おぼ)” の例文
幾度いくたび幾通いくつう御文おんふみを拝見だにせぬ我れ、いかばかり憎くしとおぼしめすらん。はいさばこのむね寸断になりて、常の決心の消えうせん覚束おぼつかなさ。
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その席でGは案外器用な踊りぶりを見せたが、令嬢にしろ夫人にしろ、彼が注意を特にかたむけたとおぼしい相手は一人もなかつた。
夜の鳥 (新字旧仮名) / 神西清(著)
われを君があだおぼし給ふなかれ、われは君のいづこにいますかをわきまへず、また見ず、また知らず、たゞこの涙にるゝおもてを君の方に向けたり。
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
葦屋あしやの里、雀の松原、布引ぬのびきの滝など御覧ごらうじやらるるも、ふるき御幸ごかうどもおぼし出でらる。生田いくたの森をも、とはで過ぎさせ給ひぬめり。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御酒ごしゆからいものでござります。からいものをからいとおぼしますのは、結構けつこうで、‥‥失禮しつれいながらもう御納盃ごなふはいになりましては。‥‥』
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
それは先に、糸子が訪れた家であり、それよりもすこし前、池谷医師がお竜とおぼしき女と、肩をならべて入っていった家であった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
西南戦争当時なぞの御心労は言うまでもなく、時の難さにさまざまのことをおぼし召されるであろうと、まずそれが半蔵の胸に来る。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
おぼし召は有難いが、お前の案内ぢや、不氣味で仕樣がねえ。又丹波笹山で生捕りましたる、八尺の大鼬おほいたちなんかぢやあるまいネ」
すると、まばゆいようにかゞやをんながゐます。これこそ赫映姫かぐやひめちがひないとおぼしてお近寄ちかよりになると、そのをんなおくげてきます。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
其方せんが親と成り傳吉が無實むじつの罪を助けんとざいをしまず眞實しんじつの心より專を助け萬事に心添こゝろそへ致しつかはし候段奇特きどくおぼめさるゝ旨御賞詞ごしやうし有之
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これは神様が娘のレミヤを生涯独身で暮させようとおぼし召す体徴しるしではあるまいか……というような取越苦労が、次から次に湧いて来るので
霊感! (新字新仮名) / 夢野久作(著)
これに異なって、回教は何事も上帝のおぼし召しのままと諦めるべく教える。したがって狗の食事についてもこんな話が『千一夜譚』にある。
「山県様に一日も早く、お逢いなさろうとおぼして、先をお急ぎなさいますそうな」下僕の小平はからかうようにいった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
二更過ぐる頃軽井沢に辿り着きてさるべき旅亭もやと尋ぬれども家数、十軒ばかりの山あいの小村それとおぼしきも見えず。
旅の旅の旅 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
うたおぼすらむ。然れども昼牟子を風の吹き開きたりつるより見奉るに、更にものおぼえずつみゆるし給へ云々うんぬん」とある。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
大方殿は、彼が持ち帰りました此の品を、用なきものとおぼし召して屍骸と一緒にお取り捨てになったのでござりましょう。
思ひの外なる御驚おんおどろききに定めてうわそらともおぼされんが、此願ひこそは時頼が此座の出來心できごゝろにてはつゆさふらはず、斯かる曉にはとかねてより思決おもひさだめし事に候。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
かえって心配の種子たねにて我をも其等それらうきたる人々と同じようおぼいずらんかとあんそうろうてはに/\頼み薄く口惜くちおしゅう覚えて、あわれ歳月としつきの早くたてかし
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
美術御奨励のためにという上の厚いおぼし召しであるので、年金を給したのはいわば慰労金といったようなもので
古藤さん、あなた貧乏くじを背負い込んだとおぼして、どうか二人ふたりを見てやってくださいましな。いいでしょう。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
少女おとめへやでは父とおぼしき品格よき四十二三の紳士が、この宿の若主人を相手に囲碁に夢中で、石事件の騒ぎなどは一切知らないでパチパチやって御座ござる。
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「のう、お梶どの。そなたは、この藤十郎の恋を、あわれとはおぼさぬか。二十年来、え忍んで来た恋を、あわれとは思さぬか。さても、きついお人じゃのう」
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「このみちをまっすぐにゆきなされば、あなたのおぼしなさるところへられます。」ともうしあげました。
強い大将の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「若旦那さまのおぼし召は、身に余る冥加みょうがでございますけれど、本当に勿体もったいないほど有難うございますけれど、わたくし国のほうに約束をした者がございまして」
日本婦道記:小指 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
東の京に住む君は、西なる京なつかしとおぼさぬにてはあらざりき。父の帝の眠ります西の京、其処そこれまし十六までそだち玉ひし西の京、君に忘られぬ西の京。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「あはれとおぼし、峰、山、たけの、姫たち、貴夫人たち、届かぬまでもとて、目下もっか御介抱ごかいほう遊ばさるる。」
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
加津佐かづさあたりとおぼしい煙も、見えます……を転ずると、小浜おばまの港が、指呼しこのうちに入ります。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
ほとんどへや全体の床にわたっていて、濛気で堆塵の上に作られた細溝には相違ないけれども、不思議なことに、天井や周囲の壁面には、それとおぼしい痕跡が残されていない。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
泰勝院殿は甲冑かっちゅう刀剣ゆみやりの類をつらねて御見せなされ、蒲生殿意外におぼされながら、一応御覧あり、さて実は茶器拝見致したく参上したる次第なりと申され、泰勝院殿御笑いなされ
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
言うに言われぬわけあって、夫殺しの咎人とがにんと、死恥しにはじさらす身の因果、ふびんとおぼし一片の、御回向ごえこう願い上げまする、世上の娘御様方は、この駒を見せしめと、親の許さぬいたずらなど
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
千々岩ちぢわはおりおりまいり候由。小生らは誠に親類少なく、千々岩はその少なき親類の一にんなれば、母上も自然頼みにおぼす事に候。同人をよくたいするも母上に孝行の一に有之これあるべく候。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
これもまた破壊党の所業だとおぼし召されてもよろしゅうございます(拍手喝采)。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
トルコ皇帝陛下は近頃メジナにある回々教祖フイフイきょうそマホメットの墓に電灯をつけて神聖な墓地の闇を照らそうという事をおぼし立たれて英国の某会社に右の工事一切を御下命になったと伝えられている。
話の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
子育てを助け守りたもうべき深いおぼし召しのある井戸だから、早くさらえて清くせよと出たので、それからはいよいよこれを日用のために汲む者が、たたりを受けるようになったということであります。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それが、おりもおり、いよいよ、その相談そうだんがきまろうというまえの日になって、わが子のいのちがトーケルン湖にうばわれたということは、きっとなにかかみさまのおぼしがあるのにちがいありません。
此の二二九まさしきことわりをおぼしわけて、御疑ひを解かせ給へ。
「間柄うじ、そうおぼしたら、遠慮のう、手を下されたがいいぞ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
里ずみに老いぬと云ふもいつはりの歌と或る日は笑めりとおぼ
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
蝶のやうにものに口あて御薬みくすりを吸うてうともおぼしはよらじ
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
おとッつさんのおぼし召しはありがたく思いますが、一度わたしは懲りていますから、今度こそわが身の一大事と思います。どうぞ三日の間考えさしてください。承知するともしないともこの三日の間にわたしの料簡りょうけん
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そを今おぼし、災難を、ウーリュンポスに住める君
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
堅く結びし唇を内より突き破かれし者とおぼしく
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
天子てんしさまはたいそうどくおぼして
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
香奠こうでんをやると、おぼしめして——」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「煙の臭ひうるさしとおぼさずや。」
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
今般版籍奉還の儀につき、深く時勢を察せられ、広く公議を採らせられ、政令帰一のおぼし召しをもって、言上ごんじょうの通り聞こし召されそうろう事。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あゝ貴君あなたのやうにもないおりき無理むりにも商買しようばいしてられるは此力このちからおぼさぬか、わたし酒氣さかけはなれたら坐敷ざしきは三昧堂まいどうのやうにりませう
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
蔭凉軒の跡とおぼしきあたりも激しいいくさの跡をしのばせて、焼け焦げた兵どもの屍が十歩に三つ四つはまろんでいる始末でございます。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
「ここへ自分が泊り合せたのは、天が、天に代って、このあわれな民を救えとの、おぼめしかも知れぬ。……おのれ、鬼畜どもめ」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
最前見たる色若衆いろわかしゆおぼしく半面をあらはして秘かに打ちみつ。手真似にて斬れ/\。その鉄砲は無効々々だめだめと手を振る体なり。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)