地獄じごく)” の例文
わたしは地獄じごくの口からのがれた。わたしが思いどおりにやれば、親方の首に両手をかけて、強く強くだきしめたところであったろう。
「うう、こわいこわい。おれは地獄じごく行きのマラソンをやったのだ。うう、切ない。」といいながらとうとうげて死んでしまいました。
蜘蛛となめくじと狸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
一鶯斎国周いちおうさいくにちか画、あるいは芳綱よしつな画として、浮世絵師の筆になった悲惨な光景がこの世ながらの地獄じごくのようにそこに描き出されている。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
其他そのたあらたに温泉おんせん冷泉れいせんはじめることもあり、また炭酸瓦斯たんさんがす其他そのた瓦斯がす土地とちからして、とり地獄じごくむし地獄じごくつくることもある。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
いずれにしてもわたくしのような強情かたくなものは、現世げんせってはひとにくまれ、幽界ゆうかいては地獄じごくおとされ、たいへんにそんでございます。
福の子は鬼のおかあさんに、こまっているところをたすけてもらったおれいをくりかえしいって、地獄じごくをたちさりました。
それを今わたし一人、はらいその門にはいったのでは、どうしても申しわけがありません。わたしはやはり地獄じごくの底へ、御両親のあとを追って参りましょう。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私もその被害者ひがいしゃである。机の辺へ来て、何遍でも行き先を聞きただす。うるさいから「地獄じごく」というと、かまわず「ハイ地獄!」といって切符きっぷをくれる。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
夜もすがら、百八ヵ所できあかしているかがり火のため、人穴城ひとあなじょう殿堂でんどうは、さながら、地獄じごくの祭のように赤い。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(月雲にかくる)あゝ信頼のぶよりの怨霊よ。成親なりちかの怨霊よ。わしにつけ。わしにつけ。地獄じごくに住む悪鬼あっきよ。陰府よみに住む羅刹らせつよ。湿地しっちに住むありとあらゆる妖魔ようまよ。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
地獄じごくのことならおにの思うままだから、おにの人形をこしらえたら、それであの人形が取りもどせるだろう」
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「とても地獄じごく一定いちじょうすみかぞかし」とか、「親鸞は弟子でし一人も持たずさふらふ」とか、「父母の孝養こうようのためとて、念仏一返にても申したることいまださふらはず」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
ばかにするのか? 地獄じごくから、やっとしてきたおれたちにかって、幸福こうふくしまとはなんのことだ?おまえがたは、久々ひさびさかえってきたものを侮辱ぶじょくするつもりなのか。
明るき世界へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
試験! それは生徒に取って地獄じごくの苦しみである、もし平素善根ぜんこんを積んだものが死んで極楽にゆけるものなら、平素勉強をしているものは試験こそ極楽の関門である
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
博士はくしには、そのときの透明人間とうめいにんげんの声が、地獄じごくのそこからきこえてくる悪魔あくまの声のようにおもえた。
よくると、人のいえ垣根かきねらしいものがあって、中には人がんでいるようですから、ぼうさんたちは地獄じごくほとけさまにったようによろこんで、ずんずん中へはいってみますと
人馬 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ああさっきのお百姓がものの間違まちがいでも故道ふるみちには蛇がこうといってくれたら、地獄じごくへ落ちても来なかったにと照りつけられて、なみだが流れた、南無阿弥陀仏なむあみだぶつ、今でもぞっとする。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それでも一代の激痛は収まらず、注射の切れた時の苦しみ方は生きながらの地獄じごくであった。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「ねえ、あれをしようよ、一郎君。あれをするにはおあつらえ向きの場所だよ。ちゃんと舞台もあるしね、ほら、あそこを“地獄じごくの一丁目”にするんだ。すごいぜ、きっと……」
骸骨館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
精神も肉体もはなはだしく病に虫ばまれた葉子は抱擁によっての有頂天うちょうてんな歓楽を味わう資格を失ってからかなり久しかった。そこにはただ地獄じごくのような呵責かしゃくがあるばかりだった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彼は全く、それへはいる時は地獄じごくへおりて行くような気がするのであった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
浜村屋はまむらやちや。わらわをいて、そなたばかりがどこへく。——そりゃこえぬぞ。わらわも一しょじゃ。そなたのきやるところなら、地獄じごくはてへなりと、いといはせぬ。れてきゃ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
何日いつになったって我々われわれけっしてすものか。』イワン、デミトリチはう、『我々われわれをここでくさらしてしまう料簡りょうけんだろう! 来世らいせい地獄じごくがなくてるものか、こんな人非人共ひとでなしどもがどうしてゆるされる、 ...
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そして、永遠に救われない地獄じごくの鬼となってしまった
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
「ああ、面白かった。おれはもう、毒もみのことときたら、全く夢中むちゅうなんだ。いよいよこんどは、地獄じごくで毒もみをやるかな。」
毒もみのすきな署長さん (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そして、八万八千の魔形まぎょうが、火となり煙となって、舞いおどるほのおのそこに、どんな地獄じごくが現じられたであろうか。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
俊寛 (康頼のそでをつかむ)永久に地獄じごくに残るわしの運命を思ってくれ。それもただ一人で! あゝ考えてもぞっとする。残ってください。残ってください。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
これにはさすがのわたくし我慢がまんつのり、とうとう一さい懺悔ざんげしておゆるしをねがいました。そのめにわたくし割合わりあいはやくあの地獄じごくのような境地ところからることができました。
ところが、湯殿ゆどののなかには、ほんとうに地獄じごくのようにおそろしい火がおこしてあったものですから、美しいわかいお妃さまは、たちまちいきがつまって、んでしまいました。
「私は悪魔ではないのです。御覧なさい、この玉やこの剣を。地獄じごくほのおに焼かれた物なら、こんなに清浄ではいない筈です。さあ、もう呪文じゅもんなぞを唱えるのはおやめなさい。」
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「ははあ、わかったわかった。その人形は地獄じごくる。わけはないから取りに行くがいい」
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「たとへ法然上人ほうねんしょうにんにすかされまゐらせて念仏して地獄じごくにおちたりとも、さらに後悔こうかいすべからずさふらふ」という親鸞しんらんの言葉と、一脈いちみゃく相通あいつうずるところがあるからなのかもしれない。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
神仏混淆こんこうの長い旧習は容易に脱けがたく、神社はまだまだ事実において仏教の一付属たるがごとき観を有し、五、六十年前までは神官と婚姻を結ぶなら地獄じごくちるなど言われて
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二人の坑夫こうふはしかしそれは地獄じごくちるようなものだと言って、はいるのをこばんだ。かれらはろうかをずんずん歩いて行った。わたしたちはそれからもう二度とかれらを見なかった。
毎夜まいよ一人ひとりおんなころした、暴虐ぼうぎゃくなペルシアのおうさまに、おもしろいはなしをしてきかせて、千あいだ地獄じごくから人命じんめいすくったという、うつくしいむすめ芸術げいじゅつで、将来しょうらいぼくがありたいものだな。
金歯 (新字新仮名) / 小川未明(著)
玉太郎は、それから急いでいろいろな方法によって通信をこころみた。その結果、やっぱりラツール氏だと分った。そのときのうれしさは何にたとえようもない。地獄じごくほとけとはこのことであろう。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
天国か地獄じごくかそれは知らない。しかも何もかもみじんにつきくだいて、びりびりと震動する炎々たるほのおに燃やし上げたこの有頂天うちょうてんの歓楽のほかに世に何者があろう。葉子は倉地を引き寄せた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
発見されたら地獄じごく患苦かんくが、口をひらいて待っている。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
板子いたご一枚下は地獄じごくである。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
清盛の懲罰ちょうばつ魔王まおうまかせてください。この世では記録にないほどの恐ろしい苛責かしゃくを受け、死後もまた地獄じごくにおちて永劫えいごうにつきない火に焼かれなくてはならなかったら!
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
おびえきっている梅雪の心は、ふたたびギョッとして立ちすくんだけれど、ふと驚異きょういのものを見なおすとともに、これこそ天来てんらいのすくいか、地獄じごくほとけかとこおどりした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
甚兵衛は家にかえって、その話をさるにいってきかせ、うらなしゃ言葉ことばを二人で考えてみました。地獄じごくるがわけはないというのが、どうもわかりませんでした。二人は一晩ひとばん中考えました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
この極楽の蓮池の下は、丁度地獄じごくの底に当って居りますから、水晶すいしようのような水を透き徹して、三途さんずの河や針の山の景色が、丁度のぞ眼鏡めがねを見るように、はっきりと見えるのでございます。
蜘蛛の糸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「いや、こんどの戦争せんそうでは、おどくかたが、どれほどいるかしれません。なんにしても、戦争せんそうばかりは、地獄じごくにまさる、この地獄じごくですぞ。」と、おしょうさんは、ためいきをもらして
子供は悲しみを知らず (新字新仮名) / 小川未明(著)
わしのむすめがほしいものは、地獄じごくからおにの頭のきんかみを三本とってこなければならんのだ。わしののぞみのものをもってくれば、むすめはそのままおまえのつまにしておいてよろしい。
焦熱しょうねつ地獄じごくのような工場の八時間は、僕のような変質者にとって、むしろ快い楽園らくえんであった。焼け鉄のっぱい匂いにも、機械油の腐りかかった悪臭にも、僕は甘美かんびな興奮をそそられるのであった。
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
目あきもめくらもいっしょになって地獄じごくに飛びこむのが運命だとすれば、その運命をおそれてじたばたするより、その運命の中で生きて行けるたしかな道を求めるほうが賢明けんめいだというお考えなんだ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
それは地獄じごく苛責かしゃくよりも葉子にはえがたい事だ。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
この川をわたりますと、いよいよ地獄じごくの入り口が見つかりました。地獄のなかはまっ黒で、すすけていました。おにはちょうどるすでしたが、鬼のおかあさんが大きな安楽あんらくいすにこしかけていました。
この手紙の中に磅礴ほうはくしている野村の愛と、あの小説の中にぶちまけてある大井の愛と——一人の初子に天国を見ている野村と、多くの女に地獄じごくを見ている大井と——それらの間にある大きな懸隔は
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)