かく)” の例文
旧字:
因って衆をあつめ自身の夢と侍臣が見た所を語り、一同これはきっとその穴に財宝がかくされおり王がこれを得るに定まりいると決した。
さる人はかしこくとも、さるわざは賢からじ。こがね六三ななのたからのつかさなり。土にうもれては霊泉れいせんたたへ、不浄を除き、たへなるこゑかくせり。
彼の厳密な概念の間には永遠なるものに対する無限の情熱がかくされている。彼の明るい論理の根柢には見透すことのできない意志がある。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
平生つつかくしているお延の利かない気性きしょうが、しだいに鋒鋩ほうぼうあらわして来た。おとなしい継子はそのたびに少しずつあと退さがった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其秘密をかくして居る以上は、仮令たとひ口の酸くなるほど他の事を話したところで、自分の真情が先輩の胸にこたへる時は無いのである。無理もない。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
が、チェロをスクヮイアーのように扱う人に比べて、カサドの演奏には、なんという美しい詩がかくされていることだろう。
もう四十に手のとどく澄江は、熟練した女の感覚で玄二郎の孤独な外貌から内にかくされた寧ろ多感な心情を見抜いたことは想像することができる。
姦淫に寄す (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
それから顔を上げおろしをするたびに、つね何処どこにかかくして置くらしい、がツくりくぼんだ胸を、のばすくめるのであつた。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この「磐井」「盛岡」の地図の表は山の記号しるしで埋まっている。この山と山の重なっている中には、どのような寂莫な、神秘がかくされているだろう。
遠野へ (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
いどめども応ぜず、ただ塁壁るいへきを堅くして、少しも出て来ない仲達は、あたかも羞恥しゅうちを深くかくして、ひたすら外気を恐れ
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
善の皮肉にかくれたる至悪のね起るが如き電光一閃の妙変に至りては、極めて趣致あるところ、極めて観易からざるところ、達士も往々この境に惑ふ。
心機妙変を論ず (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
生命いのちに拘る大切なものをかくしているという黒い手提鞄てさげかばんを、是非とも楽屋から盗み出しておかねばならぬというので
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
穴の中へかくしておくなんぞというのが心得違いでございますから、とっちめてやるのがお役目柄でございます。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この荒々しい武将のどこにそんな細かい心遣ひがかくされてゐるのだらうかと、今更のやうに前にゐる相手の、荒削りのやうな相貌に見とれてゐるらしかつた。
子、顔淵にかたって曰く、用いらるれば則ちすすみ、てらるれば則ちかくるとは、唯我となんじとのみこれあるかな。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
彼の孫娘の六斤ろくきんはちょうど、一掴みの煎り豆を握って真正面から馳け出して来たが、この様子を見て、すぐに河べりの方へ飛んで行き、烏臼木の後ろにかくれて
風波 (新字新仮名) / 魯迅(著)
五郎作はわかい時、山本北山やまもとほくざん奚疑塾けいぎじゅくにいた。大窪天民おおくぼてんみんは同窓であったのでのちいたるまで親しく交った。上戸じょうごの天民は小さい徳利をかくして持っていて酒を飲んだ。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
万花画譜ばんかがふ! 密偵の巣窟に、この似つかわしからぬ図柄は一体どんな秘密をかくしているのであろうか。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おいどんとけえ来て見ろ。西郷先生の城山しろやまで切腹さした短刀ちゅうもんが、チャンとかくしてごわすじゃ。手紙でん何でん持っとる。来て見ろや、そりゃ、えさっかぞお。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
わたしはおしかさんの手箱の中には、丁汝昌の秘文がかくされていないことはなかろうと思っている。
大橋須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
闇太郎は、うまうま、おのが姿を、須弥壇の下にかくすと、元の通りに閉めて、さて、心耳をすます。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「ここに美玉あり。ひつおさめてかくさんか。善賈ぜんかを求めてらんか。」と子貢が言った時、孔子は即座そくざに、「これを沽らんかな。これを沽らん哉。我はあたいを待つものなり。」
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
紀州灘きしゅうなだ荒濤あらなみおにじょう巉巌ざんがんにぶつかって微塵みじんに砕けて散る処、欝々うつうつとした熊野くまのの山が胸に一物いちもつかくしてもくして居る処、秦始皇しんのしこうていのよい謀叛した徐福じょふく移住いじゅうして来た処
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
思えば思うほどに落ちぬこと多く、ただ頭痛とのみ言い紛らしし伯母がようすのただならぬも深くかくせる事のありげに思われて、問わんも汽車のうち人の手前、それもなり難く
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
今宵もいたくけぬ、下坐敷の人はいつか帰りて表の雨戸をたてると言ふに、朝之助おどろきて帰り支度するを、お力はどうでも泊らするといふ、いつしか下駄をもかくさせたれば
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
秦亀しんきは山中にるものなり、ゆゑによんで山亀といふ。春夏は渓水けいすゐに遊び秋冬は山にかくる、きはめて長寿する亀は是なりとぞ。又筮亀ぜいきと一名するは周易しうえきに亀をやきて占ひしも此亀なりとぞ。
柳行李やなぎごうりの中に、長女からもらった銀のペーパーナイフをかくしてある。懐剣のつもりなのである。色は浅黒いけれど、小さく引きしまった顔である。身なりも清潔に、きちんとしている。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ねがわくは汝我を陰府よみかくし、汝の震怒いかりむまで我をおおい、わがためにときを定めしかして我をおもい給え」(十三)とは再生の欲求の発表である。ヨブは今神の怒に会えりと信じている。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
と上人が下したまふ鶴の一声の御言葉に群雀のともがら鳴りをとゞめて、振り上げし拳をかくすにところなく、禅僧の問答に有りや有りやと云ひかけしまゝ一喝されて腰のくだけたる如き風情なるもあり
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
それ以来私はあきらかに三浦の幽鬱な容子ようすかくしている秘密のにおいを感じ出しました。勿論その秘密の匀が、すぐむべき姦通かんつうの二字を私の心にきつけたのは、御断おことわりするまでもありますまい。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
やっと袂へ入れて貞之進は持帰ったが、それからこの写真は、机の抽斗ひきだしの錠のある方の奥へかくまわれ、日に夜に幾度か引出とりだされて、人の足音のするまではながめられ、そして或時、実に或時
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
そこに何等かの深い神秘な暗示がかくされてあると言はれ得ると私は思ふ。
小説新論 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
比較的高貴でない品を入た抽出だけ常に錠を掛けてあってそこには既に何等の秘密もかくされてなかった、地袋の中には、汚れやいたかたから観察して新年に一度か二度使用した歌留多があったね
誘拐者 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
高弓こうきゅう、いや、高鳥死して良弓りょうきゅうかくる。確か然うだった」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
阿古屋貝あこやがひうつかくせるわだつみの陰も、光も
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
恐怖とで自分を護ってかくれています。
手は垂れて何もかくさず
ひとつの道 (新字旧仮名) / 草野天平(著)
之を此の塔の底にかく
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
時が移り世態があらたまるのは春夏秋冬のごとくであって、雲起こる時は日月もかくれ、その収まる時は輝くように、聖賢たりとも世の乱れる時には隠れ
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いくら御常から可愛かあいがられても、それにむくいるだけの情合じょうあいがこっちに出てないような醜いものを、彼女は彼女の人格のうちかくしていたのである。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
中にはまた、その夜、用いよといわれて、正直にかくして持っていた一揆いっきの旗を、こっそり焼きすてた者などあった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの、白無垢しろむく常夏とこなつ長襦袢ながじゆばん浅黄あさぎゑりして島田しまだつた、りやう秘密ひみつかくした、絶世ぜつせ美人びじんざうきざんだかたは、貴下あなた祖父様おぢいさんではいでせうか。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
謝肉祭の仮装になぞらえた幾多の小曲から成ったものであるが、その中にはシューマンの主張と矜持きんじと、洒落しゃれと道楽気と、淡い恋と友情とがかくされており
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
その時山にかくるる者ただ一万人残る。他の人種相殺し尽したのち出で来り相見て慈心を起し共に善法を行う。
ふところから縞の財布をとりだして、敬々うやうやしく頭の上に押しいただき、抽斗ひきだしの中へかくしたのだつた。
金城鉄壁の中にかくされているというわけでもなんでもなく、隠れ家はちゃーんとわかっているし、ちょっと引出して、駒井が帰って来たように舟にでも載せさえすれば
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
秦亀しんきは山中にるものなり、ゆゑによんで山亀といふ。春夏は渓水けいすゐに遊び秋冬は山にかくる、きはめて長寿する亀は是なりとぞ。又筮亀ぜいきと一名するは周易しうえきに亀をやきて占ひしも此亀なりとぞ。
と上人が下したまうつるの一声のお言葉に群雀のともがら鳴りをとどめて、振り上げしこぶしかくすにところなく、禅僧の問答にありやありやと云いかけしまま一喝されて腰のくだけたるごとき風情なるもあり
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
赤靴をき頭髪を分けをり年頃二十六、七歳位運転手風の好男子なり、男の黒つぽき外套がいとうのかくしと女のお召コートのたもとには各々遺書一通あり、なお女のコートの袂には白鞘しろさやの短刀をかくしあり。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
地震とか暴風とか湿気とかに関する非常に深い智慧がかくされている、それは長期にわたってその国民が種々の経験によりおのずからに得たものであって、個々の学者の理論的意識よりも優っている
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)