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覆
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おお
ふりがな文庫
“
覆
(
おお
)” の例文
蛆
(
うじ
)
がわくように、いつのまにやら、誰が言い出したともなく、もくもく
湧
(
わ
)
いて出て、全世界を
覆
(
おお
)
い、世界を気まずいものにしました。
斜陽
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
だが、いつの間にか、彼女は、
唖
(
おし
)
になっていたのだ。怪物の手の平が、ギュッと鼻口を
覆
(
おお
)
って、呼吸さえ思うようにはできなかった。
人間豹
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
夜の
闇
(
やみ
)
は雨に
濡
(
ぬ
)
れた野を
覆
(
おお
)
うていた。駅々の荒い燈火は、闇に埋もれてる
涯
(
はて
)
しない平野の寂しさを、さらに
侘
(
わ
)
びしくてらし出していた。
ジャン・クリストフ:07 第五巻 広場の市
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
積まれた氷には多く
筵類
(
むしろるい
)
を引被せておくのであるが、
覆
(
おお
)
ひの筵がなくとも、白昼の日光で氷の溶けるといふやうなことはないのである。
諏訪湖畔冬の生活
(新字旧仮名)
/
島木赤彦
(著)
頬
(
ほお
)
も眼も窪ませた復一は、力も尽き果てたと思うとき、くったりして窓際へ行き、そこに並べてある
硝子鉢
(
ガラスばち
)
の一つの
覆
(
おお
)
いに手をかける。
金魚撩乱
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
▼ もっと見る
廓内
(
かくない
)
から出てくる
頭巾
(
ずきん
)
だの編笠の顔はいちいち無遠慮にのぞき込み、中を隠した駕が来れば、駕を止めて、その
覆
(
おお
)
いの中を
検
(
あらた
)
めていた。
宮本武蔵:05 風の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
ひとしく、その
蒼茫
(
そうぼう
)
としたふしぎな空、ふしぎな蒼白い星のかずかず、そういうものは夜になると沼の上を
覆
(
おお
)
うてくるのでした。
寂しき魚
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
もしこの種の縞が「いき」と感ぜられるときがあるとすれば、放射性が
覆
(
おお
)
われて平行線であるかのごとき錯覚を伴う場合である。
「いき」の構造
(新字新仮名)
/
九鬼周造
(著)
妻の寝床は部屋の
片隅
(
かたすみ
)
に移されて、顔は白い布で
覆
(
おお
)
われていた。そこの部屋のその位置が、前から一番よく妻の寝床の敷かれた場所だった。
死のなかの風景
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
中の品物の見えないのも感じがいいのである。椅子の前には置き物の卓が二つあって、
支那
(
しな
)
の
羅
(
うすもの
)
の
裾
(
すそ
)
ぼかしの
覆
(
おお
)
いがしてある。
源氏物語:34 若菜(上)
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
巨木うっ
蒼
(
そう
)
と天地を
覆
(
おお
)
うとりました、
蘆葦
(
ろい
)
の
茫々
(
ぼうぼう
)
としげれることは
咫尺
(
しせき
)
を弁ぜざる有様、しかも、目の極まる限りは
坦々
(
たんたん
)
とした原野つづき
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
やがて二階屋が建続き、町幅が糸のよう、月の光を
廂
(
ひさし
)
で
覆
(
おお
)
うて、両側の暗い軒に、
掛行燈
(
かけあんどん
)
が
疎
(
まばら
)
に白く、枯柳に星が乱れて、壁の
蒼
(
あお
)
いのが処々。
歌行灯
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
もうパーシウスは消えてなくなりました! あとはただ
空
(
から
)
っぽの空気だけです! 隠す力を以て彼を
覆
(
おお
)
うた兜さえも、もう見えませんでした!
ワンダ・ブック――少年・少女のために――
(新字新仮名)
/
ナサニエル・ホーソーン
(著)
対岸には山が迫って、檜木、
椹
(
さわら
)
の直立した森林がその断層を
覆
(
おお
)
うている。とがった三角を並べたように重なり合った木と木の
梢
(
こずえ
)
の感じも深い。
夜明け前:01 第一部上
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
その戸みたいなものはただ壁の上につけられた木の
覆
(
おお
)
いにすぎないことを、彼は
狼狽
(
ろうばい
)
しながらも自ら認めざるを得なかった。
レ・ミゼラブル:05 第二部 コゼット
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
殺意が……、この静かな男の面上を
覆
(
おお
)
い包んでいるのを、そのとき誰も気が付くものはなかった。この機会、最後の密林のなかでヤンを
殺
(
や
)
ろう。
人外魔境:01 有尾人
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
傘は二人の恋人を
匿
(
かく
)
し、保護し、その
透
(
すか
)
し入りの影で二人を
覆
(
おお
)
っている。というのは、太陽の白い針が、そこかしこ、穴を明けているのである。
ぶどう畑のぶどう作り
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
「
胡桃割
(
くるみわり
)
」や「第四交響曲」のような明るい曲を書いても、チャイコフスキーには、
覆
(
おお
)
うことの出来ない悲哀感がその底に流れているのである。
楽聖物語
(新字新仮名)
/
野村胡堂
、
野村あらえびす
(著)
「あの自動車隊は立派すぎると思わない? 何を積んでいるのかわからないが、皆ズックの
覆
(
おお
)
いをかけている。どこへ行くんだか
検
(
しら
)
べてみようよ」
地中魔
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
幕下りて鐘楼の欄を
覆
(
おお
)
わんとする時、再び悪鬼の三女あらわれたるがごとく、その面はすでに見るよしなけれど、黒き髪石段の上にのさばり落つ。
道成寺(一幕劇)
(新字新仮名)
/
郡虎彦
(著)
船艙
(
せんそう
)
の
覆
(
おお
)
いにまで黒人植民兵を満載して仏領アフリカから急航しつつあった運送船が、アルジェリアの海岸近くでドイツの潜航艇に
遣
(
や
)
られている。
戦雲を駆る女怪
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
嗚呼彼の楓の下の
雪白
(
まっしろ
)
の布を
覆
(
おお
)
うた食卓、
其処
(
そこ
)
に朝々サモヷルが来り
喫
(
の
)
む人を待って
吟
(
ぎん
)
じ、其下の砂は白くて踏むに
軟
(
やわらか
)
なあの食卓! 先生は読み
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
起って、襖を開けると、奈世のメリンスの布団が夜明けの
薄明
(
はくめい
)
のなかに、ひっそりと敷いてあり、枕の白い
覆
(
おお
)
いが眼にしみたが、本人は居なかった。
面
(新字新仮名)
/
富田常雄
(著)
極
(
きわ
)
めて無気味な恰好に拡がって、もうずっと遠くになった硝子工場の真上に
覆
(
おお
)
いかぶさろうとしているところだった。
幼年時代
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
瓦屋根の
覆
(
おお
)
いを冠った朱塗の大鳥居には、
良恕
(
りょうじょ
)
法親王の筆と知られた、名高い「三国第一山」の額が架かってある。
不尽の高根
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
その式場を
覆
(
おお
)
う灰色の
帆布
(
はんぷ
)
は、黒い
樅
(
もみ
)
の
枝
(
えだ
)
で縦横に区切られ、所々には黄や
橙
(
だいだい
)
の
石楠花
(
しゃくなげ
)
の花をはさんでありました。
ビジテリアン大祭
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
しかるに今日数多き地名の中で、最も広い区域を
覆
(
おお
)
う一つのニホまたはミョウ等々という名のみが、今まではまだ語原を尋ぬることが出来ないでいた。
海上の道
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
かつなんじを
覆
(
おお
)
い
纏
(
まと
)
うところのものはすなわちエリシヤ諸島より携え来たれるの青と紺との布なり。シドンとアルワダとの居民はこれなんじの舟子たり。
将来の日本:04 将来の日本
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
ズックで
覆
(
おお
)
ったハッチの上をザア、ザアと波が
大股
(
おおまた
)
に乗り越して行った。それが、その度に太鼓の内部みたいな「糞壺」の鉄壁に、
物凄
(
ものすご
)
い反響を起した。
蟹工船
(新字新仮名)
/
小林多喜二
(著)
いずれにせよ工場主は手で書類を
覆
(
おお
)
い、Kにぴったり寄り添って、改めて仕事の一般的な説明を始めるのだった。
審判
(新字新仮名)
/
フランツ・カフカ
(著)
その髮でお頭を
覆
(
おお
)
い、また玉の緒を腐らせて御手に三重お纏きになり、また酒でお召物を腐らせて、完全なお召物のようにして著ておいでになりました。
古事記:03 現代語訳 古事記
(旧字新仮名)
/
太安万侶
、
稗田阿礼
(著)
月はこのとき、あたかもアネモネの
覆
(
おお
)
いのように、極めて薄い雲の天蓋をもって、その光りを
小暗
(
おぐら
)
くしていた。
世界怪談名作集:09 北極星号の船長 医学生ジョン・マリスターレーの奇異なる日記よりの抜萃
(新字新仮名)
/
アーサー・コナン・ドイル
(著)
≪夕刻のロングビイチは
鉛色
(
なまりいろ
)
のヘイズに
覆
(
おお
)
われ、
競艇
(
レギャッタ
)
コオスは夏に似ぬ冷気に
襲
(
おそ
)
われ、一種
凄壮
(
せいそう
)
の気
漲
(
みなぎ
)
る時
オリンポスの果実
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
普通の人についてもその真価は
即座
(
そくざ
)
に決することは出来ぬ。まずは七、八年はかかる。むかしの人のいったごとく人生は
棺
(
かん
)
を
覆
(
おお
)
うて始めて定まるものである。
自警録
(新字新仮名)
/
新渡戸稲造
(著)
元来吾輩の考によると
大空
(
たいくう
)
は万物を
覆
(
おお
)
うため大地は万物を
載
(
の
)
せるために出来ている——いかに
執拗
(
しつよう
)
な議論を好む人間でもこの事実を否定する訳には行くまい。
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
ソレカラ徐々ニフローアスタンドノシェードノ上ニ
被
(
かぶ
)
セテアッタ黒イ布ノ
覆
(
おお
)
イヲ除イテ室内ヲ明ルクシタ。
鍵
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
最早
(
もう
)
夕暮であった、秋の
初旬
(
はじめ
)
のことで、まだ
浴衣
(
ゆかた
)
を着ていたが、海の方から吹いて来る風は、さすがに肌寒い、少し
雨催
(
あめもよい
)
の日で、空には一面に灰色の雲が
覆
(
おお
)
い
拡
(
ひろが
)
って
白い蝶
(新字新仮名)
/
岡田三郎助
(著)
裸なる卓に
倚
(
よ
)
れる客の前に据ゑたる土やきの
盃
(
さかずき
)
あり。盃は
円筒形
(
えんとうがた
)
にて、
燗徳利
(
かんどくり
)
四つ五つも併せたる
大
(
おおい
)
さなるに、弓なりのとり手つけて、
金蓋
(
かなふた
)
を
蝶番
(
ちょうつがい
)
に作りて
覆
(
おお
)
ひたり。
うたかたの記
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
何だか非常に遠い所にあるように思っていた黒雲が、きゅうに目の前へ
覆
(
おお
)
い
被
(
かぶ
)
さってきたのである。
四十八人目
(新字新仮名)
/
森田草平
(著)
式場の正面の、白い布で
覆
(
おお
)
うたテーブルの上には免状やら賞品やらが高く積み上げられている。左右には
白襟
(
しろえり
)
紋
(
もん
)
つきの子供の母達や教師たちが
虔
(
つつま
)
しやかに
居並
(
いなら
)
んでいる。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
昭和二年の二月中旬のこと……S岳の絶頂の岩山が二三日灰色の雲に
覆
(
おお
)
われているうちに、
麓
(
ふもと
)
の村々へ白いものがチラチラし始めたと思うと、近年珍らしい大雪になった。
復讐
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
鸚鵡
(
おうむ
)
のような一羽の
秦吉了
(
しんきちりょう
)
が飛んで来て
棘
(
いばら
)
の上にとまって、
翼
(
つばさ
)
をひろげて二人を
覆
(
おお
)
った。玉は下からその足を見た。一方の足には一本の爪がなかった。玉は不思議に思った。
阿英
(新字新仮名)
/
蒲 松齢
(著)
中には武装しているらしく、大砲や高射砲を甲板に出して、
覆
(
おお
)
いをかけてあるものもあった。
秘境の日輪旗
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
その角のところから二方面の壁の半分ずつほどを
覆
(
おお
)
うたつたかずらだけが、言わばこの家のここからの姿に多少の
風情
(
ふぜい
)
と興味とを
具
(
そな
)
えしめている装飾で、他は一見極く質朴な
西班牙犬の家:(夢見心地になることの好きな人々の為めの短篇)
(新字新仮名)
/
佐藤春夫
(著)
瑜瑕
(
ゆか
)
並び
覆
(
おお
)
わざる赤裸々の沼南のありのままを正直に語るのは、沼南を
唐偏木
(
とうへんぼく
)
のピューリタンとして偶像扱いするよりも苔下の沼南は微笑を含んでかえって満足するであろう。
三十年前の島田沼南
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
中間支柱なく上部は一尺二寸間ごとに
椽
(
たるき
)
を置き一面に
玻璃
(
はり
)
を以って
覆
(
おお
)
われ、下部は粧飾用
敷煉瓦
(
しきれんが
)
を敷詰め、通気管は上部突出部および中間側窓と、下方
腰煉瓦
(
こしれんが
)
の場所に設けらる。
食道楽:冬の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
主は私の背後からゼーロンを
罵
(
ののし
)
った。私は、私の
比
(
たぐ
)
いなきペットの耳を両手で
覆
(
おお
)
わずには居られなかった。——ゼーロンの蹄の音は私の帰来を悦んでいるが如くに朗らかに鳴った。
ゼーロン
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
ポルトガルの一武士の乗馬これを見、驚いて海に入ったのを救い上げて見ると、その武士の衣裳全く杓子貝に付き
覆
(
おお
)
われいた。霊験記念のためこの
介
(
かい
)
を、この尊者の標章とする由。
十二支考:08 鶏に関する伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
中央に広く
陣取
(
じんど
)
って
並
(
なら
)
んでいる
管状
(
かんじょう
)
小花は、その
平坦
(
へいたん
)
な
花托面
(
かたくめん
)
を
覆
(
おお
)
い
埋
(
う
)
め、下に
下位子房
(
かいしぼう
)
を
具
(
そな
)
え、
花冠
(
かかん
)
は管状をなして、その口五
裂
(
れつ
)
し、そして管状内には
集葯
(
しゅうやく
)
的に連合した五
雄蕊
(
ゆうずい
)
があり
植物知識
(新字新仮名)
/
牧野富太郎
(著)
池
(
いけ
)
と
名付
(
なづ
)
ける
程
(
ほど
)
ではないが、一
坪余
(
つぼあま
)
りの
自然
(
しぜん
)
の
水溜
(
みずたま
)
りに、十
匹
(
ぴき
)
ばかりの
緋鯉
(
ひごい
)
が
数
(
かぞ
)
えられるその
鯉
(
こい
)
の
背
(
せ
)
を
覆
(
おお
)
って、なかば
花
(
はな
)
の
散
(
ち
)
りかけた
萩
(
はぎ
)
のうねりが、
一叢
(
ひとむら
)
ぐっと
大手
(
おおて
)
を
広
(
ひろ
)
げた
枝
(
えだ
)
の
先
(
さき
)
から
おせん
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
“覆”の解説
覆(ふく)(sa: mrakṣa、ムラクシャ)は、仏教が教える煩悩のひとつ。
自己の誤ちの隠蔽。利益を失う・不利益を蒙ることを恐れて、自分が為した罪を隠すこと。
しかし、自分の為した罪を隠す人は、後に、必ず悔い悲しむ。
説一切有部の五位七十五法のうち、小煩悩地法の一つ。唯識派の『大乗百法明門論』によれば随煩悩位に分類され、そのうち小随煩悩である。
(出典:Wikipedia)
覆
常用漢字
中学
部首:⾑
18画
“覆”を含む語句
顛覆
転覆
日覆
反覆
修覆
覆面
雨覆
轉覆
覆布
傾覆
打覆
覆被
押覆
引覆
覆奏
覆水
鞍覆
被覆
上覆
覆羽
...