おか)” の例文
ここへ来るまでに、あつさおかして旅行をした宇平は留飲疝通りゅういんせんつうに悩み、文吉も下痢して、食事が進まぬので、湯町で五十日の間保養した。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それゆゑ二階にかいあるひ三階さんがい居合ゐあはせたひとが、階下かいかとほることの危險きけんおかしてまで屋外おくがいさうとする不見識ふけんしき行動こうどう排斥はいせきすべきである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
おかすことなく、たちまち北方へかえるなどという予断が下せるのか。その本題について、はやくお話を触れていただきたいものだが
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あたかも彼がシベリヤの極東オコツク海岸に達したるの時にして、爾来じらい満州をおかし、黒竜江こくりゅうこうの両岸をみだし、機に臨み変に応じ、経略けいりゃく止むなく
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
人から一毫いちごうおかされまいと、強い点をあくまで固守すると同時に、せめて半毛はんもうでも人をおかしてやろうと、弱いところは無理にもひろげたくなる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
折ふし霜月しもつきの雨のビショビショ降る夜をおかしていらしったものだから、見事な頭髪おぐしからは冷たいしずくしたたっていて、気遣きづかわしげなお眼は、涙にうるんでいました。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
……これなる窈窕たる淑女(——私もここにその人物の言ったことばを、そのまま引用したのであるが)窈窕たる淑女のはれ着の袖をおかしたのは偶然の麁匇である。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其日は三ツまたといふえきに宿り、次日暁をおかして此山の神職にいたり、おの/\はらひをなし案内者をやとふ。
根岸の里を物さびしい夜闇やみおかしはじめたころ、片里が住居を打立った三挺の駕籠があって、上野山下を飛ぶがごとく、切通しから湯島台へと上ってゆき、天神のほと
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
勿論もちろんふね嚴然げんぜんたる規律きりつのあることたれつてる、たとへ霹靂へきれき天空てんくうくだけやうとも、數萬すうまん魔神まじんが一海上かいじやう現出あらはれやうとも、船員せんゐんならぬもの船員せんゐん職權しよくけんおかして
我彼に從ひて出で、牧者達の過のため汝等の領地をおかす人々の不義の律法おきてと戰ひ 一四二—一四四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
今歳ことしの正月、長者が宇賀の老爺おじいれて、国司こくしたちに往って四五日逗留とうりゅうしている留守に、むすめは修験者の神秘におかされていたが、そのころになってその反動が起っておりました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
生死出離しょうじしゅつりの大問題ではない、病気が身体を衰弱せしめたためであるか、脊髄せきずい系をおかされて居るためであるか、とにかく生理的に精神の煩悶を来すのであつて、苦しい時には
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
左右の肺の一つが結核菌におかされて駄目になると、のこりの一方の肺が代償だいしょうとして急に強くなり、一つで二つの肺臓の働きをするなどということは、医学上よく聞くことだ。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
雑事におかされない朝夕ちょうせきの時間の中に身を置いて十分に勉強することの出来るのを何よりもうれしいことに思いながら、いわゆる「勉学の佳趣かしゅ」にひたり得ることを満足に感じていた。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
なかんづく一國民こくみんいうする固有名こいうめいもつと神聖しんせいなもので、みだりにからおかされてはならぬ。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
風眼というものは人も知るごとく花柳病かりゅうびょう黴菌ばいきんが眼の粘膜ねんまくおかす時に生ずるのであるから検校の意は、けだしこの乳母がある手段をもって彼女を失明させたことをふうするのである。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
中日は村総出そうでの草苅り路普請みちぶしんの日とする。右左からほしいままに公道をおかした雑草や雑木の枝を、一同らした鎌で遠慮会釈えしゃくもなく切払う。人よく道をひろむを、文義もんぎ通りやるのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
第二十六条 日本臣民ハ法律ニ定メタル場合ヲ除クほか信書ノ秘密ヲおかサルヽコトナシ
大日本帝国憲法 (旧字旧仮名) / 日本国(著)
征衣せいいのまま昼夜草鞋わらじを解かず、またその間にはしばしば降雪にい、ために風力計凝結ぎょうけつして廻転をとどむるや、真夜中にるが如き寒冽なる強風をおかして暗黒あんこく屋後おくごの氷山にじ登り
誰にでも笑いかけそうに、そのくせ固く結んでいる口辺には、おかすことを許さない意志の力が覗いているような、気がする。中肉中ぜいである。いや、いささかふとっているほうかも知れない。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ために、身は乱刀らんとう雨下うかに寸断せられたが、心の独立はついにおかされなかった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
新聞にはそのころ大石橋だいせっきょうの戦闘詳報が載っていた。遼陽りょうよう! 遼陽! という文字が至るところに見えた。ある日、母親は急性の胃におかされて、裁縫を休んで寝ていた。物を食うとすぐもどした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
菅沼地方に陣を敷いて一挙に福島をおかそうとする。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
世襲ときまった職分をおかすセキはない。
ひどい煙 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
他人をおかすことなく
たたかいの中に (新字新仮名) / 今野大力(著)
自分からより以上を望んで、他の豪族との境をさえおかさない限りは、彼の不惑ふわくをこえた将来は悠悠と、彼の思うとおりに送れよう。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
男はの高い葉巻をくわえて、行く行く夜の中へかすかな色を立てる煙を吐いた。それが風の具合でうしろから従がう敬太郎の鼻を時々快ろよくおかした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
花房は興味ある casusカズス だと思って、父に頼んでこの病人の治療を一人で受け持った。そしてその経過を見に、度々瓶有村の農家へ、炎天をおかして出掛けた。
カズイスチカ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
其日は三ツまたといふえきに宿り、次日暁をおかして此山の神職にいたり、おの/\はらひをなし案内者をやとふ。
いらつて、あたかころがつて来て、したまぶちの、まつげをおかさうとするのを、うつつにもめつける気で、きっひとみゑると、いかに、普通見馴みなれた者とは大いに異り、ひとツはくろがねよりも固さうな
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その秘密ひみつおかさゞる範圍内はんゐないおい略言りやくげんすると、この海底戰鬪艇かいていせんとうてい全艇ぜんていながさ百三十ヒートインチ幅員ふくいん中部横斷面ちゆうぶわうだんめんおいて二十二ヒートインチていかたちは、あだか南印度みなみインド蠻人ばんじんが、一撃いちげきもと巨象きよざうたほ
第二十七条 (1) 日本臣民ハノ所有権ヲおかサルヽコトナシ
大日本帝国憲法 (旧字旧仮名) / 日本国(著)
「ふたたび三軍の指揮は取るまい。もしまた汝が敗れたときは、汝もいさぎよく蜀へ帰り、以後二度と魏の境をおかさぬという約束をなせ」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時小林の太いまゆが一層際立きわだってお延の視覚をおかした。下にある黒瞳くろめはじっと彼女の上にえられたまま動かなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ここより薬師堂の方を、六里ばかり越ゆけば草津に至るべし、是れ間道かんどうなり。今年の初、欧洲人雪をおかしてえしが、むかしより殆ためしなき事とて、案内者あんないしゃもたゆたいぬと云。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
第三条 天皇ハ神聖しんせいニシテおかスヘカラス
大日本帝国憲法 (旧字旧仮名) / 日本国(著)
遠い上古、神功皇后じんぐうこうごうさまの挙を今日よりしのび奉っても、あの前後からすでにいかにこの国をおかさんとする外夷がいいがあったか思いやられようが。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分はふり返ってちょっとこの御者を見た。かかった堅い帽子の下から、しもおかされた厚い髪の毛がしている。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だが、仰向いて揺られて行ってはよくないぞ、体の内部にあふれている血が、臓器をおか頭脳あたまへも逆上あがってしまうかも知れん
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
低い天井てんじょうの白茶けた板の、二た所まで節穴ふしあな歴然れっきと見える上、雨漏あまもりみをおかして、ここかしこと蜘蛛くもあざむすすがかたまって黒く釣りをけている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
町々はまだしずかな朝霧につつまれて眠っていたし、ここにはなおおかすべからざる聖域のあることは、卒伍の端といえど深くわきまえている。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遠くの国にいながら、つい近くにあるものを見るように、あざやかな色と形を備えてひとみおかして来た。この不思議な影響が洋杖から出たかも知れないという神経を敬太郎はどこかに持っていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
(魏が呉をおかすときは、蜀は直ちに、魏の背後をおびやかさん。もしまた、魏と蜀とが相たたかう場合は、呉は魏の側面からこれを撃つの義務を持つ)
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(徳川家では、信州をり取ろう。北条方は、上州をお取りなさい。そして、お互いには、おかし合わないことにしよう)
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
罾口川そうこうせんの魏軍は、ほとんど水におかされ、兵馬の大半は押し流され、陣々の営舎は一夜のうち跡形もなくなってしまった。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……三河までは足利家の分国(領分)だが、そこから先をおかせばしぜん反逆の軍になる。あくまで我は、受けて立つ、そこが足利家の名分であるぞよ
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし彼の死後なお三十年間も蜀が他国におかされなかったのはひとえに彼の遺法余徳が、死後もなお国を守っていたためであったといっても過言ではあるまい。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
現状のままでは、明日にも漢中の張魯ちょうろおかされて五斗米ごとべいの邪教軍に蹂躙じゅうりんされてしまうしかありません。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
支那全土を挙げて戦火に連なる戦火の燎原りょうげんと化せしめ、その広汎な陣炎は、北は蒙疆もうきょうの遠くをおか
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)