“長火鉢:ながひばち” の例文
“長火鉢:ながひばち”を含む作品の著者(上位)作品数
夏目漱石10
田中貢太郎7
野村胡堂6
徳田秋声5
永井荷風5
“長火鉢:ながひばち”を含む作品のジャンル比率
文学 > 日本文学 > 小説 物語1.6%
文学 > 日本文学 > 評論 エッセイ 随筆0.2%
(注)比率=対象の語句にふりがなが振られている作品数÷各ジャンルの合計の作品数
しかし僕ごときものでも長火鉢ながひばちはたで起るこんな戦術よりはもう少し高尚な問題に頭を使い得るつもりでいる。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
——ある日の午後、「てつ」は長火鉢ながひばち頬杖ほほづえをつき、半睡半醒はんすいはんせいの境にさまよっていた。
追憶 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お樂は何時の間にやら長火鉢ながひばちの向う側から、此方側へすべつて、平次の身體にもたれるやうにして居るのでした。
長火鉢ながひばちの前には、例によって厚いメリンスの座蒲団ざぶとんが、彼の帰りを待ち受けるごとくに敷かれてあった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
次郎のちいさな時分には、かつみさんも母さんのところへよく遊びに来て、長火鉢ながひばちのそばで話し込んだものである。
分配 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこには銅壺どうこえた長火鉢ながひばちがあって、これまでついぞ見たことのない小女こむすめが坐っていた。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
胡麻塩の男はそこの主翁ていしゅで、一人は隣家の男であった。主翁は火のない長火鉢ながひばちの傍で小さな声で云った。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
長火鉢ながひばちを間に置いて岸本とむかい合った嫂の視線はまた、娘のさかりらしく成人した節子の方へよく向いた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
他の女が占めているその部屋へ入って、長火鉢ながひばちの傍へ坐ってみても、なつかしいような気もしないのに失望した。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
長火鉢ながひばちのまえにどっかりあぐらをかいて、かつおのはしりか何かでのんびりとさかずきを手にしている。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
宮は今外出せんとする夫の寒凌さむさしのぎに葡萄酒ぶどうしゆ飲むしばら長火鉢ながひばちの前にかしづくなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それだけならまだ好いが、彼は長火鉢ながひばちの前へすわったまま、しきりに仮色こわいろつかい出した。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると長火鉢ながひばちわきに坐っている彼女の前に、いつの間にか取り拡げられた美くしい帯と着物の色がたちまち彼の眼に映った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
過去った日を思わせるような、こういう住居すまいに不似合なほど大きい長火鉢ながひばちの側で、女同志は話した。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それはとにかく、この振り出し薬の香をかぐと昔の郷里の家の長火鉢ながひばちの引き出しが忽然こつぜんとして記憶の水準面に出現する。
藤棚の陰から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼らが長火鉢ながひばちの前で差向いにすわり合う夜寒よさむの宵などには、健三によくこんな質問を掛けた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこは長火鉢ながひばちなぞの置いてある下座敷で、二階にある岸本の書斎の丁度階下したに当っていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
まず第一には、御店おたなめた酒と、長火鉢ながひばちわきでぐびぐびやった酒とは、この番頭にとって同じ経験であります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
父親 どういたしまして。これから洋服をぬいで、そこの長火鉢ながひばちの前で御馳走になるてえ順序でござんす。
新学期行進曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
格子戸こうしど小庭こにわ欞子窓れんじまどよりまくら屏風びょうぶ長火鉢ながひばち箱梯子はこばしごかまど等に至るまで
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
老主人はこれもいつもの通り長火鉢ながひばちの側に箱膳はこぜんを据ゑて小量な晩酌ばんしやくを始めてゐた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
などと——どうせ奧へは通さない氣でせう。うすよごれた座布團をたゝいて、長火鉢ながひばちの前に席を作ります。
立って次の間へ這入はいる。小さな長火鉢ながひばち平鍋ひらなべがかかって、白い豆腐が煙りをいて、ぷるぷるふるえている。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それに金ぴかの仏壇、けやき如輪目じょりんもくの大きな長火鉢ながひばち、二さお箪笥たんすなど調度も調ととのっていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
突然、順一は長火鉢ながひばちの側にあったネーブルの皮をつかむと、向うの壁へピシャリとげつけた。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
その時柴野は隊から帰って来た身体を大きくして、長火鉢ながひばち猫板ねこいたの上にある洋盃コップから冷酒ひやざけをぐいぐい飲んだ。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小六が帰りがけに茶の間をのぞいたら、御米は何にもしずに、長火鉢ながひばちりかかっていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うちは小形の長火鉢ながひばち手取形てとりがた鉄瓶てつびんたぎらして前にはしぼ羽二重はぶたえ座布団ざぶとんを敷く。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「……」長造は、無言で長火鉢ながひばちの前に胡座あぐらをかいた「おや、ミツ坊が来ているらしいね」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と飛びこんで来たけたたましい与吉の声に、長火鉢ながひばちの向うからお藤は物憂ものうい眉をあげた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
三畳の方は茶の間になツてゐて、此處には長火鉢ながひばちゑてあれば、小さなねずみいらずと安物やすもの茶棚ちやだなも並べてある。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
勝手の間に通ってみると、母は長火鉢ながひばちの向うに坐っていて、可怕こわい顔して自分を迎えた。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
すすけた塗り箪笥だんす長火鉢ながひばち膳椀ぜんわんのようなものまで金に替えて、それをそっくり父親が縫立ての胴巻きにしまい込んだ。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
おひろの家へ行ってみると、久しく見なかったおひろの姉のお絹が、上方かみがた風の長火鉢ながひばちの傍にいて、薄暗いなかにほの白いその顔が見えた。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
細君さいくんの体はよろよろとなって長火鉢ながひばちねずみいらずとの間へ往って倒れた。
一握の髪の毛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その次の長火鉢ながひばちの置いてある部屋は勝手に続いて、そこにはあによめのお倉と二十はたちばかりに成る下女とが出たり入ったりして働いている。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と、そこの茶の間の古い長火鉢ながひばちの傍には、見たところ六十五、六の品の好い小綺麗こぎれいな老婦人が静かに坐って煙草たばこっていた。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
女房はもう黒いうわっぱりを着て、長火鉢ながひばちには鉄瓶てつびんをたぎらしてあった。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
越後屋佐吉えちごやさきちは、女房のおいちと差し向いで、長火鉢ながひばちに顔をほてらせながら、二三本あけましたが、寒さのせいか一向発しません。
とほざくようにいって、長火鉢ながひばちの向かい座にどっかとあぐらをかいた。ついて来た女将おかみは立ったまましばらく二人ふたりを見くらべていたが、
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そちらには長火鉢ながひばちも置いてあり、浅見と朱で書いた葛籠つゞらも備はつてゐるやうな訳で、いろ/\よく出来てゐると思つて感心したくらゐなんだから
椎の若葉 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
木理もくめうるわしき槻胴けやきどう、縁にはわざと赤樫あかがしを用いたる岩畳作りの長火鉢ながひばちむかいて話しがたきもなくただ一人
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
三上が、のっそりはいったのを見たおばさんは、長火鉢ながひばちの前に吸いかけの長煙管ながぎせるを置いて、くるりと入り口の方を振りかえって、そういった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
この兄が三吉の部屋へ通った。丁度、娘達は家に居なかった。三吉は長火鉢ながひばちの置いてあるところへ行って、自分で茶を入れた。それを兄の前へ持って来た。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
さすがにお鶴はそれを見かねた。お鶴はお杉の右横の長火鉢ながひばちの傍で飯を喫っていた。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そういいながら女将おかみ長火鉢ながひばちの置いてある六畳のへと案内した。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
上がり口の四畳半が玄関なり茶の間なり長火鉢ながひばちこれに伴なう一式が並べてある。
二老人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
自分は音を立てぬようにその枕元を歩いて、長火鉢ながひばちの上なる豆洋燈を取上げた。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「相変らず精が出ますね」と云ったなり、長火鉢ながひばちの前へ胡坐あぐらをかいた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
頭の中に籠ツてゐた夜の温籠ぬくもりを、すツかり清水せいすいまして了ツた、さて長火鉢ながひばちの前にすはると、恰で生まれ變ツたやうな心地だ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
うむ、彼方あつちに支度がしてあるから、来たら言ひに来る? それは善い、西洋室の寄鍋なんかは風流でない、あれは長火鉢ながひばち相対さしむかひに限るんさ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ぢぶきなり、ひと長火鉢ながひばちを、れはとまたふ。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
此方こつちへおよんなさい。寒いから。」と母親のおとよ長火鉢ながひばち鉄瓶てつびんおろして茶を入れながら、「いつおひろめしたんだえ。」
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
芸者が座敷より帰つて来る刻限を計り御神燈ごじんとう火影ほかげ格子戸こうしどの外より声をかけ、長火鉢ながひばちの向へ坐つて一杯やるを無上の楽しみとす。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
その時奥さんは長火鉢ながひばち向側むこうがわから給仕をしてくれたのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
四畳半には長火鉢ながひばち箪笥たんす二棹ふたさおと机とが置いてある。
深川の散歩 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
大きな如輪じょりん長火鉢ながひばちそばにはきまって猫が寝ている。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
平次は自分の耳を疑ふやうな調子で、長火鉢ながひばちに埋めた顏をあげました。
とお父さんは長火鉢ながひばちの前に羽織袴はおりはかまのまま坐りこんで、
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
茶の間には綺麗きれい長火鉢ながひばち鉄瓶てつびんが鳴っていた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二階の室には客が長火鉢ながひばちによりかかって煙草をんでいた。
料理番と婢の姿 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
平次はツイ、長火鉢ながひばちの向うから聲をかけました。入口の障子を開けると、家中が見通し、女房のお靜が、お勝手で切つて居る、澤庵たくあんの數までが讀めやうといふ家居です。
小さい長火鉢ながひばちを買つたのもやはり僕の結婚した時である。
身のまはり (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
従姉妹いとこ長火鉢ながひばちの側に俯向うつむいている。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
次の間の長火鉢ながひばちのところにいる母親にも聞えるように
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
赤い手絡てがらのおはなは、例の茶の間の長火鉢ながひばちもたれて、チャンと用意の出来たお膳の前に、クツクツ笑いながら(何てお花はよく笑う女だ)ポッツリと坐っていることであろう。
接吻 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
長火鉢ながひばちの前に煙草タバコみゐるおかみ暇乞いとまごいして帰らんとする、代地に名うての待合まちあい朝倉あさくらの戸口を開けて、つと入り来るは四十近いでつぷり太つた男
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
三四郎は長火鉢ながひばちの前へすわった。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
次の間の長火鉢ながひばちかんをしながら吉里へ声をかけたのは、小万と呼び当楼ここのお職女郎。娼妓おいらんじみないでどこにか品格ひんもあり、吉里には二三歳ふたつみッつ年増としまである。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
銀子の出たのは、藤本ふじもとという、土地では看板の古い家で、通りから少し入り込んだ路次の一軒建てであったが、下の広々した玄関の上がり口の奥に、十畳の部屋があり、簿記台や長火鉢ながひばち、電話も廊下につけてあり
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
だが、翌る日は、遅い風呂から戻ると、もう必死な目的であるように、化粧をらして、座敷着の帯つきを気にして、茶屋のかかるのを、長火鉢ながひばちのそばで、朱羅宇しゅらうを置いたり捨てたりして、待ち焦がれている。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(前略)長火鉢ながひばちへだてて、老母は瀬戸の置き物のように綺麗きれいに、ちんまり坐って、伏目がち、やがて物語ることには、──あれは、わたくしの一人息子で、あんな化け物みたいな男ですが、でも、わたくしは信じている。
十五年間 (新字新仮名) / 太宰治(著)
すぐ起きて下へ降りると、銀杏返いちょうがえしの上へ白地の手拭てぬぐいかぶって、長火鉢ながひばちの灰をふるっていたさくが、おやもう御目覚おめざめでと云いながら、すぐ顔を洗う道具を風呂場へ並べてくれた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いやなものがね」女房は恐そうな顔をして長火鉢ながひばち食卓ちゃぶだいの間を通り、主翁のいであった蒲団ふとんを直して行火あんかに入りながら、「見たのですよ、ただ人の噂だと思っていたが、ほんとに見たのですよ」
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
お国風の懐石料理をいくらか心得ていた姉は、大鍋おおなべにうんと拵えた三平汁を見ると、持前の鋭い目をぎろつかせたものだったが、そうした場合に限らず、長火鉢ながひばちの傍に頑張っている姉の目の先きで、子供たちと一緒に食卓に坐るのは、葉子には堪えられないことだった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
政雄はもうあとを閉めて室の中に入り、老人の左側に寝ている老婆の枕頭まくらもとになった長火鉢ながひばちの傍へ往って坐ったが、じぶんの傍に何物かが来ているかのようにきょときょとと身の周囲まわりに眼をやったのちに、室の中をまたきょときょとと見まわした。
女の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
父親は雨で汚れた靴の始末をして了うと、やれやれという恰好で四畳半の貧弱な長火鉢ながひばちの前に坐って、濡れた紺の詰襟つめえり上衣うわぎを脱いで、クレップシャツ一枚になり、ズボンのポケットから取出した、真鍮しんちゅうのなたまめ煙管ぎせるで、まず一服するのであった。
夢遊病者の死 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
お妾は抜衣紋ぬきえもんにした襟頸えりくびばかり驚くほど真白に塗りたて、浅黒い顔をば拭き込んだ煤竹すすだけのようにひからせ、銀杏返いちょうがえしの両鬢りょうびん毛筋棒けすじを挿込んだままで、ぐと長火鉢ながひばちの向うに据えた朱の溜塗ためぬりの鏡台の前に坐った。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おばさんの家は狭かったが、格子戸こうしどを開けて入ったすぐ横の三畳が茶の間になっていて、そこの長火鉢ながひばちの前でおばさんはいつも手内職をしているきりなので、弘は奥の八畳の間を一人で占領して、茶ぶ台を机の代りにして、その上で夢中になって帳面に何やら円だの線だのばかりを描いている。
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
その夜八時過ぎでもあろうか、雨はしとしと降っている、踏切の八百屋やおやでは早く店をしまい、主人あるじ長火鉢ながひばちの前で大あぐらをかいて、いつもの四合の薬をぐびりぐびりっている、女房はその手つきを見ている、娘のお菊はそばで針仕事をしながら時々頭を上げて店の戸の方を見る。
郊外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
第三人目は、お藏前の飮屋の看板娘おさん、これは錢湯の歸り、露地の入口で銀簪に眼を刺され、第四人目は駒形の小間物屋の若女房お國、所用で出かけた夫の歸りを待ち乍ら、店を早仕舞にして奧へ入つたばかりのところを、これも右の眼を銀簪で刺されて、長火鉢ながひばちの側に無慙な死體を横たへて居たのです。