ほか)” の例文
そのほか後に薩、隅、日の三国で新に徴集したもの、及、熊本、延岡、佐土原、竹田等の士族で来り投じたものが合せて一万人あった。
田原坂合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「それは知らなかった、——ほかの事なら知らん顔もするが、『疾風』がこの辺へ入込むようじゃ放っちゃおけねえ。行ってみようか」
いいえ、組合のほかに新床が出来たんで、どうのこうのって、何でもいじゃあがあせんか、お客様は御勝手な処へいらっしゃるんだ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
遙か下の方からは、うざうざするほど繁り合った濶葉樹林かつようじゅりんに風の這入はいる音のほかに、シリベシ河のかすかな水の音だけが聞こえていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
近年、私は阪神沿線へ居を移してからというものは、ことほか、地面の色の真白さと、常に降りそそぐ陽光の明るさに驚かされている。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
ドウカ明日あしたノ朝モウ一度、オ婆サンノ所ヘ来テ下サイ。コノ計略ノほかニハオ婆サンノ手カラ、逃ゲ出スミチハアリマセン。サヨウナラ
アグニの神 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一 同室に就寝していた女給は、前回と同じ顔触れの鈴江、お千代、とし子の三人とほかに清子、かおるの二人の新顔しんがおが加わっていた。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もうこのころじゃ、門附けは流行はやらんでな。ことしあもうめよかと思うだ。五、六年前まであ、東京へ行った連中も旅費のほかに小金を
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
又其ほかに提灯なども吾が枕辺に照されてゐて、眠に就いた時と大に異なつて居たのが寝惚眼に映つたからの感じであつた事が解つた。
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「いいね。普通ふつう野菜物やさいもの無論むろんとして、ほかにトウモロコシだのトマトウだの、トマトウのとりてつて、ほんとにおいしいからな。」
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
ぶたい花みちは雪にて作りたる上に板をならぶる、此板も一夜のうちにこほりつきて釘付くぎづけにしたるよりもかたし。だん国にくらぶればろんほかなり。
実はわたしがおっ母さんの世話をするのも、因襲のほかの関係なので、わたしは生涯をその関係にゆだねたというものかも知れませんよ。
しかれども巴里パリー本邸のほかアンジアン及びニイスに別荘を有し、はなはだ贅沢なる生活を為せるも、その財源をいずこに求むるや不明。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
うっかり書いてしまうものなら子供じみたモラル風の味のほかはでそうにもない、それともそんな味さえ消えてなくなるかも知れない。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
「箇旧を脱出するなら今夜をおいてほかはない。わしの、あの小さな熔鉱炉で出来た錫と通鑑つうかんを貸そう。二人を連れて行ったらどうだ」
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
調べ方も有ったろうに、えゝ仕様がねえ、何しろ私はほかに用がありますから、又ちかえ内にお尋ね申しやす、時節を待っておいでなさい
明智が行李を蹴散けちらして追いすがった。四畳半の窓を開けると物干場ものほしばがある。階下に見張りがあるため逃げ場は屋根のほかにないのだ。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
及ばずながら常に男子に後援たらんとせしにほかならず、かの男子と共に力を争い、た功を闘わさんなどは妾の思いも寄らぬ所なり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
鶴見は海と共に際涯さいがいもない感情を抱いてその画を丹念に見返し見返ししている。波と岩との争闘のほかに火と海との相剋がそこにある。
しかし今日の進歩せる自然科学といえども、その幾多複雑なる研究を以てして、つまりはヨブ記と同一の言を発するほかはないと思う。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
牛でも鳥でもそのほか何の肉でもエキス分が沢山あって肉のまだ鮮しいうちはそのエキス分が分解作用を受けないから肉の外にあります。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
翌日またそのテントの人たちもやはり私の進んで行く方向に移転するということでその親切にしてくれた人はほかの方へ行きましたが
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
またそのほかに私的の事件で扱ったものは、無数で、そのうちでも、実に錯綜した難問題で、颯爽たる役目をやったものもたくさんあった。
しかし抽斎は心を潜めて古代の医書を読むことがすきで、わざろうという念がないから、知行よりほかの収入はほとんどなかっただろう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
モリエールやヴォルテールやボンマルシェを熱愛したのも人生の底流に不動の岩盤を露呈している虚無に対する熱愛にほかならなかった。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
紺絣のほかに好きなのは鹿児島の泥染どろぞめの大島です。洗うほどきれいです。私はかっこうがあまりよくないので手固いものを愛します。
着物雑考 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
とにかく、いつもの夢想からめて、ひょいと気が付いてみたら、たった一人で古い墓室の薄暗がりの中にいた、というよりほかはない。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ママはほかにいい仕事しごとっていて、たくさんおあしがもらえるので、いつまでもやめたくないのだということを、シューラは思い出した。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
われわれ日本の芸術家の先天的に定められた運命は、やはりこうした置炬燵の肱枕よりほかにはないというような心持になるのであった。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
二号にがう活字くわつじ広告くわうこく披露ひろうさるゝほかなんよくもなき気楽きらくまい、あツたら老先おひさきなが青年せいねん男女なんによ堕落だらくせしむる事はつゆおもはずして筆費ふでづひ紙費かみづひ
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
しかしてカイゼルの如きはたまたまこの感情を高調して、他民族に対する力の征服を志したものにほかならぬんである。試みに英国を見よ。
永久平和の先決問題 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
阿蘇あそ活動かつどうみぎほか一般いつぱん火山灰かざんばひばし、これが酸性さんせいびてゐるので、農作物のうさくぶつがいし、これをしよくする牛馬ぎゆうばをもいためることがある。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
誠にたわいもないことではあるが、それをはっきりと知って置くと、後に類推によって思いのほかの解説が成立つかも知れぬ望みがある。
今まで余の集め得たる証拠はすべれのほかまことの罪人あることを示せるに彼れ自ら白状したりとは何事ぞ、かゝる事の有り得べきや
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
勘次かんじ近所きんじよ姻戚みよりとのほかには一ぱんさなかつたがそれでもむらのものはみなせんづゝつてくやみにた。さうしてさつさとかへつてつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
これをこのままにして置てはとても始末が付かぬから、何でも片付けなければならぬ。如何どうしよう。ほかに仕方がない。何でも売るのだ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
さすがにお銀様も、いい心持でそれを聞いているわけにはゆきません……ところで盲法師の申しわけは、少しく意想のほかでありました。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
い分別といふのはほかでもない、もしか卜新老が約束にそむいたら、持前のお医者の腕をふるつてみせる事だ。ゲエテが言つたぢやないか。
面附つらつきこそはれよりもよけれ、脛附すねつきが十人並にんなみ以上いじゃうぢゃ、それからあしどうやはふがほどいが、ほかには、ま、るゐい。
私は折々亡くなった父や母の事を思い出すほかに、何の不愉快もなく、その一夏ひとなつを叔父の家族と共に過ごして、また東京へ帰ったのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
質請しちうけして御主人をあたゝかにやすませられよほかに思案は有まじと貞節ていせつを盡して申を聞き喜八も涙を流して其志操そのこゝろざしかんわづか二分か三分の金故妻を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
イボギンヌの家庭は愛想のよい御両親のほかに女学校二年生の妹が一人あるの。これから此の人達を家庭教師にしてフランス語の練習です。
母と娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
卓子テーブルそばわづかすこしばかりあかるいだけで、ほか電灯でんとうひとけず、真黒闇まつくらやみのまゝで何処どこ何方どちらに行つていかさツぱりわからぬ。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
九州きゅうしゅう総追捕使そうついほしというのは、九州きゅうしゅう総督そうとくという意味いみなのです。するとほか大名だいみょうたちは、これも半分はんぶんはこわいし、半分はんぶんはいまいましがって
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「お前はほんとにしようがないおしゃべりだねえ。それじゃお前のお守の女中がその夢のことをほかへ話さないようにしましょう」
オシャベリ姫 (新字新仮名) / 夢野久作かぐつちみどり(著)
しかれどもさつて吉野の物さびたる造化の深き峰のあたりに見るに、其美、其妙、塵垢に近き墨坨のほかに勝る事幾倍なるを知るべし。
この内英国人は六、七十人、仏人は五、六十人、瑞西人スイッツルじんは本国であるだけに四、五十人もいる。日本人は我輩のほかに三人あるのみである。
大船おほふなはつしてしまへば最早もう國府津こふづくのをほか途中とちゆうなにることは出來できないとおもふと、淺間あさましいことには殘念ざんねんたまらない。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
僕たちの方ではね、自分をほかのものとくらべることが一番はずかしいことになっているんだ。僕たちはみんな一人一人なんだよ。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
年よった悪魔はこの手段をほかありませんでした。兵隊を使ったんじゃ、とてもイワンを取っちめることは出来ませんでした。
イワンの馬鹿 (新字新仮名) / レオ・トルストイ(著)