最早もう)” の例文
文章は、上巻の方は、三風来ふうらい全交ぜんこう饗庭あえばさんなぞがごちゃ混ぜになってる。中巻は最早もう日本人を離れて、西洋文を取って来た。
予が半生の懺悔 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そして、お雪や正太しょうたの細君なぞに比べると、もっとずっとわかい芽が、最早もう彼の周囲まわりに頭を持ち上げて来たことを、めずらしく思った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ところが今の空っ風で病院が無暗に流行はやるでしょう。到頭此方で女房を貰う。子供が続々出来る。最早もう悉皆すっかり土着してしまいましたよ。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
もっとも私が彼女の門口かどぐちを推した時には、最早もう、犬は血の泡の中に頭を投げ出して、眼をウッスリと見開いているだけであったが
冗談に殺す (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「そうさ、お前に任したのだから……ところで母上おっかさんが見えたら最早もう下宿屋はして一所になって下さいと言ってみようじゃないか」
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
さゝ、ヂュリエットをおこして、着飾きかざらせい。おれてパリスどのに挨拶あいさつせう。……さゝ、いそげ/\。婿むこどのは最早もうせたわ。いそいそげ。
いま其最中そのさいちゆうなの!屹度きつとわたしこといたほん出來できるわ、屹度きつとわたしおほきくなつたらひといてやらう——けど、いま最早もうおほきくなつたんだわね
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
冬至までは、日がます/\つまって行く。六時にまだ小暗おぐらく、五時には最早もうくらい。流しもとに氷が張る。霜が日に/\深くなる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
メルルと云つて日本の杜鵑ほととぎすと鶯の間の樣な聲をする小鳥が夜明には來て啼くが、五時になると最早もう雀の啼き聲と代つて仕舞ふ。
巴里にて (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
あ、Mさんですか。Mさんなれば最早もう茶路には居ません。昨年越しました。今は釧路に居ます。釧路の西幣舞にしぬさまひ町です。葬儀屋を
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
メルルと云つて日本の杜鵑ほとゝぎすうぐひすの間の様な声をする小鳥が夜明よあけには来てくが、五時になると最早もう雀のき声と代つて仕舞しまふ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
本当の子分にしてもらはうかと思つたことが、幾度いくたびとも知れませんよ、近来は最早もう怖くてたまらぬから、逢はぬやうに/\と、篠田を避けて居るんだ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
私も最早もう貧乏には本当に飽き/\した。……仮令たとい月給の仕事があったって私は、文学者は嫌い。文学者なんて偉い人は私風情にはもったいない。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
此の島へあがってから最早もう一年余になりますから、着物は切れ、ひげはぼう/\として、う見ても人間とは思われませぬ。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それから、ず寝転んで休むがいと隣のへ導いて、二度目に行ったら最早もう見えなかった。で、聞き合わせてみようと思っていると死去の電報が来た。
取り交ぜて (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
一昨日からの花の壺の雛芥子ひなげしが、最早もうほろ/\と散り落ちて了つたらしく、その花びらも反古の中に交つてゐた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
星の光も見えない何となく憂鬱なゆうべだ、四隣あたりともしがポツリポツリと見えめて、人の顔などが、最早もう明白はっきりとはわからず、物の色がすべきいろくなる頃であった。
白い蝶 (新字新仮名) / 岡田三郎助(著)
それくらゐのことは、自分も最早もう四十近い年だ、いくらか世の中の塩をなめて来てゐるつもりだから、それ程間違つた考へは持つてをらないつもりである。
椎の若葉 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
人事課でも最早もう分らないかも知れません。何しろ姓が幾度も変っておるのでしょうし、それにあの会社とは今は何の関係もございませんでしょうから——。
情鬼 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
何日いつだったか、一寸ちょっと忘れたが、ある冬の夜のこと、私は小石川区金富町こいしかわくきんとみちょう石橋思案いしばししあん氏のうちを訪れて、其処そこを辞したのは、最早もう十一時頃だ、非常に真暗まっくらな晩なので
青銅鬼 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
つい最早もうすっかり無くなった時分にはとうとう姿を隠して家を逃げてしまった、残された老婆は非常に怨憤うら落胆らくたんして常に「口惜くやしい口惜くやしい」といっていた。
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
またしても其樣そのやうなこと御前おまへさま此々これ/\とおつたへ申さばきお返事へんじれたことなり最早もうくよ/\とはおぼしめすな
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
黙っていることは最早もうならぬ……お前の情夫おとこは私の嫌いな、あの狐池如来衛門きつねいけにょらいえもん、それだによってこれまでも、如来衛門は見捨ててしまえ、逢ってはいけぬと云い渡しても
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さいわいに私は一日のかんを得たので、二三の兵卒を同道して、初対面のこの大伯父の寺を訪れたのである。老僧は八十有余の善智識ぜんちしきであって、最早もう五十年来、この寺の住職である。
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
就中なかんずく、恐ろしかったというのは、ある多勢おおぜいの人が来て、雨落あまおちのそばの大きな水瓶みずがめ種々いろいろ物品ものを入れて、その上に多勢おおぜいかかって、大石を持って来て乗せておいて、最早もうこれなら
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「だって、貴方は、最早もう、一遍観たって云うんじゃありませんか」と聞き返した。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
の土地が最早もういつまでも長くは自分を止まらせまいとしてゐるやうで、それが自分のにぶりがちな日頃の決心よりもむしろ早く、此の土地を去らねばならぬ時機が迫つて来はせぬかといふ
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
彼も初めての事なので、薄気味るく、うとうとしていると、最早もう夜も大分更けて、例の木枯こがらしの音が、サラサラ相変らず、きこえる時、突然に枕許まくらもとの上の呼鈴べるが、けだだましく鳴出なりだしたので
死体室 (新字新仮名) / 岩村透(著)
冬の事で、四隣あたりいたって静かなのに、かねが淋しくきこえる、私は平時いつも、店で書籍が積んであるかたわらに、寝るのが例なので、その晩も、用をしまって、最早もう遅いから、例の如く一人でとこに入った。
子供の霊 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
金二分に賣てくれろと小聲こごゑで相談し貴殿が仕組しくんだ所業だはね最早もうをつとを殺されたからはかくさず云が其仕事しごとは權現堂の土手どてで穀屋平兵衞を殺し金迄取て其翌日わたしの方へ來てお前は狼狽うろたへまはり幸手宿を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
今から最早もう数年前すねんぜん、その俳優やくしゃが、地方を巡業して、加賀かが金沢市かなざわし暫時しばらく逗留とうりゅうして、其地そこで芝居をうっていたことがあった、その時にその俳優やくしゃが泊っていた宿屋に、その時十九になる娘があったが
因果 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
やがてそれなりに自分はふらりと宿屋を出て、山の方へ散歩に行ったのである、二時間ばかりして宿屋へ帰った、ぐ自分の部屋へ入ると私は驚いた、先刻さっきけたばかりの夏菊が最早もうしおれていたのだ
鬼無菊 (新字新仮名) / 北村四海(著)
「もう、さう苦にならんさかい、最早もう何かの稽古にやつてお呉れ」
『どうしてまあ兄弟喧嘩きやうだいげんくわを為るんだねえ。』と細君は怒つて、『左様さうお前達にはたで騒がれると、母さんは最早もう気がちがひさうに成る。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
むすめよ! むすめどころかい、わが靈魂たましひよ! 其方そなたにゃった! あゝ、あゝ! むすめんでしまうた、むすめねばおれたのしみも最早もうえたわ。
最早もう死んだかも知れない」と誰かが気の無い返事をる。「全くあの男ほど気の毒な人はないよ」と老人は例の哀れっぽい声。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「君、君、今日は井口君がしょげている。彼処あすこ最早もうソロ/\小競合の始まる時分だ。何しろ中川夫人が軍師についているからね」
髪の毛 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その時は最早もう短い秋の日が暮れて、鳥の声も聞こえなくなっていたが、その代り真暗な杉の森の奥にチラチラと焚火たきびの光りが見えて来た。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
稀に来る都人士には、彼の甲斐々々しい百姓姿を見て、一廉いっかど其道の巧者こうしゃになったと思う者もあろう。村の者は最早もう彼の正体しょうたいを看破して居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ッちやんは最早もうオイ/\いてばかりゐて、なんにもはないので、怪我けがをしたのかしないのか一かうわけわかりませんでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
……ですから最早もう今晩きりあなたにも逢えないの。……あなたにこれを上げますから、これを記念に持って行って下さい。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「なに、どうもしやしませぬがネ」と吾妻は心押し静めつ「の道、大至急願ひたいものです——僕は最早もう篠田のかほを見るに堪へないですからネ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
而してざあと雨の音がした。起きて雨戸を一枚繰つて見たら、最早もう月が出て、沼の水に螢の樣に星が浮いて居た。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
作「えゝ誠にお久しくお目に懸りやせんが、何時いつもお達者でわけえねえ、最早もうたしか四十五六になったかえ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
最早もう夕暮であった、秋の初旬はじめのことで、まだ浴衣ゆかたを着ていたが、海の方から吹いて来る風は、さすがに肌寒い、少し雨催あめもよいの日で、空には一面に灰色の雲がおおひろがって
白い蝶 (新字新仮名) / 岡田三郎助(著)
最早もう九年ばかり以前の事だ、当時私の宅へよく遊びに来たしば警察署づめの某氏の実見談じっけんだんである。
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
投出なげだして、やおら、って、またかさをさして歩み出したが、最早もう何事もなく家に帰った、昔からも、よくいうが、こんな場合には、気をたしかに持つことが、全く肝要の事だろうよ。
狸問答 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
最早もうあの顔を見ぬ決心で出て参りました、まだ私の手より外誰れの守りでも承諾しようちせぬほどのあの子を、だまして寐かして夢のうちに、わたくしは鬼に成つて出て参りました、御父様おとつさん御母様おつかさん
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
此処ここで聞いたはなしに、ある時その近在のさる豪家ごうかの娘が病気で、最早もう危篤という時に、そのの若者が、其処そこから十町ばかりもある遠野町へ薬を買いに行った、時はもう夜の九時頃のことで
テレパシー (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
「だつて、貴方あなたは、最早もう、一遍たつて云ふんぢやありませんか」とき返した。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)