よね)” の例文
ほッと、息をついて、あたりの闇をかしてみると、ここはいつかの晩、綱倉の窓からおよねすすり泣く声をきいた記憶のある掘割岸。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もとの蔦屋つたや旅館りよくわん)のおよねさんをたづねようとふ……る/\つもゆきなかに、淡雪あはゆきえるやうな、あだなのぞみがあつたのです。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
女房のおよねうちを閉め切って、子守女こもりのお千代に当歳の女のを負わせた三人連れで、村から一里ばかりあるH町の八幡宮に参詣さんけいした。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
狭い屋敷であるから、伊平は裏口からずっと通って、茶の間になっている六畳の縁の前に立つと、御新造ごしんぞうのおよねは透かし視て声をかけた。
西瓜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
なんぼ狸の胤だからッて人間に生れて来た二人に名を付けずにも置かれぬから、男は伊之吉いのきち女はおよねと名を付ける事になりました。
みちのつよきひとなればむなぐるしさえがたうて、まくら小抱卷こがいまき仮初かりそめにふしたまひしを、小間こまづかひのよねよりほか、えてものあらざりき。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しやしつゝお光は泣顏なきがほ隱し井戸端へ行き釣上つりあぐ竿さをを直なる身の上も白精しらげよねと事變り腹いと黒き其人が堀拔ほりぬき井戸のそこふか謀計たくみに掛り無實の汚名をめい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
之も沖権蔵や建築手伝に行つて居る男であるが『よね』と呼び慣されて居る播磨米吉が、同じくペストで避病院に送られた。
少し古い土地の人なら、八丁堀はっちょうぼり岡吉おかよしと云う色物専門の寄席があったのを記憶しているはずである。その寄席の経営者はよねと云う仕事師であった。
寄席の没落 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「何アに、よねさんは一人寝せときゃええさ、なア米さん、独人ひとり寝てるわのう。」と男は顔を少し突き出した。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
綽名あだなを猩々斎と言われるほどの酒豪で、その酒のために浪人し、又兵衛の娘——喜太郎には叔母に当るおよね嫁取めとって、河内屋の後見をしている人物です。
銭形平次捕物控:050 碁敵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「毘沙門さまの御前おんまへ黒雲くろくもさがつた(モウ)」 (衆人おほぜい)「なんだとてさがつた(モウ)」(山男)「よねがふるとてさがつた(モウ)」とさゝらをすりならす。
婦人むかふは『イヽエ、よねではありません、米は最早もう死んで仕舞ひました、是れは迷つてる米の幽霊です』と云つてかほをそむけて仕舞しまつたさうです、兼吉の言ひますに
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
よねさんのことよ」と小光が云った、「このまえ話しかけてよしたでしょ、きっとあのときのことよ」
古今集巻之五 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
豊雄是を見て、只一八三あきれにあきれゐたる。武士らかけめぐりて、一八四ちかきとなりを召しあつむ。一八五をぢ一八六よねかつ男ら、恐れまどひて一八七うずすまる。
しきりに呼び起している啓坊の声に交って、こいさんが一と声、「よねやん!」と、呼ぶのが聞えた。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「全く骨が折れましたよ。よねが病気でさえ無かったら今時分私は銀行の一つ位楽に建ててます」
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あのよねとかともとかいう変てこな兄いが、どうした間違えか役人にとっつかまって、ちょうさんてえ罪で、草津の辻で三日間のさらし、それが済むとやがて鋸挽のこぎりびきになろうてんだ。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と畳へよねという字を書くと、坊主は金がほしくなったので、ひとの葬式を待っていると笑ったが、八十八歳の三月、明治天皇銀婚の御祝いに、養老金を頂いて、感激して、みんなにお赤飯をふるまい
薔薇少しよね用なしと法師より使来たらばをかしからまし
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
三十三の石神に、 よねを注ぎて奔り行く。
文語詩稿 一百篇 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
「あてだつか。よねと申します。」
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
よね三合さごうもまかうよ
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
よねくろきに
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
よねさんにまけない美人びじんをとつて、若主人わかしゆじんは、祇園ぎをん藝妓げいしやをひかして女房にようばうにしてたさうでありますが、それもくなりました。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
家探しをして行った周馬や一角が、遠く立ち去った気配をみすまして、中二階から、ソッと下へ降りてきたのは、川長のおよねであった。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主人にむかって真逆まさかにそんなことを打ち明けるわけにも行かないので、彼女は朋輩のおよねにそっと話すと、お米は又それを店の者どもに洩らした。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
宮地翁はこんなことを云って知己しりあいの人に話して笑った。河野には細君さいくんがあった。およねと云う女の子もあった。細君には同藩の木村知義ともよしと云う人の妹であった。
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「毘沙門さまの御前おんまへ黒雲くろくもさがつた(モウ)」 (衆人おほぜい)「なんだとてさがつた(モウ)」(山男)「よねがふるとてさがつた(モウ)」とさゝらをすりならす。
「何? 丸屋? あの日本橋の坂本町のか? そいつは大変だ、昨夜ゆうべ女主人のおよねが殺されたじゃないか」
おすげという娘はそのとき、葉川村のよね屋という旅籠はたごで女中をしていた。故郷は越後の柿崎かきざきというところだったが、女中をしているうちに、客の一人と夫婦約束をした。
榎物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
嬢様と國との間んとなく落着おちつかず、されば飯島様もこれを面倒な事に思いまして、柳島辺やなぎしまへんある寮を買い、嬢様におよねと申す女中を附けて、此の寮に別居させて置きましたが
わたしどんなに嬉しかつたか知れませんよ、お目に懸つた方でも何でも無いんでせう、けどもよねちやんのおしうとさんだと思ひますとネ、うやら米ちやんにでも逢ふやうな気がするんですもの
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
第一、姉さんが素晴しい元気で、長煩ながわずらいの後の人とも思われないということは、小父さんがよくこぼしこぼしした、「よねの病気は十年の不作」を取返し得る時代に向いて来たかのようであった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あのやうに乞食よばはりしてもらふ恩は無し、龍華寺はどれほど立派な檀家だんかありと知らねど、我があねさま三年の馴染なじみに銀行の川様、兜町かぶとてうよね様もあり、議員の短小ちいさま根曳ねびきして奥さまにとおほせられしを
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
一端の布に包むを覚えけりよね白菜しらな乾鮭からさけを我
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
よねやん」
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「あれが森啓之助、宅助の主人だ。きゃつめ、およねをうまくやっておきながら、いやにきまじめな顔をして宅助を痛めておるわい」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
往來ゆききれて、幾度いくたび蔦屋つたやきやくつて、心得顏こゝろえがほをしたものは、およねさんのこと渾名あだなして、むつのはな、むつのはな、とひました。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
両国のならび茶屋にいるおよねという女、これがおかしいという噂で、時々に駿河屋の店をのぞきに来たりするそうです。
是はおよねさん、其ののちついにない存外の御無沙汰ごぶさたをいたしました、嬢様にはお変りもなく、それは/\頂上々々、牛込から此処こゝへお引移ひきうつりになりましてからは、何分にも遠方ゆえ
よねといって、不思議に鈴の音を愛し、長い間に買い集めて家の中は鈴だらけ、召使を呼ぶにも食事を知らせるにも、いちいち鈴を鳴らすのだと聞いて、平次はすっかり有頂天になりました。
詩人啄木ので知られている函館の立待岬たてまちざきから、某夜あるよ二人の男女が投身した。男は山下忠助と云う海産問屋の公子わかだんなで、女はもと函館の花柳界かりゅうかいで知られていた水野よねと云う常磐津ときわずの師匠であった。
妖蛸 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
中々なか/\左樣さうでは御座ござりませぬうつくしいにて、村長そんちやういもとといふやうなひとださうで御座ござります、小學校せうがくかうかよふうちにあさからずおもひましてとへば、れは何方どちらからと小間使こまづかひのよねくちすに、だまつておきゝ
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
私事のほうの気がかりは、およねのことであった。きょう岡崎の港を出て大阪へ向った四国屋の舟には、お米と仲間ちゅうげん宅助たくすけがのって行った。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこから虎杖いたどりの里に、もとの蔦屋つたや(旅館)のおよねさんを訪ねようという……見る見る積る雪の中に、淡雪の消えるような、あだなのぞみがあったのです。
雪霊続記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よね十吉じゅうきちとは南向きの縁に仲よく肩をならべて、なんにも言わずにあおい空をうっとりと見あげていた。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
よねどんなんとゝだいされて、なにはせてわらふつもりと惡推わるずいをすれば、わたしらぬとよこく、奧樣おくさますこ打笑うちわらひ、たねばこそ今日けふであろ、其樣そのやうなが萬一もしもあるなら、あのうちかぶりのみだがみ
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
と云って眼をみはった。それは飯島家のじょちゅうのおよねであった。
円朝の牡丹灯籠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あの時、森啓之助は、脇船わきぶねの底に一個の長持を積んで阿波へ帰った筈だ。その長持の中には、たしかに、川長かわちょうのおよねが隠してあった筈——。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)