まも)” の例文
一生懸命にこの家をまもつたのだから、急にどいてくれと云はれても、どくところはないし、そんな事は、道にづれてゐると云つた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
七、日軍肉迫すモンテ・カルロの堅塁けんるい。金鍍金めっきとルネッサンス式の唐草と、火・風・水・土の四人に神々にまもられた華麗けばけばしき賭博室サル・ド・ジュウ
ヴァイオリンを温かに右の腋下えきかまもりたる演奏者は、ぐるりと戸側とぎわたいめぐらして、薄紅葉うすもみじを点じたる裾模様すそもようを台上に動かして来る。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
貪欲界どんよくかいの雲はりて歩々ほほに厚くまもり、離恨天りこんてんの雨は随所ただちそそぐ、一飛いつぴ一躍出でては人の肉をくらひ、半生半死りては我とはらわたつんざく。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
まもっていることができれば、自分の郎党などは一人もなくなってもいいのですよ。どんなに自分らが強力な豪族になったっても、姫君を
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
その良心のまもりとなったということ、そういう地位や年齢に厚かましくなり切れなかった心を、私は二様の点から忘られないわけです。
幸福を無事にまもりおほせた気持になりながら、彼女はスリッパアの音を立てて、その儘信一の横になつてゐる奥の方へ入つてしまつた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
ともすると風に吹き消されさうになる裸蝋燭を袖でまもりながら、一歩々々長い廊下を歩いて行くかれの蒼白あをじろひげの深い顔が見えた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
水戸家の元側用人そばようにんで、一方の統率者なる小四郎は騎馬の側に惣金そうきんの馬印を立て、百人ほどの銃隊士にまもられながら中央の部隊を堅めた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
保吉はこの宣教師に軽い敵意を感じたまま、ぼんやり空想にふけり出した。——大勢の小天使は宣教師のまわりに読書の平安をまもっている。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
まもりであり、愛の剣である。自他の生命のうえに、きびしい道徳の指標をおき、人間宿命の解脱げだつをはかった、哲人の道でもある。
宮本武蔵:01 序、はしがき (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「私も、観音様といっしょに、水にはいらせてください。観音様のおともをして、いつまでも、この湖水こすいまもりとうございます」
長彦と丸彦 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「お察し申す、礼などはもとよりいうに及ばぬ、これもみな貴殿御兄妹の孝心を、武道の神がまもられたのであろう、祝着に存ずる」
武道宵節句 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼女は他意あってそうするのではなくて、自分の物をまもりたいという女にありがちな浅はかな性質から、本能的に行なっていたのである。
永い間まもって来た堅固けんごな城壁も——海抜七千尺に近いこの高原を囲む重畳ちょうじょうたる山岳も——空爆の前には何の頼みにもならなかったのである。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
城中の兵、眺め見て大将と認め、斬って出る者が多い。小林久兵衛前駆奮撃して重昌をまもるが、丸石落ち来って指物の旗を裂き竿さおを折った。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
れた道を遠泳会の一行は葛西川かさいがわたもとまで歩いた。そこから放水路の水へすべんで、舟にまもられながら海へ下って行くのだ。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「ほんとですね。あなたは、ほんとに生きていらっしゃる。ああ、なんというありがたいことでしょう。神さまのおまもりです」
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
すわとばかりに正行まさつら正朝まさとも親房ちかふさの面々きっ御輿みこしまもって賊軍をにらんだ、その目は血走り憤怒ふんぬ歯噛はがみ、毛髪ことごとく逆立さかだって見える。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
汝のいやしゝわが魂が汝のこゝろにかなふさまにて肉體より解かるゝことをえんため、願はくは汝の賜をわがうちまもれ。 八八—九〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
そして私たちを哀れみまもっていてくださるだろう。生きているうちに私の加えたあやまちは皆ゆるしていてくださるだろう。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
機關兵きくわんへい機關室きくわんしつまもり、信號兵しんがうへい戰鬪樓せんとうらうち、一とう、二とう、三とう水兵等すいへいら士官しくわん指揮しきしたに、いま引揚ひきあげた端艇たんていをさめつゝ。
「神さまがあなたを害と惡からまもつて下さいます。あなたを導き、慰め——あなたの今迄の私への親切に對して——いゝ報いを下さいます。」
番所には見廻り同心賀田杢左衛門もくざえもん、土地の御用聞、赤城の藤八などが、雁字がんじがらめにした林彦三郎をまもって、与力よりき出役しゅつやくを待っているのでした。
「そんな馬鹿なことがあるもんか。われわれのまもりたいのは正義だ。正義のあるところには必ず秩序が保たれる。正義は秩序に先んずるんだ。」
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
松は墓標の上に翠蓋すいがいをかざして、黄ばみあからめる桜の落ち葉点々としてこれをめぐり、近ごろ立てしと覚ゆる卒塔婆そとば簇々ぞくぞくとしてこれをまもりぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
再び大王殿下にえっす 暫く経って大王殿下は親兵百余人に前後をまもらせつつ内殿から出て大門の横に在る別殿に行かれた。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
主治医の伴さんは、きのふ以来帰宅せずに全く赤彦君の枕頭をまもられたのであつた。伴さんはかういふことを語られた。
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
それをともだちのからすは、いたわるようにして、まえになり、あとになりして、そのあわれなからすをまもってゆくのでした。
翼の破れたからす (新字新仮名) / 小川未明(著)
ロレ 南無なむやフランシス上人しゃうにんまもらせられい! はれ、けったいな、今宵こよひこの老脚らうきゃくいくたび墓穴はかあな蹉躓けつまづいたことやら!……れぢゃ、そこにゐるのは?
やつとの事に寐かせ候ひしに、近江おうみのはづれまで不覚に眠り候て、案ぜしよりは二人の児は楽に候ひしが、私はすえと三人をまもりて少しもまどろまれず
ひらきぶみ (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
その頃、「真正」の九谷焼をまもる人々の間には、青絵と赤絵とが、ず試みられていた。特に赤絵の方がさかんだった。
九谷焼 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
いざりなる彼は、好んで馬を急速に駆けさした。抜剣のうちにまもられて、落ち着いたいかめしい顔をして通っていった。
◯神の造り給いし万物に囲繞いじょうされて我らは今既に神のふところにある。我らは今神にまもられ、養われ、育てられつつある。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
五人の親子はどんどん押寄せて来る寒さの前に、小さく固まって身をまもろうとする雑草の株のように、互により添って暖みを分ち合おうとしていたのだ。
小さき者へ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
驚いた私の前へ、続いて現れたのは、ガッチリ捕縄ほじょうを掛けられた、船員らしい色の黒い何処どことなく凄味のある慓悍ひょうかんな青年だ。二人の警官にまもられている。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
芝居にて贔屓ひいき俳優わざおぎみるここちしてうちまもりたるに、胸にそうびの自然花をこずえのままに着けたるほかに、飾りというべきもの一つもあらぬ水色ぎぬの裳裾もすそ
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そのひしまもらなん、その歌の一句を、私は深刻な苦笑でもって、再び三度みたび反芻はんすうしているばかりであった。
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
物質ぶつしつの異同は有れど、小偶像せうぐうぞうを作りて禮拜れいはい目的物もくてきぶつとし又は身のまもりとする事野蠻未開人民やばんみかいじんみん中其例少しとせず。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
何福かふくすなわち営を霊壁れいへきに移す。南軍の糧五方、平安へいあん馬歩ばほ六万をひきいて之をまもり、糧を負うものをしてうちらしむ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
人々は遠距離にありてだにむねを負へるを、君は敵の陣地に入ることなれば、注意して自らまもり給へといふ。
その頃は巡査と云う人民の安寧あんねいまもってくださる職務のものがございませんゆえに、強いもの勝ちで、無理が通れば道理引込ひっこむのたとえの通り、乱暴を云い掛けられても
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
刑事や正服せいふくまもられて、会社から二丁と離れてない自分のうちへ、帰ったのだった。そして負傷した身体からだを、二階で横たえてから、モウ五六日った朝のことなのである。
(新字新仮名) / 徳永直(著)
朝太郎が四歳になった秋の初めに、城下から代官様が大勢の家来に空駕籠からかごまもらせて、この淋しい村へやって来ました。村の人たちは胆をつぶして行列を見ていました。
三人の百姓 (新字新仮名) / 秋田雨雀(著)
時に身じろぎをしたとおぼしく、たたずんだ僧の姿は、張板はりいたの横へ揺れたが、ちょうど浜へ出るその二頭の猛獣にまもられた砂山の横穴のごとき入口を、幅一杯にふさいで立った。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたしたちをまもって下さる神の国のお役に立つならただでもこの島は差上げますが、やつらと来ては、わたしらはじめ同胞を踏んだりったりです、だから、わたしは
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
ってこの手紙により私は金力きんりょくを以って女性の人格的尊厳を無視する貴方に永久の訣別けつべつを告げます。私は私の個性の自由と尊貴をまもりかつつちかうために貴方のもとを離れます。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
しかも一方においては太子の御遺族たちが父君の精神をまもって厳然と存在していたのであった。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
蓋原文は言語ことばに近く訳文は言語ことばに遠ければなり、又本多作左が旅中家に送りし文に曰く「一ぴつもうす火の用心ようじん阿仙おせんなかすな、うまこやせ」と火をいましむるは家をまもる第一緊要的きんようてきの事
松の操美人の生埋:01 序 (新字新仮名) / 宇田川文海(著)
宗祇の態度などは、それに十分善処しながら、歌風の上ではあくまで京極・冷泉末流の、ことに正徹の新古今風に対し、二条派の草庵体をまもったものにほかならぬのである。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)