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淵
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ふち
ふりがな文庫
“
淵
(
ふち
)” の例文
不幸で沈んだと名乗る
淵
(
ふち
)
はないけれども、孝心なと聞けば
懐
(
なつか
)
しい流れの花の、旅の
衣
(
ころも
)
の
俤
(
おもかげ
)
に立ったのが、しがらみかかる部屋の入口。
縁結び
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
そこに聴くことのできた話の内容は、一向に二人の関係について予備知識をもたなかった僕を、
驚愕
(
きょうがく
)
の
淵
(
ふち
)
につきおとすに十分だった。
振動魔
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
ところがその男は別に三郎をつかまえるふうでもなく、みんなの前を通りこして、それから
淵
(
ふち
)
のすぐ上流の浅瀬を渡ろうとしました。
風の又三郎
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
男は黒き夜を見上げながら、
強
(
し
)
いられたる結婚の
淵
(
ふち
)
より、是非に女を救い出さんと思い定めた。かく思い定めて男は眼を
閉
(
と
)
ずる。——
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
一つは、テナルディエの子でありエポニーヌの弟であるあのあわれな少年を、まさにきたらんとする切迫せる破滅の
淵
(
ふち
)
から救うこと。
レ・ミゼラブル:07 第四部 叙情詩と叙事詩 プリューメ街の恋歌とサン・ドゥニ街の戦歌
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
▼ もっと見る
あたしは先年、
神路山
(
かみじやま
)
が屏風のようにかこんだ五十鈴河のみたらしの
淵
(
ふち
)
で、人をおそれぬ香魚が鯉より大きく
肥
(
ふと
)
っているのを見た。
旧聞日本橋:03 蕎麦屋の利久
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
薄暗い
神殿
(
しんでん
)
の奥に
跪
(
ひざまず
)
いた時の冷やかな石の
感触
(
かんしょく
)
や、そうした生々しい感覚の記憶の群が
忘却
(
ぼうきゃく
)
の
淵
(
ふち
)
から一時に蘇って、
殺到
(
さっとう
)
して来た。
木乃伊
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
騙詐
(
かたり
)
が
世渡
(
よわた
)
り
上手
(
じやうず
)
で
正直
(
しやうぢき
)
が
無気力漢
(
いくぢなし
)
、
無法
(
むはう
)
が
活溌
(
くわつぱつ
)
で
謹直
(
きんちよく
)
が
愚図
(
ぐづ
)
、
泥亀
(
すつぽん
)
は
天
(
てん
)
に
舞
(
ま
)
ひ
鳶
(
とんび
)
は
淵
(
ふち
)
に
躍
(
をど
)
る、さりとは
不思議
(
ふしぎ
)
づくめの
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
ぞかし。
為文学者経
(新字旧仮名)
/
内田魯庵
、
三文字屋金平
(著)
女というものは誰もみな
覗
(
のぞ
)
きこんでも底の見えない、深い
淵
(
ふち
)
のようなものを一つずつ胸のうちに持っているように思えてならない。
鈴木主水
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
御裁許
(
ごさいきょ
)
役所の少し手前に、水の深い
淵
(
ふち
)
があった。甲斐はそこへいって、釣りの支度をし、乾いた流木に腰をおろして、糸を垂れた。
樅ノ木は残った:03 第三部
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
子供のおさらいは、その木の下で遊び、またはみんなと連れだって、その岩の前や
淵
(
ふち
)
の上、池の堤をただ通って行くことでありました。
日本の伝説
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
ある時は天を
焦
(
こが
)
す
焔
(
ほのお
)
の中に無数の悪魔が
群
(
むらが
)
りて我家を焼いて居る処を夢見て居る。ある時は万感一時に胸に
塞
(
ふさ
)
がって涙は
淵
(
ふち
)
を為して居る。
恋
(新字新仮名)
/
正岡子規
(著)
むかし、ばらばらに取り壊し、
渾沌
(
こんとん
)
の
淵
(
ふち
)
に沈めた自意識を、単純に素朴に強く育て直すことが、僕たちの一ばん新しい理想になりました。
花燭
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
また小なれば、頭を埋め、爪をひそめ、
深淵
(
しんえん
)
にさざ波さえ立てぬ。その昇るや、大宇宙を
飛揚
(
ひよう
)
し、そのひそむや、百年
淵
(
ふち
)
のそこにもいる。
三国志:05 臣道の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
しかし興味あるのはその例外の時である——深い
淵
(
ふち
)
が、無数の人々の共通な魂が、一閃の光によって寸秒の間てらし出されるときである。
ジャン・クリストフ:10 第八巻 女友達
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
湖水岸へ出る二町ばかり手前に、葭のきれめから水の流がのぞかれるところがあつて、そこは、早瀬が岩にせかれて、
淵
(
ふち
)
になつてゐました。
千本木川
(新字旧仮名)
/
土田耕平
(著)
そして少しかみてが、滝とも
瀬
(
せ
)
ともつかない急な流れでゆきどまりとなり、その下に、大人の胸ほどの深さのひろい
淵
(
ふち
)
をこさえていました。
山の別荘の少年
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
それから二人は今の
牛
(
うし
)
ヶ
淵
(
ふち
)
あたりから半蔵の
壕
(
ほり
)
あたりを南に向ッて歩いて行ったが、そのころはまだ、この辺は一面の高台で
武蔵野
(新字新仮名)
/
山田美妙
(著)
娘
(
むすめ
)
はその
淵
(
ふち
)
に
立
(
た
)
って、
水
(
みず
)
の
上
(
うえ
)
を
見
(
み
)
ますと、そこに、
赤
(
あか
)
いすいれんの
花
(
はな
)
が、二つ三つ、ちょうど
星
(
ほし
)
のように、
美
(
うつく
)
しく
咲
(
さ
)
いていたのであります。
娘と大きな鐘
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
それ故私は
唯
(
たゞ
)
代官町
(
だいくわんちやう
)
の
蓮池御門
(
はすいけごもん
)
、
三宅坂下
(
みやけざかした
)
の
桜田御門
(
さくらだごもん
)
、
九段坂下
(
くだんざかした
)
の
牛
(
うし
)
ヶ
淵
(
ふち
)
等
(
とう
)
古来人の称美する場所の名を挙げるに
留
(
とゞ
)
めて置く。
水 附渡船
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
人をつけさせるとよかったが、すぐ眼と鼻の先だからと思って一人で帰してやると、家へは帰らずに、今朝死骸になって
牛
(
うし
)
ヶ
淵
(
ふち
)
に浮いていた
銭形平次捕物控:033 血潮の浴槽
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
湖水のここは、
淵
(
ふち
)
の水底からどういう加減か
清水
(
しみず
)
が湧き出し、水が水を水面へ擡げる
渦
(
うず
)
が休みなく捲き上り八方へ散っている。
金魚撩乱
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
その国民たるもの、なお迷信の
淵
(
ふち
)
に沈みおるありさまにては、実に国家の体面を汚し、国民の名誉を損するといわねばならぬ。
迷信解
(新字新仮名)
/
井上円了
(著)
また山代の
大國
(
おほくに
)
の
淵
(
ふち
)
が女、
苅羽田刀辨
(
かりばたとべ
)
に娶ひて、生みませる御子、
落別
(
おちわけ
)
の王、次に
五十日帶日子
(
いかたらしひこ
)
の王、次に
伊登志別
(
いとしわけ
)
の王三柱。
古事記:02 校註 古事記
(その他)
/
太安万侶
、
稗田阿礼
(著)
山岸の一方が
淵
(
ふち
)
になって
蒼々
(
あおあお
)
と
湛
(
たた
)
え、こちらは浅く瀬になっていますから、私どもはその瀬に立って糸を淵に投げ込んで釣るのでございます。
女難
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
金に目の
晦
(
くら
)
んだ兄に引き
摺
(
ず
)
られて、絶望の
淵
(
ふち
)
へ沈められて行った、お柳に対する
憐愍
(
れんびん
)
の情が、やがて胸に
沁
(
し
)
み拡がって来た。
爛
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
永光寺の開山(名をきゝもらせり)
血脉
(
けちみやく
)
をかの
淵
(
ふち
)
にしづめて
化度
(
けど
)
し玉ひしゆゑ悪竜
得脱
(
とくだつ
)
なし、その礼とてかの
墓石
(
はかいし
)
を
淵
(
ふち
)
にいだして
死期
(
しき
)
を
示
(
しめ
)
す。
北越雪譜:06 北越雪譜二編
(新字旧仮名)
/
鈴木牧之
、
山東京山
(著)
「網では獲れそうにもないから、
明日
(
あす
)
は釣ってみようか、あの
淵
(
ふち
)
の傍で釣ってみてもいいな、釣るがよいかも知れないぞ」
ある神主の話
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
私たちが「弓と鉄砲」の話をかつぎ廻っていた翌年には、
独墺
(
どくおう
)
合邦という爆弾的宣言が、欧洲を一挙に
驚愕
(
きょうがく
)
の
淵
(
ふち
)
に
陥
(
おとしい
)
れた。
原子爆弾雑話
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
ちと異なお願いでござりまするが、てまえは今おおせのその右門、けさほど
牛
(
うし
)
ガ
淵
(
ふち
)
でゆゆしき変事がござりましたのでな。
右門捕物帖:31 毒を抱く女
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
そして彼は恐ろしい
疑惧
(
ぎく
)
と、絶望の
淵
(
ふち
)
に沈んでいる伯母を残したなり、口笛を吹きながら自分の「道場」へと立ち去った。
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死――
(新字新仮名)
/
長与善郎
(著)
この世は俗悪と冷却との
淵
(
ふち
)
から、もう起き上り得ないかのように見える。工藝の世界が今日ほど暗黒にされたことは、かつてなかったであろう。
工芸の道
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
こっちは「よそ者」であり、お客であり、おまけに「若もの」と来ている。それだけでもう、相手を驚きと怖れの
淵
(
ふち
)
へ突きおとすには十分なのだ。
嫁入り支度
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
自分はこう考えて、浮かぶことのできない、とうてい出ずることのできない、深い悲しみの
淵
(
ふち
)
に沈んだような気がした。
奈々子
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
そして天気のよい日に十五分間の
滞潮
(
よどみ
)
を利用して、モスケー・ストロムの本海峡を横ぎって
淵
(
ふち
)
のずっと上手につき進み
メールストロムの旋渦
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
山腹の左の方から
渓水
(
たにみず
)
が湧き出て滝のように流れています。それが深い谷に落ちて
淵
(
ふち
)
になったり、また岩に激して流れ出したりする変化が面白い。
大菩薩峠:11 駒井能登守の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
葉子の心は無理無体な努力で時々驚いたように乱れさわぎながら、たちまち物すごい沈滞の
淵
(
ふち
)
深く落ちて行くのだった。
或る女:1(前編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
江戸
(
えど
)
の
民衆
(
みんしゅう
)
は、
去年
(
きょねん
)
の
吉原
(
よしわら
)
の
大火
(
たいか
)
よりも、
更
(
さら
)
に
大
(
おお
)
きな
失望
(
しつぼう
)
の
淵
(
ふち
)
に
沈
(
しず
)
んだが、
中
(
なか
)
にも
手中
(
しゅちゅう
)
の
珠
(
たま
)
を
奪
(
うば
)
われたような、
悲
(
かな
)
しみのどん
底
(
ぞこ
)
に
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
んだのは
おせん
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
さらば往きて
汝
(
なんぢ
)
の陥りし
淵
(
ふち
)
に沈まん。沈まば
諸共
(
もろとも
)
と、彼は宮が
屍
(
かばね
)
を引起して
背
(
うしろ
)
に負へば、その
軽
(
かろ
)
きこと
一片
(
ひとひら
)
の紙に
等
(
ひと
)
し。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
それから、同じ円朝物の「真景
累
(
かさね
)
ヶ
淵
(
ふち
)
」が近来有名になった。しかし大体に於いて怪談劇に余り面白いものは少ない。
怪談劇
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
そこは丁度
淵
(
ふち
)
になった個所で、たださえ深い上に、雨降り続きの増水、しかも、夕暮れの深い谷間、その底を流れる川は、いとど物凄く見えるのだ。
吸血鬼
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
するとお松は何も言わずに「三太」を
懐
(
ふところ
)
に入れたまま、「か」の字川の「き」の字橋へ行き、青あおと
澱
(
よど
)
んだ
淵
(
ふち
)
の中へ烏猫を
抛
(
ほう
)
りこんでしまいました。
温泉だより
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
「馬鹿な自信を持ってかえって不安の
淵
(
ふち
)
に足を踏み入れぬように用心した方が
好
(
い
)
いだろうよ。この弓をやろうじゃないか、腹の
空
(
す
)
いた時の用心に——」
吊籠と月光と
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
と、自身で自身を
叱
(
しか
)
って見たが、私にはただたわいもなく哀れっぽく悲しくって何か深い
淵
(
ふち
)
の底にでも
滅入
(
めい
)
りこんでゆくようで
耐
(
こら
)
え
性
(
しょう
)
も何もなかった。
うつり香
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
銀色の
翅
(
つばさ
)
を閃かして飛魚の飛ぶ
熱帯
(
ねったい
)
の海のサッファイヤ、ある時は其面に紅葉を
泛
(
うか
)
べ或時は底深く日影金糸を
垂
(
た
)
るゝ山川の明るい
淵
(
ふち
)
の
練
(
ね
)
った様な
緑玉
(
エメラルド
)
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
魔
(
ま
)
の
淵
(
ふち
)
のようなしずけさの底に、
闇黒
(
やみ
)
とともに這いよる夜寒の気を、お艶は薄着の肩にふせぐ
術
(
すべ
)
もなく、じっと動かないお藤の
凝視
(
ぎょうし
)
に射すくめられた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
私たちは川風に吹かれながら橋の
欄干
(
らんかん
)
にもたれて、
鐘
(
かね
)
ヶ
淵
(
ふち
)
の方からきた蒸気船が小松島の発着所に着いてまた
言問
(
こととい
)
の方へ向かって動き出すまで見ていた。
桜林
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
酒の酔ひは一時しのぎなものだつたが、一切の習慣をふり捨て、冒険的な
淵
(
ふち
)
へ飛び込んでゆける力が
湧
(
わ
)
いて来る。
浮雲
(新字旧仮名)
/
林芙美子
(著)
東京の政界は華々しい。我ら田舎に住んでいるものは、
淵
(
ふち
)
に臨んで
魚
(
ぎょ
)
を
羨
(
うらや
)
むの情に堪えない。しかし
大
(
だい
)
なるものは成るに難く、小なるものは成るに
易
(
やす
)
い。
渋江抽斎
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
お父様の
髑髏
(
どくろ
)
で作ったところの、髑髏の盃を取り出して、木曽川の
深所
(
ふかみ
)
の
巴
(
ともえ
)
ヶ
淵
(
ふち
)
に、沈んでいるお父様の
死骸
(
なきがら
)
へつなぎ合わせて、お上げしなければならない
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
“淵”の解説
淵(ふち)とは、河川の流水が緩やかで深みのある場所。川の深み、淀みという表現もある。対語は、水深が浅い急流部を示す瀬(せ)。渕は俗字とされる。
(出典:Wikipedia)
淵
漢検準1級
部首:⽔
12画
“淵”を含む語句
深淵
淵川
信淵
賀茂真淵
岩淵
曲淵
陶淵明
顔淵
淵辺
出淵
青淵
鰐淵寺
此淵
姥子淵
岩淵町
淵酔
遠淵
真淵
淵源
夏侯淵
...