しき)” の例文
ちゃくわと二方をしきった畑の一部を無遠慮に踏み固めて、棕櫚縄しゅろなわ素縄すなわ丸太まるたをからげ組み立てた十数間の高櫓たかやぐらに人は居なかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ああ、かすみに見ゆる観世音の額の金色こんじきと、中をしきって、霞の畳まる、横広い一面の額の隙間から、一条ひとすじたらりと下っていた。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
飯を食ってしまって、半七は楊枝ようじをつかいながら縁先に出ると、狭い路地のかさなり合ったひさしのあいだから、海のような碧い大空が不規則にしきられて見えた。
半七捕物帳:07 奥女中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
長方形にしきられた畫面の中に、重い暗い茶褐色の空気が漂うて、わずかに胸をお納戸色の衣に蔽い、裸体の儘の肩と腕とに金や珠玉のを飾った下げ髪の女が
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
外は飛沫しぶきが凄まじいが、三四五六丁の此方こちらはまたとろりとした一面の閑かさで、腐れたようにも濁っている。しきっているのは飛び飛びの青黒い岩の弧線である。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
空はそのためにいくつにも割れて見え、綴られて見え、しきられて見えた。柿の実が五つ六つ秋の午後の空に赤く浮ぶやうに綴られてゐたのを見たことなどもあつた。
樹木と空飛ぶ鳥 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
其夏、毎晩夜遅くなると、健のうち——或る百姓家を半分しきつて借りてゐた——では障子を開放あけはなして、居たたまらぬ位杉の葉をいぶしては、中でしきりに団扇であふいでゐた。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
この小さな日本を六十幾つにしきって、ちょっと隣へ往くにも関所があり、税関があり、人間と人間の間には階級があり格式があり分限ぶんげんがあり、法度はっとでしばって、習慣で固めて
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
天鵞絨ビロウドを張つた真黒まつくろ屋形やがたの中に腰を掛けた気持は上海シヤンハイで夜中に乗つた支那の端艇はしけを思ひ出させた。狭い運河の左右は高い家家いへいへしきられ、前はやみと夜霧とで二けんと先が見えない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
しな田圃たんぼからあがるまへ天秤てんびんおろしてひだりまがつた。自分じぶんいへはやしとのあひだにはひと足趾あしあとだけの小徑こみちがつけてある。おしなその小徑こみちはやしとの境界さかひしきつて牛胡頽子うしぐみそばたつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
襤褸衣服ぼろぎものにそゝけ髪ます/\悲しき風情なるが、つく/″\独り歎ずる時しも、台所のしきりの破れ障子がらりと開けて、母様これを見てくれ、と猪之が云ふに吃驚して、汝は何時から其所に居た
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
墓地をしきつてゐる生籬いけがきの若葉が、スイ/\と勢ひよく延びてゐた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
今日けふしきりて、人のため
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
田圃向うの黒い村をあざやかにしきって、東の空は月の出の様に明るい。何千何万の電燈でんとう瓦斯がす松明たいまつが、彼夜の中の昼をして居るのであろう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
……不思議です。……特に奇蹟と存じますのは、——家の地続きをしきって、的場を建てましたのですが、土地の様子、景色、一本の松の形、地蔵のあるまで。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
クリロフの家は樺太における露人の住居特有な校倉あぜくら式の丸太組のそれではなかった。極めて粗末なバラックで、ただ洋風に窓をしきり羽目板をぶつけたに過ぎない。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
其夏、毎晩夜遲くなると、健の家——或る百姓家を半分しきつて借りてゐた——では、障子を開放して、居たたまらぬ位杉の葉を燻しては、中で頻りに團扇で煽いてゐた。
足跡 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
早速さつそく幾本かの蝋燭が各室にけられて大洞窟の闇を破つた。客室サロンも寝室も倉も炊事すべて自然の巌石がんせきくり抜き、それしきつた壁も附属した暖炉や棚などもまつた据附すゑつけ巌石がんせきで出来て居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
往来の土は見えないで石門にしきられたわくの中を宇治川の早瀬が流れて行く。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
襤褸衣服ぼろぎものにそそけ髪ますます悲しき風情なるが、つくづくひとり歎ずる時しも、台所のしきりの破れ障子がらりと開けて、母様これを見てくれ、と猪之が云うにびっくりして、そなたはいつからそこにいた
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
墓地をしきっている生籬いけがきの若葉が、スイ/\と勢いよく延びていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
置敷居おきしきいで、しきって、道具立ての襖がまれば、十七一時いっときに出来ると云いますが、新館、新築で、ここを棄ててくから、中仕切なかじきりなんど、いつも取払って
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白ペンキ塗の厚縁あつぶち燦々きらきらで、脾弱ひよわい、すぐにもしわってはずれそうな障子やからかみしきりの、そこらの間毎まごとには膏薬のいきれがしたり、汗っぽい淫らな声がえかけたりしている。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
機動演習きどうえんしゅう目標もくひょうかと思うたら、其れは京王電鉄けいおうでんてつが沿線繁栄策の一として、ゆく/\東京市の寺院墓地を移す為めに買収ばいしゅうしはじめた敷地しきち二十万坪をしきる目標の一つであった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
オテル・ド・※ロンの鉄門を押してはひると、石を敷き詰めた広い中庭が高い鉄柵で七分三分にしきられ、柵をとほして見える古い層楼の正面の石廊せきらうへ夕日の斜めにした光景が物寂びて居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
まだんだまゝの雜具ざふぐ繪屏風ゑびやうぶしきつてある、さあお一杯ひとつ女中ねえさんで、羅綾らりようたもとなんぞはもとよりない。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
四方を高い建物でしきられて
古火鉢と、大きな細工盤とでしきって、うしろに神棚をまつった仕事場に、しかけた仕事の鉄鎚かなづちを持ったまま、たがねおさえて、平伏をなさると、——畳が汚いでしょう。
暗いの内を見なさいますとね、向うななめの古戸棚をしきった納戸境の柱にかかっていた、時計がないの。
さゝくたらしを、ほう/\といてうまがつて、燒豆府やきどうふばかりを手元てもと取込とりこみ、割前わりまへときは、なべなか領分りやうぶんを、片隅かたすみへ、群雄割據ぐんゆうかつきよ地圖ちづごとしきつて、眞中まんなかうめざうもつを
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
塵も置かない綺麗事の庭の小さな池のふちに、手で一寸ちよつとしきられるばかりな土に、紅蓼べにたで、露草、蚊帳釣草、犬ぢやらしなんど、雑草なみに扱はるゝのが、野山みち、田舎のさま髣髴ほうふつとして
玉川の草 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
大土間の内側を丸太でしきった——(朝市がそこで立つ)——そのしきりの外側を廻って、右の権ちゃん……めくらじま筒袖つつッぽ懐手ふところで突張つっぱって、狸より膃肭臍おっとせいに似て、ニタニタとあらわれた。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二十歩とはまだへだたらないうちに、目の下の城下に火が起った——こういうと記録じみる——一眸いちぼうの下に瞰下みおろさるる、縦横に樹林でしきられた市街の一箇処が、あたかも魔の手のあって
紅糸べにいとで白い爪先つまさきを、きしとしきったように、そこに駒下駄が留まったのである。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
成程なるほどきにいたうへにも、寝起ねおきにこんな自由じいうなのはめづらしいとおもつた。せき片側かたがはへ十五ぐらゐ一杯いつぱいしきつた、たゞ両側りやうがはつてて、ながらだと楽々らく/\ひぢけられる。脇息けふそくさまがある。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
桂谷かつらだにと言うのへ通ずる街道である。病院の背後をしきって、蜿々うねうねと続いた松まじりの雑木山は、畠を隔てたばかり目のさきに近いから、遠い山も、けわしいみねも遮られる。ために景色が穏かで、空も優しい。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あれに真白まっしろな足が、と疑う、緋の袴は一段、きざはししきられて、二条ふたすじべにの霞をきつつ、上紫に下萌黄もえぎなる、蝶鳥の刺繍ぬい狩衣かりぎぬは、緑に透き、葉になびいて、柳の中を、するすると、容顔美麗なる白拍子。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あれに真白な足が、と疑ふ、緋の袴は一段、きざはししきられて、二条ふたすじべにかすみきつゝ、うえむらさきした萌黄もえぎなる、ちょうとり刺繍ぬい狩衣かりぎぬは、緑に透き、葉になびいて、柳の中を、する/\と、容顔美麗なる白拍子しらびょうし
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
が、船底が高くって、ふなばたは、その乳のあたりをしきって見える
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と葛木は、小皿と猪口の間を、卓子台ちゃぶだいの上でしきって
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
唐桟とうざんの胸をしきって
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)