かも)” の例文
「もしわたしのようなものはおしどりにしていただけないなら、かもにでもにおにでもしていただいてあなたのおそばにまいりましょう。」
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
売僧まいす、ちんかも座興ざきょうにしては折檻せっかんが過ぎようぞ、眉間傷が夜鳴き致して見参けんざんじゃ。大慈大悲のころもとやらをかき合せて出迎えせい」
……そこへおまえさんというかもがかかったから、早速、馴じみの与力衆から手を廻して、今、わたしの出て来る前に、離室はなれでその取引さ
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
西風の夜のこの獲物は、かもねぎを背負ってきたようなものだった。うっかり居睡いねむりでもしていようものなら、逃げられてしまうはずだった。
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
が、花簪はなかんざしが傾いたり、だらりの帯が動いたり、舞扇まひあふぎが光つたりして、はなはだ綺麗きれいだつたから、かもロオスをつつつきながら、面白がて眺めてゐた。
京都日記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いつのまにか、十五六羽のかもがおりていて、池の面を泳ぎまわったり、枯れた蓮のあいだから、けたたましく飛びたったりした。
しかしその企ては何時までも実現されなかった。冬になるとかもりるから、今度は一つ捕ってやろうなどといっていた。……
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あゝ、あの、手遊てあそびの青首あをくびかもだ、とると、つゞいて、さまそでしたけたのは、黄色きいろに、艶々つや/\とした鴛鴦をしどりである。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
御蛇おんじゃいけにはまだかもがいる。高部たかべや小鴨や大鴨も見える。冬から春までは幾千かわからぬほどいるそうだが、今日も何百というほど遊んでいる。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
誰もゐない後の部屋では、からからと扇風機が鳴つてゐる。富岡に命じられて、ニウが冷いビールとかもの冷肉を大皿に盛りあはせて持つて来た。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
わりに正直な男で、ねぎを背負つて来たかもみたやうなはなし。こんな偶然事がまひこんで来ようとは、たつた今しがたまで予感もしなかつたことだ。
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
石州はかつて湖沼の草木を思わせるように水盤に水草を生けて、上の壁には相阿弥そうあみの描いたかもの空を飛ぶ絵をかけた。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
池は心の字の形なり。がんかも鸂鶒けいせき群集し鯉鮒游泳して人の足声を聞て浮み出づ。島ありて雁の巣ありといふ。三橋を架す。社地は古の安楽寺の地なり。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
田の中の小道を行けば冬の溝川水少く草は大方に枯れ尽したる中にたでばかりのあこう残りたる、とある処に古池のはちす枯れてがんかも蘆間あしまがくれにさわぎたる
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
かものような羽色をしたひとつがいのほかに、純白のめすが一羽、それからその「白」の孵化ふかしたひなが十羽である。
あひると猿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
一升、それにかも一羽などの手土産をさげて、よう! と言ってあらわれた時には、うれしいからな。本当に、この人生で最もたのしい瞬間かも知れない。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
かもの流れは水音もなく、河原の小石を洗いながら、南に向かって流れていたが、取り忘れられたさらし布が、二すじ三筋河原に残って、白く月光を吸っていた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かもの河原には、丸葉柳まるはやなぎが芽ぐんでいた。そのこいしの間には、自然咲のすみれや、蓮華れんげが各自の小さい春を領していた。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
たいのかしらがあったり、蒲鉾かまぼこがあったり、かもがあったり、いろいろな材料がちらちら目について、大皿に盛られたありさまが、はなやかで、あれを食べよう
鍋料理の話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「歌を詠む参考に水鳥の声をよく聞いときなさい。もう、かもがんも北の方へ帰る時分だから」と言った。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そういえば、毎年おりるお堀のかもが今年は一羽も浮かんでいない、これは公方くぼうさまの凶事をしらせるものだ。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「そうね。またかもにしようというんだろうが、おれも家内のいるうちは、どじばかり踏んでしかられたもんだが、このごろ少し性格に変化が来たようなんで。」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
樹だちの幹の間から、源吉爺さんが、ふと池の面を眺めると、水の上には季節外れのかもが三羽降りていた。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
バタバタやってるのをわけもなく捉えたが、かもきじちがって、真っ黒な烏じゃ、煮て食うわけにも行かねえ
かも小鴨こがも山鳩やまばとうさぎさぎ五位鷺ごいさぎ鴛鴦おしどりなぞは五日目ないし六日目を食べ頃としますがそのうちで鳩は腐敗の遅い鳥ですから七、八日目位になっても構いません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
此村にかたあるゆゑ、水鳥かたしたひてきたり、山のくぼみとびきたり、かならず天の網にかゝる。大抵は𪃈あぢといふかもたる鳥也、美味びみなるゆゑ赤塚の冬至鳥とうじとりとてとほ称美しようびす。
うまほか動物どうぶつぞうには、うしだとかさるだとかゐのしゝだとか、またかもにはとりなどもあり、なか/\面白おもしろいです。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
水鳥みづどりかもいろ青馬あをうま今日けふひとはかぎりしといふ 〔巻二十・四四九四〕 大伴家持
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
かもは列をつくって空高く飛びはじめ、栗鼠りすの鳴く声が山毛欅ぶな胡桃くるみの林から聞えてくるし、うずらの笛を吹くようなさびしい声もときおり近くの麦の刈株の残った畑から聞えてきた。
ほら、この湖には、白鳥や、がんや、かもが棲んでいましたし、土地の古老の話によると、あらゆる種類の鳥が無慮無数に群棲ぐんせいしていて、まるで雲のように空を飛んでいたそうです。
ひろいひろい大うねりの黒い波間には、小さなかもほどの海鴫うみしぎが揺られ揺られて浮いたり沈んだり、すべったり、落ちたりしている影も見た。何という落ちついた叡智の持主であったろう。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
大政おほまつりごとしげくして、西なる京へ君はしも、御夢みゆめならでは御幸みゆきなく、比叡ひえいの朝はかすむ共、かもの夕風涼しくも、禁苑きんゑんの月ゆとても、鞍馬の山に雪降るも、御所の猿辻さるつじ猿のに朝日は照れど
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
都は彼のよいかもで、せっかく所持品を奪ってみても中身がつまらなかったりするとチェッこの田舎者め、とか土百姓めとかののしったもので、つまり彼は都に就てはそれだけが知識の全部で
桜の森の満開の下 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
住むべき家もないゆえかものように迷ってきてこの島に宿をもとめたのである。寂しいといえば都会の喧噪のうちにすこしの理解もない人びとの群にまじってるよりも寂しいことがあろうか。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
詩人 かもちやん。いゝかげんに話を切りあげて、こつちへいらつしやい。
世帯休業 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
かゝる孤島はなれじまことだから、御馳走ごちさういがと大佐たいさ言譯いひわけだが、それでも、料理方れうりかた水兵すいへい大奮發だいふんぱつよしで、海鼈すつぽん卵子たまご蒸燒むしやきや、牡蠣かき鹽煑しほにや、俗名ぞくめう「イワガモ」とかいふこのしま澤山たくさんかも
九州のムダと同じ語であるらしい。根子掘ねこぼりと称して泥炭を採る習慣、坂鳥または坂網といってかもを猟する生活なども、海岸の淡水漁業とともに、かくのごとくにして潟の周囲の地に起ったのである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
一体いったいきみはどういう種類しゅるいかもなのかね。」
今朝もまた、青首(かも)が来ている。
暴風雨に終わった一日 (新字新仮名) / 松本泰(著)
かもの中の一つの鴨を見てゐたり
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
水鳥みずとりかもく島で
遠いところでかも
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
かもだよ、あれは」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
これは窮鳥どころか願ってもないかもがかかって来たわい——と馬春堂は一も二もなく承知して、思わずその晩の酒を過ごしました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうなんですが、そのかも艇長がきょうは姿を見せなかったのですから、ふしぎです。かれは病気でも、こんな重大なときには、われわれを
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
「もうやめだやめだ、こんなこといってると、かもに笑われる。おとよさん省さん、さあさあ蛇王様へまいってきましょう」
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
僕「これですか? これは『方丈記はうぢやうき』ですよ。僕などよりもちよつと偉かつたかも長明ちやうめいと云ふ人の書いた本ですよ。」
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「みんな貰っておこう」妻のほうへ聞えるようにかれはそう云った、「……それから弥五、おまえ正月のかもを持って来なかったようだがどうしたのだ」
日本婦道記:尾花川 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
廿二日 雪雲ついに雪をかもしてちらちらと夜に入る。虚舟きょしゅうかもを風呂敷に包みて持て来る。たらいに浮かせて室内に置く。
雲の日記 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
全く死滅しないまでも山椒魚さんしょううおかもはしのような珍奇な存在としてかすかな生存をつづけるに過ぎないであろう。
俳句の型式とその進化 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)