さかん)” の例文
一たび愛慾の迷路めいろに入りて、七五無明むみやう七六業火ごふくわさかんなるより鬼と化したるも、ひとへに七七なほくたくましきさがのなす所なるぞかし。
と、両方の手へ、仮面をかぶった顔をのせて、さかんに、火の粉を吹きあげて来る修羅のさわぎを、他人事ひとごとのように見下ろしていました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
即ち予州は極めて僻在へきざいの地ながら俳句界の牛耳を取る証拠にしてこの事を聞く已来いらい猶更小生は『ほととぎす』を永続為致度念さかんに起り申候。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
かと思うと、すぐあとからあざやかなやつが、一面に吹かれながら、おっかけながら、ちらちらしながら、さかんにあらわれる。そうして不意に消えて行く。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それはこの記者を生擒いけどりにして、新聞紙の上でさかんに賛成論を書き立てさせたら、屹度効力ききめがあるだらうと思つたからだつた。
彼等かれら他人たにんぬすむのには幾多いくた支障さはり、それはためあひした念慮ねんりよむしかへつさかん永續えいぞくすることすらりながら
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
『人身生理学』は中学校程度の教科書としてははなはだくわしいもので、そのころ知識欲のさかんであった私の心を刺戟しげきしたのみでなく、その文章はたとえば
呉秀三先生 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
言いさま整然ちゃんとして坐り直る、怒気満面にあふれて男性の意気さかんに、また仰ぎ見ることが出来なかったのであろう、お雪は袖で顔をおおうて俯伏うつぶしになった。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わが奇を好む心は、かの露肆ほしみせの主人が言にいどまれて、愈〻さかんになりぬ。われは人なき處に於いて、はじめて此卷をひもとかん折を、待ち兼ぬるのみなりき。
其の後の煖爐ストーブには、フツ/\音を立てなが石炭がさかんに燃えてゐる。それで此の室へ入るとくわツと上氣する位あツたかい。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
あるひはまた彼が一派一流の狭き画法に拘泥こうでいするのいとまなかりしが如き、これ皆その観察力の鋭敏なると写生の狂熱さかんなるによるものに非らずして何ぞや。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ところが、生活慾のさかんな、刻々と転進して行く生は、私を徒にいつまでも涙のうちに垂込めては置きますまい。
偶感一語 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
而して私共はこの大海のただ中の甲板上に立って、私共を出口まで引張って来た所の三人の恩人を顧みて、うたた感謝の念をさかんにせざるを得ないのであります。
琉球史の趨勢 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
しかし自分の想像では、男子は生理的に女子とよほどちがった所があって、処女には性欲の自発がないにかかわらず、若い男子にはそれが反対にさかんであるらしい。
私の貞操観 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
私は心の内に、焔をあげてパチパチ燃え上るさかんな焚火を想像して、早く泊り場所へ着きたいものだと思った。しかし今日の難関は未だ切抜けられた訳ではなかった。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
害を加えた物に対してこころよくない感情を惹起ひきおこすのは人の情であって、殊に未開人民は復讐の情がさかんであるから、木石をむちうって僅に余憤を洩す類のことはすくなくない。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
彼等かれらあさきて先づ火焚き塲の火をさかんにし、食物調理しよくもつてうりを爲し、飮食いんしよくを終りたる後は、或は食物原料採集げんれうさいしうに出掛け、或は器具製造に從事じうじし、日中のときつひやしたる後
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
「どうぞ此方こちらへ」と案内した、導かれて二階へ上ると、煖炉ストーブさかんいていたので、ムッとする程あったかい。煖炉ストーブの前には三人、他の三人は少し離れて椅子に寄っている。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
かくなしてなほ貧民等は市街を横行なせる事は日を追つてさかんなりしが、其頃品川宿に於て施行せぎようを出すを左右かにかくと拒みたる者ありとて忽ち其家を打毀うちこはせしより人気いよいよ荒立あらだつ
してみるとやはり、此処も廃井ではあるまいか? いや其様筈がない。烟突から黒烟が上っている。彼様あんなさかんに火が燃えている。彼様に機械が運転している。人のいない筈がない。
暗い空 (新字新仮名) / 小川未明(著)
意気だけさかんで実行の創作上にともなわない、浮き足立った感激ではなくて、むしろ反対に、俊成自身の生命の直覚的共感が『古今集』をつかみ、『古今集』にたよることによって
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
加之しかも其処は破れ壁から北風が吹き通し、屋根が低い割に炉が高くて、さかんな焚火は火事を覚悟しなければならなかった。彼は一月ひとつきばかりして面白くないこのかたばかりの炉を見捨てた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
や、左様さうばかりも言へないでせう、現に高等学校に居る剛一と云ふ長男むすこの如きも、数々しば/\拙宅うちへ参りますが、実に有望の好青年です、父親おやの不義に慚愧ざんきする反撥力はんぱつりよくが非常にさかん
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
私の経験で言つて見ても、私には幼い時から、何処か自由を欲する念がさかんであつた。
小説新論 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
火をさかんにすれば、雨にも消えざるもの也。今夜も焚火に山上の寒さを忘れたるが、天幕に雨を避くることとて、焚火を掛布団とすることは出来ず。九人が四人に減じて、何となく寂し。
層雲峡より大雪山へ (新字新仮名) / 大町桂月(著)
家の中は暖炉がさかんに燃えてゐるので、むしろ顔が火照る位熱かつたが、外は霙まじりの雨が振り頻つてゐるので、入口の硝子扉が開く度毎に、冷たい湿つた風が用捨なく吹き込んで来て
酔狂録 (新字旧仮名) / 吉井勇(著)
神通の宝輅はうらくに召し虚空を凌いで速かに飛び、真如の浄域に到り、光明を発してとこしへにさかんに御坐しまさんこと、などか疑ひの侍るべき、仏魔は一紙、凡聖ぼんじやうは不二、煩悩即菩提ぼんなうそくぼだい忍土即浄土にんどそくじやうど
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
アメリカの習慣しゅうかんうらやましく思うものは、かの大学卒業式そつぎょうしきさかんにすることである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
十二時半頃になると、近所がまたさわがしくなって来て、火の手が再びさかんになったという。それでもまだまだと油断して、わたしの横町ではどこでも荷ごしらえをするらしい様子もみえなかった。
火に追われて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ほかの物は見るとも、構えて眼ばかりはうかがうべからず。これ秘蔵の事なり。たとえば暑き頃、天に向いて日輪を見る事暫く間あらば、たちまち昏盲として目見えず。これ太陽の光明さかんなるが故に云々。
しかし火気がさかんなので、此手のものも這入ることが出来なかつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
大火山其勢甚さかん
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さかんな陽の中に
わがひとに与ふる哀歌 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
私が多年知りたいと念じていたのは、彼がさかんな修養時代において、誰か、その方面の啓示を彼に致した禅門の人物があるにちがいない。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕は顛落てんらくするやうにしてやうやくにして身を支へたが、そこは硫黄いわうさかんに噴出してゐるところで、僕の咽喉のどしきりに硫黄の気でせるのに堪へてゐる。
ヴエスヴイオ山 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
落雲館に群がる敵軍は近日に至って一種のダムダム弾を発明して、十分じっぷんの休暇、もしくは放課後に至ってさかんに北側の空地あきちに向って砲火を浴びせかける。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いずれも若い、三十許少わずかに前後。気を負い、色さかんに、心を放つ、血気のその燃ゆるや、男くささは格別であろう。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さかんはしらちかおほうてつてた。かれまたすぐはげしい熱度ねつどかほぱいかんじた。はどうした機會はずみよこころがした大籠おほかご落葉おちばうつつてたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
伸子は、白レイスの肩掛をして、さかんに政談を戦わしていた老夫人の険のある世話焼らしい顔つきを思い出した。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
○予六歳にして始めてお茶の水の幼稚園に行きける頃は、世間一般に西洋崇拝の風はなはださかんにして、かの丸の内鹿鳴館ろくめいかんにては夜会の催しあり。女も洋服着て踊りたるほどなり。
洋服論 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
焚火の炎が天をも焦すいきおいさかんに燃えている、ここではどんな大きな焚火をしても、何の心配にも及ばない。晩飯は既に用意されていたが、岩魚は果して釣れていなかった。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
時々とき/″\使童ボーイ出入しゆつにふして淡泊たんぱく食品くひもの勁烈けいれつ飮料いんれう持運もちはこんでた。ストーブはさかんえてる——
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
こは火山の所爲にて、このさとの空氣の惡しくなれるならん。ヱズヰオの噴火は次第にさかんなり。熔巖の流は早くふもとに到りて、トルレ、デル、アヌンチヤタの方へ向へりと聞く。
しや事業熱はめても、失敗を取返へさう、損害をつくのはうといふ妄念まうねんさかんで、頭はほてる、血眼ちまなこになる。それでも逆上氣味のぼせぎみになツて、危い橋でも何んでもやたらと渡ツて見る………矢張やはり失敗だ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
一一九応保おうほうの夏は美福門院びふくもんゐんいのちせまり、長寛ちやうくわんの春は一二〇忠通ただみちたたりて、われも其の秋世をさりしかど、なほ一二一嗔火しんくわさかんにしてきざるままに、つひに大魔王となりて、三百余類の巨魁かみとなる。
六畳の室には電燈が吊下つるさがっていて、下の火鉢に火がさかんに起きている。鉄瓶には湯が煮えっていた。小さな机兼食卓の上には、鞄の中から、出された外国の小説と旅行案内と新聞が載っている。
渋温泉の秋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
辺鄙へんぴなところに住んでおりますので、めったに市内のまん中へは出ませんから、世間のこともよく判らないのでございますが、毎日の新聞を見ますと、市内のコレラはますますさかんになるばかりで
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いまや梁山泊が大となるにつれ、不遇不平な天下の才と侠骨きょうこつを、いよいよここへつのろうとする意志は仲間一同にもさかんだったのだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たといみや子が夫婦間の特別な敏感さを利用してさかんに暗号を送ったとしても、その時の彼は、頼りにならない無反応の冷淡さを証拠だてるに過なかったろう。
伊太利亜の古陶 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
独乙ドイツで浪漫主義のさかんに起った時、御承知の通り、有名なカロリーネと云うシュレーゲルの細君がありました。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)