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數萬
ざつ/\と、あの
續いた
渦が、
一ツづゝ
數萬の
蛾の
群つたやうな、
一人の
人の
形になつて、
縱隊一列に
入つて
來ました。
勿論、
船に
嚴然たる
規律のある
事は
誰も
知つて
居る、たとへ
霹靂天空に
碎けやうとも、
數萬の
魔神が一
時に
海上に
現出れやうとも、
船員ならぬ
者が
船員の
職權を
侵して
其の
暗夜から、
風が
颯と
吹通す。……
初嵐……
可懷い
秋の
聲も、いまは
遠く
遙に
隅田川を
渡る
數萬の
靈の
叫喚である。……
蝋燭がじり/\とまた
滅入る。
下界を
見ると
眼も
眩むばかりで、
限りなき
大洋の
面には、
波瀾激浪立騷ぎ、
數萬の
白龍の
一時に
跳るがやうで、ヒユー、ヒユーと
帛を
裂くが
如き
風の
聲と
共に、
千切つた
樣な
白雲は
眼前を
掠めて
飛ぶ