長柄ながえ)” の例文
二十名も来たろうか、稀れな大鉞おおまさかりげたのや、びた長柄ながえをかかえ込んだのが、赤い火光をうしろに背負い、黒々と立ちよどんで
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうかしたら匕首あいくちかも知れない。とにかく、二階の手摺てすりに居たんだから、下の往来から突き上げたとすると、三間半もある長柄ながえか、物干竿だ。
ここは五条松原で、六波羅探題の大屋敷が、篝火かがりび幔幕まんまく、槍、長柄ながえ、弓矢によっていかめしく、さも物々しくよそおわれていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
何しろ江戸一の大祭なので、当日は往来を止めてみだりに通行を許さず、傍小路わきこうじには矢来やらいを結い、辻々には、大小名だいしょうみょう長柄ながえや槍を出して厳重に警固する。
紫の紐をつけた長柄ながえ駕籠かごに乗り、随喜の涙にむせぶ群集の善男善女ぜんなんぜんにょと幾多の僧侶の行列に送られて、あの門の下をくぐって行った目覚しい光景に接した事があった。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
左右ひだりみぎ土下座どげざして、手をいていた中に馬士まごもいた。一人が背中に私をおぶうと、娘は駕籠から出て見送ったが、顔にそでを当てて、長柄ながえにはッと泣伏なきふしました。それッきり。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つむぎのほかに長井は、そのほうきでも名を成してよいでありましょう。手帚も長柄ながえのも共に作りますが、形に特色がある上に、紺糸で綺麗に草を編むので、ひんのあるしなであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
きんさかずききんのたちばな、にしきたんきぬ五十ぴき、これはおとうさんへのおくものでした。それからぎん長柄ながえぎんのなし、綾織物あやおりものそでが三十かさね、これはおかあさんへのおくものでした。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
屋根に蒲鉾形かまぼこがたの丸味を取ったかんのようなもののなかに、髪を油で練固ねりかためた女が坐っている。長柄ながえは短いが、車の輪は厚く丈夫なものであった。云うまでもなく騾馬らばに引かしている。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
守らせおきの方は船手ふなてへ申付深川新地しんちより品川おき迄御船手ふなてにて取切御そなへの御船は沖中おきなかへ押出し其外鯨船げいせん數艘すそうを用意し嚴重げんぢうこそそなへける然ば次右衞門は桐棒きりぼう駕籠かごに打乘若徒わかたう兩人長柄ながえ草履ざうり取を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
このおおき釣師、見物人の外に、一種異りたる者の奔走するを見る。長柄ながえ玉網たまを手にし、釣り上ぐる者を見るごとに、即ち馳せて其の人に近寄り、すくひて手伝ふを仕事とする、奇特者きとくしゃ? なり。
東京市騒擾中の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
蹄鉄、長柄ながえの鎌、フオク、斧、なたの類がその土間には放り出されてあった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
蚊を取ります袋の付きました竹の棒がある「本所に蚊が無くなれば師走しわすかな」と云う川柳の通り、長柄ながえに袋を付けて蚊を取りますが、仲間衆ちゅうげんしゅうが忘れでもしたか、そこに置いてありましたから
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あるものはまた、一行と共に動いて行く金の葵紋あおいもんの箱、長柄ながえかさ、御紋付きの長持から、長棒の駕籠かごたぐいまであるのを意外として、まるで三、四十万石の大名が通行の騒ぎだと言うものもある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
だんだら染めの六尺帯を背に結んだ下男に長柄ながえの傘を後ろから差しかけさせて、悠々として練って来ましたから七兵衛は、こちらの遊女屋の軒下のきしたに立ってその道中の有様を物珍らしと見ていますと
彼は酔ったような心持で、そのがくの流れて来る方をそっと窺うと、日本にっぽん長柄ながえ唐傘からかさに似て、そのへりへ青や白の涼しげな瓔珞ようらくを長く垂れたものを、四人の痩せた男がめいめいに高くささげて来た。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
なるほど、見てあれば、河原立ちしていた供人の同勢は、弓、長柄ながえなどを燦々さんさんとゆるぎ出して、もうそこの舟橋を彼方へ渡りかけている。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次はいさぎよかぶとを脱ぎました。二間半長柄ながえの大槍で、三寸の狭い隙間から、少なくとも二間以上離れている人間を突けるわけはなかったのです。
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
つくり物らしい槍や長柄ながえや、大鉞おおまさかりなどをひっさげて、それらを時々宙で舞わし、踊りらしい所作などをした。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その間々あいだあいだなる椅子いすには裲襠しかけ着たる遊女同じく長柄ながえのコップを持ち、三絃きゐる芸者と打語うちかたれり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
金屏風きんびょうぶ引繞ひきめぐらした、四海しかいなみしずかに青畳の八畳で、お珊自分に、雌蝶雄蝶めちょうおちょう長柄ながえを取って、たちばなけた床の間の正面に、美少年の多一と、さて、名はお美津と云う、逢阪の辻、餅屋の娘を
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちたはちの中からは、きんうるしをぬったはこが二つ出て、その中にはきんさかずきぎん長柄ながえ砂金さきんつくったたちばなのと、ぎんつくったなしの、目のめるような十二ひとえのはかま
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
と言って、長柄ながえの銚子を投げ出して畳へつっぷしてしまう。
顎十郎捕物帳:20 金鳳釵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
榑挽くれひきるとかがむと手もゆたに大鋸おが長柄ながえむかひ揺り挽く
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
相屆あひとゞける頃は享保きやうほ十一午年九月廿日天一坊が京都出立の行列ぎやうれつ先供さきどもは例の如く赤川大膳と藤井左京の兩人りやうにん一日代りの積りにて其供方には徒士かち若黨わかたう四人づつ長棒ながぼう駕籠かご陸尺ろくしやく八人跡箱あとばこ二人やり長柄ながえ傘杖草履取兩掛合羽籠等なり其跡は天一坊の同勢にて眞先まつさきなる白木しらきの長持にはあふひ御紋ごもん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
彼がこの号令を発したときは、彼自身も、一頭の黒鹿毛くろかげにまたがっていた。そして弥四郎の手から受け取った長柄ながえを持つと
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手に手に持っている獲物といえば、まさかり、斧、長柄ながえ、弓、熊手、槍、棒などであった。先へ立った数人が松明たいまつを持ち、中央にいる二人の小男が、蛇味線じゃみせんばちで弾いていた。
弓道中祖伝 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それが済むと、寺の小坊主、年の頃十二三ばかりのが、墨染めの腰衣こしごろもを着け、手に長柄ながえきりを持って現われ、世話人の手で、厳重に目隠しをされ、札箱の後ろへ立たされました。
ただ台所で音のする、煎豆いりまめに小鼻をいからせ、牡丹ぼたん有平糖あるへいとうねらう事、毒のある胡蝶こちょうに似たりで、立姿たちすがた官女かんじょささげた長柄ながえを抜いてはしかられる、お囃子はやし侍烏帽子さむらいえぼうしをコツンと突いて、また叱られる。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白妙のころもゆたけき韓人からびとがのうのうと挽く長柄ながえ大鋸おほのこ
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
掛し長持ながもち二棹露拂つゆばらひ二人宰領二人づつなり引續ひきつゞきて徒士かち二人長棒の乘物にて駕籠脇かごわき四人やり挾箱はさみばこ草履取ざうりとり長柄ながえ合羽籠かつぱかご兩掛りやうがけ都合十五人の一列は赤川大膳にて是は先供さきとも御長持あづかりの役なり次に天一坊の行列は先徒士九人網代あじろの乘物駕籠脇のさむらひは南部權兵衞本多源右衞門遠藤森右衞門諏訪すは右門遠藤彌次六藤代要人かなめ等なり先箱二ツは
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
人々は、手に手に松明たいまつをかざしていた。また、太刀だの、長柄ながえだの、弓だのをたずさえていた。そして此方こなたの牛車を見かけると
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
次に考えられることは、錐に磁石を仕掛け、当り札に鉄片を付けておくことですが、これも、その札が深く隠れている時は無効で、その上、見たところ、長柄ながえの錐にはどんな仕掛もありません。
ある一軒では武士の群れが、長柄ながえの血のりを拭ったり鎧の千切れをつくろったり、やじりの錆びを落としたりしながら、碗で酒をあおりあおり、今日の赤坂の戦いについて、批評や噂をやっていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
槍隊、鉄砲隊、長柄ながえ隊など、およそ部将格以上の者が、それぞれの隊首を離れて、一令の下に、光秀の馬前に集まった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寺にはかねて武具まで持ち込んであったと見え、たちまち駆けつどって来た人々はみんな小具足に身を固め、やり長柄ながえなど、思い思いの打物うちものをかかえていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
席から立った信長の姿を人々が見ると、長柄ながえの太刀脇差わきざしに、七五三縄しめなわを巻いていた。はかまもはいていないのである。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
五十騎、或いは百騎を従え、ときには子ども(小姓)も連れ、長柄ながえの大傘をかざさせ、燦々さんさんと、馬印うまじるしを立てて練り歩く彼の「御通過」を仰ぐと、味方の兵は
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神社から槍や長柄ながえを持ち出して、酒をくらい、戦って死ぬと吠えておりましたが、にわかに、家々へ火を
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これなら担う者も軽々と進退できるし、乗っている官兵衛も坐ったままで、長柄ながえでも刀でも使い得る。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
当然、矢は用をなさないので、長柄ながえ、なぎなた、太刀、槍の白兵戦となろうが、いつまでも、或る至近距離から内へは敵もすすまず、こっちも出てゆく風はなかった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
半刻はんときほどつ。再び喇叭が鳴る。そして薩艦さつかん春日丸から下船した青漆塗せいしつぬ長柄ながえかごが五挺、燃えさかる篝火と雪明りの中を、埠頭の方から、ものものしく歩いて来る。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、ほりを前にしているので、一見難なく見えるそこの築土ついじへも、たやすくは取り付かれなかった。槍、旗竿はたざお、鉄砲、長柄ながえなどの林がひしめき動いているに過ぎなかった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
艤装ぎそういかめしく、大鉄砲の銃座もすえてあるし、長柄ながえや、鈎槍かぎやりなども、ふなべりに立てならべてあった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見れば、薙刀なぎなたやり長柄ながえなどの光が、閃々せんせんと、坪向うのひさしの下を表のほうへ駈け急いでいた。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
といっても、長柄ながえを以て手馴れの打物とし、太刀は使っても、まだ剣法の技も工夫されず精神もなく、ただ兇器の役だけをしていた時代だ。太刀を持っての殺し合いだとも、いえばいえよう。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ごっちゃにじって——槍も長柄ながえも弓持も、秩序なく前後になって——熱田街道あつたかいどうから稲葉地いなばじの野づらを横ぎり、庄内川しょうないがわどての上へと、今、一騎一騎、背のびするように登りかけたところだった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『おうっ——』と、こたえた幾人かがある。『おもしろい』と、長柄ながえを押っとる喧嘩けんかずきもいた。わらわらと、外へ出そろった。いうところの、為義方の感情は、実は、こっちにもある感情なのだ。
ほんが好く読めた時と、長柄ながえの刀で、樹がよく斬れた時だ」
剣の四君子:03 林崎甚助 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
槍を、太刀を、長柄ながえを——思い思い引っ提げて
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)