けん)” の例文
その天空に浮遊するかの如き、けんにして美なる林道を「天の浮橋」と呼ぶそうであるが、何よりも喬木林の陰森さにおどろかされる。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
剣閣のけんに拠って、鍾会しょうかい対峙たいじしていた姜維きょういも、成都の開城を伝え聞き、また勅命に接して、魏軍に屈伏するのやむなきにいたった。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一行はじめて団結だんけつ猛然もうぜん奮進にけつす又足を水中にとうずれば水勢ます/\きうとなり、両岸の岩壁いよ/\けんとなり、之に従つて河幅はすこぶちぢま
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
僕だけでは、ございません。自己の中に、アルプスのけんにまさる難所があって、それを征服するのに懸命です。僕たちは、それを為しとげた人を
花燭 (新字新仮名) / 太宰治(著)
みんながそうしたものだから、山姫山のけんもついに征服して、やがて地形は、わりあいにゆるやかな斜面となった。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
すでに爾も知る如く、年頃われ曹彼の金眸をあだと狙ひ。機会おりもあらば討入りて、かれが髭首かかんと思へと。怎麼にせん他が棲む山、みちけんにして案内知りがたく。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
枕山は天保六年の秋有隣舎を去って東帰の途に上り、箱根のけんえんとする時、五言古詩一篇を賦した。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
口をきませんという答をしたあとで、魚の骨を食べさせると吐くんですと説明するから、じゃ食わせんが好いじゃないかと、少しけんどんに叱りながら書見をしていた。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小股こまたのしまった、うりざね顔で、鼻筋の通った、目のおおきい、無口で、それで、ものいいのきっぱりした、少し言葉尻の上る、声に歯ぎれのけんのある、しかし、気の優しい
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その果たしてしかるや否やは容易に断ずるを得ざるも、天然のけんによりて世界と隔絶し、別に一乾坤けんこんをなして自ら仏陀ぶっだの国土、観音の浄土と誇称せるごとき、見るべきの異彩あり。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「アーサー、お父さんは、今、アルプスのけんをこえたナポレオンと同じだぞ。美しい都が眼の下にあるのだ。そして、お父さんはそれをたたきつぶすのだ。お前も手柄を立てるのだぞ。」
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
落合迄滊車、夫れより国境のけんは歩行し、清水にて一泊。夫れより帯広に出で、来合わせたる又一に面話し、一泊。高島農塲に一泊。利別としべつ一泊。足寄あしょろにて渋田しぶたに一泊し、西村が傷をしんす。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
特にここにいただきとはいはずして絶頂といひし所以の者は、「ぜつちやう」といふ語調の強きがために山いよいよけんなるを覚え、随つてたのもしきといふ意ますます力を得て全句活動すべし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
彼はこの危険な弟子に向って言った。もはや、伝うべきほどのことはことごとく伝えた。なんじがもしこれ以上この道の蘊奥うんのうを極めたいと望むならば、ゆいて西のかた大行たいこうけんじ、霍山かくざんの頂を極めよ。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
直義の大軍勢は、破竹はちくの勢いで、備前和気郡の三石みついしへかかっていた。——船坂峠へかけて、ここは山陽第一のけんといわれる砦である。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あさ須原峠のけんのぼる、偶々たま/\行者三人のきたるにふ、身には幾日か風雨ふううさらされてけがれたる白衣をちやくし、かたにはなが珠数じゆづ懸垂けんすゐし、三個の鈴声れいせいに従ふてひびきた
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
かれは、單身たんしんやままたやまけてあたらしい知己ちき前途ぜんとおもつた。蜀道しよくだう磽确かうかくとしてうたけんなるかな。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
頂上久須志くすし神社から、吉田へ引き落す北口の線は、最も急にして短く、同じ頂上の銀明水ぎんめいすいから、胸突むなつき八丁のけんすべって、御殿場町へと垂るみながら斜行する東口の線は、いくらか長く
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
西片上にしかたがみまで来て、さきに別れた本軍と合し、一方は船坂越えから姫路へ急行したが、秀吉はそこのけんを避けて船で赤穂あこうへ上陸した。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其處そこで、暑中休暇しよちうきうか學生がくせいたちは、むしろ飛騨越ひだごえ松本まつもとけんをかしたり、白山はくさんうらづたひに、夜叉やしやいけおく美濃路みのぢわたつたり、なかには佐々成政さつさなりまさのさら/\ごえたづねたえらいのさへある。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一は曰く飽迄あくまで従前の如く水中をさかのぼらん、一は曰く山にのぼり山脈を通過つうくわして水源の上にでん、ことに人夫中冬猟の経験けいけんありて雪中せつちう此辺にきたりしもの、皆曰く是より前途はけんさらに嶮にしていう更に幽
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
城の山麓さんろくは、市川の本流と支流とが三方をめぐっている。しかも、西北も西南も、狼山おおかみやまや太平山のけんに囲まれ、近寄るすべはないのである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上京じやうきやうするのに、もうひとつの方法しかたは、金澤かなざはから十三里じふさんり越中ゑつちう伏木港ふしきかうまで陸路りくろたゞ倶利伽羅くりからけんす——伏木港ふしきかうから直江津なほえつまで汽船きせんがあつて、すぐに鐵道てつだうつゞいたが、まをすまでもない、親不知おやしらず
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そして、山へかかるとまた、実平は政子を負い直して、半島の背ぼねをなしている伊豆山の裏道のけんすべりながらじて行った。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けんな目をちょっと見据えて
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
道はなるべくけんにし、河は必要のほかこれにけず、どこにも彼処かしこにも関所をおいて、深く守っているのが、国々、群雄ぐんゆう割拠かっきょすがただった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高岡の城は、北畠随一といわれる豪将ごうしょう山路弾正やまじだんじょうがこれを守り、その兵は強く、地勢はけん、いかで口先で貴公がいわるるように簡単におちいろうか。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——背に、伊吹のけん、北国東海の二道をやくし、舟路しゅうろ一駆いっくすれば、京は一瞬の間にある。——しかも、平和を愛して、自適するにも、絶佳の景」
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「一山一心一体。尊林坊がことばは即ち全山の声でござる。さもなくて、何でこの山のけんに信長調伏の旗を立てようや」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また遠くは、上州三国のけんをこえて、越後春日山へ討ち入り、上杉勢の本拠をつくべく、すでに呼応の聯絡れんらくをとっていた滝川一益かずます麾下きかの軍隊へも。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「山路のけんようして、みすみす伏兵が待つを知りながら、この疲れた兵と御身をひっさげて、山越えなさんとは、如何なるご意志によるものですか」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先頭の者の槍の柄に、あとの者がすがり、その腰に、その槍の柄にまたつかまってようやく三町余りのけんを踏み越えた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
美濃、尾張を境する木曾の大川をその上流に監視し、まぢかに鵜沼うぬまの渡しをやくして、一城よく百塁のけんにあたるものを、あたら敵へ加えてしまった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それもただ、地のけんを守って、生きながらえていようというだけの消極的なものではなく、昌幸も次男の幸村ゆきむらも、実は、鬱勃うつぼつたる雄心ゆうしんを蔵していた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
地勢こそけんだが、また、草木もなびくべき天皇旗だが、いたずらに山風寒いのみで、せ参じてくる者といっては、微々たる小族烏合うごうともがらばかりだった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とはいえ勿論、山といえばけんがある。谷がある。信長の気難きむずかしさや、測り知れない豹変ひょうへんや、癇癖かんぺきや我儘や、ずいぶん人間的な短所は官兵衛も承知である。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
冠山の城は、地勢はけん、守将は剛、出城として、充分守るに足る資格をそなえていたが、ひとつ欠陥があった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中腹、山上にかけて、十数ヵ所のけん防寨ぼうさいをかまえていた山徒の守りを突破して、全山をけまわった織田軍の兵は、火を放って、烈風に喊声かんせいらした。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「過大に恐れてもいませんが、過大に莫迦ばかにしてもおりません。わが精兵百万、艦船数百隻、三江のけんを池として、呉はただ呉を信じているだけであります」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「こんどの御出馬は、北陸山脈のけんまたがり、陣中、御難儀も多かったでしょうに、お疲れのていもなくて」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鵯越ひよどりごえのけんへまわるなどという事は、平家方はもとよりの事、彼の帷幕者いばくしゃでさえ、誰も予想していなかった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
敵をけんに誘い、味方を不敗の地にらせ、而して、計をうごかし、変を以て、これを充分に捕捉滅尽ほそくめつじんする。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
桟道さんどうけんで野心家の魏延ぎえん誅伐ちゅうばつした楊儀も、官をがれて、官嘉かんかに流され、そこで自殺してしまった。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、大岳のけんがものをいって、いつも完勝にはいたらない。——いやそのたび、数百数千の犠牲をすてては逃げくだるのがやっとだった。じたい戦法がムリなのである。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
西風にじょうじて火をはなたば、前方のけん城兵じょうへい墓穴はかあな、とりでも自滅じめつのほかはあるまいと思うがいかに
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこに立籠たてこもっている兵も千二百ぐらいな小勢でしかない。しかし山腹のけんを負い、渓谷を前にし、寄手の作戦行動は、極めて狭隘きょうあいな悪地にしかゆるされない条件にある。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いわんや、いくさにも敗れ、天子以下、両院や女御にょごの方々までを、こんなけんにさすらわせたのは、ひとえに自分の落度であると、めを、身一つにしていたようなのだ。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……と見るや、敵は城をひらき、どっと飛虎峪ひこよくけんまで猛追撃してきたが、ここにも伏兵がおかれていたので、逆に彼らは大いたでを負って、逃げもどってしまった様子。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長江千里の上流、揚子江の水も三峡のけんにせばめられて、天遠く、碧水へきすいいよいよ急に、風光明媚な地底の舟行を数日続けてゆくと、豁然かつぜん、目のまえに一大高原地帯がひらける。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後にまわすのは、遠征の策ではない。北伊勢のけん、高岡の城だにおとしてしまえば、たのみの中心をうしなって、余の北畠一族は、四散滅裂すること、火を見るよりもあきらかである
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)