あわたゞ)” の例文
こう書いてある手紙の端を持ったまゝ、瑠璃光は自分の身を疑うが如く、たゞうわの空で、ところ/″\の文言をあわたゞしく読み散らした。
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
かれがふとおもしたやうにせま戸口とぐちけてあかるいそとほこりしがめてつたとき與吉よきちあわたゞしく飯臺はんだいふたをしたところであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
五来氏は巴里の料理屋で見たやうに、あわたゞしく応接室に入つて来た。そしてしげしげ有島氏の顔を見てゐたが、急にしんみりした調子になつて
板為切いたじきりの向側からは返事が聞えない。矢張単調な祈祷の声がしてゐる。それとあわたゞしげに立ち振舞ふ物音がするだけである。
と、こゑないまで、したかわいたか、いきせはしく、をとこあわたゞしく、懷中ふところ突込つゝこんだが、かほいろせてさつかはつた。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
雲は極から極へ、團一團とあわたゞしく續けざまに流れて行つた。そして、この七月の日に青空の一かけも見えないのであつた。
どこか近くの部屋の中で人の爭つてゐるらしいけはひが、あわたゞしく、又妙にひつそりと私の耳を脅しました。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
信一郎は、その裡の誰かゞ、屹度きつと瑠璃子に違ひないと思ひながら、一人から他へと、あわたゞしい眼を移した。が、たゞいら/\するだけで、ハツキリと確める術は、少しもなかつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
跡をも見ず飛ぶが如くに我家わがやに立帰り、あわたゞしくこぶしをあげてかどの戸を打叩うちたゝ
と彼女はあわたゞしく廻る身の轉變に思ひをそゝられてか潤んだ聲で言つた。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
あひだそらわたこがらしにはかかなしい音信おどづれもたらした。けやきこずゑは、どうでもうれまでだといふやうにあわたゞしくあかつた枯葉かれは地上ちじやうげつけた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
彼の光輝ある太陽は、今あわたゞしく沈まうとしてゐる。彼からの先日の手紙は、私に人間らしい涙を流させた、而も私の心は聖なるよろこびにみたされた。
どこか近くの部屋の中で人の争つてゐるらしいけはひが、あわたゞしく、又妙にひつそりと私の耳を脅しました。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
汽車きしやはたゞ、曠野あらの暗夜やみ時々とき/″\けつまづくやうにあわたゞしくぎた。あとで、あゝ、あれが横濱よこはまだつたのかとおもところも、あめれしよびれた棒杭ぼうぐひごと夜目よめうつつた。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
七月三十一日午後六時すぎの事、阪神電車の梅田停留場から神戸行の電車に乗込んだ。ベルが鳴つて電車がこれから出かゝらうとした時、席の真中程からあわたゞしく衝立つゝたち上つた若い男がある。
女はあわたゞしげに、無言で衣物を着た。そして毛皮を羽織つて寝台に腰を掛けた。
「よう、おとつゝあ」おつぎの節制たしなみうしなつたあわたゞしさが勘次かんじにははしらせた。勘次かんじ戰慄せんりつした。かきしたにはつめたい卯平うへいよこたはつてたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
口々くち/″\かはして、寂然しんとしたみちながら、往來ゆききあわたゞしいまちを、白井しらゐさんの家族かぞくともろともに立退たちのいた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私と向ひあつてゐた侍はあわたゞしく身を起して、柄頭つかがしらを片手に抑へながら、きつと良秀の方を睨みました。それに驚いて眺めますと、あの男はこの景色に、半ば正気を失つたのでございませう。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼はあわたゞしく腕で私を抱いた。「有難い。」と彼は叫んだ。
鄰村となりむら空臼からうするほどのおとがすればしたで、あわたゞしくつて、兩方りやうはうそらうかゞはないではられない。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こゑふるへ、をのゝいて、わたしたち二十人にじふにんあまりをあわたゞしく呼寄よびよせて、あの、二重にぢう三重さんぢうに、しろはだ取圍とりかこませて、衣類きもの衣服きものはななかに、肉身にくしん屏風びやうぶさせて、ひとすくみにりました。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かれあわたゞしくまどひらいて、呼吸いきのありたけをくちから吐出はきだすがごとくにつきあふぐ、と澄切すみきつたやまこしに、一幅ひとはゞのむら尾花をばなのこして、室内しつないけむりく。それがいは浸込しみこんで次第しだいえる。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あにじやに見着みつかつたうへからは安穩あんのんむらにはられぬ、とおもふと、てら和尚をしやうまで一所いつしよつて、いまにも兩親りやうしんをはじめとして、ドヤ/\押寄おしよせてさうにおもはれ、さすがに小助こすけあわたゞしく
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
今はハヤ須臾しゆゆも忍びがたし、臆病者と笑はば笑へ、恥も外聞もらばこそ、予はあわたゞしく書斎を出でて奥座敷のかた駈行かけゆきぬ。けだし松川の臥戸ふしどに身を投じて、味方を得ばやとおもひしなり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
今朝一時いつときに十一と、あわたゞしく起出でて鉢をいだけば花菫はなすみれ野山に満ちたるよそほひなり。
草あやめ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
わたしたちは七丁目なゝちやうめ終點しうてんからつて赤坂あかさかはうかへつてた……あのあひだ電車でんしやして込合こみあほどではいのに、そらあやしく雲脚くもあしひくさがつて、いまにも一降ひとふりさうだつたので、人通ひとどほりがあわたゞしく、一町場ひとちやうば二町場ふたちやうば
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
少年せうねんんだのはえらいが、あわたゞしさうな言語ものいひ
人参 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
思沈おもひしづんだのが、きふあわたゞしげにつて
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あわたゞしくかたくと
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
民也たみやきふあわたゞしく
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)