苦笑にがわら)” の例文
「宿屋きめずに草鞋わらじを脱ぐ」……母がこんな事を葉子の小さい時に教えてくれたのを思い出したりして、葉子は一人で苦笑にがわらいもした。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
といつて、なみだだかあせだか、帽子ばうしつてかほをふいた。あたまさらがはげてゐる。……おもはずわたしかほると、同伴つれ苦笑にがわらひをしたのである。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それに対して署長は苦笑にがわらいをしながら、イヤどうも万事あの調子なので、訊問じんもん手古てこずったがと前置きして、次のように説明した。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
何を言われても泰然と構え込んで苦笑にがわらいしている松平伯耆と、パアクスとがそれにむかい合っていた。それにこの二人ふたりは言葉も通じない。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「どうも、……」と老人は苦笑にがわらいをしたが、急に立って「実はこれを御覧に入れるつもりで」と話をまた道具の方へそらした。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かしらは苦笑にがわらいしながら、弟子でしたちにわけをこまかくはなしてきかせました。わけをきいてれば、みんなにはかしらの心持こころもちがよくわかりました。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
無論むろん千葉ちばさんのはうからさとあるに、おやあの無骨ぶこつさんがとてわらすに、奧樣おくさま苦笑にがわらひして可憐かわいさうに失敗しくじりむかばなしをさぐしたのかとおつしやれば
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「それだからいろいろの間違いも起こるのだ」と、半七は苦笑にがわらいした。「そこで、その音造という奴はどうした」
山木は苦笑にがわらいしつ。千々岩が肩ぽんとたたいて「食えン男だ、惜しい事だな、せめて経理局長ぐらいに!」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
と尾沢生は苦笑にがわらいした。堀口生は年長だけにしゃべりだすとナカナカ巧者こうしゃで、結局二人を和解させた。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
如何に贔屓眼ひいきめに見ても——いや此では田舎者扱いさるゝが当然だと、苦笑にがわらいして帰って来る始末。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「悪い洒落しゃれをする女だ……」と苦笑にがわらいした目明し万吉。江戸のスリ気質かたぎには、ほかの盗児にない一種の洒落気しゃれけや小義理の固いところがあると聞いていたのを思い合せて
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
がんりきはりきみ返る。竜之助は苦笑にがわらい。この小賢こざかしい小泥棒め、おれに張り合ってみようというのでさえ片腹痛いのに、死んだ肉は食わないというような一ぱしの口吻くちぶり
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「こんどしたら、ひどいから。おら、田舎いなか学校がっこうで、徒歩競走とほきょうそう選手せんしゅなんだぞ。」と、おんなはいいました。二人ふたり少年しょうねんは、なるほどあしはやいとおもって、苦笑にがわらいしました。
子供どうし (新字新仮名) / 小川未明(著)
煙草管きせるをぽかんぽかんとたたいてばかり居るくせの、いくら大笑いに笑っても、苦笑にがわらいの様な表情しか出ないこのお爺さんが、かやの本当の祖父でないことは、このお爺さんが
かやの生立 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
また何かと尋ねて見ても、数馬は苦笑にがわらいを致すよりほかに返事を致さぬのでございまする。
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
顔には一種の苦笑にがわらいのような表情が現われている。この男は山椒大夫一家いっけのものの言いつけを、神の託宣を聴くように聴く。そこで随分情けない、苛酷かこくなことをもためらわずにする。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それに対して彼は苦笑にがわらいをし溜息をついて、こう答えるのを常とした。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
頼んで來た夫故それゆゑ此樣こんなおそくなり其上空腹ひだるくもありモウ/\わきの下から冷汗ひやあせが出るはやく飯をくはせくれよと云ながら内へ這入はひり長兵衞を見てるさうにコレハと云しのみにて辭宜じぎをなせば長兵衞は苦笑にがわらひを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
とお隅は離縁状をひらいて見まして、苦笑にがわらいをして懐へ入れ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
俺は苦笑にがわらいしながら、反対に尋ねかけてやった。
神棚 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
迎へた番頭のけい之助は、苦笑にがわらひをして居ります。
「拙者も大小をもぎ取られ」宗三郎苦笑にがわらい。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これは/\と一どう苦笑にがわらひ。
お隅がそれを半蔵に言って見せると、多吉は苦笑にがわらいして、矢立てを腰にすることを忘れずに深川米の積んである方へ出かけて行くような人だ。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「若旦那行って来い」と宗助が小六ころくに云った。小六は苦笑にがわらいして立った。夫婦は若旦那と云う名を小六にかむらせる事を大変な滑稽こっけいのように感じた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「おお」と細菌科長は苦笑にがわらいをしながら足を停めた。「駄目、駄目、ワクチンどころか、まだ培養ばいようできやせん」
(新字新仮名) / 海野十三(著)
喧嘩の出ばなをくじかれて、二人もだまって苦笑にがわらいをした。それで人形問題は立ち消えになったが、席はおのずと白らけて来て、談話はなしも今までのようにはずまなかった。
半七捕物帳:38 人形使い (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
倉地は庭のほうから顔を返して、「どこまでばかに出来上がった男だろう」というように苦笑にがわらいをしながら古藤を見やって、また知らぬ顔に庭のほうを向いてしまった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ひとりで苦笑にがわらひして、迫上せりあがつた橋掛はしがかりをるやうに、谿川たにがはのぞむがごとく、いけ周圍まはり欄干らんかんづたひ。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
むしづのはしるほどやがることうたがひなしと苦笑にがわらひしておほせられしが『あるときはありのすさびにくかりき、くてぞひとこひしかりける』とにもかくにも意地いぢわるの意地惡いぢわるのや。
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
七兵衛はこの子供にまくし立てられてしまいそうで、思わず苦笑にがわらいをしたが
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
五百は轎を出る女を見て驚いた。身のたけきわめて小さく、色は黒く鼻は低い。その上口がとがって歯が出ている。五百は貞固を顧みた。貞固は苦笑にがわらをして、「おあねえさん、あれが花よめですぜ」
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それを眺めながら、孫兵衛、手も出さずに苦笑にがわらいをかすめさせて
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
復讐ふくしゅうされたとはいえず苦笑にがわらいしていました。
ある男と牛の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
瀧山誠之進はさう言つて苦笑にがわらひするのです。
仕濟したりと心の目算もくさんやがて三次に打向ひ御苦勞くらうながら世話せわついで今晩こんばんあはせて下されと云へば三次は苦笑にがわらひ如何にも承知と挨拶あいさつするうち殺さるゝとはゆめにも知らずお安は急ぎおび引締ひきしめサアとうながことばと共に三次はわざと親切らしくお安を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
と華子は苦笑にがわらいをした。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
夫人は苦笑にがわらいしつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
若旦那わかだんなつてい」と宗助そうすけ小六ころくつた。小六ころく苦笑にがわらひしてつた。夫婦ふうふ若旦那わかだんな小六ころくかむらせること大變たいへん滑稽こつけいのやうにかんじた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
帆村は、うっかり園丁に象や河馬に人間を食わせる話をしたのが、こんなところへヒョックリ出て来ようとは思いがけなかったので、横を向いて苦笑にがわらいをした。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「今さら叱ってもあとの祭りだ。その罪ほろぼしに身を入れて働け」と、半七は苦笑にがわらいした。
半七捕物帳:54 唐人飴 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この岸本の言葉を聞いて、輝子は苦笑にがわらいしながら香ばしい茶のにおいをいでいた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
で、屋根やねからつきすやうなわけにはかない。其処そこで、かせぎも活計くらしてず、夜毎よごとぬまばん難行なんぎやうは、極楽ごくらくまゐりたさに、身投みなげをるもおなこと、と老爺ぢゞい苦笑にがわらひをしながらつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と来た時に、さすがの道庵がオイソレとは言わないで、苦笑にがわらいをしました。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
が、老先生は、その時初めて、うすい苦笑にがわらいを唇にながして
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、真平まつぴらだ」と云つてあに苦笑にがわらひをした。さうして大きなはらにぶらがつてゐる金鎖きんぐさりゆびさきいぢくつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「そうよなあ」と、七兵衛は苦笑にがわらいした。「まあ、そうでも云わなければ理窟が合わねえが、なにしろ変な話だな。で、その娘はい女だと云ったな。つらをむき出しにしていたのか」
半七捕物帳:18 槍突き (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こうした巴里に身を置いても、彼はそれほど恐ろしくも思わないまでに戦時の空気に慣れて来た。「つばめのかわりに飛行船が飛んで来ました」そんなことを云って下宿の人達を苦笑にがわらいさせた位であった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これに苦笑にがわらくちむすんだ、坊主ばうず心急こゝろせ様子やうすえて
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)