つぶ)” の例文
ゆるいかゆと、つぶした蔬菜そさいであるが、この頃ではあごがうまく動かないとみえ、口からこぼしたりするので、ずいぶん時間がかかる。
竹柏記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
この本能をつぶして正論を掴みだすには確かに悪魔的な眼が必要で、女房や娘を人身御供ひとみごくうにあげるくらいの決意がないと言いきれない。
咢堂小論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そして、なまめかしいささやきを囁きあったが、和尚の態度は夫人以上に醜悪なるものであった。李張はまず和尚を踏みつぶしてやりたかった。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
やってみるがいい。請合うけあい乗りつぶすから。柱が腐っているし、木戸もボロボロだ。よほど身軽な奴でも、この上に乗ると、大きな音を
二三人が押したら、すぐつぶれそうな所であったが、甲陽鎮撫が、防禦陣地に関所の無いのは、格式にかかわるという風に考えていた。
近藤勇と科学 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
なかでも、波止場はとば人混ひとごみのなかで、押しつぶされそうになりながら、手巾ハンカチをふっている老母の姿をみたときは目頭めがしらが熱くなりました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
スイスの一部では最後のわらつかみを苅り取った人を麦の山羊と名付け、山羊然とその頸に鈴を付け、行列して伴れ行き酒で盛りつぶす。
そうしておれはいつのまにか好い気になって、お前の事よりも、おれの詰まらない夢なんぞにこんなに時間をつぶし出しているのだ……
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
私はきもつぶしましたが、ひょっとすると、これはこの装置で見たことのある赤外線男ではないかしらと考えると、ゾーッとしました。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私は半日を丸善まるぜんの二階でつぶす覚悟でいた。私は自分に関係の深い部門の書籍棚の前に立って、隅から隅まで一冊ずつ点検して行った。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と屏風を開けて入り、其の人を見ると、秋月喜一郎という重役ゆえ、源兵衞はきもつぶし、胸にぎっくりとこたえたが、素知そしらぬていにて。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
癇癖かんぺきの強い、とても残忍な性質の家老があって、人を殺すことなぞ、虫ケラ一匹ひねりつぶすほどにも感じてはいなかったというのです。
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
大方遊んでばかりいやがったのだろう、このつぶ野郎やろうめッてえんでもって、釣竿を引奪ひったくられて、げるところをはすたれたんだ。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
……何處どこともなしにうちに、つぶしの島田しまだ下村しもむら丈長たけながで、しろのリボンがなんとなく、鼈甲べつかふ突通つきとほしを、しのぎでいたとしのばれる。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
此頃のひでり亀甲形きつかふがた亀裂ひヾつた焼土やけつちを踏んで、空池からいけの、日がつぶす計りに反射はんしやする、白い大きな白河石しらかはいしの橋の上に腰をおろした。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
「や!」ときよろ/\して、「氣が變になるんじやないか。しつかりしろ、何でもつぶせ!此様なことでへたばつて耐るか。こら。」
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
そうって、扉口とぐち拍子ひょうしに、ドシーン! ととり石臼いしうすあたまうえおとしたので、おかあさんはぺしゃんこにつぶれてしまいました。
そうするには大学も何もつぶしてしまって、世間をくら闇にしなくてはならない。黔首けんしゅにしなくてはならない。それは不可能だ。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
口を開けた古靴の群れの中に転げたマンゴ、光った石炭、つぶれた卵、膨れた魚の気胞の中を、纏足てんそくの婦人がうろうろと廻っていた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
このうちつぶせ!』とうさぎこゑあいちやんはせい一ぱいおほきなこゑで、『其麽そんなことをすればたまちやんを使嗾けしかけるからいわ!』とさけびました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
らつたうへうしてひまつぶして、おまけに分署ぶんしよおこられたりなにつかすんぢや、こんなつまんねえこたあ滅多めつたありあんせんかんね
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ドウしたってこの幕府と云うものはつぶさなくてはならぬ。も今の幕政のざまを見ろ。政府の御用と云えば、何品なにしなを買うにも御用だ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
青年が色を変えておどろいたことが、美奈子にもハッキリと感ぜられた。美奈子でさえ、あまりの駭きのために、胸がつぶれてしまった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
折くべ居る時しも此方の納戸なんど共覺しき所にて何者やらん夥多おびたゞしく身悶みもだえして苦しむ音の聞ゆるにぞ友次郎はきもつぶし何事成んと耳を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いま、多年苛烈かれつむちの下に農奴を泣かせて富み栄えてきた祝家をここにぶッつぶしたのも、天に代ってしたものとしなければなりません。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし物を見たりする方は、いくらも時間のやり繰りが出来るので、正味の時間がつぶれることはないので、大変助かるのである。
南画を描く話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
しかし、それでもまだてられるほどではなかったが、間もなくおできが出来て、それがつぶれて牀席ねどこをよごしたので、とうとうい出された。
翩翩 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
赤沢病院がつぶれようと潰れまいとそのようなことにはとんとお構いなく、狭い垣の中で毎日それぞれの営みにせっせと励んでいたのだが
三狂人 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
いずれも表の構えは押しつぶしたようにのきれ、間口まぐちせまいが、暖簾の向うに中庭の樹立こだちがちらついて、離れ家なぞのあるのも見える。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
……いくら他人の秘密を預るのが商売の精神病医でも、これ程の秘密をにぎつぶすのは、容易な事であるまいと思いましたからね。
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
鳥ののどから空気を吹込んで一時は空気枕のようにふくれても口を離せば再び空気はシューと出てしまってちょうどつぶれた空気枕同様になる。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
堀を埋めまたはつぶれるに任せておいて後に水田に編入し、ついには後世の思想によって狭い館址ばかりの地名と考うるに至った。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
晴れた日の午後一時頃と記憶しているが、これも随分ずいぶんひどい揺れ方で、市内につぶれ家もたくさんあった。百六、七十人の死傷者もあった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ふん。こいつらがざわざわざわざわっていたのは、ほんの昨日のようだったがなあ。大抵たいてい雪につぶされてしまったんだな。」
若い木霊 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
据えつけたんだから、どうしてもそれでやらなけりゃ面目がつぶれるって云うんで、幾度も幾度もなおすんだがね——無理なのさ
海浜一日 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
思いがけなく閉籠とじこめ黒白あやめも分かぬ烏夜玉うばたまのやみらみっちゃな小説が出来しぞやと我ながら肝をつぶしてこの書の巻端に序するものは
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
しかしながら、独逸ドイツの為すところを見れば、あたかも自己の武器を以て自己の命をたたつぶそうという発狂、瘋癲ふうてんの境遇である。
大戦乱後の国際平和 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
絞殺したうえ顔面がめちゃめちゃにたたつぶしてあって人相は分からないが、推定年齢二十四、五歳、身長五尺二寸、頭髪の濃い色白の女で
宝石の序曲 (新字新仮名) / 松本泰(著)
私は溝に落ちたときにはきもつぶしたが、その驚きもしずまると、こうして助ちゃんといっしょに湯に入ったことが珍らしくて
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
それだによって、己が暗い中から起きて、忙しい手間を一日つぶして、こうしてお前を馬に乗せて、連れて行くとこじゃねえか。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「生意気なことを言やあがる、手前見たような奴だ、こんなところで押しつぶされる玉は! あんまり強吐張ごうつくばりを言やあがると後生ごしょうがないぞ」
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
吾人の住む社会は暗澹あんたんたるものである。成功することこそ、まさにつぶれんとする腐敗より一滴また一滴としたたる教えである。
彼はそれを嘴の中であっちこっち転がし回り、押しつけてみたり、つぶしてみたり、まるで歯抜けじいさんみたいに、しきりに首をひねっている。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
ゆえにこれを改めて「汝らは友を敵に交付わたして掠奪かすめに逢わしむ、しかして彼ら(友)の子等こどもは目つぶるべし」と訳する学者がある。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
映画館でたっぷり時間をつぶしたりしたが、ある時は子供を折檻せっかんするように蒲団ふとんにくるくるかれて、酒を呑んでいるそばころがされたりした。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
きもつぶしたのは奥村八左衛門、「こんなべら棒ってあるもんか。白をもちながら先手を打ちおる」こうは思ったが相手が悪い。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
先頃の地震でいっそ一思いにつぶれるか、焼けるかしたら、借金してもバラック位新築せねばならなかったでしょうが、無理さすまいとてか
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
私達はしばらくそこで目をつぶっていた、目をつぶると、まるでここが深海の底でもあるかのように、何んの音もしなかった。
近いうちにつぶれます、いま甲府では飛ぶ鳥を落すほどの御支配様だけれど、遠からず、お家をつぶされて、お預けになるか
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ひょっとすると、彼の通俗な魂は勢逞いさましいだけに、智子が自分の大切にしている一つの性情を、幸福の形で圧しつぶしてしまいそうに思われた。
明暗 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)