自在じざい)” の例文
 (重兵衛は太吉を横目に睨みながら、自在じざい湯沸ゆわかしを取ってしものかたへ行き、棚から土瓶どびんをおろして茶の支度をする。ふくろうの声。)
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「悪魔の変化へんげ自在じざいなる、法律家となり、昆侖奴こんろんぬとなり、黒驪こくりとなり、僧人となり、となり、猫となり、兎となり、或は馬車の車輪となる」
真黒になった樽木たるきの交叉した真中から一本の自在じざいを下ろして、先へは平たい大きなかごをかける。その籠が時々風に揺れて鷹揚おうように動いている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
艦長松島海軍大佐かんちやうまつしまかいぐんたいさ號令がうれいはいよ/\澄渡すみわたつて司令塔しれいたふたかく、舵樓だらうには神變しんぺん不可思議ふかしぎ手腕しゆわんあり。二千八百とん巡洋艦じゆんやうかん操縱さうじゆう自在じざい
おもざし父ににて、赤味あかみがちなおまさは、かいがいしきたすきすがたにでてきて、いろりに火をうつす。てつびんを自在じざいにかける。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
其詩やことば自在じざいにして、意を立つる荘重、孝孺に期するに大成を以てし、必ず経世済民の真儒とならんことを欲す。章末に句有り、曰く
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
裾野すそのにいたころは富士ふじ山大名やまだいみょうむすめ——胡蝶陣こちょうじん神技しんぎ——猛獣もうじゅうのような野武士のぶしのむれを自由自在じざいにうごかした咲耶子である。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちゞみのみにはかぎらず織物おりものはすべてしかならんが、目前もくぜんみるところなればいふ也。かゝる縮をわづかあたひにて自在じざい着用ちやくようするはぞくにいふ安いもの也。
東京とうきやうかへつてのちべばこたへてあらはるゝ、双六谷すごろくだに美女たをやめざうを、たゞひらいてるやうに、すら/\ときざた。麻袋あさふくろのみ小刀こがたなは、如意によい自在じざいはたらく。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
阪を上り果てゝ、かこいのトゲつき鉄線はりがねくぐり、放牧場を西へ西へと歩む。赭い牛や黒馬が、親子友だち三々伍々、れ離れ寝たり起きたり自在じざいに遊んで居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
はやし彼等かれら天地てんちである。落葉おちばくとて熊手くまでれるとき彼等かれらあひともなうて自在じざい徜徉さまよふことが默託もくきよされてある。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
身体にぴったりとついていて、しかもちじみが自在じざいです。保温がよくて風邪もひかず、汗が出てもすぐ吸いとります。そして生まれながらの人間の美しい形を見せています。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
天井から「えびす」または「大黒だいこく」と呼ぶ欅作けやきづくりの大きな釣手つりてを下げ、それに自在じざいを掛けます。そのかぎの彫りに実に見事なものがあります。好んで水にちなんだものや、吉祥のしるしを選びます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ほゝくちびる薔薇ばらせて、蒼白あをじろはひかはる。まどもはたとづる、生活いのちがついれてときのやうに。どこも/\硬固しゃちこばって、つめたうなって、自在じざい活動はたらきをばうしなうて、死切しにきったやうにもえう。
ぽう自在じざい妙槍みょうそうをひッかかえ、馬にあわをかませながら、乱軍のうちを血眼ちまなこになって走りまわっていたのは小文治である。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かんじきにてあし自在じざいならず、雪ひざすゆゑ也。これ冬の雪中一ツの艱難かんなんなり。春は雪こほり銕石てつせきのごとくなれば、雪車そり(又雪舟そりの字をも用ふ)を以ておもきす。
大きなをきって、自在じざいに大薬罐の湯がたぎって居る。すすけた屋根裏からつりさげた藁苞わらつとに、焼いた小魚こざかなくしがさしてある。柱には大きなぼン/\がかかって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
綿打弓わたうちゆみでびんびんとほかした綿わたはしのやうなぼうしんにして蝋燭らふそくぐらゐおほきさにくる/\とまるめる。それがまるめである。のまるめから不器用ぶきよう百姓ひやくしやう自在じざいいといた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
鐵車てつしやは、險山けんざん深林しんりん何處いづくでも活動くわつどう自在じざいだが、このすなすべりのたにだけでは如何どうすること出來できぬのである、萬一まんいちして、非常ひじやうちからで、幾度いくたび車輪しやりん廻轉くわいてんしてたがまつた無效むだだ。
同化してその物になるのである。その物になり済ました時に、我を樹立すべき余地は茫々ぼうぼうたる大地をきわめても見出みいだし得ぬ。自在じざい泥団でいだん放下ほうげして、破笠裏はりつり無限むげん青嵐せいらんる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
(棚には小さきランプを置き、炭焼男の重兵衛、四十五六歳、炉の前で焚火をしている。やがて大きい湯沸ゆわかしにバケツの水を汲み入れて、炉の上の自在じざいにかける。障子の内にて子供の声。)
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
して鳥類てうるゐ廣大無邊くわうだいむへん天地てんちいへとし、やまけり、うみよこぎり、自在じざい虚空こくう往來わうらいして、こゝろのまゝにしよくみ、おもむところねぐら宿やどる。さるをとらへてかごふうじてださずば、その窮屈きうくつはいかならむ。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
農家の冬は大きないのちである。農家の屋内生活に属する一切の趣味は炉辺に群がると云っても好い。炉の焚火たきび自在じざいの鍋は、彼が田園生活のおもなる誘因ゆういんであった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
師匠ししょうさまは意地悪だから、なかなか飛走のじゅつなんか教えてくれないけれど、おいらにクロという飛行自在じざいな友だちができたから、もう飛走の術なんかいらないや。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上より自在じざいをさげ、此火に酒のかんをなしあるひはちやせんじ、夜は燈火ともしびとす。さてつら/\此火を視るに、つゝをはなるゝこと一寸ばかりの上にもゆる、扇にあふげば陽火やうくわのごとくにきゆる。
穴二ツも三ツも作りおくゆゑ、をりよき時は二疋も三疋も狐を引抜ひきぬく事あり、これこほりて岩のやうなる雪の穴なればなり。土の穴はかれがものなれば自在じざいをなしてにげさるべし。