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袂
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たもと
ふりがな文庫
“
袂
(
たもと
)” の例文
裏藪
(
うらやぶ
)
の中に分け入って
佇
(
たたず
)
むと、まだ、チチッとしか啼けない
鶯
(
うぐいす
)
の子が、自分の
袂
(
たもと
)
の中からでも飛んだように、すぐ側から逃げて行く。
死んだ千鳥
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
晩春の
黄昏
(
たそがれ
)
だったと思う。半太夫は腕組みをし、棒のように立って空を見あげており、その脇でお雪が、
袂
(
たもと
)
で顔を
掩
(
おお
)
って泣いていた。
赤ひげ診療譚:03 むじな長屋
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
これは熱田神宮の精進川に架けた
御姥子
(
おんばこ
)
橋、一名さんだが橋の
袂
(
たもと
)
にある御堂で、もとは一丈六尺の奪衣婆の木像が置いてあった為に
日本の伝説
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
込み上げて来る悲しさを、
袂
(
たもと
)
の端で、じっと押えて、おろおろと、その場を立去りも
得
(
え
)
せず、死ぬる思いを続けたことでございます。
人でなしの恋
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
其時ふとこいつあ千住の方にいるんじゃないかと思ったんで、変電所へ踏込む積りで、橋の
袂
(
たもと
)
を右へ、
隅田
(
すみだ
)
駅への抜道をとりました。
白蛇の死
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
▼ もっと見る
と
撫
(
なで
)
て見ると
訝
(
おか
)
しな
手障
(
てざわり
)
だから財布の中へ手を入れて引出して見ると、
封金
(
ふうきん
)
で百両有りましたから
恟
(
びっく
)
りして橋の
袂
(
たもと
)
まで
追駆
(
おっか
)
けて参り
文七元結
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
橋の
袂
(
たもと
)
に二軒の農家があって、その屋根の下を半ば我が家の物置きに使っているらしく、人の通れる路を残して
薪
(
たきぎ
)
の
束
(
たば
)
が積んである。
吉野葛
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
ちょうど真蔵が窓から
見下
(
みおろ
)
した時は
土竈炭
(
どがまずみ
)
を
袂
(
たもと
)
に入れ
佐倉炭
(
さくら
)
を前掛に包んで左の手で
圧
(
おさ
)
え、更に
一個
(
ひとつ
)
取ろうとするところであったが
竹の木戸
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
能く一行を
輔助
(
ほじよ
)
せしことを
謝
(
しや
)
し、年々新発見にかかる
文珠菩薩
(
もんじゆぼさつ
)
の祭日には相会して
旧
(
きう
)
を
語
(
かた
)
らんことを
約
(
やく
)
し、
袂
(
たもと
)
を
分
(
わか
)
つこととはなりぬ。
利根水源探検紀行
(新字旧仮名)
/
渡辺千吉郎
(著)
……そこで宵の
間
(
ま
)
に死ぬつもりで、
対手
(
あいて
)
の
袂
(
たもと
)
には、
商
(
あきない
)
ものの、(何とか入らず)と、懐中には
小刀
(
ナイフ
)
さえ用意していたと言うのである。
みさごの鮨
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
私ども十六人が、皆、頭から石油を浴びて、左右の
袂
(
たもと
)
に火薬を入れたまま石垣を登って番兵の眼を
掠
(
かす
)
め、兵営や火薬庫に
忍込
(
しのびこ
)
みます。
近世快人伝
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
この時、他の一方の橋の
袂
(
たもと
)
から、また一組の相合傘が現われました。その相合傘は、こちらの相合傘とはだいぶ趣を
異
(
こと
)
にしています。
大菩薩峠:19 小名路の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
そこで本町橋の
東詰
(
ひがしづめ
)
まで引き上げて、二
人
(
にん
)
は
袂
(
たもと
)
を分ち、堀は石川と米倉とを借りて、西町奉行所へ連れて帰り、跡部は城へ
這入
(
はひ
)
つた。
大塩平八郎
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
翌日彼は
朝飯
(
あさはん
)
の
膳
(
ぜん
)
に向って、煙の出る
味噌汁椀
(
みそしるわん
)
の
蓋
(
ふた
)
を取ったとき、たちまち
昨日
(
きのう
)
の唐辛子を思い出して、
袂
(
たもと
)
から例の袋を取り出した。
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
……そんなわたしだかわたしではないか……(そこで葉子は倉地から離れてきちんとすわり直して
袂
(
たもと
)
で顔をおおうてしまった)
泥棒
(
どろぼう
)
を
或る女:2(後編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
半円札でしたか、一円札ですか。なぜ銭入に入れて行かなかったろう、せめて
袂
(
たもと
)
にでも入れて行けばよいのにと、祖母が
呟
(
つぶや
)
きました。
鴎外の思い出
(新字新仮名)
/
小金井喜美子
(著)
男の人が、それを
袂
(
たもと
)
へ入れろ入れろと言うじゃないかなし。私が入れた。そうすると、この袂を
捕
(
つかま
)
えて、どうしても放さなかった……
家:02 (下)
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
九曜星の紋のある中仕切りの
暖簾
(
のれん
)
を分けて、
袂
(
たもと
)
を口角に当てて、出て来た娘を私はあまりの美しさにまじまじと見詰めてしまった。
河明り
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
日本橋の
袂
(
たもと
)
に立って、橋を渡る棺桶の数を数える
数奇者
(
すきしゃ
)
はなかったが、仕事に離れて、財布の中の銭を勘定する労働者は無数であった。
死の接吻
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
が、大井は黒木綿の紋附の
袂
(
たもと
)
から、『城』同人の
印
(
マアク
)
のある、
洒落
(
しゃ
)
れた切符を二枚出すと、それをまるで
花札
(
はなふだ
)
のように持って見せて
路上
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
私の
袂
(
たもと
)
には、五十銭紙幣一枚しか無いのである。これは先刻、家を出る時、散髪せよと家の者に言われて、手渡されたものなのである。
乞食学生
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
橋の
行詰
(
ゆきづめ
)
にも交番があって、巡査は入口に
凭
(
もた
)
れて眠るようにしていた。山西は安心した。
小女
(
こむすめ
)
はその
袂
(
たもと
)
を左に折れて
河岸
(
かし
)
ぶちを歩いた。
水魔
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
湯村は
袂
(
たもと
)
から巻煙草を出してマッチを擦つた。何本も無駄にした揚句、やつと
点
(
つ
)
いたのをろくにも吸はずに、忙しく河へ投込んだ。
茗荷畠
(新字旧仮名)
/
真山青果
(著)
平次は頃合を
測
(
はか
)
つて足を止めると、
袂
(
たもと
)
を探つて取出した得意の青錢、右手は
颯
(
さつ
)
と擧ります。朧を
剪
(
き
)
つて飛ぶ投げ錢、二枚、五枚、七枚。
銭形平次捕物控:062 城の絵図面
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
鉄錆
(
てつさび
)
に似た生き血の香が、むっと河風に動いて
咽
(
む
)
せかえりそう……お艶は、こみあげてくる吐き気をおさえて、
袂
(
たもと
)
に顔をおおった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
「いえいえ、それをおっしゃってくださるにはおよびませぬ」と、おしおは顔に
袂
(
たもと
)
を押当てたまま、おろおろ泣きだしてしまった。
四十八人目
(新字新仮名)
/
森田草平
(著)
枕山は横山湖山その他の詩人と共に星巌を送って板橋駅に到って
袂
(
たもと
)
を分った。星巌は道を
中山道
(
なかせんどう
)
に取って
美濃
(
みの
)
に還らんとしたのである。
下谷叢話
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
かくいう時、人は我々の
袂
(
たもと
)
を引き止めるかも知れない。時として論の鋭利を和らぐる方法となる概括を人は持ち出すかも知れない。
レ・ミゼラブル:07 第四部 叙情詩と叙事詩 プリューメ街の恋歌とサン・ドゥニ街の戦歌
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
袂
(
たもと
)
を取られ鎌をつきつけられ妹に自殺を勧められて彼はすっかり途方にくれた。もちろん自殺しようなどとは彼は夢にも思わなかった。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
純粋小説論は哲学とここの所で一致して進むべきものと思うが、しかし同時にここから、技術の問題として、
袂
(
たもと
)
を分けて進まねばならぬ。
純粋小説論
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
これは
性
(
しょう
)
が悪くて、客が立止って一度価を聞こうものなら、
金輪際
(
こんりんざい
)
素通りの聞放しをさせない、
袂
(
たもと
)
を握って客が値をつけるまで離さない。
江戸か東京か
(新字新仮名)
/
淡島寒月
(著)
反り橋の
袂
(
たもと
)
と
神楽殿
(
かぐらでん
)
の前で、思わせぶりなポーズをしながら行きつ戻りつしていたが、三時近くまで、いちども声がかからない。
あなたも私も
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
院中の人々も、少将の袖をとらえて離さず、
袂
(
たもと
)
にすがって、いつまでもいつまでも別れを惜しんでは、又ひとしきり涙を流すのであった。
現代語訳 平家物語:02 第二巻
(新字新仮名)
/
作者不詳
(著)
それも手に持ち
袂
(
たもと
)
に入れなどして往きたるは
効
(
かい
)
なし、腰につけたるままにて往き、懐より手を入れて解き落すものぞ、などいふも聞きぬ。
墨汁一滴
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
はらりと下る前髪の毛を
黄楊
(
つげ
)
の
鬂櫛
(
びんぐし
)
にちやつと
掻
(
か
)
きあげて、伯母さんあの太夫さん呼んで来ませうとて、はたはた駆けよつて
袂
(
たもと
)
にすがり
たけくらべ
(新字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
今まで人間の世界と没交渉に、そこらに生えている杉菜を食っていた馬が、急に引立てられることによって、二人は
袂
(
たもと
)
を分つわけになる。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
「
若
(
もし
)
や
山𤢖
(
やまわろ
)
か。」と、市郎は
咄嗟
(
とっさ
)
に思い付いた。で、
先
(
ま
)
ず
其
(
その
)
正体を見定める為に、
袂
(
たもと
)
から
燐寸
(
まっち
)
を
把出
(
とりだ
)
して、慌てて二三本
擦
(
す
)
った。
飛騨の怪談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
職人は暫くそんな
悪戯
(
いたづら
)
をしてゐたが、最後に
袂
(
たもと
)
を探つて、マツチを取り出したと思ふと、ぱつと火を
磨
(
す
)
つて虱の背に当てがつた。
茶話:02 大正五(一九一六)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
それから
少時
(
しばらく
)
の
後
(
のち
)
、
私達
(
わたくしたち
)
はまるで
生
(
うま
)
れ
変
(
かわ
)
ったような、
世
(
よ
)
にもうれしい、
朗
(
ほがら
)
かな
気分
(
きぶん
)
になって、
右
(
みぎ
)
と
左
(
ひだり
)
とに
袂
(
たもと
)
を
別
(
わか
)
ったことでございました。
小桜姫物語:03 小桜姫物語
(新字新仮名)
/
浅野和三郎
(著)
おこのが
払
(
はら
)
った
手
(
て
)
のはずみが、ふと
肩
(
かた
)
から
滑
(
すべ
)
ったのであろう。
袂
(
たもと
)
を
放
(
はな
)
したその
途端
(
とたん
)
に、
新
(
しん
)
七はいやという
程
(
ほど
)
、おこのに
頬
(
ほほ
)
を
打
(
う
)
たれていた。
おせん
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
しばらく言い合ったが、お庄は
秘
(
かく
)
し
逐
(
おお
)
せないような気がした。そして
袂
(
たもと
)
で顔ににじみ出る汗を拭きながら、黙って裏口の方へ出て行った。
足迹
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
その風は
裳裾
(
もすそ
)
や
袂
(
たもと
)
を
翻
(
ひるがえ
)
し、甲板の
日蔽
(
ひおい
)
をあおち、人語を吹き飛ばして少しも
暑熱
(
しょねつ
)
を感じささないのであるが、それでも
膚
(
はだえ
)
に何となく暖かい。
別府温泉
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
顔を伏せるようにして、女は、
袂
(
たもと
)
の端を噛みながら
低声
(
こごえ
)
にいった。白粉の
匂
(
にお
)
いと温泉の匂いとが、静かに女の肌から発散した。
機関車
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
私は書生時代にいつも橋のこっちの
袂
(
たもと
)
から四日市の方へと近路をして抜けて行ったが、その時分の雑踏はとてもお話にならないものだった。
日本橋附近
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
江戸
開城
(
かいじょう
)
の後、予は
骸骨
(
がいこつ
)
を
乞
(
こ
)
い、しばらく先生と
袂
(
たもと
)
を
分
(
わか
)
ち、
跡
(
あと
)
を
武州
(
ぶしゅう
)
府中
(
ふちゅう
)
の辺に
屏
(
さ
)
け居るに、先生は
間断
(
かんだん
)
なく
慰問
(
いもん
)
せられたり。
瘠我慢の説:05 福沢先生を憶う
(新字新仮名)
/
木村芥舟
(著)
私は
袂
(
たもと
)
の中にあった一かけの蝋燭を出して、火をつけ、じっとあなたの帰られるのを待っていました。何と云う佗しい気持だったでしょう。
罠に掛った人
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
と言い
吃
(
ども
)
って、男の左の
袂
(
たもと
)
をじろりと眺めた。男は機械的に左の袂に手をやると、何か堅い陶器のような物がはいっているのに気がついた。
香爐を盗む
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
私は二枚の五十銭銀貨を手のひらに載せると、両方の
袂
(
たもと
)
に一ツずつそれを入れて、まぶしい外に出た。そしていつものように飯屋へ行った。
新版 放浪記
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
噛つくように呶鳴っていた由子も、しまいには鼻声になって、こみ上げて来る
啜泣
(
すすりなき
)
を、
袂
(
たもと
)
で押えたまま、出て行ってしまった。
夢鬼
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
その後ろ姿を
凝乎
(
じっ
)
と見送っていたが、
跫音
(
あしおと
)
が廊下の向うへ消え去ったのを見澄まして、大急ぎで私は机の右
袂
(
たもと
)
の一番下の
抽斗
(
ひきだし
)
の鍵を開けた。
陰獣トリステサ
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
袂
漢検1級
部首:⾐
9画
“袂”を含む語句
袂別
分袂
衣袂
橋袂
袂落
袂糞
袂草
袂時計
連袂
其袂
裾袂
袂持
左袂
裙袂
袖袂
袂龕灯
袂鉄炮
右袂
吾妻袂
東袂
...