)” の例文
旧字:
と、こまってべそをかきました。するうち、ふとなにおもいついたとみえて、いきなりお重箱じゅうばこをかかえて、本堂ほんどうして行きました。
和尚さんと小僧 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「そんなはなしはどうだっていい。まあ、はやくいってこよう。」と、きつねがいったので、りすは、一飛ひととびにたにほうけていきました。
深山の秋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
甲二郎は、気が落ちつくのを待って立ち上ると、こんどはけ足でもって、山塞へとびこんだ。そしてこの変事へんじを知らせたのである。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
肉体の苦しみを度外に置いて、物質上の不便を物とも思わず、勇猛精進しょうじんの心をって、人道のために、鼎鑊ていかくらるるを面白く思う。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
泊の町から、南をさして人力車をれば、たちまち大小のピラミッドの二大縦列が、行く手の空を切り裂いているのに、眼を奪われる。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
大急ぎでけて来るポチの足音が聞こえやしないかと思って。けれどもポチのすがたも、足音も、鳴き声も聞こえては来なかった。
火事とポチ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
すぐさま石垣からとびおりると、ガチョウのむれのまんなかにけこんで、その若いガチョウのくびたまにかじりついて、さけびました。
雨彦と呼ばれた少年は「ん」と云って、一目散に裏の方へけて行く。他のわらべ達は一様に彼を見送って、何か心配そうにしている。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
そで両方りやうはうからふりつて、ちゝのあたりで、上下うへした両手りやうてかさねたのが、ふつくりして、なかなにはいつてさうで、……けてつて
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
第一装だいいっそうのブレザァコオトに着更きがえ、甲板かんぱんに立っていると、上甲板のほうで、「ふかれた」とさわぎたて、みんなけてゆきました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
おそらくこれは衆愚をり立てる策士の策であったろう。これまで“五ノ宮”などという皇子の存在は世間のたれも知っていない。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
給仕の支那少年との偶然の会話が縁となって、これを知らなければならぬとの知識慾にられたのが、そもそもの動機であります。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
馬上旅行というものは、未だかつて経験したことがないが、冬日風に向って馬をるなんぞは、あまりありがたいこととは思われない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
到底行い得べくも無いような空想にらるるのもその一つである。のみならず岸本は自分で自分のむちを背に受けねば成らなかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
停車場に別れを告げて、わが家をさして車をりつ。ここにてはいまも除夜じょやに眠らず、元旦に眠るが習いなれば、万戸寂然たり。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
けれども彼は落葉だけ明るい、ものびた境内けいだいけまわりながら、ありありと硝煙のにおいを感じ、飛び違う砲火のひらめきを感じた。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
やはり鼠が欠乏にり立てられて、海に出て行くことだけはこの辺の人が知っていたので、こんな話も生まれたかと私は考える。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
こういうとき、私は強い衝動にられて、し許さるるなら私は大声げて「タロー! タロー!」と野でも山でもさけまわり度い気がする。
巴里のむす子へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かれはもう一度挙手の礼を送り、まわれ右をして、あしで隊の右翼うよくに帰って行き、そこではじめて「休め」の号令をかけた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
ただの百姓や商人あきゅうどなど鋤鍬すきくわや帳面のほかはあまり手に取ッたこともないものが「サア軍だ」とり集められては親兄弟には涙の水杯で暇乞いとまごい。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
やがて、長者の家の人達が、正気しょうきづいてけつけてみますと、庭の中が黒こげになっていて、長者は姿も見えませんでした。
雷神の珠 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
彼が水の上を雌に求め寄ってゆく、それは人間の子供が母親を見つけて甘え泣きに泣きながらけ寄って行くときと少しも変ったことはない。
交尾 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
もしなんですな、貧困がソフィヤ・セミョーノヴナをって、かかる行為をさせたものとすれば、わたしも同情を惜しむわけじゃありません。
あれあれうす鼠色ねずみいろおとこ竜神りゅうじんさんが、おおきなくちけて、二ほんつのてて、くもなかをひどいいきおいけてかれる……。
むしろ研究というものはこういうものと初めから思い込んで、唯面白いという念だけにられて、実験に打ち込んでいた。
「猫の子!」と、ジナイーダはさけぶと、ぱっと椅子から立ち上がって、毛糸のまりをわたしのひざへほうり出したまま、部屋からけ出して行った。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
診察室しんさつしつへ案内した。照彦様と正三君は防水布の手術着をまとった。なんとなくものものしい。そこへ安斉先生がけつけた。奥様へ一礼の後
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
船中で鼠をり、また消毒をするために亜硫酸瓦斯を用うる事があるが、その効験に関する詳細な調査の結果に拠れば
話の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そしてその年の冬、母の帰京すると共に、わたくしもまた船に乗った。公園に馬車をる支那美人のかざしにも既に菊の花を見なくなった頃であった。
十九の秋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
大軌電車沿線のS女学校生徒だと知ったので、その日の午後授業をサボって上本町六丁目の大軌電車構内へけつけた。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
初恋の少女コンスタンティアに近づく勇気を欠いた懊悩おうのうは、二十歳のショパンをてて、ついに「帰ることなき旅」へと出発させたのである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
七八間先けんさききざみに渋蛇しぶじゃよこを、一文字もんじ駆脱かけぬけたのもつか、やがてくびすかえすと、おにくびでもったように、よろこいさんでもどった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そして、不意に半分手を差し出している米の傍から、した。米は、三、四けん後を追いかけたが急に真蒼まっさおな顔をして走り止まると大声で泣いた。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
柔らかい生白い、たえずろくろのように廻っているような首すじ、その喉笛のしたにぽっちりついた傷が男には忌わしい妄念をらせたのであった。
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
本所へ通ずる別の道を、これは乾雲をひっつかんだ諏訪栄三郎が、おなじく鈴川屋敷を指してひた走りにけていた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
自己の希望がものの符合ふごうすればよいが、なかなかそううまくゆくことがすくないから、結局感情にられてすことは、そむくこととなりやすい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
興奮した心の状態、奔放な情と悲哀の快感とは、極端までその力を発展して、一方痛切に嫉妬しっとの念にられながら、一方冷淡に自己の状態を客観した。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
彼はその半ば夢心地の状態に倦きてくると、動き出して音をたてたい欲求にられた。すると、音楽を作り出して、それをあらんかぎりの声で歌った。
そうなりさえすれば、どうにかまた方法が立つであろうという考えにばかりられつつ待って居りますと、大王は二月の七日頃に首府に帰られたです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そうしているところへちょうど都合よく道を通る者が来合わしたから、私はそれからいっさんにけて戻りました
雪の日 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
こころ不覚そぞろ動顛どうてんして、いきなり、へや飛出とびだしたが、ぼうかぶらず、フロックコートもずに、恐怖おそれられたまま、大通おおどおり文字もんじはしるのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
この二つの生き物は、まるでその持つ力以上の力といふやうなものにられてゐる風に、走り、浮き、旋回し、沈みしつゞけてゐた。手早く網ですくふ。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
神話やユトーピアが人間の感情を刺戟しげきして、現実の行動にり立てる力がたいせつなので、政治にとって問題となるのはあくまでその現実の力なのである。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
事情にられて婚礼を急ぐほど不幸なる者はなけん。さりながら今の世には聞く人もまたかかる事情をあやしまず。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それからというもの、私は夕方にさえなれば路地をけ出して行って表の人通りをながめた。それは父が迎えに来てくれているように思われたからであった。
「この頃ここらに妖邪のたたりがあるのを、おまえたちも知らぬはずはあるまい。早くここへり出して来い」
世界怪談名作集:18 牡丹灯記 (新字新仮名) / 瞿佑(著)
この男は、ほかの男の子たちといっしょにけまわっていた小さいころから、もうプルチネッラでした。自然がこの男をそういうふうにつくっていたのです。
広川氏は停車場ステーシヨンから一息に駿河台の自宅へ帰つて来た。そして窮屈な洋服を褞袍どてらに脱ぎかへるなり、二階へあがつて、肘掛窓から下町辺をずつと見下みおろした。
お客は、いきなりび起きると、あわてて着物を引っかけ、荷物にもつをかき集めてはしごだんけ下りました。
神様の布団 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
「死体が橇をる。ふわふわと魂がはしらせる幻の橇なんて、そりゃ君みたいな馬鹿文士の書くことだ。あくまで、冷たくなったエスキモー人の死体。どうだ」
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)