洗濯せんたく)” の例文
「上野ですか、ハイおツリでちゅ」ぐらいならよいが、家の中を飛び廻って裁縫さいほうする妻、洗濯せんたくしている女中にも、一々聞いてまわる。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
あらまあオウ・マイと鼻の穴から発声する亜米利加アメリカ女が、肌着はだぎ洗濯せんたくしたことのない猶太ユダヤ人が、しかし、仏蘭西フランス人だけは長い航海を軽蔑けいべつして
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
家の南側に、釣瓶つるべを伏せた井戸があるが、十時ころになると、天気さえよければ、細君はそこにたらいを持ち出して、しきりに洗濯せんたくをやる。
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そんな下さらない娯楽を授けるより赤シャツの洗濯せんたくでもするがいい。あんまり腹が立ったから「マドンナにうのも精神的娯楽ですか」
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「しいちやんのは鬼の留守に洗濯せんたくぢやなくて、淋しくなつてたまらないから、私のやうなものを思ひ出して來てくれたんだらう」
ゆい子は家事に慣れないようすで、めしのきかたもうまくないし、き掃除や洗濯せんたくなども、時間ばかりかかってとんと片づかなかった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
子供のときから何かといえば跣足はだしになりたがった。冬でも足袋たびをはかず、夏はむろん、洗濯せんたくなどするときはきまっていそいそと下駄をぬいだ。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
ある時、故郷を流れている川の南辺へ行って、洗濯せんたくをしていると、折から荷物を積んだ船が通りかかった。船の人々がこの女をからかった。
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
家の前のくりの木の列は変に青く白く見えて、それがまるで風と雨とで今洗濯せんたくをするとでもいうように激しくもまれていました。
風の又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
食事や洗濯せんたくの世話などしてくれる家族の隣りに住み、池を前に、違いだな、床の間のついた部屋から、毎日宮司のつとめにかよっているらしい。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
れがすゞしいなつをんなをとこときには毎日まいにちあせよごやすいさうしてかざりでなければらぬ手拭てぬぐひ洗濯せんたくひまどるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
でなくもハナァがパンを燒いたりパイをねたりお洗濯せんたくをしたりアイロンをかけたりしてゐる時に自分達で御飯の支度をするつてこともね。
受し者なればお里のお豐は洗濯せんたくをし又惣内の甚兵衞は日傭ひよう駈歩行かけあるき手紙使てがみづかひつちこね草履ざうり取又は荷物にもつかつぎ何事に依ず追取稼おつとりかせぎを爲し漸々其日を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それまで或病院の薬剤師だつたのですが、おとうさんが出征されると、おかあさんがその病院の洗濯せんたくや、掃除の仕事で働くやうになりました。
母子ホームの子供たち (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
その間、衣類のことなんかにはかまっていられないだろう。そう考えて私は、せっせと洗濯せんたくをしたり、縫い直しものをしたりして、時を待った。
の楽しみ命の洗濯せんたく、息のあるうちに見ていかつしやれ。天気はよし、風はなし、あれ/\シャボン玉が飛ぶわ、飛ぶわ。
シャボン玉 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
与吉の家内はいつも勝手の手伝いに来るので、張物はりもの洗濯せんたくも上手にします。人のうわさでは、商売をしていたとかいいました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
ごめんどうですがね、あす定期検閲な所が今度は室内の整頓せいとんなんです。ところがぼく整頓風呂敷せいとんぶろしき洗濯せんたくしておくのをすっかり忘れてしまってね。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「そうさ、さっきいたまつの木のえだっかけてしてあるのさ。なにしろぎもというやつは時々ときどきして、洗濯せんたくしないと、よごれるものだからね。」
くらげのお使い (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
むすめの花子さんは十五さいでしたか、豊頬黒瞳ほうきょうこくとう、まめまめしく、ぼく達のよごれ物の洗濯せんたくなどしてくれる、可愛かわいらしさでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
畑の仕事や洗濯せんたくや車曳きなどもいたします。昨夜はバケツを携げてお豆腐を買いに十町もある店まで行きました。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
家の中のことはすべて一人でやった、寝所をこしらえ、へやを片付け、洗濯せんたくをし、料理をし、雨の日も天気の日も、何でも手当たりしだいにやってのけた。
そういう恐ろしい状態のうちに彼はじっとしていた、一世紀ほども長く思われた間——とついに扉が開いて、手に洗濯せんたく物のかごを持ったルイザがはいって来た。
魔法つかひの爺さんは古い洗濯せんたくだらひと六粒のお豆とを、火の竜にひかせた車にすることができるのです。
虹猫の大女退治 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
わたししたりた。——家内かないかみひに出掛でかけてる。女中ぢよちうひさしぶりのお天氣てんき湯殿口ゆどのぐち洗濯せんたくをする。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かあさんは、お勝手かってや、洗濯せんたくをなさるときには、こまかいこうしじまのエプロンをていなさいました。
はてしなき世界 (新字新仮名) / 小川未明(著)
春琴居常潔癖けっぺきにしていささかにてもあか着きたる物をまとわず、肌着はだぎ類は毎日取換とりかえて洗濯せんたくを命じたりき。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そのこちらが軍用の船着広場で、中央に中世紀の塔に似た放水塔があり、それに群れて水をくんだり洗濯せんたくしたりしている兵たちの姿が見えた。そして油を流したような海。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
それから眼を黒い管につたわらせて下方におろして行くと、ゴム管のさきが洗濯せんたくバサミではさんである。洗濯物をすときに使う、あのバネのついた木製の洗濯バサミである。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
下着の破れを大あぐらいて繕い、また井戸端いどばたにしゃがんでふんどしの洗濯せんたくなどは、御不浄の仕末以上にもの悲しく、殊勝らしくお経をあげてみても、このお経というものも
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
わずかにデッキの上でバタバタと、その切れっぱじ洗濯せんたくしたおしめのように振れていた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
はゝさんとふはるいひとだから心配しんぱいをさせないやうにはやしまつてくれゝばいが、わたしはこれでもひと半纒はんてんをば洗濯せんたくして、股引もゝひきのほころびでもつてたいとおもつてるに
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
爺さんは山へ薪かりに、媼さんは川へ洗濯せんたくに行きました。……媼さんがじゃぶじゃぶ洗濯をしていますと、川上の方から大きな桃が二つ、どんぶらこ、どんぶらこと流れて来ました。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
私はかえるのように自由に臓腑を取り出す事が出来たら如何に便利な事かと思う、そして水道の水で洗濯せんたくしてちょっとした破れは妻君さいくんに縫わせて、もとへ収め込むという風にしたいものだ。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
芸者の昼の時間もそうひまではなく、主人の居間から自分たちの寝る処の拭き掃除に、洗濯せんたくもしなければならず、お稽古も時には長唄ながうた常磐津ときわず、小唄といったふうに、二軒くらいは行き
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
木綿及び麻織物洗濯せんたく。ハンケチ、前掛、足袋たび食卓テエブル掛、ナプキン、レエス、……
たね子の憂鬱 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いのち洗濯せんたく」「いのち鍛錬たんれん」「旅行日記」「目ざまし草」「関牧場創業記事」「斗満とまむ漫吟まんぎん」をまとめて一さつとした「命の洗濯」は、明治四十五年の三月中旬東京警醒社書店けいせいしゃしょてんから発行された。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
と君子さんが血相けっそうを変えて注進ちゅうしんした。お風呂場で洗濯せんたくをしていたお母さんは
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
歌子は裁縫や洗濯せんたくを彼女の家に頼んで、わりのよい価を支払らっていた。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
たつとき事もあり、あはれなる事もあり、少しは空物語そらものがたりもあり、利口りこうなる事もありと前文ぜんぶんしるかれたり、竹取物語たけとりものがたり宇津保物語うつぼものがたりはなし父母ちゝはゝにして、それよりしもかたいたりては、ぢゞは山へ、ばゞは川へ洗濯せんたく
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
その食卓掛けのよく洗濯せんたくしてあるけれど色がひどくげちょろになっているのや、アルミニウムの珈琲沸コオフィイわかしの古くて立派だけれどその手がとれかかっていると見えて不細工に針金でまいてあるのや
恢復期 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「あの、おたけどんは裏で洗濯せんたくをしているのでございます」
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ばゞ洗濯せんたくかはにて、ひろ
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
下女は先刻さっき洗濯せんたく石鹸シャボンを買いに出た。細君ははばかりである。すると取次に出べきものは吾輩だけになる。吾輩だって出るのはいやだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのうちに、すずめきなおうちまへにはたけえてました。かあさまのお洗濯せんたくするはうつてますと、そこにもたけてゐました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ガラツ八の八五郎、横つ飛びに路地を突つきつて、庭口から洗濯せんたく物をかきわけながら、バアと縁側へ顏を出しました。
おばあさんが川でぼちゃぼちゃ洗濯せんたくをしていますと、こうから大きなうりが一つ、ぽっかり、ぽっかり、ながれてました。おばあさんはそれを
瓜子姫子 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
させても役に立ける此感應院は兼てよりお三婆さんばゝとは懇意こんいにしけるが或時寶澤をよびて申けるは其方そち行衣ぎやうえ其外ともあかつきし物をもちお三婆の方へ參り洗濯せんたく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ときにはあねさまかぶりにたすきをかけ、すそ端折はしょったままで、——たぶん洗濯せんたくかなんかしていたのだろうが、——あたふたと土堤へ駆けだして来たりする。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「かめへんわい。放りこんだら着物よごれて、母ちゃんが洗濯せんたくせんならんだけや。そないなったら困るやろ」
(新字新仮名) / 織田作之助(著)