握拳にぎりこぶし)” の例文
と言って、握拳にぎりこぶしで腰をたたくのが、突着けて、ちょうど私の胸の処……というものは、あの、急な狭い坂を、やつは上の方に居るんだろう。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
左の手で握拳にぎりこぶしを造つてごらん。すると、指のもとのところで拇指を除いたほかの四本の指は、一つづつ高いところと低いところと出来る。
階段の踏石ふみいししりに冷たく、二人は近来まれな空腹を感じる。欠伸あくびをしたり、心窩みぞおち握拳にぎりこぶしで叩いたりして、その激しさを訴える。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
この和尚の、オホホという笑い方は、握拳にぎりこぶしを口の中へ入れるのと同じように、余人に真似のできない愛嬌がある。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と何うしてもきません、酒の上で気が立って居ります、一人が握拳にぎりこぶしを振って打掛るを早くも身をかわし
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
併し運命がその後私を虐待したのです。あいつは握拳にぎりこぶしで私を滅茶々々にこねまはしさへしたのです。だから今は私は護謨毬ゴムまりのやうに堅く頑固ぐわんこになつてる積りですよ。
さっき八っちゃんがにこにこ笑いながら小さな手に碁石を一杯いっぱい握って、僕が入用いらないといったのも僕は思い出した。その小さな握拳にぎりこぶしが僕の眼の前でひょこりひょこりと動いた。
碁石を呑んだ八っちゃん (新字新仮名) / 有島武郎(著)
先刻さっきから田圃たんぼに呼びかわす男の子の声がして居たと思うたら、やみの門口から小さな影が二つ三つ四つ縁先にあらわれた。小さな握拳にぎりこぶしの指の間から、ちら/\あおい光を見せて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その列の尖端、つまり血の雫の落始まった処は、屍体よりも約五フィート程の東寄にあって、其処には同じ一点に数滴の雫が、停車中の機関車の床から落ちたらしく雪の肌に握拳にぎりこぶし程のしみを作っている。
気狂い機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
競馬好きな馬博士は、「そこだ、そこだ」とばかりで、身をもだえて、左の手に持った山高帽子の上へしきり握拳にぎりこぶしの鞭をくれる。大佐は薄鬚うすひげ掻※かきむしりました。今、源は百間ばかりも進んだのでしょう。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
清君はだまって握拳にぎりこぶしをぎゅっとかためた。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
かっとなった赤熊が、握拳にぎりこぶしかぶるとひとしく、かんてらが飛んで、真暗まっくらに桜草が転げてかえると、続いて、両手で頬を抱えて、爺さんは横倒れ。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、盲人めくらは、政治の話をしだす。はじめは恐る恐る、しまいには誰はばからず。言葉につかえると、彼は杖を振りまわす。ストーヴの煙突へ握拳にぎりこぶしをぶつけ、あわてて引っ込める。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
と鼻をすゝって握拳にぎりこぶしで涙を拭きます心を察してか、お柳も涙ぐみまして
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
進は一つ頬張り乍ら、やがて一つの焼餅おやきを見せびらかすやうにして、『省吾の馬鹿——やい、やい。』と呼んだ。省吾は忌々敷いま/\しいといふ様子。いきなり駈寄つて、弟の頭を握拳にぎりこぶしで打つ。弟も利かない気。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
振向ふりむざまに、ぶつきらぼうつて、握拳にぎりこぶしで、ひたいこすつたのが、悩乱なうらんしたかしらかみを、掻毮かきむしりでもしたさうにえて、けむりなび天井てんじやうあふいだ。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「腕を、拳固がまえの握拳にぎりこぶしで、二の腕の見えるまで、ぬっと象の鼻のように私の目のさきへ突出つきだした事があるんだからね。」
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
殊に人立の中のこと、へこまされたつら握拳にぎりこぶしなかだかになってあらわれ、支うる者を三方へ振飛ばして、正面から門附の胸をつかんだ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「はっ、」と、突掛つっかかる八ツ口の手を引張出して、握拳にぎりこぶしで口のはたをポン、とふたをする、トほっと真白まっしろな息を大きく吹出す……
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「来やがれ、さあ、戸外おもてへ歩べ。生命いのちを取るんじゃねえからな、人通ひとどおりのある処がいや、握拳にぎりこぶしで坊主にして、お立合いにお目に掛けよう。来やがれ、」
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雪枝ゆきえ老爺ぢゞいこれかたとき濠端ほりばたくさ胡座あぐらした片膝かたひざに、握拳にぎりこぶしをぐい、といてはら波立なみたつまで気兢きほつてつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
飛ぶやらねるやら、やあ!と踏張ふんばって両方の握拳にぎりこぶしで押えつける者もあれば、いきなり三宝火箸ひばしでも火吹竹でも宙で振廻す人もある——まあ一人や二人は
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真顔で言うのを聞きながら、判事は二ツばかり握拳にぎりこぶしを横にして火鉢のふちを軽くおさえて、確めるがごとく
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「コリャ」とまた怒鳴って、満面の痘痕をうごめかして、こらえず、握拳にぎりこぶしを挙げてその横頬よこづらを、ハタとった。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何處どこから繰出くりだしたか——まさかへそからではあるまい——かへる胞衣えなのやうなくだをづるりとばして、護謨輪ごむわ附着くツつけたとおもふと、握拳にぎりこぶしあやつつて、ぶツ/\とかぜれる。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「これから、これへ、」と作平はあかじみた細いしわだらけの咽喉仏のどぼとけ露出むきだして、握拳にぎりこぶしで仕方を見せる。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「へ、どんなもんで、」と今度は水洟みずばなをすすり上げた握拳にぎりこぶし、元気かくのごとくにしてかつ悄然しょうぜんたり。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
握拳にぎりこぶしで、おのひざはたつたが、ちからあまつて背後うしろ蹌踉よろける、と石垣いしがき天守てんしゆかすみれる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
(不孝者!)といって、握拳にぎりこぶし突然いきなり環をぶとうとしたから、私もきっとなって、片膝立てて
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
紳士の身体からだは靴を刻んで、揺上ゆりあがるようだったが、ト松崎が留めたにもかかわらず、かッと握拳にぎりこぶしで耳をおさえて、横なぐれに倒れそうになって、たちまち射るがごとく町を飛んだ。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すかりと握拳にぎりこぶしの手を抜くとひとしく、列車の内へすっくと立って、日に焼けたつらかわら黄昏たそがるるごとく色を変えながら、決然たる態度で、同室の御婦人、紳士の方々、と室内に向って
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きょろんと立ったつれの男が、一歩ひとあし返して、おさえるごとくに、握拳にぎりこぶしをぬっと突出すと、今度はその顔をかがみ腰に仰向いて見て、それにも、したたかに笑ったが、またもや目を教授に向けた。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
旅僧たびそうはそういって、握拳にぎりこぶしを両方まくらに乗せ、それで額を支えながら俯向うつむいた。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「やれやれ綺麗きれいな姉さんが台なしになったぞ。あてこともねえ、どうじゃ、切ないかい、どこぞ痛みはせぬか、おなかは苦しゅうないか。」と自分の胸を頑固な握拳にぎりこぶしでこツこツと叩いて見せる。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
旅僧たびそうういつて、握拳にぎりこぶし両方りやうはうまくらせ、それひたひさゝへながら俯向うつむいた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
答うる声も震えながら、「何がなし一件じゃ、これなりこれなり。」と、握拳にぎりこぶしを鼻の上にぞかさねたる、乞食僧の人物や、これをいわむよりはたまた狂と言むより、もっとも魔たるに適するなり。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けばけばしく真赤まっか禅入ぜんにゅうを、木兎引ずくひきの木兎、で三寸ばかりの天目台てんもくだい、すくすくとある上へ、大は小児こども握拳にぎりこぶし、小さいのは団栗どんぐりぐらいな処まで、ずらりと乗せたのを、その俯目ふしめに、トねらいながら
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その爺さんがね、見ると……その時、角兵衛という風で、頭を動かす……坐睡いねむりか、と思うともがいたんだ。仰向あおむけにって、両手の握拳にぎりこぶしで、肩をたたこうとするが、ひッつるばかりで手が動かぬ。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
丸官の握拳にぎりこぶしが、時に、かわら欠片かけらのごとく、群集を打ちのめして掻分かきわける。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
慶造は言効いいがいなしとや、握拳にぎりこぶしを膝に置き、おもてを犯さんず、意気組見えたり。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お船頭、御苦労じゃ、御苦労じゃ、お船頭と、みんな握拳にぎりこぶしで拝んだだがね。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と言いかけて、無邪気に、握拳にぎりこぶしで目をおさえて、かれ落涙らくるいしたのである。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
突懸つっかかり、端に居たやつは、くたびれた麦藁帽むぎわらぼうのけざまにかぶって、頸窪ぼんのくぼり落ちそうに天井をにらんで、握拳にぎりこぶしをぬっと上げた、脚絆きゃはんがけの旅商人たびあきんどらしい風でしたが、大欠伸おおあくびをしているのか、と見ると
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雪枝ゆきえ満面まんめんくれなゐそゝいで、天守てんしゆむかつてみねよりたか握拳にぎりこぶしげた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
此方こなたきっと二の腕からすじを入れた握拳にぎりこぶしを、一文字にした。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あ!」と一つ握拳にぎりこぶしを口に突込むがごとくことばを遮る。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
行詰った鼻の下へ、握拳にぎりこぶし捻込ねじこむように引擦ひっこすって
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いきなり鼻の先へ大きな握拳にぎりこぶし突出つきだした
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
弦光は猫板に握拳にぎりこぶしを、むずと出して
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
握拳にぎりこぶしで、猫板ドンとやって
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)