草臥くたびれ)” の例文
見舞に来た隣近所の者が帰って、表の戸をおろした後、草臥くたびれ休めの茶を沸して駄菓子を食いなどして、互いに無事を祝して夜をふかした。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
さても秋風あきかぜきりひとか、らねばこそあれ雪佛ゆきぼとけ堂塔だうとういかめしくつくらんとか立派りつぱにせんとか、あはれ草臥くたびれもうけにるがおう
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
舞台の下手まで来て「あゝ、草臥くたびれた/\」と腰を伸し、空を見上げて「まだ日が高けえや、一服つてかう」と下手の床几しょうぎに腰を掛け
そして丁度草臥くたびれた回復期の患者のように、一種のい心持ちのしているのを、自分ながら不思議に思っている。呼吸は楽である。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
富さんの口前で二百両取れたら百両礼をするてえいうだ、どうだい、けえったばかりで草臥くたびれて居るだろうが、行ってってくんろよ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
立んとて此大雪に出で行きたれどもなん甲斐かひやあらん骨折損ほねをりぞん草臥くたびれ所得まうけ今に空手からてで歸りんアラ笑止せうしの事やとひとごと留守るすしてこそは居たりけり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
熱と草臥くたびれとで少しぼんやりとなって、見るともなく目を張って見て居ると、ガラス障子の向うに、我枕元にあるランプの火の影が写って居る。
ランプの影 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
まあさぞお草臥くたびれなさいまして、お眠うもございましょうし、お可煩うるそうございましょうのに、つい御言葉に甘えまして、飛んだ失礼を致しました。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
上条へ帰った時は、僕は草臥くたびれと酒のえいとのために、岡田と話すことも出来ずに、別れて寝た。翌日大学から帰って見ればもう岡田はいなかった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
今夜こんやはひどく心持こゝろもちえゝんだよ、えゝよ本當ほんたうだよ勘次かんじさん、おめえ草臥くたびれたんべえな」さらにおしな威勢ゐせいがついていつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そう云う自分も、たわいもなく攻め落された事実を綜合そうごうして考えて見ると、なるほど長蔵さんの商売も、満更まんざら待ち草臥くたびれの骨折損になる訳でもなかった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まるで抜け裏のない露地を、ご丁寧に抜け路があるかしらと探しまわって草臥くたびれもうけをしたようなものであった。
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それを夫人がタオルで清潔きれいくと、女中が着物をせるといふ手順で子供達をそつくり湯を済ます時分には、親はげんなりと草臥くたびれてしまふといふ事だ。
「さあ、もう帰りませう。お前さんもお草臥くたびれだらうから、お湯にでも入つて、さうして御午餐おひる前なのでせう」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
草を刈り、牛を飼い、草臥くたびれはてたるその子供を、また学校に呼びて梯子登りの稽古か、難渋至極というべし。
小学教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
付け旅も少しは草臥くたびれて辛い事の有るのが興多しあまり徃來の便を極めぬうち日本中を漫遊し都府を懸隔かけへだちたる地の風俗をぜにならぬうちに見聞けんもん山河やまかはも形を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
「子供衆は草臥くたびれているでしょうね? 何なら御飯が済み次第荷物と一緒に三島館へ廻しましょうか?」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
八日目に草臥くたびれて虎も昼寝するを見澄まし、ファッツ徐々そろそろ下りる音に眼をさまして飛び懸る、この時おそしかの時早くファッツが戦慄ふるえて落した懐剣が虎の口に入って虎を殺した
さりとては草臥くたびれし。党務だけも忙しいこの身体を、内閣へひつぱり出されしその后は、夜ともいはぬ来客に、ろくろく休む隙はない。それもさるべき要事なれば格別なれど。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
「ええ」とお仙は微笑えみを浮べて、「それから方々暗い処を歩いて、しまいに木のある明るい処へ出た。草臥くたびれたろうから休めッて、男の人が言うから、私も腰を掛けて休んだ……」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
人の心というものは同一の事を間断なく思ッていると、遂に考え草臥くたびれて思弁力の弱るもので。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
源三の方は道を歩いて来たためにちとあし草臥くたびれているからか、こしけるには少し高過ぎる椽の上へ無理に腰をせて、それがために地に届かない両脚をぶらぶらと動かしながら
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
やみしきいから朧気な夢が浮んで、幸福は風のようにとらえ難い。そこで草臥くたびれた高慢の中にあるだまされた耳目はべき物をる時無く、己はこの部屋にこの町に辛抱して引きこもっているのだ。
今だってちっともこうしていたくはないけれど、こう草臥くたびれては退くにも退かれぬ。少し休息したらまた旧処もとへ戻ろう。幸いと風をうしろにしているから、臭気は前方むこうへ持って行こうというもの。
「今度はまた他の用事をして貰ひますよ。」と草臥くたびれもしない私の主人は云つた。
我輩はコックネーでは毎度閉口するが、ベッヂパードンのコックネーに至っては閉口を通り過してもう一遍閉口するまで少々草臥くたびれるから開口一番ちょっと休まなければやり切れない位のものだ。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
さて草臥くたびれれば、別荘の側へ帰って独でつぶやくような声を出して居た。
「お前はね何も心配するには及ばないよ。己は余りどなるので草臥くたびれたから、これから一寐入りしなくちやならない。まだ己も体の周囲まはりを好く検査しては見ないが、兎に角温かで柔かだから為合せだ。」
この辺になると、阿武隈大膳正すっかり草臥くたびれて居りました。
母の声は草臥くたびれてでもいるように聞こえた。
或る母の話 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
見舞ひに來た隣り近所の者が歸つて、表の戸をおろした後、草臥くたびれ休めの茶を沸して駄菓子を食ひなどして、互ひに無事を祝して夜を更した。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
「それになんの不思議があるものか。君だって人間以上の力は持っていない。たれでも草臥くたびれ切った時はそんな事があるものだ。」
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
引摩々々ひきずり/\來るは如何にもたびなれぬ樣子なりしが夫婦づれの者此寶珠花屋このはうじゆばなや八五郎の見世にこしを打懸やれ/\草臥くたびれたりと云ていき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それにわしゃア馬が誠にきれえだ、たまには随分小荷駄こにだのっかって、草臥くたびれ休めに一里や二里乗る事もあるが、それでせえ嫌えだ、矢張やっぱり自分で歩く方がいだ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
難有ありがとう存じます、まだちっとも眠くはござりません、さっき体を洗いましたので草臥くたびれもすっかりなおりました。)
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一つには草臥くたびれためでもあるがわづかにちへだてかれにはか年齡としをとつたほどげつそりとやつれたやうな心持こゝろもちつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「みんな掛けないか。立ってると草臥くたびれるぜ。もうじき藤尾さんも帰るだろう」と注意を与えた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「貴方もお草臥くたびれでせう、あれへお掛けなさいな。未だ私の顔色は悪うございますか」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
御本尊様の前の朝暮ちょうぼ看経かんきんには草臥くたびれかこたれながら、大黒だいこくそばに下らぬ雑談ぞうだんには夜のふくるをもいとい玉わざるにても知るべしと、評せしは両親を寺参りさせおき、鬼の留守に洗濯する命じゃ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
流して労働した者が労働がすんでから湯に入るのは如何にも愉快さうで草臥くたびれが直るであらうと思はれるがその他の者で毎日のやうに湯に行くのは男にせよ女にせよ必ずなまけ者にきまつて居る。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
この事は七、八年前より余が喋々ちょうちょう説弁せつべんする所なれども、かつてこれに頓着とんちゃくする者なし。近来はほとんど説弁にも草臥くたびれたれども、なおこれを忘るること能わず。最後の一発としてここにこれを記すのみ。
小学教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「あたし女の事で、草臥くたびれてますから、お先へ失礼します。」
見るに輕井澤まで二里餘とありあへぎ/\のぼりてやがて二里餘も來らんと思ふに輕井澤は見えず孤屋ひとつやばゝに聞けば是からまだ二里なりといふ一行落膽がつかりさては是程に草臥くたびれだけしか來らざりしかと泣かぬばかりに驚きたり是より道を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
草臥くたびれて宿かる頃や藤の花 芭蕉
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
見廻みまはつひはなしに身がいり大分だいぶんふけたり嘸々さぞ/\草臥くたびれしならん今夜は寛々ゆる/\と休むがよしと漸々盃盞さかづきをさめ女どもに云付て寢床ねどこ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
女「どうせ熊谷くまがいへ泊るつもりで、松坂屋というのが宜しゅうございますから、そこへ泊りましょう、貴方はお草臥くたびれでしょうから、私がおぶって上げましょう」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「それはお草臥くたびれなさいますわね。それにそんなに急がなくてもよろしいのですから。」女は活溌かっぱつにこう云った。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
難有ありがたぞんじます、ちツともねむくはござりません、前刻さツきからだあらひましたので草臥くたびれもすつかりなほりました。)
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そらは奇麗にれた。代助は電車でんしやつて、うちへ行つて、あによめ調戯からかつて、誠太郎と遊ばうと思つたが、急にいやになつて、此松このまつながら、草臥くたびれる所迄堀端ほりばたつたつて行く気になつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
卯平うへいは一にちあるいた草臥くたびれひどたやうでもあるし、また自分じぶん村落むらかへつたのでこゝろ悠長のんびりとしたやうでもあるし、それに數年來すうねんらいばんくせあさはゆつくりとしてるのがれいであつたので
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)