目標めじるし)” の例文
それは黒の中折なかおれ霜降しもふり外套がいとうを着て、顔の面長おもながい背の高い、せぎすの紳士で、まゆと眉の間に大きな黒子ほくろがあるからその特徴を目標めじるし
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
重助「へえ、頭巾をお目に掛けたら、何とかいう人だと仰しゃったが、チャンと目標めじるしが有ったのが解って、仇討あだうちに出ると仰しゃいましたよ」
ただしこれに目標めじるしが出来たためか、背に根が生えたようになって、倒れている雪の丘の飛移るような思いはなくなりました。
雪霊続記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何時いつ危險きけん遭遇さうぐうしてげてても、一見いつけんしてその所在しよざいわかるやうに、其處そこにはわたくししろシヤツをいて目標めじるして、いきほひめて少年せうねんとも發足ほつそくした。
それでも時々、つては方角を考へ、目標めじるしを考へながらあるいたけれども、何うしても何時いつかへる道とは違ツて居た。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
駈けつけて、戸惑って、だが直ぐ頭の白い繃帯を目標めじるしに、二十貫の主任の巨躯が、そっちへガウンとぶつかっていった。
三狂人 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
まァおまえじいやであったか! そうえばるほどむかし面影おもかげのこっています。——だい一その小鼻こばなわき黒子ほくろ……それがなによりたしかな目標めじるしです……。
白い花の咲いている木を目標めじるしに近づいて見ると夜の間に、何の獣か知らないが、地中から死骸を掘り出そうとして、地を掻いた爪の痕が付いている。
森の暗き夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
お葉はただ無闇に行手を急いだ。昼ならば一度越えた路について、多少の心覚えや目標めじるしも有ったか知らぬが、真暗黒まっくらがりでは何が何やらちっとも判ろう筈が無い。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それよりもよい目標めじるしは、庭に太い棒が立つてゐて、それに鶉がかけてあり、草いろの女袴スカートを穿いた
……明日あすから十日以内に、夜の八時から九時の間に浅草区役所の傍の×××バーへ来てください、目標めじるしには赤いリボンを羽織はおりひもにつけております、もし来ない時には
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そして、その子供たちの顔にも、大人おとなの顔にも、年齢のあらゆる皺の中に鋤き込まれてからまた現れて来ているのは、飢餓という目標めじるしであった。それは至る処に蔓っていた。
私たちはそれから、誰かが助けに来て下さる目標めじるしになるように、神様の足凳あしだいの一番高い処へ、長い棒切れをてて、いつも何かしら、青い木の葉を吊しておくようにしました。
瓶詰地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
粕谷八幡はさしてふるくもないので、大木と云う程の大木は無い。御神木と云うのはうられた杉の木で、此はやしろうしろで高処だけに諸方から目標めじるしになる。烏がよく其枯れた木末こずえにとまる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
軽焼が疱瘡痲疹の病人向きとして珍重されるので、疱瘡痲疹のまじないとなってる張子はりこの赤い木兎ずくや赤い達磨だるまを一緒に売出した。店頭には四尺ばかりの大きな赤達磨を飾りつけて目標めじるしとした。
老婦人 鼻の横に大きなホクロがあるから、それを目標めじるしにしてね(医師に笑ひかけ)丸で昔の「親を尋ねて」みたいですわね。叔母さまが訊いたら、一寸気分がわるいのでつて云つておくれ。
落葉日記(三場) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
しかるにかのこやしのそりを引てこゝに来り、雪のほかに一てん目標めじるしもなきに雪をほること井を掘が如くにしてこやしを入るに、我田の坪にいたる事一尺をもあやまらず、これ我が農奴等のうぬらもする事なり。
わるくするとかどちがいをしないとも限らないような気がするので、君江はざっと一年ばかりかよう身でありながら、今だに手前隣てまえどなりの眼鏡屋と金物屋とを目標めじるしにして、その間の路地ろじを入るのである。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
背は高からず、低からず、中肉で色は滅法界めっぽうかい白い。服装なりは、さあ——何しろ旅から旅を渡り歩いているんだから、おそろしく汚のうがしょうが、なによりの目標めじるしてえのがこの右の眼の下の黒子ほくろだ。
風「それは覚えてゐるとも。あれの峭然ぴん外眥めじりあがつた所が目標めじるしさ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
僕は、この希望を目標めじるしにして、生きてゐるのですから。
糸杉の頂が目標めじるしになっています。10010
低き光の目標めじるし
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
取附端とりつきは見出みいだすまでは、団体の中へ交り込む訳にも行かず、ぽつねんとひとりぼッちで離れているのは、獰猛の目標めじるしとなるばかりだし、大いに困った。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すぐに伴藏は羊羹箱の古いのにの像を入れ、畑へ持出もちだ土中どちゅうへ深く埋めて、其の上へ目標めじるしの竹を立置たてお立帰たちかえり、さアこれから百両の金の来るのを待つばかり
探偵の身にしては、賞牌しょうはいともいいつべき名誉の創痕きずあとなれど、ひとに知らるる目標めじるしとなりて、職務上不便を感ずることすくなからざる由をかこてども、たくみなる化粧にて塗抹ぬりかくすを常とせり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その帰り路のところどころに目標めじるしをつけて置いて、黄は郡城にその次第を届けて出ると、時の太守劉韻りゅういんは彼に人を添えて再び探査につかわしたが、目標はなんの役にも立たず
もう一つの目標めじるしは、歩く時にきまつて両腕をぐるぐる振りまはす癖のあることぢや。
しかるにかのこやしのそりを引てこゝに来り、雪のほかに一てん目標めじるしもなきに雪をほること井を掘が如くにしてこやしを入るに、我田の坪にいたる事一尺をもあやまらず、これ我が農奴等のうぬらもする事なり。
答『つのが一ばん目標めじるしじゃ。つののあるのはおとこつののないのはおんな……。』
「ええ、そう云えば、時にはあの尖端さき燈火あかりを点けることもございました……年に一度か二度のことですが、なんでも、いつもより少し遠く、沖合まで帆走セイリングする時の、目標めじるしにするとか申しまして……」
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
其等それらは多分宿屋の目標めじるしであるなと思った。
暗い空 (新字新仮名) / 小川未明(著)
自分はこう云う訳で、どうにか目標めじるしだけはつけて置いたようなものの、長蔵さんに至っては、どのくらいあとから自分がいてくるか分りようがない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
霜風は蝋燭ろうそくをはたはたとゆする、遠洋と書いたその目標めじるしから、濛々もうもうわだつみの気が虚空こくうかぶさる。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
世祖はそこに何かの目標めじるしをつけて帰ったかと思うと夢が醒めました。そこで翌日、ゆうべの夢の場所へ行って、そこか此処ここかと尋ねていると、一人の男が来て、ここから渡られますという。
ひとり酒場の亭主だけは油燈カガニェツツの前で、荷馬車ひきどもが酒を何升何合飲み乾したかといふ目標めじるしを棒切れに刻みつけてゐた。祖父は三人前として二升ばかり酒を注文して、納屋へ陣取つたものだ。
土塀つちべいの続いている屋敷町を西へくだって、だらだら坂をくすと、大きな銀杏いちょうがある。この銀杏を目標めじるしに右に切れると、一丁ばかり奥に石の鳥居がある。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この奥の知れない山の中へ入るのに、目標めじるしがあの石ばかりじゃ分らんではないかね。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とにかく後で忘れないやうに、目標めじるしだけでもつけて置かう!
須永すながはもとの小川亭即ち今の天下堂という高い建物を目標めじるしに、須田町の方から右へ小さな横町を爪先上つまさきのぼりに折れて、二三度不規則に曲ったきわめて分りにくい所にいた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
天狗てんぐ——など意識いしきしましたのは、のせゐかもれません。たゞしこれ目標めじるし出來できたためか、えたやうにつて、たふれてゆきをか飛移とびうつるやうなおもひはなくなりました。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
庭は十坪とつぼほどの平庭で、これという植木もない。ただ一本の蜜柑みかんがあって、へいのそとから、目標めじるしになるほど高い。おれはうちへ帰ると、いつでもこの蜜柑を眺める。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が第一に心懸けた、目標めじるしの一軒家はもやかからぬのに屋根も分らぬ。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まゆと眉の間の黒子ほくろだけであるが、この日の短かい昨今の、四時とか五時とかいう薄暗い光線のもとで、乗降のりおりに忙がしい多数の客のうちから、指定された局部の一点を目標めじるし
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
れも、あの創を目標めじるしにしてしゃつらを覚えておりますのだ。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この松を目標めじるしに来いと教わった。松の下へ来ると、家が違っている。向こうを見るとまた松がある。その先にも松がある。松がたくさんある。三四郎は好い所だと思った。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分は黙って森を目標めじるしにあるいて行った。田の中の路が不規則にうねってなかなか思うように出られない。しばらくすると二股ふたまたになった。自分はまたの根に立って、ちょっと休んだ。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は浅い水を頭の上まではねかして相当の深さの所まで来て、そこから先生を目標めじるし抜手ぬきでを切った。すると先生は昨日と違って、一種の弧線こせんえがいて、妙な方向から岸の方へ帰り始めた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
必竟ひっきょうずるに、彼らの信仰は、神を得なかったため、ほとけに逢わなかったため、互を目標めじるしとして働らいた。互にき合って、丸い円をえがき始めた。彼らの生活はさみしいなりに落ちついて来た。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
必竟ひつきやうずるに、彼等かれら信仰しんかうは、かみなかつたため、ほとけはなかつたため、たがひ目標めじるしとしてはたらいた。たがひつて、まるゑんゑがはじめた。彼等かれら生活せいくわつさみしいなりにいてた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)