羽衣はごろも)” の例文
天人が羽衣はごろもの箱や薬の壺を持ってくる。一人の天人が、地上の食を取って心地悪いであろう、壺の中の不死の薬を召せ、とすすめる。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
はりに、青柳あをやぎ女郎花をみなへし松風まつかぜ羽衣はごろも夕顏ゆふがほ日中ひなか日暮ひぐれほたるひかる。(太公望たいこうばう)はふうするごとくで、殺生道具せつしやうだうぐ阿彌陀あみだなり。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
僕はたびたび見たが、ひなやしなっている雌鶏めんどりかたわらに、犬猫いぬねこがゆくと、その時の見幕けんまく、全身の筋肉にめる力はほとんど羽衣はごろもてっして現れる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
でもみずの中に少女おとめたちがどうするか、様子ようす見届みとどけて行きたいとおもって、羽衣はごろもをそっとかかえたまま、木のかげにかくれてていました。
白い鳥 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
羽衣はごろもがなければ、てんかえれぬとおきしては、あなたを、いつまでもおとめしたいばかりに、羽衣はごろもをおかえしすることができなくなりました。
羽衣物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
後でその説明を聞いたら、三保みほ松原まつばらだの天女てんにょ羽衣はごろもだのが出て来る所はきらいだと云うのです。兄さんは妙な頭をもった人にちがいありません。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
言いかけると、羅真人は、鶴の羽衣はごろものようなたもとをぱっとひらいて、その法冠かむりの星よりするどい眸をきらと三人の上へ射向けた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
予章新喩しんゆ県のある男が田畑へ出ると、田のなかに六、七人の女を見た。どの女もみな鳥のような羽衣はごろもを着ているのである。
謡曲の『羽衣はごろも』でお馴染の松は沖合の鼻にありまして、富士山の眺望は全国一、日本新三景の一つとして元帥東郷閣下様御自筆の碑が立っております。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
謡曲ようきょく羽衣はごろもの一節、がらになく風流なところのある男で、大迫玄蕃が、余念なくおさらいにふけっていると、夜はいぬ上刻じょうこく、五ツどき、今でいう午後八時だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この地尻に、長左衛門という寄席がありましたっけ。有名な羽衣はごろもせんべいも、加賀屋横町にあったので、この辺はゴッタ返しのてんやわんやのさわぎでした。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
妙音清調会衆はな天国に遊びし心地ここちせしが主人公もまた多年のたしなみとて観世流の謡曲羽衣はごろもうたい出しぬ。客の中には覚えず声に和して手拍子を取るもあり。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
あれには樗牛が月夜か何かに、三保みほの松原の羽衣はごろもの松の下へ行って、大いに感慨悲慟ひどうするところがあった。
樗牛の事 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
最初は連れとであつたが、此頃は松田はよくひとりでやつて来て、羽衣はごろもと云ふ女を買ひなじんだ。もう女としての見所もない大あばずれだと私達はきいて居た。
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
下界の人は山頂も均しく長閑のどかならんと思うなるべし、の三保の松原に羽衣はごろもを落して飛行ひぎょうの術を失いし天人てんにんは、空行くかりを見て天上をうらやみしにひきかえ、我に飛行の術あらば
……それは、もち月のかがやく美しい夜じゃ。天人達は、空を飛ぶ月の車に乗ってこの現し世に舞い下りて来るのじゃ。天の羽衣はごろもを持ってこの現し世に舞い下りて来るのじゃ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
悲劇を書けばいいんだろう、と僕が言ってやったら、たぬきは、いや羽衣はごろもだよ、と言う。へんな事を言うなあと思ったら、ベルが鳴った。僕は、白紙を、たぬきに手渡して廊下に出た。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
其のスラリとしたで肩の姿を、田子たごの浦へ羽衣はごろもを着て舞ひ下りた天人が四邊あたりを明るくした如く、この名も知れぬびしい神の森を輝かすやうに、孔雀くじやくの如き歩みを小池に近く運びながら
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
その頃には、透谷君や一葉女史の短い活動の時はすでに過ぎ去り、柳浪にはやや早く、蝸牛庵主かぎゅうあんしゅは「新羽衣はごろも物語」を書き、紅葉山人は「金色夜叉こんじきやしゃ」を書くほどの熟した創作境に達している。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いにしえ猶太ユダヤの神は万物創造の終りにあたってすべての色よい鳥の羽の残りをつづって羽衣はごろもとし、蜜のような愛のいぶきにその胸をふくらませて汝らめおとづれの游牧者をこしらえたのであろう。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
天の羽衣はごろも撫でつくすらんほど永き悲しみに、只〻一時ひとときの望みだにかなはざる。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
例の羽衣はごろものような衣装を脱ぐと、——いや、たとえ平気でなくても、部屋が丸見えのところにあつかましく坐り込んでいる私の眼から隠れて脱ぐことはできないわけだが、——踊り子たちは
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
自分の白衣びゃくえも、鶴の羽のような白いかがやきに見えますが、お雪ちゃんのその衣裳は、百練の絹と言おうか、天人の羽衣はごろもといおうか、何とも言いようのない白無垢しろむくの振袖で、白無垢と見ていると
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おきなめようとあがくのをひめしづかにおさへて、形見かたみふみいておきなわたし、またみかどにさしげるべつ手紙てがみいて、それにつき人々ひと/″\つて不死ふしくすり一壺ひとつぼへて勅使ちよくしわたし、あま羽衣はごろも
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
何処やらでは、のうのうと、声をそろえて羽衣はごろもうたっていた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
或はまた衣掛きぬかけ岩、羽衣はごろもの松という伝説もあります。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
天女てんによ羽衣はごろもうしなひたる心地こゝちもしたりき。
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いつ羽衣はごろもしづ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
といいながら、手をして羽衣はごろもをうけろうとしました。けれど伊香刀美いかとみはふと羽衣はごろもをかかえていた手を、うしろにめてしまいました。
白い鳥 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そばへ寄るまでもなく、おおきな其の障子の破目やれめから、立ちながらうち光景ようすは、衣桁いこうに掛けた羽衣はごろもの手に取るばかりによく見える。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
これからさきを聞くと、せっかくの趣向しゅこうこわれる。ようやく仙人になりかけたところを、誰か来て羽衣はごろもを帰せ帰せと催促さいそくするような気がする。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
志村金五郎しむらきんごろうのワキで羽衣はごろもを舞った老公のすがたが、あざやかに橋がかりから鏡の間へかくれ、つづいて囃子方はやしかた地謡じうたいが静かに退いたあとである。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしちますものは、すべて、この羽衣はごろものように、にじやかすみをってつくったものだけに、人間にんげんにわたれば、いつまでも、かたちとなってのこったことはありません。
羽衣物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
われわれが理想とするところはいかに小なりとするも、その全体を実現することはできずともいく分かすることはできる。昔から天女てんにょを見ると、羽衣はごろもを着て自由自在に空中を飛び歩いている。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
天人てんにん羽衣はごろもぎて袈裟けさけしとて斯くまで美しからじなど罵り合へりし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
もう何もかもみんなおしまいなのよ! あの人達は天の羽衣はごろもを持って来るの! あたしに着せようと思って天の羽衣を持って来るの! それを着せられてしまったら、あたしはもう、あんたのことも
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
天女が羽衣はごろもを失ひたる心地もしたりき。
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
むらさきふか羽衣はごろも
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
少女おとめ羽衣はごろもにひかれて、とうとう伊香刀美いかとみのうちまで行きました。そして伊香刀美いかとみといっしょに、そのおかあさんのそばでらすことになりました。
白い鳥 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「この天女てんにょは御気に入りませんか」と迷亭がまた一枚出す。見ると天女が羽衣はごろもを着て琵琶びわいている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この一巻と、三、四通の文章とを、帛紗ふくさにつつみ、しかと、そちが肌身につけて持っておれ。——そして予が、羽衣はごろもを舞うて、舞い終る頃、午の中食ちゅうじきの休みとなろう。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若者わかものは、片言かたこときもらすまいと、みみをかたむけていましたが、天女てんにょが、羽衣はごろもなければてんかえれぬといったので、これはなんたる自分じぶんにとって、しあわせなことであろう。
羽衣物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
なるかなさら一時間いちじかんいくらとふ……三保みほ天女てんによ羽衣はごろもならねど、におたからのかゝるねえさんが、世話せわになつたれいかた/″\、親類しんるゐようたしもしたいから、お差支さしつかへなくば御一所ごいつしよ
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
やむをえず、好い加減に領承りょうしょうした。そこで羽衣はごろもくせを謡い出した。春霞はるがすみたなびきにけりと半行ほど来るうちに、どうも出が好くなかったと後悔し始めた。はなはだ無勢力である。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
靜岡しづをかから、すぐに江尻えじり引返ひきかへして、三保みほ松原まつばら飛込とびこんで、天人てんにん見參けんざんし、きものをしがるつれをんなに、羽衣はごろも瓔珞えうらくをがませて、小濱こはま金紗きんしやのだらしなさを思知おもひしらさう、ついでに萬葉まんえふいんむすんで
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)