ふくろ)” の例文
一時頃いちじごろまで、みな戸外おもてすゞんでて、なんさわかただらう、何故なぜあゝだらう、からすふくろおどろかされるたつて、のべつにさわわけはない。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こんな事を言ひ/\、樵夫きこりやつ枯木かれきり倒すと、なかから土でこさへたふくろの形をした物が、三つまでころころと転がり出した。
狼の頭、豹の頭、さめの頭、蟒蛇うわばみの頭、蜥蜴とかげの頭、鷲の頭、ふくろの頭、わにの頭、——恐ろしい物の集会である。彼は上座の方を見た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
彼はふくろのように眼ばかりを光らせて寂寞と悲痛の底に震えてはいられなかった。それを自分の運命の究極とはどうしても考えたくなかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
世の中の人間を、いい人間と悪い奴との二色に分けている次郎は、直ちに、万太郎をいい方、雲霧を悪い方と鑑別して、ふくろのような眼玉を剥き
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その上祥雲寺しょううんじ門前からここまで、蜘蛛手くもでの細い路地を拾ってあんな具合に飛んで来るのは、『千里の虎』でなきゃアふくろ
二郎は魂の抜け去ったようにぼうっとしてたたずんでいますと、頭の上の大きな杉林に風の音が物凄く、月の光りがちらちらと洩れてふくろ啼声なきごえが聞えます。
迷い路 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ふくろの鳴くまねをすると、湖水の向こうの山の梟がこれに返事をする、これをそのわらべは楽しみにしていましたが、ついに死にまして、静かな墓に葬られ
春の鳥 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
と乃公はふくろのように馬鹿面をして答えた。そして今にも雷が落ちそうだったから、一目散におっ走って来た。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
イヤ、どうも暑いの何のって……二重マントの袖で汗を拭い拭いしてみたが明るい外界からイキナリ、暗い飼育室に来たもんだからふくろみたいに何も見えない。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
底光りのする空を縫った老樹のこずえには折々ふくろが啼いている。月の光は幾重いくえにもかさなった霊廟の屋根を銀盤のように、その軒裏の彩色を不知火しらぬいのようにかがやかしていた。
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さみしさ凄さはこればかりでもなくて、曲りくねッたさも悪徒らしい古木の洞穴うろにはふくろがあのこわらしい両眼で月をにらみながら宿鳥ねとりを引き裂いて生血なまちをぽたぽた……
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
神さんは多少心元ない色をふくろのような丸い眼のうちただよわせて出て行った。それから一週間ほどっても森本はまだ帰らなかった。敬太郎も再び不審をいだき始めた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あれはフィリップさんというふくろの夫婦。いま鳴いてるのは夫人おくさんの方です」と、ささやくように答えた。
にわかに太陽の出るのを見たふくろのごとく、囚人たる彼は徳に眩惑げんわくされ盲目となされてしまっていた。
但し是等はくらうべからず即ちわし黄鷹くまたかとびはやぶさたか、黒鷹のたぐい各種もろもろからすたぐい鴕鳥だちょうふくろかもめ雀鷹すずめたかたぐいこうさぎ、白鳥、鸅鸆おすめどり、大鷹、つる鸚鵡おうむたぐいしぎおよび蝙蝠こうもり
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
お宮の松にはふくろんでゐたのぢやがと、その不氣味な鳴き聲を思ひ出しながら、暗い梢を見上げてゐると、その木蔭から一羽の鳥が羽叩はたたきして空を横切つてゐるやうな氣がした。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
そうしていばらだのはぜだの水松みずまつだの、馬酔木あしびだの、満天星どうだんだの這い松だのの、潅木類は地面を這い、さぎうずらきじふくろたかわしなどの鳥類から、栗鼡りす鼯鼡むささび𫠘いたちまみ、狐、穴熊、鹿などという
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
のつそりめと三度めには傍へ行つて大声で怒鳴つて遣りましたれば漸く吃驚してふくろに似た眼でひとの顔を見詰め、あゝ清吉あーにーいかと寝惚声の挨拶、やい、きさまは大分好い男児をとこになつたの
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
夜の禿山では、雑木の梢が風にざわめき、どこかでしきりにふくろが鳴いていた。
三狂人 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
いわんや、上野や浅草の梵鐘ぼんしょうが力なく響き渡って、ふくろの鳴き声と共に夜のとばりが降りると、人々は天空に横わる銀河にさえ一種の恐怖を感じ、さっと輝いてまた忽ち消える流星に胸を冷すのであった。
死の接吻 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
うだ、奇麗だらう。」と白髮の老人はさも自慢さうにいふ。何うも、其の聲は聞覺があるやうに思はれてならない。併しうしても、誰の聲であつたかわからなかった。何處どこかでふくろが啼出した。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
鳥類てうるゐにて耳目に触れしは「かけす」、四十雀、ふくろありしのみ。
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
近くの木で、ホウ、ホウと二声、ふくろが啼いた。
平馬と鶯 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ふくろもぽうぽうした。
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
マストから、ふくろみたいに
(新字旧仮名) / 新美南吉(著)
へうふくろ饅頭まんぢう分配ぶんぱい
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
ふくろつばめにはとり
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
成程なるほどむしふくろでは大分だいぶ見當けんたうちがひました。……つゞいてあまあついので、餘程よほどばうとしてるやうです。失禮しつれい可厭いやなものツて、なにきます。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「はあ、三分遅れましたか……」勝気な娘は、ふくろのやうな瞬きが気に入らなかつた。で、思ひ切つた皮肉を投げつけた。
その上祥雲寺しやううんじ門前から此處まで、蜘蛛手くもでの細い路地を拾つてあんな具合に飛んで來るのは、『千里の虎』で無きアふくろ
くろい頭巾ずきんの中から、ふくろのような目をギョロリとさせて、やなぎがくれに遠去とおざかる三つの網代笠あじろがさを見おくっていたが、やがてウムとひとりでうなずいた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今日も庭の百日紅さるすべりの梢に蛇が居る。何処かの杉の森でふくろがごろ/\のどを鳴らして居る。麦が収められて、緑暗い村々に、すこしの明るさを見せるのは卵色の栗の花である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
十兵衛もろくもふくろと常々悪口受くる銅鈴眼すずまなこにはや涙を浮めて、はい、はい、はいありがとうござりまする、思い詰めて参上まいりました、その五重の塔を、こういう野郎でござります、御覧の通り
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
神秘に充ち充ちた有様と云うものは……空の光に迷うふくろの声、海の波間で閃めく夜光虫、遠い遠い沖の方から、何者とも知れぬ響がかすかに起こり、しばらくして鳴り止みますと、後は森然しんとしています。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
何處どこかの森でふくろの啼いてゐる。それが谷間に反響して、恰どやまびこのやうにきこえる。さて立ツてゐても爲方しかたが無いから、あとへ引返す積りで、ぼつ/\あるき始めたが方角とてもしかと解ツてゐなかツた。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
やまぢやふくろわらす。
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ふくろ馳走ちさうさらもらうた。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
阿呆鴉あほうがらすふくろかア
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
少年を載せた巌は枝に留まったふくろのようで、その天窓あたま大きく、尻ッこけになって幾千仭いくせんじんともわきまえぬ谷の上へ、おおかぶさってななめに出ている。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふくろのように目をまるくして、ソーッと、また一、二けんちかづいて、よくよくそのかげを見さだめていると、あんにたがわず、それは鞍馬くらま竹童ちくどうである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見るとつがひのふくろで、厭世哲学者のシヨオペンハウエルのやうな眼をして、じつと其辺そこらみまはしてゐたが、暫くすると背後うしろの藪のなかへ逃げ込んでしまつた。
のっそりめと三度めには傍へ行って大声で怒鳴ってやりましたればようやくびっくりしてふくろに似た眼でひとの顔を見つめ、ああ清吉あーにーいかと寝惚声ねぼけごえ挨拶あいさつ、やい、きさまは大分好い男児おとこになったの
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「油斷するな、ふくろの聲が合圖だよ」
ふくろ衣嚢かくしさじれた
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
ふくろのような声を発した。つら赭黒あかぐろく、きば白く、両の頬に胡桃くるみり、まなこ大蛇おろちの穴のごとく、額の幅約一尺にして、眉は栄螺さざえを並べたよう。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「えっ?」と、ヨハンの目は森の闇のふくろのように大きくみはりましたが、安蔵のことばを容易に信じないように
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
官僚派が寄つてたかつて寺内伯を第二の山県やまがた公に仕立てようとするなぞがそれで、伯の尖つた頭からふくろのやうに毛がむくむく生え出して来たらお慰みである。
近々とふくろが鳴きました。
陽氣やうき加減かげんか、よひまどひをして、町内ちやうない大銀杏おほいてふ、ポプラの古樹ふるきなどでことがあると、ふくろだよ、あゝ可恐こはい。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)