ほか)” の例文
ほかとりたちは、からすの勇気ゆうき感心かんしんしました。いままで、ばかにされたからすが、いちばんりこうなとりといわれるようになりました。
からすとかがし (新字新仮名) / 小川未明(著)
さればそれより以前には、浅草から吉原へ行く道は馬道のほかは、みな田間でんかんの畦道であつた事が、地図を見るに及ばずして推察せられる。
里の今昔 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それも恐らく描きかけのままになるであろう自分の「ルウベンスの偽画」をたずさえて再びここを立ち去るよりほかはないであろうか?
ルウベンスの偽画 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そのほか、当代著名の人、富田勢源、戸田一刀斎などの、高名を慕い、住居を追う間に、いつか四年の歳月を空しくした甚助は、翻然ほんぜん
剣の四君子:03 林崎甚助 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのくぐって甲府へ出ることはそれほど難しいことでは無いが、元は優しいので弱虫弱虫とほか児童等こどもたちに云われたほどの源三には
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一時に全国諸社の奉幣ほうへいを遊ばすので、なにか一つの社だけに願掛がんがけをすることが、ほかをおろそかにするように感じられたのであろう。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
声をかけて見ようと思う、嫗は小屋で暗いから、ほかの一人はそこへと見るに、たれも無し、月を肩なる、山の裾、蘆をしとねの寝姿のみ。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかしその親類の人には、ようさんという彼とおない年位な男に二、三遍会ったぎりで、ほかのものに顔を合せた記憶はまるでなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
野生やせいけものだけでも、二百六十八種にひやくろくじゆうはつしゆうしうまそのほか家畜かちく動物どうぶつ十六種じゆうろくしゆもゐますが、こゝではやま動物どうぶつについてすこしくおはなししませう。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
「ハイハイ。そうでございますよ、なにしろ年寄夫婦でございますもんで、男の方は禁物で。どうかあなたほかさまをお借りなすって」
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
おいまアほかの者が詫ことをしたって勘弁は出来ねえんだが、御主人の嬢さまのお詫ことだから、父さまの位牌いへえへも詫ことをしてやり
わたくしと、日出雄少年ひでをせうねんと、ほか一群いちぐん水兵すいへいとは、りくとゞまつて、その試運轉しうんてん光景くわうけいながめつゝ、花火はなびげ、はたり、大喝采だいかつさいをやるつもりだ。
「幾ら名器だつて何万円は高過ぎよう。それにそんな物をたつた一つ買つたところで、ほかの持合せと調和が出来なからうぢやないか。」
贋物 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
「僕の家は貧乏ですが、ねだいを置く位の所はあります、きたなくておかまいがなけりゃ、ほかへ往かなくってもいいじゃありませんか」
黄英 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ついては大隅氏の縁談は貴君にたのむよりほかは無い、先方の御住所は左記のとおりであるから、よろしく聯絡れんらくせよ、という事であった。
佳日 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「念の為めだ。僕は学務部長がかわる度に誰か知ったものを通して、大友を推薦している。ほかのものに切られちゃ堪まらないからね」
首切り問答 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
またほかの者の手へ渡しては子供が可哀そうだからと、すっかりあたしの子になさったのを、誰に教育をたのもうというのでしょう。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
いかにしてこの事ありや、夜登らんとおもふ者はほかの者にさまたげらるゝかさらずば力及ばざるため自ら登る能はざるか。 四九—五一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
それにほかのおうちかきへはのぼらうとおもつてものぼれませんでしたが、自分じぶんのおうちかきばかりはわるかほもせずにのぼらせてれました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
いままでみづんだり、それを保存ほぞんするには椰子やしからのようなものとか、貝類かひるいからとかを使つかふことのほかはなかつたのであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
さうして、その人たちと一緒にゐた時は、隨分みじめだつた。その小さな孃さんのほかには、彼女は、たつたひとりで住んでゐるのかしら。
カピ長 おゝ、モンタギューどの、御手おんてをばあたへさせられい。これをこそ愛女むすめへの御結納ごゆひなうともおもひまする、ほかのぞみとてはござらぬわい。
ほかなにもさしげるものとてございませぬ。どうぞこのたきのおみずなりとあがれ……。これならどんなに多量たんとでもございます……。』
だから『てんたう虫』なんかは、顕微鏡で見るためにとか、標本をつくるためにとかのほかは、むやみに殺してはいけないのです。
原つぱの子供会 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
今、汽車を下りた人達の乗つた人力車が、後先にがら/\(その時分にはゴム輪の車はなかつた)と走つて居るほか人通りとてはなかつた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
いわゆる特殊部落民であるというただ一つの理由をもって、ほかのあらゆる条件を顧ることなく、ただちにけ者にせられるのであります。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
お勝とほかの女の兒たちとを比べ、お勝がお月さんで他の兒たちは坭龜すつぽんだと言つて、ひどい依怙贔屓えこひきをしたとかで、校長に叱られたさうな。
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
そして俺は、前の言い方には、ほかならぬそのボル派の用語の臭いがすると思い当った。ボル派はこういう言い方をするのだった。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
彼は東京で暮すのだと言つてゐたが、ほかの男の子がないところから見ると、つまりは此処に落着くのぢやないかと云ふ気がした。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「どうしてお前は大道なんかで書くんだ? こんな文句を——さあ、おれに言ってみろ——こんな文句を書き込む場所がほかにないのか?」
それにはほかの市へ引き移って、そこでもう一度名をあげなければならないと思った。しかし、どうも思うようには行かなかった。
「備前」、「伊賀」等を茶人がことほか高く評価するのは、そこに「麁相の美」を見つめるからである。それは素裸の焼物である。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
で、言うべき文句迄こしらえて、掻くようにして昼を待っていると、昼が来て、成程手隙てすきだから、ほかの者は遊んでいて小女ちびが膳を運んで来る。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
與吉よきち時々とき/″\どぜうつてた。おつぎは衣物きものどろになるのをしかりながらそれでも威勢ゐせいよく田圃たんぼしてやつた。たびほか子供等こどもらうしろから
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
……三世を貫く因果なるものはこの善玉と悪玉との勝負闘争にほかならない。……しかしこれは事新しく私が説くには当たるまい。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「や、ひどく降るな。」と、忠一は袖で顔を払った。それから更に庭を見渡したが、白い木立、白い竹藪、そのほかには何にも見えなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それから太郎さんは、ほかの見世物をのぞいたり、お菓子を買つて食べたりして、のぞき眼鏡のことも女の子のことも、忘れてしまひました。
のぞき眼鏡 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
見張りはじめてより幾程いくほども無く余は目科の振舞にと怪しくかつ恐ろしげなる事あるを見てうせろくな人にはあらずと思いたり、其事はほかならず
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
そこの笹田ささだのうちにずいぶんながくいたけれど、もうあきたからほかへ行くよ。なぜあきたねってきいたらば、子供はだまってわらっていた。
ざしき童子のはなし (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
兎だの、亀だの、そのほか五六ごろく匹の動物は、その時ちょうど森のはずれの小高い禿山はげやまの上にいたので、すぐ火事を見つけることが出来ました。
兎と亀 (新字新仮名) / ロード・ダンセイニ(著)
またほかの書生がこんな事に出会ったりなどして、如何いかにも気味がるかったから、安値やすくってよかったが、とうとう御免こうむったのであった。
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
冷吉は別に何とも思はずに、ほかの事を考へつゝ、あつくろしい寢返りを打つたが、その車は母が終列車で歸つて來たのであつた。
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
あいちやんはねんすやうにはれたのを面白おもしろからずおもつて、なにほか話題はなしはじめやうとして、れかれかとかんがへてました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「だつて、堪るも堪らないもないぢやないか。地主様のつしやる事、誰が苦情を申立てられよう!」と、ほかの声が答へた。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
ほか稽古けいこの時に絵をいたりしないような、そしてお友達に何を言われても、いと思ったことを迷わずするような、強い子になって下さい。
先生の顔 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
船長は、私たちのところにいた間に、靴下を数足行商人から買ったほかには、身につけるものを何一つ変えたことがなかった。
「今のはさるき声であります。これからまたほかき声をおかせいたします。……さあひょっとこ人形、いたりいたり、犬のき声」
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
このほか古今の文献、詩歌小説、演劇講談、落語俗謡、そのの言語文章、絵画彫刻なぞいうもの、又は外国語等にも亘って調べましたならば
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
けれど今更帰れませぬから、自分で如何いかようにしても自活の道を求めて目的地に進むよりほかはないとまで言ったそうだ。時雄は不快を感じた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
しかすで監獄かんごくだとか、瘋癲病院ふうてんびやうゐんだとかの存在そんざいする以上いじやうは、たれ其中そのうちはひつてゐねばなりません、貴方あなたでなければ、わたくし、でなければ、ほかものが。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)