遺憾ゐかん)” の例文
彼等の言ひ分は重々もつともであると思ふが、また我輩わがはい善蔵君としても、震災以来のナンについてはやはり遺憾ゐかんに思つてゐるんだ。
椎の若葉 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
我々われ/\まちはなし面白おもしろい、知識ちしきのある人間にんげん皆無かいむなのは、じつ遺憾ゐかんなことぢやりませんか。これ我々われ/\つておほいなる不幸ふかうです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
今日こんにち不図ふと鉄道馬車てつだうばしやの窓より浅草あさくさなる松田まつだの絵看板かんばん瞥見致候べつけんいたしそろ。ドーダ五十せんでこんなに腹が張つた云々うん/\野性やせい遺憾ゐかんなく暴露ばうろせられたる事にそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
もし「我々の日本画風」が、かう云ふものであるとすれば、それは遺憾ゐかんながら僕なぞには、余り結構なものとは思はれない。
西洋画のやうな日本画 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
かの橋柱はのち御領主ごりやうしゆ御蔵ごぞうとなりしとぞ。椎谷しひや同国どうこくなれども幾里をへだてたれば其真物しんぶつ不見みず、今に遺憾ゐかんとす。しばらく伝写でんしやを以てこゝにのせつ。
しからばだいあん外國ぐわいこく日本にほんかねりることが出來できるかとふと、遺憾ゐかんながら外國ぐわいこくではかねりることが出來できない。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
ゆゑこの攝養法せつやうはふひろおこなはれ、戰後せんごてふ大任たいにんへるわが國民こくみん體力たいりよく一層いつそう強固きやうこならしめ、各自かくじ職責しよくせき遺憾ゐかんなく遂行すゐかうせられんことをふか希望きばうするところなり。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
その祖父はかつて孫を此上なく寵愛ちようあいして、およそ祖父の孫に対する愛は、遺憾ゐかんなく尽して居つたにもかゝはらず、その死の床にははべつて居るものが一人も無いとは!
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「閣下、其れを御信用下だされましては、遺憾ゐかん千万に御座りまする、全く松島様の誤解で御座りますから——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
年齡ねんれいも十六七以上いじやう、一とほ學問がくもんをして學問がくもん家政かせいなり、なになり日常にちじやう處世しよせいうへ應用おうようがしてけるはづでありますが、實際じつさいつきますると種々しゆ/″\遺憾ゐかんてんがあるやうです。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
景勝けいしよう愉樂ゆらくきやうにして、内湯うちゆのないのを遺憾ゐかんとす、とふ、贅澤ぜいたくなのもあるけれども、なに青天井あをてんじやう、いや、したゝ青葉あをばしづくなかなる廊下らうかつゞきだとおもへば、わたつてとほはしにも、かはにも
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「さうとはまつたく遺憾ゐかんですな、少しこの子と話し合つてみなければなりますまい。」で、彼は直立の姿勢だつたのを、少し屈めながら、リード夫人と差向ひの安樂椅子ソフアに腰かけた。
かれ自分じぶん東京とうきやうんでれた杉原すぎはらが、いまなほ課長くわちやうとして本省ほんしやうにゐないのを遺憾ゐかんとした。かれ東京とうきやううつつてから不思議ふしぎとまだ病氣びやうきをしたことがなかつた。したがつてまだ缺勤屆けつきんとゞけしたことがなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そこで予は遺憾ゐかんながら、当局並びに同僚たる文武教官各位の愛顧にそむいて、とうとう大阪毎日新聞へ入社する事になつた。
入社の辞 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
かの橋柱はのち御領主ごりやうしゆ御蔵ごぞうとなりしとぞ。椎谷しひや同国どうこくなれども幾里をへだてたれば其真物しんぶつ不見みず、今に遺憾ゐかんとす。しばらく伝写でんしやを以てこゝにのせつ。
爲替相場かはせさうば騰貴とうきにもかゝはらず糸價しかかへつ騰貴とうき賣行うれゆきまた良好りやうかうなりしに米國證劵市場べいこくしようけんしぢやう不安定ふあんてい糸價しか下落げらくしたるは我國わがくに生糸貿易きいとぼうえき非常ひじやう遺憾ゐかんとするところである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
に離別の旧妻に対して多少の眷恋けんれんもよほすなからんやと、誠に然り、余が弁護士の職務をなげうつてよりすでに八星霜、居常きよじやう法律を学びしことにむかつ遺憾ゐかんの念なきに非ざりしなり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
しか折角せつかく此所こゝまでながら、此所こゝきみかほないのは遺憾ゐかんだから、この手紙てがみ次第しだい一寸ちよつといからいといふ端書はがきた。無事ぶじ退屈たいくつ宗助そうすけうごかすには、この十數言すうげん充分じゆうぶんであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
孫引まごひきのものがほ出来できなかつたのを遺憾ゐかんとする。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
唯、さう云ふ画が二三点すで売約済ばいやくずみになつてゐたのは、誰よりも先づいた人自身が遺憾ゐかんだつたのに違ひない。
俳画展覧会を観て (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
文墨ぶんぼく雅人がじんも多しときゝしが、旅中りよちゆうとしきやうするにあひ皈家きかいそぎしゆゑ剌を入れざりしは今に遺憾ゐかんとす。
記録は、大体ここまでしか、悪魔の消息を語つてゐない。唯、明治以後、ふたたび、渡来した彼の動静を知る事が出来ないのは、返へす返へすも、遺憾ゐかんである。……
煙草と悪魔 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
文墨ぶんぼく雅人がじんも多しときゝしが、旅中りよちゆうとしきやうするにあひ皈家きかいそぎしゆゑ剌を入れざりしは今に遺憾ゐかんとす。
姉弟していの家を焼かれ、数人の知友を死せしめしが故に、み難き遺憾ゐかんを感ずるのみ。我等は皆なげくべし、歎きたりといへども絶望すべからず。絶望は死と暗黒とへの門なり。
こゝろ帰家かへりたきにありて風雅ふうがをうしなひ、古跡こせきをもむなしくよぎり、たゞ平々なみ/\たる旅人りよじんとなりて、きゝおよびたる文雅ぶんがの人をも剌問たづねざりしは今に遺憾ゐかんなり。嗟乎あゝとしけんせしをいかんせん。
彼等が百代ののちよく砂ときんとを辨じ得るかどうか、私は遺憾ゐかんながら疑ひなきを得ないのである。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
こゝろ帰家かへりたきにありて風雅ふうがをうしなひ、古跡こせきをもむなしくよぎり、たゞ平々なみ/\たる旅人りよじんとなりて、きゝおよびたる文雅ぶんがの人をも剌問たづねざりしは今に遺憾ゐかんなり。嗟乎あゝとしけんせしをいかんせん。
時間と能力との関係によつてこの集に収めることの出来なかつたのは甚だ遺憾ゐかんである
日本小説の支那訳 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
が、遺憾ゐかんながら伊香保へは、高等学校時代に友だちと二人ふたりで、赤城山あかぎさん妙義山めうぎさんへ登つたついでに、ちよいと一晩泊つた事があるだけなんだから、麗々れいれいしく書いて御眼おめにかける程の事は何もない。
忘れられぬ印象 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
僕の為に感激していはく、「君もシエリングの如く除名処分を受けしか」と! シエリングもまた僕の如く三十円の金を出ししぶりしや否や、僕はいま寡聞くわぶんにしてこれを知らざるを遺憾ゐかんとするものなり。
その頃の赤門生活 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
が、一つの茶席もない、更に好い時に来なかつたのは、返す返すも遺憾ゐかんに違ひない。——自分は依然として仏頂面ぶつちやうづらをしながら、小林君と一しよに竹藪のうしろに立つてゐる寂しい光悦寺の門を出た。
京都日記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
と云ふのは勿論両氏の作品に非難を加へようと云ふのではない。寛大な西洋人に迎へられたことを両氏の為に欣幸きんかうとし、偏狭へんけふな日本人にしりぞけられたことをクロオデル大使の為に遺憾ゐかんとするのである。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
開化の日本の少女の美を遺憾ゐかんなく具へてゐたのであつた。
舞踏会 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)