河法皇を鳥羽とばの北殿に押籠め奉り、卿相雲客の或は累代の官職をはが
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
今朝鳥羽とばを立つ時、皆春樓かいしゆんろうで紹介状を書いてくれた上野の宿屋へ預けて置いて、單身月ヶ瀬に直行して彼地に泊まり、今宵は梅花はなくとも、十分梅溪の山水に浸らうと思つてゐたのに
伊賀国 (旧字旧仮名) / 近松秋江(著)
一三八治承ちしよう三年の秋、たひらの重盛やまひかかりて世をりぬれば、一三九平相国へいさうこく入道、一四〇君をうらみて一四一鳥羽とば離宮とつみやめたてまつり、かさねて一四二福原のかやの宮にくるしめたてまつる。
右の燒打をはじめとして、翌年正月の鳥羽とば伏見ふしみの戰ひ、其他すべては「文藝倶樂部ぶんげいくらぶ」の臨時増刊、第九年第二號「諸國年中行事」といふうちに、「三十五年前ねんぜん」と題して私は委しく話した事がある。
兵馬倥偬の人 (旧字旧仮名) / 塚原渋柿園塚原蓼洲(著)
伏見ふしみ鳥羽とばの戦いはすでに戦われた。うわさは実にとりどりであった。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
が、そのほかは、北は千本せんぼん、南の鳥羽とば街道のさかいを尽くして、蚊やりの煙のにおいのする、夜色やしょくの底に埋もれながら、河原かわらよもぎの葉を動かす、微風もまるで知らないように、沈々としてふけている。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この山の海のながめにたぐへては屋島やしま鳥羽とばもなほかずけり
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
……私が、な、まだその前に、鳥羽とばくるわに居ました時、……
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
関白基房は、鳥羽とば古川ふるかわのあたりで髪を下して出家した。
おい、僕ですよ、奥さん、鳥羽とばですつたら……。
世帯休業 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
鳥羽とばの近くでございます」
参宮がえり (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
伏見ふしみ鳥羽とばたたかいを以て始まり、東北地方に押し詰められた佐幕の余力よりょくが、春より秋に至る間にようやく衰滅に帰した年である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「はい。古市へ泊って伊勢音頭を見なければ話になりませんからな。あなた方は何うでもやはり鳥羽とばでございますか?」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と、ののしり出した。鳥羽とば九鬼嘉隆くきよしたかも、忘恩の徒である、人でなしであると、家康に、理由を聞かせるのであった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんなふうにして、一月ひとつきもかかって、やっとのことで、京都きょうとちか鳥羽とばというところきました。鳥羽とばふねからきしがると、もうすぐそこは京都きょうとまちでした。
一寸法師 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
御位を堀河ほりかは天皇に譲り給うた後、院庁ゐんのちやうを開いて、おん自から、万機を総攬し給ひ、次の鳥羽とば天皇、崇徳すとく天皇まで御三代の間は、白河上皇の院政が続いたのである。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
その夜、雁屋信助が来て、帰ったあと、ほぼ一ときほど経ったころに、老女の鳥羽とばから使いがあった。
先年鬼界きかいが島の流人るにんたちがきょうは都へ上ると聞いた時、私は夢かとよろこんで取るものもとりあえず鳥羽とばまでまいりましたけれども、康頼殿と成経殿の輿こしは帰ったけれども
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
鳥羽とばの海女が幾度か東京へ来て、浅草公園や上野の博覧会で海中の作業を見せましたが、これは風俗上の問題から中形の浴衣ゆかたか何かを着せて、真当ほんとうの裸体は客に見せませんでしたが
或日、そら長閑のどかに晴れ渡り、ころもを返す風寒からず、秋蝉のつばさあたゝ小春こはるの空に、瀧口そゞろに心浮かれ、常には行かぬかつら鳥羽とばわたり巡錫して、嵯峨とは都を隔てて南北みなみきた深草ふかくさほとりに來にける。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
大地震の区域は伊勢いせの山田辺から志州ししゅう鳥羽とばにまで及んだ。東海道の諸宿でも、出火、つぶなど数えきれないほどで、みや宿しゅくから吉原よしわらの宿までの間に無難なところはわずかに二宿しかなかった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
持同心跪踞ひざまづき居る時に警蹕けいひつの聲ともろともに月番の老中志州ししう鳥羽とばの城主高六萬石從四位侍從松平右近將監しやうげん乘包のりかね殿上座に着座ちやくざあり右の方三でふほど下り若年寄上州館林たてばやしの城主高五萬石從五位に朝散太夫てうさんのたいふ太田備中守源資晴すけはる殿引き續いて寺社奉行丹羽たんば國永井郡園部そのべの領主高二萬六千七百石從五位朝散太夫小出信濃守藤原英貞ふぢはらひでさだ殿大目付には
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
万難を排して、今やこの方面の赤松円心や細川定禅らの西国勢と手をむすび、そして鳥羽とば伏見から羅生門にわたる都門の動脈をやくしてしまったものである。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その主立おもだつたものは鳥羽とばと云ふ女であつたらしい。これは江戸浪人榊田六左衛門重能さかきだろくざゑもんしげよしと云ふものゝむすめで、振姫の侍女から初子の侍女になり、遂に亀千代附になつたのである。
椙原品 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
もうもなく京都きょうとまちちか鳥羽とばというところまでかかりますと、一けんいえで、どこかうちじゅうよそへたびにでも様子ようすで、がやがやさわいでおりました。若者わかものはふとかんがえました。
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
鳥羽とばというのはお部屋さま付きの老女から、若君の抱守だきもりにあがった人ですけれど、その鳥羽とかいう人と、三沢頼母たのもという人、それから仙台の本丸城代、この人の名は忘れましたわ
これはいわゆる城下のちかいであって、これほど大きな恥辱はない、もし万一ますます乱暴をきわめて上京でもする様子があったら弊藩は一同死力を尽くして拒もう、よど鳥羽とばから上は一歩も踏ませまい
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ところが、海口かいこうまで来てみると、嘉隆のひきいる鳥羽とばの水軍は、急に方向をかえて、沖へ走り出している。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのほかに老女の鳥羽とば、里見十左衛門、伊東七十郎という顔ぶれであった。
初め麹町こうじまち八丁目の鳥羽とば藩主稲垣対馬守長和ながかずの邸内にあったのが、中ごろ築地海軍操練所内に移るに及んで、始めて攻玉塾と称し、次でしば神明町しんめいちょう商船黌しょうせんこうと、しば新銭座しんせんざの陸地測量習練所とに分離し
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
また、さきのおととし、鳥羽とばいんと、待賢門院たいけんもんいんさまも、お臨みで、神泉苑しんせんえんの競べ馬に、下毛野しもつけの兼近が、見事な勝をとったのも、たしか、四白の鹿毛かげであったわ
「——かねて、伊賀路から奥大和をこえ、和泉方面までを遊撃して来られた足利又太郎高氏どのの一軍が、昨夕、洛外らくがい鳥羽とばに着いたとのお届け出にござりますので」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここから南へ一里半、幡豆郷はずのごう乙川おとかわ、小宮田、横須賀、鳥羽とば、岡山、相場あいば宮迫みやはざまの七村は、足利氏の昔から吉良氏の領地じゃ——知らぬようだから教えておいてやろう。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宇治や鳥羽とばの川舟が一切止まったとかで、いちに着く荷が、その夕は入って来ない。
この界隈かいわいの野伏をかたらって、乱波組らっぱぐみ(第五列)をつくり、放火とともに、敵の中へみ入るのを妙としていた男だが、この朝も、狐河きつねがわから鳥羽とばへのあいだで、ふと目ざましい大将姿が六
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)