)” の例文
地点は、森武蔵ぜいっている岐阜ヶ嶽の下——ぶついけのなぎさである。馬に水を飼い、馬の脚を、水にけて冷やしているのだ。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ことに、二つき三月とこの猿の湯にかりあげれば、年どしの季候の変り目に、思い出したようにふる傷が泣くということがない。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
最後にせた一塊ひとかたまりの肉団をどぶりと湯の中にほうり込むようにけて、敬太郎とほぼ同時に身体を拭きながら上って来た。そうして
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
峠の路は歩きにくい、野茨が野袴の裾を引いたり、崖から落ちて来る泉の水が、峠の道に溢れ出て、膝にくまでに溜っていたりした。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一同はすぐに、胸まで水にかって追跡に移ったが、すでにボウトは、迫る夕靄ゆうもと立ち昇る水靄みずもやにまぎれて、影も形もなかった。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
あるいはタコというのも元はこの草の茎を水にけて、章魚をゆでるという遊びがあり、それを私たちがもう忘れているのかも知れない。
「もっと、とっぷりとかるようなのみものはない?」「しとしとと、こう手でれるような音曲おんぎょくいなあ。」母は遂々とうとうさじを投げた。
桃のある風景 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
が、四五日たつと、やはり、客の酒のかんをするばかりが能やないと言い出し、混ぜない方の酒をたっぷり銚子に入れて、銅壺どうこの中へけた。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
支那料理をいに往ったところで、そこの主翁ていしゅが支那料理の話をしたあげく、背が緑青色をした腹の白い小さな蛇をけた酒のびんを持って来た。
文妖伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
此家こゝへ來れば酒を飮むものとめてゐるらしい道臣は、直ぐ盃を取り上げたが、かん微温ぬるさうなので、長火鉢の鐵瓶の中へ自分に徳利をけた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
しゃがんだはずみに腰に下げた印籠が半分ばかり藍甕の藍にかったのをお前さんは気がつかなかった。もうひとつの証拠というのは火繩と火口。
顎十郎捕物帳:18 永代経 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
金五郎は、新之助から借りて来た二本の日本刀を抜き身にして、盥の水にけた。チャポ、チャポと、洗った。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
余っ程閑暇ひまの時は、東京で病みついたトルストイの本を読んでいた。それから時々は、ぶらぶらと、近くにある世古の滝の霊場にかり旁々かたがた山や畠を見まわった。
忠僕 (新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
若いときから長い間、私は足を水にけねば友釣りをたんのうしたような気持ちになれないできた。
(新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
またあるときは芝生しばふの上で雛菊デイジイの花を持つて遊んでゐるのを眺めてゐたり、さうかと思ふとまた流れの中で手を水にけてポチヤ/\してゐるところを見てゐるのだ。
きいちゃんは泣き出したけれども、忠公と二人がかりで、帯で縛って、三度河の中へけてやった。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そのくりむしかられたいとけて、ばしますと、木小屋きごやまへぢいやのからむかふのふるいけわき友伯父ともをぢさんのとゞくほどのながさがありました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「うんにや……」と美以美派の田舎政治家はかぶりつた。「そんな筈は無い。一体何だらう、君達の浸礼バプチスト派では、お宗旨に入る時頭を水にけるんだつていふぢやないか。」
「そうでござんすね。」と、母親は椎茸しいたけを丼で湯にけていながら、思案ぶかい目色めいろをした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
で、たうとう母猿を水の中へヅツプリとけますと、やつと小猿は母の腹から離れました。
山さち川さち (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
だがい湯で、塩気があって透通すきとおるようで、ごく綺麗です、玉子をゆでて居る奴があるので、手拭に包んで玉子を湯にけて置くと、しんが温まるという、どういう訳かとみんなに聞くと
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この木地きじを出してしまう方が好いと思い、それから長い間水にけて置きました。
手際てぎはなもので、あふうちに、じり/\と團子だんごいろづくのを、十四五本じふしごほんすくりに、一掴ひとつかみ、小口こぐちからくしつて、かたはら醤油したぢどんぶりへ、どぶりとけて、さつさばいて、すらりと七輪しちりんまたげる。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「それとも、傷さえけねばいいんだから、久方ぶりにひと風呂浴びますか」
流行暗殺節 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
自分の前には川にけてある方の管が蛇ののたくつたやうにわだかまつて、其中を今しも水が烈しい力で通つて行くと覚しく、針のやうな隙間から、しう/\と音して烈しく余流が迸出へいしゆつして居る。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
また暑い午後にはただ一人水の中にかって空行く雲を眺め、水草の花を摘み、水の中に透きとおって見える肌のまわりに集まってくる小さな魚の群れのおよぐのをじっと眺めているときに
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
また其処では蜜飯クチャのほかに混合酒ワレヌーハや、洎天藍さふらんけた火酒ウォツカや、まだそのほかいろんな料理が出るに違ひなかつた。さうすると、チューブの娘で、村一番といふ美人が、一人で家に残ることになる。
彼は川の水に瓶をけた時、彼がそれを手にする前の通りに、金から立派な、ほんものの土焼のうつわになったのを見て、心からうれしく思いました。彼はまた、自分のからだにも変化を覚えました。
ひたひたとけられてゆく時は、骨もおのずから溶ける心地ここちがする。
すすぐ、洗う、もうかるばかりにして、やっと満腹した。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
「赤ちゃんを水にけていいの」
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
けてすなわ水尾みおや秋の川
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
あしを浅い水にけて
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
彼は首尾よく牢をぬけ出して、その体を、紙屋川の水の中へ、肩の辺までけていた。そして後ろの高い土壁の切窓を振り仰いでいた。
じつに用意周到なやり方だった。首から上だけを出して湯にかっていたアリスは、とつぜん良人おっとの手が頭にかかったので、笑顔を上げた。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
「口までいたぞ! 鼻まで浸いたぞ! 水が全身を乗り越したぞ! 姿が見えない! 水ばかりだ! 溺れた溺れた! 一式小一郎は!」
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
氷嚢こほりぶくろ生憎あいにくかつたので、きよあさとほ金盥かなだらひ手拭てぬぐひけてつてた。きよあたまやしてゐるうち、宗助そうすけ矢張やは精一杯せいいつぱいかたおさえてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「どういたしまして、燃えるような緋縮緬ひぢりめん夜着よぎがありますよ」二人の洋盃コップにビールが無くなっているので、山西はかわりを注文して、それに口をけながら
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それを掘り出してなたではつり、唐臼でつき、水にけて粗皮を取り去り、底に溜ったものを握って食べた。まことに苦いものであったという(南河内郡滝畑村古老談)。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
慣々なれなれしく私のそばへ来て、鍋のけてある水中みずのなかを覗いて見たり、土塀から垂下っていた柿の枝振えだぶりを眺めたり、その葉裏から秋の光を見上げたりして、何でもない主家うち周囲まわり
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
久助は片手にひっかけ鉤をつけた釣竿を持ち、片手に覗眼鏡のぞきめがねを動かしては、急湍きゅうたんをすかせながら腰までかして川をわたった。こうやって釣った鮎は毎日の客の膳に上るのだった。
忠僕 (新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
内の医師せんせいが手にかけたという、嬰児あかんぼ酒精アルコオルけたのが、茶色に紫がかって、黄色いはだ褐斑かばまだら汚点しみが着いて、ぐたりとなって、いぬか鼠の児かちょいとは分らぬ、天窓あたまのひしゃげた
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
晩飯の時、叔母は叔父の好きな取っておきの干物ひものなどをあぶり、酒もいいほど銚子ちょうしに移して銅壺どうこけて、自身寝室ねまへ行って、二度も枕頭まくらもとで声をかけて見たが、叔父は起きても来なかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
もう暮れかけて、ときどきサーッと時雨しぐれてくる。むこう岸はボーッと雨に煙り、折からいっぱいの上潮で、柳の枝の先がずっぷり水にかり、手長蝦だの舟虫がピチャピチャと川面かわもで跳ねる。
顎十郎捕物帳:24 蠑螈 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
水のひたひたといた板橋を渡りながら
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いまにも自分じぶんんでゐる宿しゆくが、四方しはうやまからながれてあめなかかつて仕舞しまひさうで、心配しんぱいでならなかつたとはなしをした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そして、あれを拾ってけこんでおけば、一年中梅干に困らないのに、ここの人はなぜ拾って漬けないのかと考えたりした。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その結果、スミスの用いた殺人法というのは、まず、相手が無心に湯にかっているところを、急激に片手で頭部を押して顔を股の間へ沈める。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
もしまた南部集五郎が、さらに一層注意深く、窓まで水がく前に、早く樋口を引いたなら、遁がれ出ることは出来なかったろう。集五郎は周章あわてていたようである。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「あ、これは宜い、後をすぐけておくれ、すこし時間があって、ね、船に乗るところだからね」
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)