仮初かりそめ)” の例文
旧字:假初
しからざりし以前より、かれはこの僂麻質の持病に悩みて、仮初かりそめなるくるまの上下にも、小幾、重子など、肩貸し、腰を抱きなどせしなり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さるにても弓矢取る者の仮初かりそめにも乗るまじきは輿車ぞかし、思う仔細のある間、兎にも角にも藤の森まで参るようにと、輿を急がせた。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
みちのつよきひとなればむなぐるしさえがたうて、まくら小抱卷こがいまき仮初かりそめにふしたまひしを、小間こまづかひのよねよりほか、えてものあらざりき。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しかし初冬が訪れると間もなくミチミは仮初かりそめの風邪から急性の肺炎に侵されるところとなり、それは一度快方に赴いて暫く杜を悦ばせた。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
仮初かりそめにも人にきずを付ける了簡りょうけんはないから、ただ一生懸命にけて、堂島五丁目の奥平おくだいらの倉屋敷に飛込とびこんでホット呼吸いきをした事がある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
又正しく彼女を取り扱うことの出来ないものが、仮初かりそめにも彼女に近づけば、彼女は見る見るそのやさしい存在からしおれて行く。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
……もっともお手前の今度の過失あやまちは、ほんの仮初かりそめ粗忽そこつぐらいのものじゃが、それでもお手前のためには何よりの薬じゃったぞ
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
仮初かりそめにも一匹いつぴきの男子たる者が、金銭かねの為に見易みかへられたかと思へば、その無念といふものは、私は……一生忘れられんです。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
吉野の北山でもゴンパチはイタズロと併存しているから、これもいたって仮初かりそめなる流行に始まるものと見てよかろうと思う。
「金銀は卑しきものとて手にも触れず、仮初かりそめにも物の直段ねだんを知らず、泣言なきごとを言はず、まことに公家大名くげだいみょう息女そくじょの如し」とは江戸の太夫たゆうの讃美であった。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
... 最初から食物に出来ている胚乳ですから人が食べても身体からだの滋養分になるのです」と仮初かりそめの話にも小山の妻君感服し
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
これまで育て上げたをほんの仮初かりそめの病で手もなくられましたことは、私に取っては二つの不幸でありました。
彼女は仮初かりそめの扮装があだとなり、とうとう乞食の群に身を落す運命となった、乞食となり下った伯爵令嬢の不思議にも痛ましき身の上、それを細叙したならば
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そのほどほどの人妻に成りたるものとやいはまし——仮初かりそめの筆すさび成りける枕の草紙をひもときはべるに
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
仮初かりそめながら知合しりあいとなったじいの耳へもあなたのよい評判を聞せてもらい、然し何もあなたを追立おいたてる訳ではないが、昨日もチラリト窓からのぞけば像も見事に出来た様子
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その後にある一間ばかりの丈の赤松の根元に二枚の板をもたせ置けるあり。こは前日の野分のわきに倒れたるを母などが引き起して仮初かりそめの板を置きそれで支へるつもりなり。
明治卅三年十月十五日記事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
すなわちその正価というものが、中村屋では割引など仮初かりそめにも出来ないほんとうの正価に据えられているのであって、この正価販売への精進こそは我が中村屋の生命である。
今まで仮初かりそめにも許嫁と云う約束を以て同じ屋根の下に暮して来たのが、忌々しい、併し夫よりも差し迫った問題は何うして此の松谷秀子を虎の顋から救い出すかと云うに在るのだ
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
一年ひとゝせ夏の頃、江戸より来りたる行脚あんぎや俳人はいじんとゞめおきしに、いふやう、此国の所々にいたり見るに富家ふかにはには手をつくしたるもあれど、かきはいづれも粗略そりやくにて仮初かりそめに作りたるやうなり
ささがこうしてついそれなりに、雑魚寝ざこねまくら仮初かりそめの、おや好かねえあけの鐘——。」
これは夜の意識が仮初かりそめに到達した安心のさかいではあるが、この境が幸に黒甜郷こくてんきょうの近所になっていたと見えて、べろべろの神さんの相変らず跳梁ちょうりょうしているにも拘らず、純一は頭を夜着の中にうずめて
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
だからこの世は無常である。無常から脱れられないのが二元に住むものの宿命である。だが凡てのそれらの無常なもの有限なものは、虚仮なのである。仮初かりそめなのである。本来の実相ではないのである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
身のあらんかぎり思はず仮初かりそめの世にいつまでのうかれ心ぞ
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
今己の最後の仮初かりそめならぬ一歩を引き留めたのだ。
紙の良きをえらび、筆の良きを択び、墨の良きを択び、彼はこころしてその字の良きをことに択びて、今日の今ぞ始めて仮初かりそめならず写さんとなる。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
私はかねて申す通り一体の性質が花柳かりゅうたわぶれるなどゝ云うことは仮初かりそめにも身に犯した事のないのみならず、口でもそんな如何いかがわしい話をした事もない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いよいよあきれたる馭者は少しく身を退すさりて、仮初かりそめながら、狐狸変化こりへんげのものにはあらずやと心ひそかに疑えり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
通らでも事は済めども言はば近道の土手々前どてでまへに、仮初かりそめ格子門かうしもん、のぞけば鞍馬くらま石燈籠いしどうろはぎ袖垣そでがきしをらしう見えて、椽先ゑんさきに巻きたるすだれのさまもなつかしう
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
然し彼はどんな事があっても仕遂しとぐべき事を仕遂げずにはおかなかった。その年が暮れに迫った頃お前達の母上は仮初かりそめ風邪かぜからぐんぐん悪い方へ向いて行った。
小さき者へ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
師匠の仮初かりそめの楽しみが、偶然葬式の料となったことなども考えて見れば妙なことと思われます。
……のう……一存の取計らいとはいう条、仮初かりそめにも老中の許し状を所持致しておる人間じゃ。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それに刑事の話だと、その支那人の混血児らしく見える婦人は正式の細君ではなくて、仮初かりそめ同棲者どうせいしゃらしいのだと云うことであった。そして彼女の国籍が又明瞭めいりょうを欠いていた。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一年ひとゝせ夏の頃、江戸より来りたる行脚あんぎや俳人はいじんとゞめおきしに、いふやう、此国の所々にいたり見るに富家ふかにはには手をつくしたるもあれど、かきはいづれも粗略そりやくにて仮初かりそめに作りたるやうなり
と今は仮初かりそめの話しにあらず。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それぢや祝盃の主意を変へて、仮初かりそめにもああ云ふ美人と一所いつしよに居て寝食をともにすると云ふのが既に可羨うらやましい。そこを祝すのだ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
父母は唯発案者にして決議者に非ず、之を本人に告げて可否を問い、仮初かりそめにも不同心とあらば決してうるを得ず。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
旅籠屋はたごやつては実際じつさい容易よういことではからう、——仮初かりそめ宿やどつた夫婦ふうふが、をんな生死しやうし行衛ゆくゑれず、をとこそれために、ほとんど狂乱きやうらんかたちで、夜昼ひるよるともしにまよ歩行あるく……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ひととせ下谷したやのほとりに仮初かりそめ家居いへゐして、商人あきびとといふ名も恥かしき、ただいさゝかの物とりならべて朝夕あさゆふのたつきとせし頃、軒端のきばひさしあれたれども、月さすたよりとなるにはあらで
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
……神様、仏様の御恩は申すに及ばず、この世にてお世話様になりました方々や、不束ふつつかなわたくしに仮初かりそめにも有難いお言葉を賜わりました方々様へは、これこの通り手を合わせまする。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
れまで私は部屋住へやずみだからほかに出るからと云てとどけねがいらぬ、颯々さっさつ出入でいりしたが、今度は仮初かりそめにも一家の主人であるから願書を出さなければならぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
仮初かりそめに置いた涼傘ひがさが、襤褸ぼろ法衣ごろもの袖に触れそうなので、そっと手元へ引いて
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仮初かりそめにもかかる物を賜う事
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
昨日きのふ何方いづかた宿やどりつるこゝろとてかはかなくうごめては中々なか/\にえもまらずあやしやまよふぬばたまやみいろなきこゑさへにしみておもづるにもふるはれぬ其人そのひとこひしくなるとともはづかしくつゝましくおそろしくかくはゞわらはれんかく振舞ふるまはゞいとはれんと仮初かりそめ返答いらへさへはか/″\しくは
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
仮初かりそめにも実父母を重んじて舅姑を軽んずる勿れ、一切万事舅姑の言うがまゝに従う可しと言う。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
仮初かりそめに置いた涼傘ひがさが、襤褸法衣ぼろごろもそでに触れさうなので、そっと手元へ引いて
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
幼稚の時より男女の別を正くして仮初かりそめにも戯れたる事を見聞せしむ可らずと言う。即ち婬猥いんわい不潔のことは目にも見ず耳にも聞かぬようにす可しとの意味ならん。至極の教訓なり。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
一 女子は稚時いとけなきときより男女のわかちを正くして仮初かりそめにも戯れたることをきかしむべからず。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
男子の文章既にかくの如し。して女子の談論に於てをや。仮初かりそめにも過激粗暴なる可らず。其顔色を和らげ其口調を緩かにし、要は唯条理を明にして丁寧反覆、思う所を述ぶるに在るのみ。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)