くさり)” の例文
「なにが、無態だ。なんじらの馬鹿げた迷妄を、の勇をもって、ましてくるるのがなんで無態か。鍛冶かじを呼んで、くさりを切らせろ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それはない。おれたちは、この円筒のなかにはいったきりで、外へ出ようにもくさりでつながれているから、出られやしないじゃないか」
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
というような口合くちあいに近いものを除いては、他の大部分はすべて想像のくさりもしくは感動のメロディとも名づくべきものにさしかえた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
××の鎮海湾ちんかいわん碇泊ていはくしたのち煙突えんとつ掃除そうじにはいった機関兵は偶然この下士を発見した。彼は煙突の中に垂れた一すじのくさり縊死いししていた。
三つの窓 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
女はうなじに懸けたるきんくさりを解いて男に与えて「ただつか垣間かいま見んとの願なり。女人にょにんの頼み引き受けぬ君はつれなし」と云う。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「いえいえ、」ととりった。「ただじゃア、二は、うたいません。それとも、その黄金きんくさりくださるなら、もう一うたいましょう。」
やがて、船は目的の個所に近づき、ガラガラという、舵器だきくさりの音がして、方向を換え始め、同時に速度も鈍くなって来ました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこで、巨男おおおとこはふたたび南方へ旅立ちました。長いくさりをひきずって、白鳥をつれ、巨男おおおとこは広い広い沙漠さばくをくる日もくる日も歩いていきました。
巨男の話 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
座頭ざとうまをすやう、吾等われら去年いぬるとしおとにきゝし信濃しなのなる木曾きそ掛橋かけはしとほまをすに、橋杭はしぐひまをさず、たによりたに掛渡かけわたしのてつくさりにてつな申候まをしさふらふ
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
老嬢ベシイ・コンスタンス・アニイ・マンディは、ついに聖なるくさりによってヘンリイ・ウイリアムズに継ながれたのである。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
そのかげから、突如、躍り出た二、三人の人! はッとして見るとくさり入りの鉢巻に白木綿の手襷てだすき、足ごしらえも厳重な捕物の役人ではないか。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それは天井から太いくさりで吊つた臺で、一間四方ほどの眞ん中に、床几を据ゑてあるのが、妙に平次の好奇心をそゝります。
だが飢える日がくさりのように続いた。もうこまめな与一も日記をほうりっぱなしにして薄く埃をためておく事が多くなった。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
その以来、龍の再び抜け出さないように、鉄のくさりをもって繋いで置くことにした。旱魃かんばつのときに雨を祈れば、かならず奇特きどくがあると伝えられている。
證明書しようめいしよとか、寄留屆きりうとゞけとか、入院料にふゐんれうとか、さうしたくさりかれてゐることを、彼女かのぢよすこしもらなかつたのである。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
くわうるに海が最も深いからドウも錨を上げるいとまがないと云うので、錨のくさりきって夫れから運動するようになった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
あるいは三角形、或いは四辺形、あるいはいなずまくさりの形、さまざまにならんで、野原いっぱい光っているのでした。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
贅沢なものらしい黒茶色の毛皮の外套がいとうを着て、その間から揺らめく白金色プラチナいろの逞ましい時計のくさりの前に、細長い、蒼白あおじろい、毛ムクジャラの指をみ合わせつつ
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
高城が二人に共通した罪悪感で彼に寄り添おうとしているのが、彼にはただくさりのように重苦しかったのだ。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
彼女の家にやってくる男という男は、みんな彼女にのぼせあがっていたし、彼女の方では、それをみんなくさりにつないで、自分の足もとにっていたわけなのだ。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
それが官位の棒で押へられ、黄金かねくさりしばられて、恐ろしい一夜を過ごした後は、泣いてもワメいても最早もう取り返へしは付かず、女性をんな霊魂たましひを引ツ裂れた自暴女あばずれもの
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
平吉はさっきから人待顔にすぐ前に下っていた太いくさりの先のかぎに軽く右足をかけて鎖に全身をたくした。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
連山の頂は白銀のくさりのような雪がしだいに遠く北に走って、終は暗憺あんたんたる雲のうちに没してしまう。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
家の者もやはりそういって珏に冗談をいったが、後になってその鸚鵡はくさりってげていった。玉も珏も始めて阿英が旧約があるといった言葉の意味を悟ることができた。
阿英 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
自分の手足をくさりでしばって、ぐいぐいしつけ、生きる邪魔をしている或る力の正体だ。
ねむい (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
その、しばらくくさりでつないであったが、またこのごろは、はなしておくようであります。
風雨の晩の小僧さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
Z伯爵はともかくもその囚人たちのくさりをはずさせて、みな別べつの牢獄へ入れさせた。
そして六にんかたなをぬいて、酒呑童子しゅてんどうじている座敷ざしきにとびこみますと、酒呑童子しゅてんどうじはまるで手足を四方しほうからてつくさりでかたくつながれているように、いくじなく寝込ねこんでいました。
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
隣字の人に頼んで、二子在の犬好きの家へ世話してもらうつもりで、一先ず其家に繋いで置いてもらうと、長いくさりを引きずりながら帰って来た。詮方せんかたなくて今は其まゝにしてある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
おお何というみごとさ! ギイギイとくさりきしる音してさながら大濤おおなみの揺れるように揺れているその上を、彼女は自在に、ツツツ、ツツツとすり足して、腰と両手に調子を取りながら
遊動円木 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
その刀は縁頭ふちがしらが鉄のくさりで、そこに「田中新兵衛」と持主の名前が明瞭にきざんであった。中身は主水正正清もんどのしょうまさきよこしらえはすべて薩州風、落ちていた鞘までが薩摩出来に違いないのであった。
しか此時このときあいちやんはおどろくまいことか、公爵夫人こうしやくふじんそのきな「徳義とくぎ」と言葉ことばひさしてこゑせ、あいちやんのかひなくさりのやうにむすびついてたそのかひなふるしたのですもの。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
今日は客でもあったものと見え、時ならず倉の戸の開閉あけたてが強い。重い大戸のあけたては、冴えた夜空に鳴り響く。車井戸のくさりの音や物を投出す音が、ぐゎんぐゎんと空気に響くのである。
新万葉物語 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
んでしいとはおもへども、小鳥ことりあしに、氣儘少女きまゝむすめが、囚人めしうどくさりのやうにいとけて、ちょとはなしては引戻ひきもどし、またばしては引戻ひきもどすがやうに、おまへなしたうもあるが、しうもある。
私は黄金きんの時計のくさりをかけてゐた。私は答へて「さうですよ。」と云つた。
ようよう物語と同じように節を附けた告別のことばが、秋水の口から出た。前列の中央に胡坐あぐらをかいていた畑を始として、一同拍手した。私はこの時くさりを断たれた囚人の歓喜を以て、共に拍手した。
余興 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
と、同時に女の腕にくさりで附けてあった袋が謙作の手に移った。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
祖宗歴代のくさりは、落ち著いた己の目を、10955
くさりはながく苦をつづり、薄暗にたれさがる鎖
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
くさりのむせび、帆のうなり、伝馬てんまのさけび
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「見たまえ、くさりが見えるじゃないか」
ほそ糸ほのかに水底みぞこくさりひける。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
黄金こがね耀かがやかしなば、そのくさり
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
あんよのくさり
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
女とちぎれば、くさりができる。周囲のきずなや、子も出来る。それらの者を養うためには、職を持って、心ならぬ権門へも付かねばならぬ。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うたってしまうと、とりはまたんできました。みぎあしにはくさりち、ひだりつめくつって、水車小舎すいしゃごやほうんできました。
「わしはくさりで縛られた人間が見たいと思ふのだが、氣の毒でも暫くの間、わしのする通りになつてゐてはくれまいか。」
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そしてその上には、うすく浮彫うきぼりになって、横を向いた人の顔がりつけてあり、そのまわりには、くさりいかりがついていた。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
猿に対して勿体ないのではない、教師に対して勿体ないのである。しかしよく似ているから仕方がない、御承知の通り奥山の猿はくさりつながれている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ではいってきます。」と巨男おおおとこはいって、やはり白鳥をつれ、南の方へ旅立ちました。巨男おおおとこの進むにつれて、宮殿きゅうでんにたまっていたくさりが少なくなりました。
巨男の話 (新字新仮名) / 新美南吉(著)