またが)” の例文
苦情は先刻此処にまたがっていて、いまも庭をぶらついているあいつの言分なんです。その証拠には私はもう帰りかけているくらいです。
日影なおあぶずりのゆたうころ、川口の浅瀬を村の若者二人、はだか馬にまたがりて静かにあゆます、画めきたるを見ることもあり。
たき火 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
国守は、なぜか知ら、突然京に残したむすめの事を思い出していた。そうして馬にまたがったまま、その森の方へいつまでも目を遣っていた。
姨捨 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
最初のっけから四番目まで、湧くような歓呼のうちに勝負が定まって、さていよいよおはちが廻って来ると、源は栗毛くりげまたがって馬場へ出ました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
王都の中央にてエルベ河を横ぎる鉄橋の上より望めば、シュロス・ガッセにまたがりたる王宮の窓、こよひは殊更にひかりかがやきたり。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
よ、かしらなきむくろ金鎧きんがい一縮いつしゆくしてほこよこたへ、片手かたてげつゝうままたがり、砂煙すなけむりはらつてトツ/\とぢんかへる。陣中ぢんちうあにおどろかざらんや。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
思想と文学との両分野にまたがって起った著明な新らしい運動の声は、食を求めて北へ北へと走っていく私の耳にも響かずにはいなかった。
弓町より (新字新仮名) / 石川啄木(著)
羊歯しだの生えた岩の下には、深い谷底がひらいてゐる。一匹の毒竜はその谷底に、白馬しろうままたがつた聖ヂヨオヂと、もう半日も戦つてゐる。
LOS CAPRICHOS (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
釧路町は釧路川口の兩岸にまたがつて居る。停車場所在の側は平民町で、官廳、銀行、重なる商店、旅館等は、大抵橋を渡つた東岸にある。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
この中でも、眉目のすぐれていることや、黒桃花毛くろつきげと名のある名馬にまたがって鞍負けせぬ骨づくりなど、一目にもそれと知れよう。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またその内容ないよう古今ここんわたり、顕幽けんゆうまたがり、また部分ぶぶんは一般的ぱんてきまた部分ぶぶん個人的こじんてきった具合ぐあいに、随分ずいぶんまちまちにみだれてります。
おそらく快楽好きな若者の目には器量きりょうよしには映るまい。自転車にまたがっている彼女の姿は宛然あたかも働きものの娘さんを一枚の絵にしたようだ。
落穂拾い (新字新仮名) / 小山清(著)
彼は一言そう云ってヒラリと車にまたがると、素早くクラッチを踏んだ。自動オート三輪車は大きく揺れると、弾かれたように路地から走りだした。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
つづいて旗本の二百人が、騎馬あるいは徒歩で進んだ。その中央に白馬にまたがり、悠々然として打たせて行くのが、酋長荒玉梟帥あらたまたけるであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「この人は今日来たばっかりなのよ。あんまりいじめないでよ。」といいながら、短いスカートをたくし上げて、その男の膝の上にまたがった。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
勝軍地蔵は日本製の地蔵で、身に甲冑を着け、軍馬にまたがって、そして錫杖しゃくじょう宝珠ほうじゅとを持ち、後光輪ごこうりんを戴いているものである。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
風もなく、冬枯れの牧場には空気がうらうらと陽炎かげろうめいていた。紀久子と敬二郎とは馬にまたがって、静かに放牧場の枯草の上を歩き回っていた。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
しかのみならず、地を賜はること、実にたゞ一、二あるも、これにより峰をこえ谷にまたがりてみだりに境界となす、自今以後更に然ることを得ざれ
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
フレームの上を給水タンクの梯子と向合う処まで歩くと、ウンと力んで片足を給水タンクの足場へ掛け、機関車と給水タンクとの間へ大の字にまたがった。
気狂い機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
ほら、あたしが背中へまたがって、手拭てぬぐいを手綱にして、ハイハイドウドウっていながら、部屋の中を廻ったりして、———
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
人も又久しくちゞめたる足をのばさせんとてむまやをひきいだせばよろこびてはねあがりなどするを、胴縄どうなはばかりの躶馬はだかうままたがり雪消の所にはしらす。
ついて猛然とハンドルを握ったまではあっぱれ武者むしゃぶりたのもしかったがいよいよくらまたがって顧盻こけい勇を示す一段になるとおあつらえどおりに参らない
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と優しい女の声がして、私の眼の前に、ついそこの岩陰から姿を現したのは、立派な白馬にまたがった、洋装の若い女です。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
これは唐人とうじんの姿をした男が、腰に張子はりこで作った馬の首だけをくくり付け、それにまたがったような格好でむちで尻を叩く真似をしながら、彼方此方あっちこっちと駆け廻る。
梵雲庵漫録 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
鯛は太股にまたがられたまま薔薇色の女のように観念し、鮪は計画を貯えた砲弾のように、落ちつき払って並んでいた。
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
かくて、てんやわんやの野上駅の騒ぎをあとにして、米友一人はまた馬にまたがって、関ヶ原へ向けて出発しました。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
金太郎は路傍の道しるべの石に片足をかけて、自轉車にまたがつたまゝ憩みながら、今ばんたつといふへん事をした。
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
すると、小一郎は急に帯刀の膝から立ちあがり、伯父さんは酒臭いからいやだと云って、隼人の膝へまたがった。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ある場所では雑誌の表紙にでも応用するのか、亜拉比亜アラビア人が槍を振って躍り上る黒馬にまたがっている絵を、石版刷のようにはっきり写している中年の女がいる。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それあ君等としちゃしゃくさわったろう。特に司法関係の仕事は内鮮ないせんまたがった問題が多いんだからね。一々その手で撥ねられちゃあ遣り切れないだろうよ。成る程。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
此馬がもっと、毛並みのよい純白の馬で、またがって居る自身も亦、若々しい二十代の貴公子の気がして来る。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
重陽ちょうようの日も旅にあって馬にまたがりつつあることを、「馬の背の高きに登り」と登高に擬して興じたのである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
過般かはん来朝したジョルダン博士は、昔は農民の上に貴族がまたがってこれにむちうち、今は農民の上に兵士が跨り
世界平和の趨勢 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
目隠しをする代りに壁にもたれ、またつんいになって、その背にまたがって、指を立てて問う例もある。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そして、二人はおもちゃの様な驢馬のせなまたがって、奥底の知れぬ、闇の森へと進み入るのでありました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
森鴎外先生はその頃から団子坂上の藪下という所に居られて馬にまたがって通って居られるのを見かけた。
美術学校時代 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
私は終日、たった独り馬にまたがって怪しく荒れ果てた田舎路を通って行った。そうして日脚が傾いた時分に、ようよう陰鬱なアッシャアの邸が見える所まで辿り着いた。
引拔ひきぬき無殘むざんにも娘を刺殺さしころせども猶立石は前後も知らず醉臥ゑひふしたるを直助は直樣すぐさまうへまたが咽喉のどもと突貫つきとほし一ゑぐりに殺してまた箪笥たんすの方へゆかんとせしに女房はそつと續いて來るを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
不意に橋の上に味方の騎兵があらわれた。藍色の軍服や、赤い筋や、鎗の穂先が煌々きらきらと、一隊すぐって五十騎ばかり。隊前には黒髯くろひげいからした一士官が逸物いちもつまたがって進み行く。
あくる日めしを食うと見物に出た。釧路町は釧路川口の両岸にまたがって居る。停車場所在のかわは平民町で、官庁、銀行、重なる商店、旅館等は、大抵橋を渡った東岸にある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あの人の一生の念願とした晴れの姿は、この老いぼれた驢馬にまたがり、とぼとぼ進むあわれな景観であったのか。私には、もはや、憐憫れんびん以外のものは感じられなくなりました。
駈込み訴え (新字新仮名) / 太宰治(著)
黄金こがね作りの武田びし前立まえだて打ったる兜をいただき、黒糸に緋を打ちまぜておどした鎧を着、紺地の母衣ほろに金にて経文を書いたのを負い、鹿毛かげの馬にまたがり采配を振って激励したが
川中島合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
男湯と女湯との境界にまたがって共同の水槽があった。私は何気なくその水面を眺めながら洗っていると、そこへゆらゆらと美女の倒影がいくつもいくつも現われるのであった。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
ノラは足台を見付けて坐り、ドウナルド(ギイ・クラアレンスのこと)は皮の敷物の飾りについている虎の頭にまたがっていました。少年はかなり乱暴に頭をゆすっていました。
鯨の屍骸にまたがったまま、潮流に押流され、急速力で氷山に近づき、ドカンと衝突したまでは覚えているが、そのとき、氷山の一角に五体を強く打突けて人事不省に陥ったまま
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
と千吉君はいきなり馬にまたがった。安子夫人に隠し芸を見せる積りだったが、馬は何ういう気紛れか、ガクリと前脚を折って突っ伏しざま、千吉君を大地へドサリと投げ落した。
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
てくんねえか」とかれ簡單かんたんにさういつて、おもしたやうにまたゆきつてはしつた。あわてたかれしきゐまたがなかつた。みなみいへ亭主ていしゆ勘次かんじ容子ようす尋常じんじやうでないことをつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それは小児こどもが牛の背中にまたがって、長い槍を振りまわして疱瘡神を退治している図で、みんな絵草紙屋の前に突っ立って、めずらしそうに口をあいて其の絵を眺めていたものです。
半七捕物帳:56 河豚太鼓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
れつ先頭せんとう日章旗につしやうき揚々やう/\として肥馬ひままたが将軍しやうぐんたち、色蒼いろざざめつかてた兵士へいしむれ
手錠をめられた囚人や其を護送する劍を光らせる巡査や、または肥馬にまたがツた聯隊長や、其の馬の尻にくツついて行く馬丁や、犬に乘つた猿や、其の犬を追立おツたてて行く猿𢌞さるまはし
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)