つめ)” の例文
東京天王寺てんのうじにて菊の花片手に墓参りせし艶女えんじょ、一週間思いつめしがこれその指つきを吉祥菓きっしょうかもたたも鬼子母神きしぼじんに写してはと工夫せしなり。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
せんつめて来ますと、どこに一つ二郎君を疑う理由も見出せないのです。如何でしょう、これでも二郎君が殺人犯人でしょうか
火縄銃 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これより先、猿橋の西のつめの茶屋の二階で郡内織の褞袍どてらを着て、長脇差を傍に引きつけて酒を飲んでいた一人の男がありました。
また歩かせられることかと、竹丸は稍拗ねかけて見たが、千代松は直ぐ其處の橋のつめから、今度は値切りもせずに合乘りの人力車じんりきを呼んだ。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
殘念ざんねんに存じいかりの餘り打捨うちすてんと思ひつめたる事由迄ことがらまで委細ゐさいに申立たり又久兵衞は己れが惡巧わるだくみを押隱おしかく是非々々ぜひ/\百兩の云懸いひがかりを通して文右衞門を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
痴川は如何にも自分は真実を吐露とろすといわんばかりに、あたかも何か怒るような突きつめた顔でどもりがちの早口で呟いていたが、急に言葉を切った。
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
それは昂奮の絶頂まで昇りつめていた私の感情を、一時に縮み込ませてしまった程恐ろしい、鬼のような形相であった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それまでは、あるいは義貞もまだ“つめ大事だいじ”に迷うところもあったであろう。が、詰手は幾つもあるものではない。徐々じょじょかんか、電撃の急かである。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
春信はるのぶの、いささか当惑とうわくした視線しせんは、そのまま障子しょうじほうへおせんをってったが、やがてつめられたおせんの姿すがたが、障子しょうじきわにうずくまるのをると
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
世の文学者なる者、自らは空言に非ずと信じて書くことにても、思想錯雑して前後衝突し論理的に之をせんつめれば結局空論に化して自らも之を驚く者あり。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
つめには寛永錢が二三百枚、その眞ん中に、油紙に包んだ遺言状が一通、さして傷みもせずに交つて居ります。
こはかねてわがよしと思いつめたるひなのおもかげによく似たれば貴き人ぞと見き。年は姉上よりたけたまえり。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
執着深き者共は、やにをほそき竹きせるにつめ、紙帳を釣り、其内にて密々呑為申者共も、方々為有之由候。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
表側は、玄関から次のを経て、右に突き当たる西のつめが一番好い座敷で、床の間が附いている。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
代助は固よりんな哲理フヒロソフヒーあによめに向つて講釈する気はない。が、段々押しつめられると、苦しまぎれに
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
若い内はとかく何事も一図いちずに物を思いつめる癖があってそれがために往々正当な判断力を失う。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
まッ先にせて、語り手は亡夫の心情にせつない身悶えを覚えるのであった。この胸のいたむ感情の頂きに立つと、周囲のものは当然自分と同じ気持でなければならぬと思いつめるのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
麻緒あさお足駄あしだの歯をよじって、憎々にくにくしげにふり返りますと、まるで法論でもしかけそうな勢いで、『それとも竜が天上すると申す、しかとした証拠がござるかな。』と問いつめるのでございます。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼は先の程より台所につめきりて、中入なかいりの食物の指図さしづなどしてゐたるなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
併し岩や恋は思案のほかという諺もあって、是ばかりは解りませんよ、そんならばうちにいて気振けぶりでも有りそうなものだったが、少しも気振を見せない、もっとしゅう家来だから気をつめるところもあり
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
蟻群の甘きにつくがごとく、投網とあみの口をしめるように、手に手に銀磨き自慢の十手をひらめかして、つめるかと見れば浮き立ち、退しりぞくと思わせてつけ入り……朱総しゅぶさ紫総しぶさときならぬ花と咲かせて。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
奧のつめなる室には、少年紳士等打寄りて撞球戲たまつきをなせり。婦人も幾人いくたりか立ちまじりたるに、紳士中には上衣を脱ぎたるあり。われは初め此社會の風儀のかくまで亂れたるをば想ひはからざりしなり。
一人の顔の赤い体格たいかくのいいこんつめえりをたほうの役人がいました。
二人の役人 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
つめいよよ張りて堪へたる右手めてひぢ矢頃はよろしひようとはなしつ
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
だが、この警官達のつめかけている部屋の、どこに犯人がいるのだろう。隠れる様な場所のないことは、さい前からの調査で、充分解っているのだ。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
御用部屋、ひかえ部屋、書院、つめ、奥、お表、どんな所にも、冬は火の気があったし、大きなも切ってあった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ええ、何を愚図ぐず々々、もうお前様方めえさまがたのように思いつめりゃ、これ、人一人殺されねえことあねえはずだ。吾、はあ、自分で腹あ突いちゃあ、旦那様に済まねえだ。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
西のつめから幔幕をくぐって場へ出て見ると、もはやいずれの席もギッシリ剣士が詰め切って、衣紋えもんの折目を正し、口を結び目をえて物厳ものおごそかに控えております。
うつし願は輕羅うすものと成て君が細腰こしにまつはりたしなどと凝塊こりかたまり養父五兵衞が病氣にて見世へいでぬを幸ひに若い者等をだましては日毎ひごと夜毎に通ひつめ邂逅たまさかうちねるには外を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
何かの宣告のような……地獄のおとづれのような……この世のおわりのような……自分の心臓に直接に触れるようなそのノックの音を睨みつめ聾唖者おしのように藻掻もがおののいた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
こちらは西のつめが小さいになっている。その次がや広い。この二間が表側の床の間のある座敷の裏になっている。表側の次の間と玄関との裏が、半ば土間になっている台所である。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
定めしおれの所業しわざをば不審もして居たろうがまあ聞け、手前の母に別れてから二三日の間実は張りつめた心も恋にはゆるんで、夜深よふかに一人月をながめては人しらぬ露せまそでにあまる陣頭のさびしさ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
が、本屋の店先で私の耳に「それだ。それだ。」と囁いた何物かは、その度にまた嘲笑あざわらって、「では何故なぜお前は妻を殺した事を口外する事が出来なかったのだ。」と、問いつめるのでございます。
疑惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
つめかけました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そういたしますると、東のつめで、山に近い対孝館あたりが、右の徳利一件で、地震の源かとも思われまする。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つめ聞居きゝゐたり斯くとも知らず元來もとよりお菊はおろかなれば小袖金子を見てたちま心迷こゝろまよひ何の思慮しりよもなく承知をぞなしたりける又長助はとくと樣子を聞濟きゝすまし早々又七に右の事故ことがら
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一面から見れば日本の文化程度は、形而上だけでも婦人の貞操に就いて進歩している、純愛の原則に合致し得る迄に突きつめられ、理想化されていると云ってよろしいでしょう。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
にじり足につめあひ候ふて、たがひに声ばかり数十度も交し、やがては、押太鼓も耳には聞えず、わが声も人のもわかたず、眼くらみ、槍もつ手はこはばり、身心地も候はず、一瞬
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
竹藪の奥のつめまで来た。ここからは障子をはづしてある八畳の間が見える。ランプの光は、裏の畠のさかひになつてゐる、臭橘からたちの垣を照して、くもに溜まつた雨のしづくがぴかぴかと光つてゐる。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
呼び上げられて東のつめから、幔幕をかき上げて姿を現わした机竜之助は、黒羽二重くろはぶたえ九曜くようの定紋ついた小袖に、鞣皮なめしがわの襷、仙台平せんだいひらの袴を穿いて、寸尺も文之丞と同じことなる木刀を携えて進み出る。
こはかねてわがよしと思ひつめたるひなのおもかげによく似たればとうとき人ぞと見き。年は姉上よりたけたまへり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
相伴しょうばんには、丹羽にわ五郎左衛門と長谷川はせがわ丹波守。それに、医師の道三どうさんがおつめという顔ぶれ。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
如何なる名目の下に斯様かような棺桶につめて、この部屋へ運び込ませたものか……のみならずその奇怪な少女の仮死体を、こうしてタッタ一人で極秘密裡にいじくりまわしているというのは
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
竜之助が万年橋のつめのところまで来かかると、ふと摺違すれちがったのが六郷下ろくごうくだりの筏師いかだしとも見える、旅のよそおいをした男で、振分けの荷を肩に、何か鼻歌をうたいながらやって来ましたが、竜之助の姿を見て
それからびくに入れてある、あのしめじたけが釣った、沙魚はぜをぶちまけて、散々さんざ悪巫山戯わるふざけをした挙句が、橋のつめの浮世床のおじさんにつかまって、額の毛を真四角まっしかくはさまれた
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
階下のかわやへ降りてゆく。——と、すぐつめの者が紙燭ししょくを掲げて板縁にひざまずいた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はしつめに、——丹後行たんごゆき舞鶴行まひづるゆき——すみ江丸えまる濱鶴丸はまづるまる大看板おほかんばんげたのは舟宿ふなやどである。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
何しろ古い様式の建物で、中のおく、北の屋、東の屋、と棟もべつに、中庭から橋廊下はしろうかをへだてているので、これ以上なことがあっても、滅多に客間やつめ侍の部屋までは分るはずがない。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はしつめ浮世床うきよどこのおぢさんにつかまつて、ひたひ真四角まつしかくはさまれた、それで堪忍かんにんをして追放おつぱなしたんださうなのに、けてると、また平時いつもところ棒杭ぼうぐひにちやんとゆわへてあツた。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「よしよし。おことたちも、早寝せよ。——つめの者にもそう申せ」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)