ざか)” の例文
さて、旧街道を——庫裡くりを一廻り、寺の前から——路をうずめた浅茅あさじを踏んで、横切って、石段下のたらたらざかを昇りかかった時であった。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
少年しょうねんは、さかうえまでしてやりました。しかし、おとこくだざかにかかるとれいもいわずに、さっさといってしまいました。
石をのせた車 (新字新仮名) / 小川未明(著)
はしうへに立つて、欄干らんかんからしたを見おろしてゐたものが二人ふたりあつた。金剛寺ざかでは誰にも逢はなかつた。岩崎家の高い石垣が左右から細い坂道さかみちふさいでゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
が、幕府が瓦解がかいし時勢が一変し、順風に帆を揚げたような伊藤の運勢がくだざかに向ったのを看取すると、天性の覇気が脱線してけたはずれた変態生活に横流した。
日本の七八月と思ふ程変調に暑い日の午後、だらだらざかに成つて居る赤土の焼けたその村のみちは、アカシヤの若葉の並木が続いて居るにかゝはらず歩きぐるしかつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
飯田町いいだまち三丁目もちの木ざかした向側の先考如苞翁じょほうおうの家から毎日のように一番町なるわたしの家へ遊びに来た。
梅雨晴 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
何故かならばいかにも空気が稀薄ですから、三途ののがざかを二里ばかり登りますと非常に疲れて呼吸が大分苦しくなったから少しは薬なども飲むつもりで休みました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
松並木まつなみききると、いしだたみのだら/\ざかがあつて、へんから兩側りやうがは茶店ちやみせならんでゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ヅーッと何処どこまでもつづく山路やまじ……たいへんたかとうげにかかったかとおもうと、今度こんどくだざかになり、みぎひだりにくねくねとつづらにれて、とき樹木じゅもくあいだからあお海原うなばらがのぞきます。
仏天青フォー・テンチンも、人々のうしろから、柵の中にはいった。狭いくだざかを、ついていくと、やがて、電灯のついただだっぴろい部屋が見えた。ぷーんとえくさい空気が、彼の鼻をうった。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
旗を伏せ、馬蹄ばていをしのばせ、二宮村、池内村をすぎ、物狂ものくるざかで、朝となった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぼくたちむら子供こどもは、見送みおくるつもりでしばらくかねのうしろについていった。さんざかもすぎたが、誰一人だれひとりかえろうとしなかった。小松山こまつやまのそばまでたが、まだだれかえるようすをせなかった。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
その黄泉比良坂よもつひらさかというのは、今の出雲いずもの國のイブヤざかという坂です。
間もなく、下谷からこのやきもちざかまでひた走りにけて来る途中、屋敷の近くへ来てからこの雨にやられたとみえて、全身れ鼠になってみじめな幸吉のすがたが、おずおずしながら通されて来た。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
紛々たる人のうわさは滅多にあてにならざか児手柏このでがしわ上露うわつゆよりももろいものと旁付かたづけて置いて、さて正味の確実たしかなところを掻摘かいつまんでしるせば、うまれ東京とうけいで、水道の水臭い士族の一人かたわれだと履歴書を見た者のはな
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
すかされ機械仕掛きかいじかけのあやつり身上しんじやう松澤まつざはももうくだざかよとはやされんは口惜くちをしくなる新田につた後廻あとまははら織元おりもと其他そのほか有金ありがね大方おほかたとりあつめて仕拂しはらひたるうはさこそみゝよりのことなれと平生ひごろねらひすませしまと彼方かなたより延期えんき
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ようやくだらだらざかになって、上りきったナと思うと
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
やれ、もひとつくだれ、くだざか
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
だらだらざか二側ふたかは
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
(○註に、けわいざか——実は吉原——近所だけか、おかしなことばが、うつッていたまう、)と洒落しゃれつつ敬意を表した
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人はまただらだらざかの中途にあるうちの前へ来た。はいる時には誰もいる気色けしきの見えなかったえんに、おかみさんが、十五、六の娘を相手に、糸巻へ糸を巻きつけていた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あがざかの街を、ぶらぶらのぼってゆくと、やがて大きなやしろの前に出た。鳥居の間から、ひろい境内けいだいが見える。太い銀杏樹いちょうのきが、百日鬘ひゃくにちかずらのように繁っている。彼は石段に足をかけようとした。
脳の中の麗人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
巴里パリイの道ももう此辺このへんはアスフワルトでもなければ切石きりいしを敷いた道でもない。清水の三年ざか程の勾配をのぼる靴はかなり迷惑な土ぼこりを身体からだに上げる。八月の中頃であるからだ暑さも一通ひととほりではない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
やれ、もひとつあがれ、のぼざか
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
もちのざか
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兩側りやうがは大藪おほやぶがあるから、ぞくくらがりざかとなへるぐらゐたけそらとざして眞暗まつくらなかから、烏瓜からすうりはな一面いちめんに、しろほしのやうなはなびらいて、東雲しのゝめいろさつす。
山の手小景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
麻布の松は、くらがりざかの上にかくれて、まだ見えない。道の右手に、寺の石磴いしだんがすっくと高い。心なしか、この磴が金沢の松のあがり口にそっくり似ている。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日はなり。あららのたらたらざかに樹の蔭もなし。寺の門、植木屋の庭、花屋の店など、坂下をさしはさみて町の入口にはあたれど、のぼるに従いて、ただはたばかりとなれり。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その袖の香を心当てに、谷中やなかのくらがりざか宵暗よいやみで、愛吉は定子(山の井夫人)を殺そう。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いま憂慮きづかひなし。大塚おほつかより氷川ひかはりる、たら/\ざかは、あたか芳野世經氏宅よしのせいけいしたくもんについてまがる、むかし辻斬つじぎりありたり。こゝに幽靈坂いうれいざか猫又坂ねこまたざか、くらがりざかなどふあり、好事かうずたづぬべし。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
浜辺は煮えてにぎやかに、町は寂しい樹蔭こかげの細道、たらたらざかを下りて来た、前途ゆくては石垣から折曲る、しばらくここにくぼんだ処、ちょうどその寺の苔蒸こけむした青黒い段の下、小溝こみぞがあって、しぼまぬ月草
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おもつてあひだくだんのだら/″\ざか大分だいぶながかつた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
くらがりざかを通った時だよ。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)