あし)” の例文
柳、たであしなどのように、水辺の植物は水に配合して眺めなければその植物の美的特徴を完全に受け取ることは不可能と言っていい。
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
フランボーは揺れる舟の中にいきなり背丈一ぱいに立上りさま、その男に『蘆が島リードアイランド』もしくは『あしの家』を知っているか、と訊ねた。
床柱とこばしらけたる払子ほっすの先にはき残るこうの煙りがみ込んで、軸は若冲じゃくちゅう蘆雁ろがんと見える。かりの数は七十三羽、あしもとより数えがたい。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
獲物の有無ありなしでおもしろ味にかわりはないで、またこの空畚からびくをぶらさげて、あしの中を釣棹つりざおを担いだ処も、工合のい感じがするのじゃがね。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
城址しろあとの森が黒く見える。沼がところどころ闇の夜の星に光った。あしがまがガサガサと夜風に動く。町のあかりがそこにもここにも見える。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
盛り上げた土に柳の木が半分も埋まっているかと思うと、一方は低いあしよしの水たまりがまだ残っていて、白い星の影がけている。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はしばみやロワンの樹のほそ枝でより曲げられた杖を造った、そしてあしの笛をふく盲目の乞食になって、月の昇ろうとする頃出て行った。
約束 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
鳥は丘のはざまのあしの中に落ちて行きました。若い木霊は風よりも速く丘をかけおりて蘆むらのまわりをぐるぐるまわって叫びました。
若い木霊 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
西の浦に出た時に小路から担いきれぬほどあしをかついだ、衣もほころび裸同様の乞食男こじきおとこ一人出て、くれかけた町々に低い声音こえで呼びかけた。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
川岸の灌木かんぼくあしの繁っているところへ引摺ひきずってゆき、押倒して、しのの唇へ、頬へ、いたるところへ狂ったようにくちづけをした。
はたし状 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あしの間で、ほのぼのと木笛フリュートを吹いていたわびしそうな姿が眼にうかぶ。あの佐伯氏がどんな切実な働きをしたのか聴いてみたくなった。
キャラコさん:03 蘆と木笛 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ああ愛する友よ、わが掌の温けきを離れて、あしそよぐ枯野の寒きに飛び去らんとするわが椋鳥むくどりよ、おまえのか弱い翼に嵐は冷たかろう。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
婆「そうさ、此の先の山をちっと登ると、小滝の落ちてる処があるだ、其処そこあしッ株の中へ棄てられていたのだ、背中の疵が証拠だアシ」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
柳の枝や蘆荻の中には風が柔らかに吹いている。あしのきれ目には春の水が光っていて、そこに一そうの小舟が揺れながら浮いている。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
僕は時々この橋を渡り、浪の荒い「百本杭」やあしの茂った中洲を眺めたりした。中洲に茂った蘆は勿論、「百本杭」も今は残っていない。
本所両国 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
片葉かたはあし 和歌津わかつや村の北の入ぐちにあり是また蘆戸あしべの遺跡也すべて川辺のあしは流につれて自然と片葉となるものあり又其性を
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
苫屋の中からは四つの眼が光っておりました。そこは長者の家の見張でありました。壮い男は水際みずぎわあしの中へ追い詰められて縛られました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
伊吹山いぶきやまから吹きおろす山風に送られて、朝妻あさづまの渡船も漕ぎ出したので、いつのまにかあしの間でまどろんでいた眠りをさまされ
それから片葉かたはあしというのがござんす、帝様がこの土地へおいでになってから、旦暮あけくれ都の空のみをながめて物を思うておいであそばした故
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
青森県の十三潟じゅうさんがたのような、広いあさいぬまのほとりに住む村々では、細い一種のあしを苅ってきて、葉をむしりててそれで屋根を葺いている。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
早めて歩行あゆめども夏の夜のふけやすく早五時過いつゝすぎとも成し頃名に聞えたる坂東太郎の川波かはなみ音高く岸邊きしべそよあしかや人丈ひとたけよりも高々と生茂おひしげいとながつゝみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
水鶏くいなが好んで集まる、粘土ねばつちあしが一面に生いしげったところをじくじく流れる、ほとんど目につかないような小川で、本土から隔てられている。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
此の浮島の東北の隅のよしあし茫々と茂った真中に、たった一軒、古くから立って居る小屋がある。此れは漁師の万作まんさく住家すみかだ。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ボア・ド・ブウロニュ街の薔薇ばらいろの大理石の館、人知れぬロアル河べりのあしの中のシャトウ、ニースのなみつな快走船ヨットしま外套がいとうを着た競馬の馬
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
岸べに天幕があって駱駝らくだが二三匹いたり、アフリカ式の村落に野羊がはねていたりした。みぎわにはあしのようなものがはえている所もあった。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この頃の朝夕はめっきりと秋らしくなって、佐山君がくたびれ足をひきながらたどって来る川べりには、ほの白いあしの穂が夕風になびいていた。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その池の水際みずぎわには、あしやよしが沢山え茂っている上に、池のぐるりには大木がい茂って、大蛇だいじゃでも住みそうな気味の悪い大池でありました。
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
殊にその場所を海岸にして、あしなどが少し生えて居り、遠方に船が一つ二つ見えて居る処なども、この平凡な趣向をいくらかにぎやかにして居る。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
と、私たちの小舟は小豆あずき色のひろびろとしたの浅みに沿って、いきれたつあしすすきのあいだにすれすれと横になってとまった。四季の里である。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「それよりサッサとあしへ帰り、えび泥鰌どじょうでもせせるがいいや。うん、その前に烏啼き、ともよぶ声でも聞かせてやろう」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
第一、羽田稲荷なんてやしろは無かった。鈴木新田すずきしんでんという土地が開けていなくって、潮の満干のあるあしに過ぎなかった。
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
それが駆け出し始めると、その無数の脚があしの葉のような音を立て、道の上のほこりはちの巣をつついたように舞い上がる。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
……と同時に、かれの目に、隅田川のひろびろとした流れがうかび、青いあしのしげった洲がうかび、白い帆をかけた舟のかげが寂しくうかんだ。”
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
白楊どろあしかえでうるしかばならなどの類が、私達の歩いて行く河岸にい茂っていた。両岸には、南牧みなみまき、北牧、相木あいぎなどの村々を数えることが出来た。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
サクラ湾頭わんとうに立てたはたがさんざんに破れたので、あしをとって大きな球をつくりそれをさおの先につけることにした。八月といえば北半球の二月である。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
みづわづかれてそのえだため下流かりう放射線状はうしやせんじやうゑがいてる。あしのやうでしかきはめてほそ可憐かれんなとだしばがびり/\とゆるがされながらきしみづつてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
船はいつか小名木川おなぎがわの堀割をで、渺茫びょうぼうたる大河の上にうかんでいる。対岸は土地がいかにも低いらしく、生茂おいしげあしより外には、樹木も屋根も電柱も見えない。
放水路 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
勇を鼓して方々からあしを抜き採ったが、彼女は「修理してからにしよう」という考えを定めたのであった。
不周山 (新字新仮名) / 魯迅(著)
そこではさきほどの百姓の兄弟にあたる人があみをしていました。鳩はあしの中にとまって歌いました。
厚い毛皮の陰に北風を避け、獣糞じゅうふんや枯木を燃した石のの傍で馬乳酒をすすりながら、彼等は冬をす。岸のあしが芽ぐみ始めると、彼等は再び外へ出て働き出した。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
みしだきながらひとりでその洲の剣先の方へ歩いて行ってあしえているみぎわのあたりにうずくまった。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
父のかかりつけの医者は、その地方で名医と言われている人であったが、その処方は、はなはだ奇怪なもので、あしの根だの、三年霜に打たれた甘蔗かんしょだのを必要とした。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それ、ここから見えるあの田甫たんぼぢや、あれが、この村の開けないずつと往昔むかしは一面の沼だつたのぢや、あしかばが生え茂つてゐて、にほだの鴨だのが沢山ゐたもんぢや。
黄金の甕 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
巡査が去ってから僕はまた堤にしゃがんで、水やあしを眺めながらぼんやりしていましたが、だんだん気持が滅入めいってきました。そしていきどおろしさが込み上げてきました。
わが師への書 (新字新仮名) / 小山清(著)
戦線をつくつてゐる南軍も北軍も、あしも柳も黄河も豚も、皆音無しくこの埃を浴びてゐるのだ。僕はふと、同じ埃のために弱つてゐる家内と赤ん坊を思ひ出してゐた。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
木はあしが風に靡くやうにぎ倒され、人は倒れる家の下に圧しつぶされないやうに気狂ひのやうに野原へ逃げようとしたが、震へる地上に足場を失つて、つまずき倒れた。
とまの灯があしの落かげをうて下るのを見送った時の登勢は、灯が見えなくなると、ふと視線を落して、暗がりの中をしずかに流れて行く水にはや遠い諦めをうつした。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
福岡県筑後ちくごにて聞いた狐話があるが、夏の夜、一人の漁夫が筑後川の岸にてあゆの釣りをしていた。その背面にあしが茂っており、その薦を隔てて小道が川に並んでついている。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
停車場は蘆葦人長ろいじんちょうの中に立てり。車のいずるにつれて、あしまばらになりて桔梗ききょうの紫なる、女郎花おみなえしの黄なる、芒花おばなの赤き、まだ深き霧の中に見ゆ。ちょう一つ二つつばさおもげに飛べり。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
きわたりたる宇宙は、水を打つたるより静かなり、東に伊豆の大島、箱根の外輪山、仙窟せんくつかもされたる冷氷の如きあしの湖、氷上をべりてたふれむとする駒ヶ嶽、神山、冠ヶ嶽
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)