妻子さいし)” の例文
ここをやめたからとて、妻子さいしをやしなってゆくくらいにこまりもせまいが、しかたがない、どうなるものかえきのない考えはよそう。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
『はゝゝゝゝ。きみはまだわたくし妻子さいし御存ごぞんじなかつたのでしたね。これは失敬しつけい々々。』といそがはしく呼鈴よびりんらして、いりきたつた小間使こまづかひ
彼は、親には早く死にわかれ、兄弟もなければ妻子さいしもなく、天涯孤独てんがいこどくの身の上だった。財産だけは、親譲おやゆずりで相当のものが残されていた。
脳の中の麗人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは親兄弟、妻子さいし朋友ほうゆうのごときはもちろん敵ではないが、彼らが我々の心にふくさぬことがあれば、その不服ふふくの範囲において敵のごときものである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その老臣ろうしんは、つつしんで天子てんしさまのめいほうじて、御前ごぜんをさがり、妻子さいし親族しんぞく友人ゆうじんらにわかれをげて、ふねって、ひがしして旅立たびだちいたしましたのであります。
不死の薬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
成程なるほど一日いちにちの苦とうつかれていへかへツて來る、其處そこには笑顏ゑがほむかへる妻子さいしがある、終日しうじつ辛勞しんらう一杯いつぱいさけために、陶然たうぜんとしてツて、すべて人生の痛苦つうくわすれて了ふ。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
妾と夫婦の契約をなしたる葉石は、いうまでもなく、妻子さいし眷属けんぞく国許くにもとのこし置きたる人々さえ、様々の口実を設けては賤妓せんぎもてあそぶをはじとせず、ついには磯山の如き
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
きやく結城朝之助ゆふきとものすけとて、みづか道樂だうらくものとはのれども實体じつていなるところ折々をり/\えて無職業むしよくげふ妻子さいしなし、あそぶに屈強くつきやうなる年頃としごろなればにやれをはじめに一しゆうには二三かよ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
われらは平和なる家庭の主人として、少くとも衣食の満足を、吾らと吾らの妻子さいしとに与えんがために、この相撲に等しいほどの緊張に甘んじて、日々にちにち自己と世間との間に
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しミツシヨンより金をもらこと精神上せいしんじやうかれかれ教会けうくわいの上にがいありとしんずればたゞちに之をつにあり、我れゆるとも可なり、我の妻子さいしにして路頭ろとうまよふに至るも我はしのばん
問答二三 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
脚に疵あるは天譴てんけんかうむ所以ゆゑん、或は天譴を蒙れりと思ひ得る所以ゆゑんなるべし、されど我は妻子さいしを殺し、彼は家すら焼かれざるを見れば、誰か又所謂いはゆる天譴の不公平なるに驚かざらんや。
ごくからかへつて見ると石がない、雲飛うんぴは妻をのゝしち、いかりいかり、くるひにくるひ、つひ自殺じさつしようとして何度なんど妻子さいし發見はつけんされては自殺することも出來できず、懊惱あうなう煩悶はんもんして居ると、一夜
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
被害者ひがいしゃ刈谷音吉老人かりやおときちろうじんは、もと高利貸こうりかしでへんくつで、昼日中ひるひなかでももんしまりをしていて、よびりんをさないと、ひと門内もんないとおさなかつたというほどに用心ようじんぶかく、それに妻子さいしはなく女中じょちゅうもおかず
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
そんなのはとく産土神様うぶすなのかみさまうかがいまして、差支さしつかえのないものにはできるだけはなしまとまるようにほねってやりますが、ひょっとすると、妻子さいしのあるおとこと一しょになりたいとか、また人妻ひとづまはしてくれとか
宜敷御廻おまはり下さるべし是のみ心懸こゝろがかり故縁者えんじや同樣の貴殿きでんなれば此事頼み置なりまた妻子さいしのこともよろしくお世話下せわくだされよと遺言ゆゐごんなし夫よりせがれ吉三郎に向ひ利兵衞殿むすめお菊は其方そなた胎内たいないより云號いひなづけせしに付利兵衞殿を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
んと奇妙きめうではありませんか、これてん紹介ひきあはせとでもふものでせう、じつわたくし妻子さいしも、今夜こんや弦月丸げんげつまる日本につぽん皈國かへりますので。
糟谷かすやはこう考えながら、自分には子どもがふたりあるということをつよく感じて、心持ちよくねむっている妻子さいしをかえりみた。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
妻子さいしの死を聞いた俊寛は、千鳥を船に乗せる為に、妹尾太郎せのをたらうを殺してしまふ。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
伸一先生しんいちせんせい給料きふれうつき十八ゑんしか受取うけとりません、それで老母らうぼ妻子さいし、一にん家族かぞくやしなふてるのです。家産かさんといふは家屋敷いへやしきばかり、これを池上權藏いけがみごんざう資産しさんくらべてると百分一ひやくぶんのいちにもあたらないのです。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
守られよと云ひ捨て我が方へ歸り妻子さいしにも此ことを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
妻子さいしてて、奮然ふんぜん学問のしなおしをやってみようかしら、そんならばたしかに人をおどろかすにたるな。やってみようか、おもしろいな奮然ふんぜんやってみようか。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
日本の戯曲家ぎきょくかや小説家は、——殊に彼の友だちは惨憺さんたんたる窮乏きゅうぼうに安んじなければならぬ。長谷正雄はせまさおは酒の代りに電気ブランを飲んでいる。大友雄吉おおともゆうきち妻子さいしと一しょに三畳の二階を借りている。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
『え、きみ細君さいくん御子息ごしそく⁈』とわたくし意外いぐわいさけんだ。十ねんあひあひだに、かれ妻子さいし出來できことなに不思議ふしぎはないが、じついまいままでらなんだ、いはんや其人そのひといま本國ほんごくかへるなどゝはまつた寢耳ねみゝみづだ。
高手小手にいましめて妻子さいしなくをもかまはゞこそ四方を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
良平は二十六の年、妻子さいしと一しょに東京へ出て来た。今では或雑誌社の二階に、校正の朱筆しゅふでを握っている。が、彼はどうかすると、全然何の理由もないのに、その時の彼を思い出す事がある。
トロッコ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)